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第7話 山頂の神殿は竜の住まい

 妖精の森を抜けた。そこから先は荒野が続いている。草も生やさない、石ころが周辺に転がっているだけの地面。夜目のスキルがあっても夜のままだから歩きにくいこの上なしだ。幸いなことにこの頃はもう、自分の感情をしっかりと把握できている。


 いや、感情そのものが湧かないという表現が正しいかもしれない。なんだかロボットなったみたいに決めた目標を果たす機械みたいに山を目指して歩行しているだけ。



 動物が減り、その分だけモンスターが増えている、しかも強そうなやつばかり。バジリスク、キメラ、ガーゴイル、コカトリス、ロックゴーレムやケルベロスなどなど、人型モンスターではミノタウロスやサイクロプスも出てきている。


 この辺りのモンスターはなんの無理ゲーだよ。時間が停まっていなければ即死級ばっかりじゃねぇか。もう異世界転移即詰みだよこんなところ。マッピングができてもマップに書き込みして記録することができないのは悔やまれる。




 テクテクテクテク……

 テクテクテクテク……

 テクテクテクテク……


 はい、モンスターのオブジェが現れました。新種ですね。頭が五つですか。ヒドラみたいですかね。次へ行ってみよう。



 テクテクテクテク……

 テクテクテクテク……

 テクテクテクテク……


 はい、モンスターのオブジェが現れました。新種ですね。大型のトカゲですね。翼がないからサラマンダーですかね。次へ行ってみよう。



 テクテクテクテク……

 テクテクテクテク……

 テクテクテクテク……


 はい、モンスターのオブジェが現れました。新種ですね。人型の骨と腐ってそうな死体ですね。スケルトンとゾンビですかね。次へ行ってみよう。



 テクテクテクテク……

 テクテクテクテク……

 テクテクテクテク……


 はい、モンスターのオブジェが現れました。新種ですね。古びたローブを着込んだ骨と頭を抱えた騎士ですね。リッチとデュラハンですね。次へ行ってみよう。



 テクテクテクテク……

 テクテクテクテク……

 テクテクテクテク……


 はい、廃墟が現れました。ボロボロの城壁と潰れた建物ですね。見た所百年以上はありそうで、モンスターに襲われて滅んだんじゃないですかね。ついでにモンスターのオブジェも現れました。


 新種ですね、黒い骨が古びれた王冠と高級だったローブを着用していますね。その横にさび付いた武具を持つ骨の軍団がいます。リッチキングとスケルトンナイトですかね。スケルトンジェネラルもあるよ、頭蓋骨がぽろり。次へ行ってみよう。



 テクテクテクテク……

 テクテクテクテク……

 テクテクテクテク……


 はい、モンスターのオブジェが現れました。新種ですね。翼がある大きなトカゲですね。火を噴いてるからファイアドラゴンですかね。バジリスクがこんがりと焼けましたね。次へ行ってみよう。



 テクテクテクテク……

 テクテクテクテク……

 テクテクテクテク……


 はい、モンスターのオブジェが現れました。新種ですね。翼がある中型のトカゲと翼のない超大型トカゲですね。ワイバーンとアースドラゴンですかね。次へ行ってみよう。



 テクテクテクテク……

 テクテクテクテク……

 テクテクテクテク……


 はい、モンスターのオブジェが現れました。トカゲたちしか出て来ませんね。ドラゴンだらけですね。次へ行ってみよう。



 テクテクテクテク……

 テクテクテクテク……

 テクテクテクテク……


 地形が少し変わってきました。傾斜がつくようになった。願望だった山脈へ着いたのかな? とにかく登ってから確かめてみよう。どのような面を歩くことのできる自分がすごい。登れそうにない絶壁でも歩けば上に行くことができるから。


 しかしこの山脈の標高が高いんだな。登れど登れどまだ山頂が見えてこないぞ。



 テクテクテクテク…… 

 テクテクテクテク……

 テクテクテクテク……


 雲が見えてきたな。視野が悪くなりそうだ。



 テクテクテクテク……

 テクテクテクテク……


 雲が分厚いね、濃霧の中を歩いているみたいだ。よく考えたら、妖精のダンジョンを出て以来ダンジョンを見たことがないな。しまった! 滅びた町を通り過ぎただけで探索しなかった。そこはRPGゲームの雰囲気でダンジョンがありそうだよな。



 テクテクテクテク……

 テクテクテクテク……


 雲を突き抜けてから月明りで山頂がうっすらと輪郭を見せた。まだ遠そうではあるがなんとか見える範囲ではある。



 テクテクテクテク……

 テクテクテクテク……


 ついに山頂へ着いた。空気が薄そうだな。呼吸できないからわからない。月は尾根沿いに歩いてみよう。ハチェット投げたら無くなりそうなので、右手方向へ行ってみよう。それにしても山にはドラゴンしかいないのか? ほかのモンスターなんて登山以来見たことがないぞ。



 テクテクテクテク…… 

 テクテクテクテク……

 テクテクテクテク……

 テクテクテクテク…… 

 テクテクテクテク……

 テクテクテクテク……


 まさしく連綿とした山脈、どこまで続いているんだ。そろそろ夜明け地帯まで抜けそうだ。もう空が明るくなりつつあるから。



 テクテクテクテク……

 テクテクテクテク……

 テクテクテクテク……


 いきなりですが、遠くのほうでなにか建物が見えたので走ります。



 シュタッシュタッシュタッシュタッ――



 神殿だ。それは大量のドラゴンに囲まれた円柱が一定の間隔で建てられたものであり、柱の上に彫刻が施された長方形の小壁があって、これは記憶のそれとなんとなく似ている。



「パル○ノンかいな!」


 突っ込まずにはいられなかった。



 うじゃうじゃいるドラゴンの間を行く。その中には人型のドラゴンもいたのでそれはドラゴニュートだと思う。でもいま大事なのは神殿の中へ行くことなので後で見に来たいと思います。




 神殿の中は荘厳な気配が漂っており、金と象牙で作られた女神像はなかったが、飾り気がないその中で一匹の銀色の巨大なドラゴンが床を腹這いしていて、身体中から強者のオーラを撒き散らしている。今までのどのドラゴンよりも大きかったので、それはエンシェントドラゴンという古代龍と仮定させていただきます。



「こんにちは、はるばる異世界より参上しました。カミムラアキラでございます」


 (へりくだ)ったように両手を擦り合わせながらエンシェントドラゴンの頭の前で上半身を屈める。



『よう来られたのぅ、迷いし異界人よ。わしはおぬしを歓迎するぞ』


 えっなに? 久々の混乱ですけど。今のって、頭の中を響いて伝わってくる低くて渋い男性のような声だ。おれは問いかけられているだよな。



「えっと、私のことがわかるんですか? お話できますか?」


『ああ、わかるぞよ。して、わしとはなにを話したいのだ?』


 目の前の竜は目を閉じており、口も動かしていない。それで話しているからなかなかシュールだ。いや、念話というやつか。



『そうだのぅ、念話ぞよ。いま時間が停止している空間にいるから、口による話し合いはできんでのぅ』


 あれ? 念話って、思っていることまでだだ漏れなのか。



『いや、普通はわからんよ。ただ今はこの世の(ことわり)が働いておらんからのぅ、おぬしが思っていることもなぜかかわかるでのぅ』


 そうか、やはりこの世界にはことわりがあって、それがなぜかおれには影響を及ぼしていない。でもやっぱり対談というのは言葉のキャッチボールだ。しっかり一言ずつ乗せていこう。



『きゃっちぼーるとはいかなるものぞよ? 意味がわからんぞ』


「いや、それはいいです。それで教えてほしいんですけど、なぜ私はこの世界へ移転してきたのでしょうか?」


『わしにはわからんでのぅ』


「……そう、ですか。それでは質問を変えます。帰りたいので、元の世界へ帰還するやり方がわかるならぜひ教えて下さい」


『わしにはわからんでのぅ』


 はい、キャッチボール終了。ボールがあさっての方向へ飛んでばかりです。



『ぼーるとはなんぞや?』


「キャノン砲を搭載するのモビ○ポッドで大量生産された簡易兵器……いや、そんなことはどうでもいいから」


『きゃのんほうとうさいもび○ぽっどとはなんぞや? 人の世のことなら大抵知っておるがそんな兵器はきいたこともないぞよ?』


「いやマジですいません、私が悪かったのです。どうかお忘れください」


 いやもうね、切羽詰まっているのにダジャレしてどうするんだよ。


 悪いのはおれだけど。



『異界人に会うのは初めてだがのぅ、知らぬことばかり言いよるよのぅ』


「すいませんでした……って、え? 異界人に会うのは初めてか? おれが初めてなの?」


 とんでもないことを聞いた。おれって世界初異世界移転の人なの? おれの歴史がまた1ページだよ。



『ほっほ、砕けた話し方でよいぞよ。わしは気にせんよ』


「ありがとうござい……ありがとう、助かるよ」


『なんのなんの。して、正確で言うとこの世に移転してきたのはおぬしが初めてじゃない。ただし、ここまで長くこの世界に留まって、顔を合わせるのはおぬしが初めてでのぅ』


「え? それはどういうこと……」


『よぅしよぅし、すこし話が長くなるがのぅ。まずはこの世界のことをおぬしに教えて進ぜよぞ。身を楽にするがよい』


 それじゃ寝そべっていいのかな? 話が長くなるならお茶もあったほうがいいでしょうね。



『よいぞよ、寝ようがなにしようが好きにするがいいぞ? わしはかまわんよ。それにすまんがお茶の用意ができんでのぅ、如何せん時間が停止しておるからのぅ』


「すんませんでした。ほんっとうにおれが悪かったんで、どうか話しを進めてください!」


 この爺さんはもういや、もう心を読まないで! 先から脱線してばかりじゃん、元へ戻そうよ。



『ほっほ、異界人は中々愉快だのぅ』


「いや、人生が掛かっているので愉快な出来事で片づけてほしくないよ」


 あんたこそ愉快な爺さんだよ、まったくもう。



『ほっほ』


ありがとうございました。

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