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第5話 待望した出逢いに感謝

 この世界は冒険者ギルドがないのかもしれない。あれからいくつもの村や町、城塞都市まで見つけることができたが、商人ギルドや鍛冶ギルドなどらしきの建物は発見した。だが看板が剣と盾で象った建築物を見ることはできません。


 ただ、どこにも騎士が詰めている施設があって、最初の村ではもう一つの石造建築物がそうであった。ということは国が治安を含めた荒事を担当しているのか? 検証ができないのでわかりません。



 ところで黒い霧の集まりについて、人が集まるところではほとんど見かけることはなく、ごく稀に草原や道とかで見ることはあるけれど、村や町に城塞都市へ近くなるほど発生はしなくなっている。これはどういうことだろう。



 この世界の人種は白人の割合が多く、町中の建物や城塞の建築様式もほぼ中世ヨーロッパのもので、これもテンプレだよな。昔に変わったネトゲしたことがあったが、東洋風の設定で魔法を唱えるのは自分ではなぜか納得できなかった。やはりローブを着た杖を持つソーサラーが炎を打ち出すのが一番しっくりくると思う。



 それはそうと美女ってのは見るだけ楽しい、顔もモデルさんみたい。出るところが出ていればなお良い。たまにお前さんはどこの関取さんだよというのもいたけど。男性ですごく顔立ちは恰好良くて体格がいいのも沢山いた。あれは間違いなくイケメン、だって、醤油顔じゃないんだもの。


 全然悔しくないよ? 同じ年なら絶対におれのほうがずっと若く見えるんだ。チクショーめ。でも人間観察というのは中々飽きないね。



 新たな変化もありました。なんと今のおれは夜の世界にいます。どこかで空が夕焼けに変わりつつ、その先を進むと夜へと変わりましたので、この星は自転しているのかもしれません。夜へはおれのほうから突き進んだため、惑星自転説の立証することができません。たとえできてもどこへも提示ができません。


 最初のうちは暗闇が本当に恐怖であった。なにも見えないから自分がどこにいるかすら確認できなかったんだ。


 夜空がとっても美しい。どの星も明るく輝いていて、天の川が何本もあった。それに大小違いのある三ヶ月みたいな天体があり、その月明りみたいのが大地に降り注いでいる。結局慣れてさえいれば微かな光で夜でも見えなくもない。


 しかも、そのうちの一つは青色をたたえていて、元の世界の常識じゃあれは水の惑星。生き物が生存しているのか? そこへ降り立つことができないのでわからないけど。



 長い間夜の世界に居たおかげで夜目というスキルも付いたんだ。いつの間にか夜目スキルのレベルが最高になってしまったというおまけ付き。精霊王の祝福以来の身体に起こった変化、まさしくファンタジーだな。


 この世界のすべてがファンタジーという一言で片づけられるのって楽ですね、説明を省いて進められる。


 こういう技は働いていた頃にほしかったな。なにを言われてもどんなに怒られても、それはファンタジーだからおれのせいじゃないってね。



 夜の帳が下りる前に目標としていた山々をしっかり方向付けていたからそこを目指して歩いている。あれだけ連綿と続く山脈であるから多少ずれてもたどり着くことができる……はずだ。夜の世界は見えるものが少なく、夜空を眺めるのもすぐに飽きてしまった。でも砂漠のときにすでに経験済みなので、ひたすら前へと歩き続ける。


 これって、無心というスキルはつかないのか。



 テクテクテクテク……

 テクテクテクテク……

 テクテクテクテク……



 森を抜け、川を越え、道らしきものがあればそれを辿って人里へ行く。夜の街で娼館みたいのがあったので参観させて頂けました。夜の営みはおなじですね。男が女の上に被さっていて、その反対というのもある。娼館で働いている女性は妖艶なのが多く、なかには薄幸そうのもいたが年端もいかない少女を見たときはいやな気持ちとなったね。元の世界で育った価値観というのはそう簡単には変わることができない。



 生殖行為そのものを確認したのは実は娼館でじゃない。まだ昼間の世界で道を歩いたごろ、馬車が襲われている場面に出会ってしまったことがあった。家族なのだろうか、多数の盗賊みたいな薄汚い男たちに囲まれていた。父親はまさに剣を突き刺されて、噴き出した血が空中に停まっている。二人の男の子供は縄で縛られていて、泣き叫ぶようにその表情は固定したままだ。


 母親と女の子供は盗賊に手足を押さえつけられ、衣服はもう破り捨てられて裸体を露わにさらしている。その体の上で盗賊が圧し掛かっていて、下半身はズボンを横に投げ捨てて、汚いケツを打ち付けているようなオブジェと化しているのだ。



 心がすごく痛んだ、ズキンズキンと疼いてとまらない。できることならハチェットを抜いて、その場にいる盗賊どもを皆殺しにしてやりたい。だけど時間が停止しているおれには何も干渉することができない。それに例え時が動けても、果たしてこの場面でなにかができたのだろうか?


 いまのおれの力じゃ、ただ家族と同じように盗賊に囲まれ、無策のまま殺されてしまうのだろう。そう、おれにはなんの力もない。異世界へ来ても、救世主になるために来たわけじゃない。そうであれば能力は与えられたはず、こんな時間停止の世界などではない。



 それでもおれは苦痛にまみれる母親と女の子供の顔。泣き叫んでいる男の子供と悲しい目をした父親を忘れることができなかった。誰もがこの世の理不尽を甘受けるべく生を重ねてきたわけじゃない。悪いのはおれじゃないが、その無慈悲で残酷な仕打ちを今も受けている家族に深々と頭を下げてからその場をトボトボと去った。


 この哀れな家族は現実世界でその後はどうなることだろうか、哀愁に満ちた予想にしかおれにはできない。




 そのあとはちょっと考えさせられた。この世界でおれはなにができるだろうかと。いまのおれはこの世界になんらかの影響を及ぼすことはない。精霊魔術を試してみたが、精霊を呼び出すこもとなければ魔力が発動する兆しもまったくない。おれは自分自身を鍛えることすらできない。それでも、いつか状況が変わった場合はどうだろうか。



 すでに精霊王の祝福を授かったいま、なんらかのきっかけで世界が変わり得ることもありえる。そうなればおれはなにがしたいのか。



 世界を知識チートで変えるなどできないはず、元の世界ではただのサラリーマン。政治のイロハもわからないのに内政チートとかなんの冗談を飛ばすいうのか。この世界では人脈を持っていないし、高い身分の貴族でもないし、そもそも政治基盤というのがない。チート無双をしようとしても多分それはただだれかに利用されてしまい、下手したら殺されるかもしれない。ハッキリ言って命をかけてまでやるものじゃない。


 その前にこの世界のまつりごとが正しいかどうかをおれが判断する基準と見極める使命を神様に与えられたというわけでもない。



 鍛冶については町の鍛冶場を見たことがあったが、火を使って鍛冶するというものではなかった。金属の塊に手をかざすような仕草を見せていたので予想では魔力で鍛冶を行がっているのだろう。薬屋の作業場でも似た景色だったのでなんらかの魔法で薬剤を生成させていたと思う。



 ファンタジーだ、それこそ魔法万歳だ。



 おれには元の世界の鍛冶技術についてはなんの知識もないし、どちらの世界の金属の特性についても知らない。そういうことで鍛冶チートは無理決定だ。よかったよかった。いろんなダンジョンで溢れるぐらいの武器や防具はすでに頂戴しているし、鍛冶チートはいらないね。



 この世界にはこの世界の法があるのだろうし、この世の決まりごともあるはず、おれはそれについてはなんの知識もない。城塞都市など回って、王宮建築は大き目な城塞都市に建設されていた。そこには王様みたいなお偉いさんもいた。


 社会の営みを守るのはそういう立場にあるお偉いさんたちの責任であり、その下で働く人々が果たすべき義務でもある。いきなり異世界へ来たおれは世界の仕組みについて何の知識もなく、それに携わるべきじゃないし、そのような義務も存在しない。もし世界が動き出してもおれは政治なんてやりたくない。ああいうのは面倒この上なし。



 よし、自分への言い訳ができたわけだ。



 そういう風に考えてみるとおれにもこの世界で生きるならやりたいことがある。あの哀れな家族を理不尽でしかない光景から救い出せるだけの力、そのくらいの力が欲しい。誰かの理不尽に対する不幸を見ているだけの無力感なんてもうごめんだ。自分自身がもしもこの異世界で生きることがあるのなら、せめて納得できるように生きていたいから、自分ができる範囲で人を助けたい。言わばそれはおれのエゴ。


 いまは呼吸すらできないけどいつか状況が変わるというのなら、自分自身を守るだけの技能、目にした不幸を取り払えるだけの力量、その程度の力を精霊王様からねだってやる! おれってやつはあくまで他力本願だね。



 元のいた世界では地表全体がほぼ明らかにされ、深海や地中ならともかく、フロンティアはもう物語にしか存在しない。グー○ルマップでどこでも検索が可能で、便利さはあるが夢がない。でもこの世界はおれにとってはまだまだ未開地ばかり。この先になにがあるのだろうかというような探検ができると思うと好奇心が燻ぶられる。確かにいまはどこへでも行ける。でもね、匂いがない、音も鳴らない、肌を刺激しない世界ではものすごく物足りない。



 異世界でおれが未知の楽園を探求する。いつかこの世界に時間が動き出せば、おれは本当の世界を見てみたい。だからいまは前を行く、ひたすら歩いて見て、知るためなのだ。




 テクテクテクテク……

 テクテクテクテク……

 テクテクテクテク……




 やった! ついに見つけたぞ。上手に見つけました! 手をあげようか。


 エロフ、否、エルフを見つけたんだ。人族の領域では見ることができませんでした。この世界はいないかと思いました。町や都市で猫人族も犬人族も兎人族もいろんな獣人を見ることができ、かなり大興奮したね。ファンタジーの連呼でしたね。あとで思い返せば自分に引いたぐらい。



 でもエルフやドワーフといった種族を町で見かけられなかった。進んでいくうちに夜の森の中で遠方で木にしてはやや不自然な影を見つけて、近くまで行くとそれはエルフ様でした。先っぽが尖った長い耳、美しいほどの顔立ち、スラッとした体格、身体に纏っている紋様、背負っている長弓、素朴だが上品な着衣。どれを見てもまさに森人であるエルフの特徴である。



 残念というか、このエルフは男であると思われる。下半身を確認するのは畏れ多くもできなかったが、テンプレならばエルフ様は薄い胸装甲が必定であるため、このエルフはあんまりにも平ぺったいから、しかも結構見えているもので、暫定的ながら男性と仮定させて頂きました。反論は受け付けておりませんので悪しからず。



 これからこの森の暗闇をくまなく探索しようかと思います。ぜひとも今後のためにエルフ様のお里にお邪魔したいと熱望しております。では、出発!



「遠くはるばる異世界より参上仕りました。カミムラというものでござります」



 先端が鋭く尖った丸太で取り囲んだ柵で砦みたいな構造物に出会えた。多分ここがエルフの里なのだろう。ただ柵は高く、目測で10メートルは越えていそうだ。しかも木の門は頑なに閉まっていて、一回りしたがほかも入れそうなところはない。


 勿論、叫んだところで返事もなく、扉も開きません。困ったものだ。エロフスキーとして生きている限り、ここだけは諦めたくない。



「はぁー、入れないね。飛ぶとか空中を走るみたいなスキルがあればいいのに」


 気晴らしに左足で柵を蹴ってみた。すると足が柵の丸太に張り付いた、重心を左足に移り変えてみると丸太のほうに踏んでいるような感覚となった。地面に残った右足を左足に揃えると世界観が変わった。柵のほうが地面で、大地はまるで壁のようにせりあがっていた。ファンタジーだ! おれは壁を歩ける、惑星の重力ですらおれに働かないぞ。


 もうなんでもありなんだな。もっと早く気付けばよかった。夜の城塞都市で城門が閉まっていたからスルーしたのに、なんて怠慢なんだろう。それよりいまはエルフの里、さっそく伺わせてもらおう。



 里の中は薄暗く、木の上に質素で小さな木造家屋があちこちに数十軒ほど建てられていた。深夜のためか、真ん中の広場に人気はなく、ほとんど家屋はよろい戸と扉を閉めていて、数軒の家だけはよろい戸の隙間から淡い光りが漏れているが中の様子を見ることはできなかった。期待が大きい分だけかなり落胆もしたが、気を取り直して城門の物見櫓へ登ってみる。


 うん、常識は必定じゃないということを脳に刻み込もう。エルフは貧乳じゃなかったんだ。物見櫓には二人が外の森を伺うように身を潜めていたけれど、そのうちの一人は着込んでいる皮鎧の胸の部分が確かに膨らんでいた。やったよ、テンプレじゃないよ。これでまた一つ新たな事実が見事に明らかにされている。誰得って、おれだよおれ。



 このエルフはとにかく美人だ。美麗で俺好みの薄い唇、透き通るような肌、細長い手の指、近くで見る黄金色なる瞳は闇夜の宝石のようだ。まだエルフは3人目だが、男を含めたこの3人ともすらりとしたプロポーションで、ファッションショーに出るモデルには十分通用する。ファッションショーなんて行ったことはないが保証はできそうです。


 エルフ様のグラビア誌は売ってないかな? 買ってコレクションにしたいです。異世界の出版社に是非ともご販売を熱望致しております。



 気分が高まったままでおれはエルフの里を去ることにした。こんな森深くに暮らしているから人族との関わり合いは不明だけど、いつか明るいときに訪問したいものだ。マッピング済みでマップでしっかりと在り処は明らかにされている。言わばおれだけのチートだね。再びここに訪れるのなら、エルフの里よ! 私は帰ってきた! と告げてやるぜ。おれの里ではないけれど。



「さようなら! また逢う日まで」



 とても名残惜しいのですがエルフの里から離れることにした。


ありがとうございました。

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