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第8話 爺さんとお喋りするが結構楽しい

 この大陸はアルス・マーゼ大陸だという。この世界には大陸が一つしかなく、あとは広大な海でその海には島がまばらに点在している。


 爺さんの神殿がある山脈はアルス連山で、この大陸最大の山脈にしてドラゴンの聖域だと教えてくれた。だからこんなにトカゲたちが集まっているのか。



『ムムっ、おぬしに伝えておくがのぅ、ドラゴン族は矮小なトカゲ族と似ても似つかぬぞい』


「それは表現の仕方というか、でもごめん、確かに言い方が悪かったです」


 この世界の生き物は多種族だという。すでにおれが知っている種族のほかにゴブリン、オーク、ドラゴンなどモンスターも含めて種族と成している。しかし爺さんによると種族とモンスターは違うらしい。その違いは攻撃性と集団の習性にあるという。



 モンスターは他種のモンスターと組んだりして、その他の生き物やモンスターと敵対することが主な生存活動で、子孫を残すことや同じ種と群れることで特有の生態を築くことはない。生殖行為はあってもそれはあくまで暴力の延長であるらしい。


 自己より強い存在に従って、指令に準ずる行動するという知能は爺さんの配下によって観測されているが、往々として自身が持つ闘争本能でほかの種族への攻撃をいつでも行おうとしている。


 競争で生き残ったモンスターは知性が高くなって、同種を集結させてより高度な団体行動をするようになり、独自の社会性や共通する生活様式に発展させた大規模な集団は最終的に種族として成り上がるだと爺さんは教えてくれた。



『ここに住むわが一族はこの山を守ることを最上の使命とするがのぅ。それ以外のドラゴンどもは湧き出してはほかの種族を攻めたりしているぞよ。強すぎたドラゴンは従う気もなければ、わしも我が族の戦士を出して討伐しているがのぅ』


「はぐれドラゴンってことか。え? ドラゴンって卵から産まれてくるんじゃなくて、湧き出すものなの?」


 異世界の生態にびっくりだよ。いきなり受肉できるからこの世界の神様ってのは半端ないないな。



『うむ、おぬしが考えている神様といのは多分主様のことであろうぞ。だがのぅ、種族としての繁殖は我が族は卵から産まれてくるのは確かだぞ。湧き出すものは魔素が集い、思いに触れたもののみぞ』


「え? まさかの新名詞? 魔素ってなに?」


『魔素というのはこの世の力なりぞ。其は世界のいかなる処をも巡りし、生きとし生けるものの源となるものぞ。この世の生き物は魔素なくして成りたつことは叶わぬものぞよ』


「ということは魔素を持っていなければ生きていけないってことなのか」


『悩むことはないぞい。この世のすべての生き物は形を成したその時に魔素を取り込んでいるから何の問題もなしぞ』


「おれ、この世界で産まれたんじゃないよ? 大丈夫かなぁ?」


『平気ぞ。世界が停止しているから世のことわりはおぬしに働かぬものぞよ』


「もしかするとこの停止状態じゃなかったら、おれはどうなっているの?」


『死ぬかのぅ。おぬしからは魔素を感じられぬからのぅ』



 はい、詰んだ。詰みましたとも。この状況から抜け出すため異世界を回っているけど、停止状態を解除したときが最期。死亡フラグ確定ってこれなんの無理ゲー? しかもこの叡知を持つエンシェントドラゴンして帰還する方法を知らないというのであれば、あとはその主様という神様に聞くしかないみたい。



『すまぬのぅ、主様になら分かるやもしれぬがのぅ。わしと精霊王ではこれ以上のことわりを知ることは叶わずして、精々時間を干渉しておぬしと話すぐらいしかできぬからのぅ』


「え? 精霊王ってご存知なのか? それに時間を干渉するってなに?」


『ほっほ、精霊王はわしの友でのぅ、主様より賜ったこの世界の最初の二柱にしてアルス・マーゼの守護者といった所がのぅ。いまはアルスの森の一番深いところで世界樹を住まいにしているぞよ。そういやあやつとは長らく会っておらぬよのぅ』


「アルスの森? それはどこにあるのか? 精霊王様から祝福を頂いたんだけど出来ればお会いして直接お礼がしたい」


『おお、そうか。おぬしから懐かしい気配がしたのはそのためか。アルスの森はこの世界のどこかにある。教えてもよいが自分で探すのも良いぞい。空を突き抜ける世界樹が目印でのぅ、普段は精霊の結界で見ることも入ることもできぬのだがのぅ。いまのおぬしは(ことわり)から外れし者よ。天を衝く巨樹を見かけたならそこへ向かうがいいぞよ。それにしてもあやつが祝福を与えるとは珍しいこともあるのだのぅ』


「はい、これですけど。メニュー!」


 画面を開いて、称号の欄を爺さんに示した。よく考えたらエンシェントドラゴンの目は閉じている。



「ごめん、見えないよな。ここに精霊王の祝福って書いてるよ」


『いや、目を開かなくともわしには見えるぞ。言ったであろう、わしは時間を干渉できるとよ。それはそうとこの浮いて光っているものはなんぞよ? その中に描かれている模様は文字なのがのぅ? わしには読めぬぞよ』


「え? そうか、日本語表示だもんな。これは色々と自分の情報や機能を操作できるパネルみたいなものです。ステータスやアイテムボックスもここでチェック出来たりするですけど、爺さんはできないのか?」


『うむ、聞かぬ言葉がいっぱいあるのぅ。今にしてわかったことがあるがのぅ、おぬしの世界のことわりとこの世のことわりとかなり異なるのぅ。そのすてーたすとやら聞いたこと一度もないのぅ』


「あれ? じゃあ、強さはどうやってわかるのか? 体力や魔力、スキルとかは?」


『その体力、魔力やすきるとやらはなんのことかはしらぬかのぅ、おぬしの世界ではそれで人を測ったりしておるというがのぅ?』


 あ、そうか。この世界はゲームじゃないんだ。そりゃそうだ、元の世界の日常生活でステータスオープンとか叫んだり、おれの知力は100あるぜとかいうやつがいれば、それはかなり重い病気を患ったイタい人だよな。



 そうなればこのメニュー機能はおれだけのものかもしれない。多分爺さんが聞きたがるだろうが、いまは先に聞くことがある。



「あとで教えます。その前に時間を干渉するというのは教えてもらえるの?」


『めにゅー機能というのは面白そうがのぅ。よいぞ、先におぬしの疑問を解くとしようぞい。得てして強き者はことわりの知識を知ることができるのがのぅ。その力が強ければ強いほど、持つ知識はより多くなり、深くことわりを知る者はごく稀に(ことわり)を干渉できる力を持つぞよ。とはいえ、天変地異を起こすのは不可能のがのぅ。いまわしが時間停止の中でおぬしと話すというような、肉体によらぬものはほとんどだのぅ。たとえ肉体が滅んでも魂が残るというような思念体を作ることも可能ぞよ』


「じゃ、時間が停止している世界でおれに話しかけて来れるのはそのすべてが強者であるということか」


『うむ、そうじゃのぅ。すくなくとも我が族の強き戦士といい勝負ができるじゃないがのぅ。人族など相手にもならぬものよのぅ。それはそうとおぬしがいうに時間が停止している世界ではなくてのぅ、正確に言うとおぬしの時間がこの世界では停まっているのぞよ』


「はぁ、そうですか。すいません」


 しかしまずいな、いやなやつらに目を付けられたよな。ドラゴンとまともにやりあえそうな剛の者らに会いに行けって? おれは自殺願望なんかないよ。ヴィルデ・フラウはもったいないけど、おっかないドワーフの女王には会いたくもないぜ。



『おお、ドワーフどもの長は時間の干渉ができるのかのぅ。今度使いを出してみようがのぅ』


 ええ、猛者は実力者同士で仲良くしてください。貧弱な私はひっそりと身を潜めて長生きがしたいものです。



『ほっほ、大方おぬしはドワーフの秘宝でも手にしたであろう。でなくしてドワーフの長が力を使ってまで時間の干渉をするわけはないぞよ』


「ドワーフの秘宝? 妖精殺しのことかな? 宝箱から取ったけど、それがいけなかったのかな?」


『この世のしきたりではその種族の長を討伐してそこのもっとも良い秘宝を得るもののだがのぅ、その秘宝はその種族を滅ぼせる力を持っているぞよ。かくしてわしの腹の下にもその秘宝殿への降り口があるぞ。いまは叶わぬがおぬしがこの世で生きることあればのぅ、わしを倒して我が最強の秘宝を手に入れてみるがいいぞよ』


「どう考えても無理だから謹んでお断り申し上げます」


『ほっほ、おぬしは欲がないのぅ。気にせずで良いぞ? 先申したみたいに肉体が滅んでも魂が残るからのぅ、魔素を取り込んで再び元に戻る力を主様から授かっているからのぅ。おぬしにはこの世で初めてわしを挑む者となってほしいぞよ』


 無理だから、エンシェントドラゴンをレベル1で挑むって、無理ゲー通り越してただのクソゲーだよ。ドラゴンの鼻息だけで即三落ちしそう。



『異界人の考えることは理解できないものが多いのぅ。むりげーとかくそげーやら聞いたこともないぞい。それにえんしぇんとどらごんとかはよくおぬしから聞くがのぅ、それはわしのことかのぅ?』


「うん? ああ、エンシェントドラゴンというのはおれの世界でいうと知恵のある古代龍のことだ。ゲームの設定ではその力は強大かつ英知に富んでいて、すべての竜を率いているドラゴンのことだよ。ラスボスだよ」


『おお! まさしくわしのことだのぅ。この世でわしのことは天を制し覇者と呼んでるそうだがのぅ、天龍もしくは神龍ともいうらしいぞよ。しかしおぬしの世界のエンシェントドラゴンとやらと力較べしてみたいよのぅ、さぞかし楽しかろうよのぅ』


「いませんから。あっちはドラゴンなんてファンタジーはないから。あくまでゲームでの話だよ」


『ムムム、ふぁんたじーとかげーむとか、おぬしの世界はわしが知らぬことが多いよのぅ』


「ああもう。あとでちゃんとそっちのことも言うから先にこの世界のことを教えてよ」


 知識欲に飢えた爺さんだな。まぁ、でもおれも爺さんのことは言えないか? この世界のことで質問してばかりだもんね、ごめん、エンシェントドラゴン様。



『ほっほ、気にせずとも良いぞ。しかしエンシェントドラゴンとは悪くない名じゃのぅ、名無しのわしにはちょっと羨ましいぞよ』


「え?爺さんは名前がないの? 天を制し覇者とか神龍とかじゃないの?」


『それは他の種族から呼ばれているものぞよ。主様からは名を頂いておらぬからのぅ、おぬしから聞くまでは気にもならなかったがのぅ』


「悪いことしたかな。じゃあ、お願いすればいいんじゃない? それにおれのことも連絡してよ、出来たら今の状況をなんとかしたいよ」


『それは聞けぬ願いでのぅ。主様はいつ来られるかは知らぬし、わしからは呼ぶことは出来ぬのでのぅ。すまぬのぅ、異界人よ。主様と会うことあれば必ず伝えるゆえにのぅ』


「いいえ、無理言ってすいません。出来たらお願いしときますってことでいいです。それとおれのことをアキラって呼んでください」


『そうかのぅ、ではアキラと呼ぶとしようぞ』


 これはもう気が済むまで語り合うべきだな。とりあえずこの世界のことをもっと知ってから回っていこう、黒い霧とか知ってみたいし。



「ところで聞きたいけど、この世界で黒い霧の集まりを時々見かけるが、あれはなんだろうか?」


『おお、なんと!おぬしにはそれがみえるというのかのぅ。それが魔素だのぅ。普通は目にすることはできないはずぞ。おぬしという異界人は不思議ぞよ』


「そうですか? わからないですけど、森、荒野やダンジョンによく見かけるんです。あっ、ダンジョンというは多分爺さんが言う秘宝殿のことだと思う」


『うむ、そうぞよ。あれは人族がいない場所でよく湧き上がるものでのぅ、おぬしが見たものは魔素の塊と伝えるものだのぅ』


「そうか、あれが魔素なのか。湧き上がるとのはいつもは地中にあるってことなのかな」


『地脈を伝って循環するように絶えずに流れているものぞよ。この世の源である以外は、魔素そのものとはどういうものかはよく知られておらぬのでのぅ、詳しいことはわしにもわからぬぞ。ただのぅ、法術の行使にモンスターの発生や種族の誕生に深い関わりがあると主様から聞いたことがあってのぅ、主様に会えば聞いて調べておくぞ』


「ありがとう。ずっと気持ち悪かったのでそれが魔素というものがわかるだけでも安心するよ」


 これでひとつの謎解きができたのでお返しというわけじゃないけど、おれは自分の世界のことを爺さんが聞きたい限り、伝えることにした。思いもキャッチボールだ。一方通行の会話なんてつまらないものさ。



『うむ、ではきゃっちぼーるとはどういうものぞや。まずそれから聞こうかのぅ』


「ええー、そこまで戻んの? まぁ、いいけどね」



 時間はたっぷりあるんだし、雑談のほうが気楽でいいや。


ありがとうございました。

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