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第41話 護衛は遊びじゃ務まらない

 都市ゼノスまでの食料の貯えは多めに買うことにした。


「兄ちゃん、そんなに買ってどうるすだい。商売でも始める気か?」


 威勢のいいおばちゃんがおれの注文した野菜に肉や果物に度肝を抜かれていた。言い訳をさせてもらうとこれは二人分だけ、そのうちの大部分は多分だけど、一人の大食い獣人に平らげられてしまうのだろう。必要経費と割り切って、ファージンの集落から持ってきた台車に載せてから泊まっている宿へ戻る。



「...アキラ、たくさん買った...」


「アキラっち、ゼノスまで行くだけだよお、買い過ぎだもん」


 えっとね、うさぎちゃん? あなたがそれを言いますか? これ全部あなたのために買ったのだよ。むしろ普段の食事はどうしているかが聞きたいくらいだ。ほら、あのセイが何も口出さずに沈黙を保っているじゃないか。



「とくかく、これは必要なものなの!」


「アキラっち、食べすぎ。あたいはそんなに食べないもん。プップ」


 このウサギわあ、どの口から言ってるのか。後で泣いても食わしてやらんからな、覚えてろよ!



 商人ギルドから大量に買い付けた塩に砂糖、小麦粉や干し肉など食品関係の荷物はすでにおれのアイテムボックスに入れてある。エティリアの走車に積んでいるのは極僅かな一部でしかない。


 元々エティリアが売ろうとしている村の農具の鉄製品や装飾品は、おれが担保にするというこじ付けの理由でこれらもアイテムボックスに収納した。どこかで相場の良い所があればその時に売り払えばいい。



「さてと、これで用意はできたと思う。食事も済んだし、ほかに何かなければ出発しようか?」


 出来るだけ早く都市ゼノスの教会で精霊王の幼女に通信ができるかどうかを確かめたいおれはエティリアのほうへ問いかける。



「はい! あたいはいつでもいいもん。アキラっちと二人きりの旅は楽しみだもん」


 ひょっとしてこのうさぎちゃんはわざととやってないか? もしそうでなければこいつは空気の読めない天然ちゃんだ。いきり立つセイが剣の柄に手をかけて、こちらを鋭い視線で目を吊り上げてから気圧が低くなると思えるくらいの声を尖らしている。



「アキラさん、かなり絞ってやったよね。エティ姉に手を出したら――」


「はひっ! 承知しております。だから命だけはご勘弁を!」


 耳と頭を斜めに傾げて、何のことかが理解できないようなエティリアの目は忙しく動かしておれとセイを見た。こんな姿も可愛いと内心で雄叫びしているが、セイを刺激したくなかったので歯を食い縛って、どうにか口から声を出すことに堪え忍ぶことができた。おれ、えらいぞ。



「アキラさん、エティ姉をお願いね」


「...アキラ、頑張れ...」


「違うもん、あたいがちゃんとアキラっちの面倒を見るもん!」


 走車の荷台で地団駄を踏むうさぎちゃんは愛らしいが、見送りに来た白豹ちゃんたちの意見は衆口一致なので、悔しがっているエティリアはそのままにして、白豹ちゃんたちへ別れを告げるべく、モビスを操縦しながらから大きく片手を左右に振る。



「エティを無事に都市ゼノスへ送り届けるからね、また逢う日まで」




 テンクスの町から都市ゼノスまでは二つの道があるとエティリアは教えてくれた。



「ゼノス川沿いなら安全で水も確保できるし、途中で村や集落もあるからからいつもはその道を使うけど遠いもん。陽の日と陰の日がそれぞれ5日はかかるもん」


「もう一つの道は近くなるのか?」


「うん、ゼノテンスの大森林を縦断する道なら陽の日と陰の日がそれぞれ3日だけでゼノスへ着けるもん」


「それならそっちのほうがいいじゃないか?」


 陽の日と陰の日が3日ずつなら早めに教会の女神像で通信の可否を確かめることができる。



「でもね、ゼノテンスの大森林にモンスターのオークとコボルトが出るもん。たまに人族の盗賊も現れるもん」


「危ないじゃないか」


 おれだけなら危険度は下がると思うが、どう見てもこのうさぎちゃんに戦闘機能が備わていうとは思えない。



「アキラっちにお願いするもん。早くゼノスに着いて村へ食料品を届ける手配がしたいもん、みんながお腹を空かしているもん……」


 上目使いの涙目で語らないでください、断固拒否することができないじゃないか。いいか、その分頑張ればいいことだ。ここはうさぎちゃんの願いを叶えてやろうとも。



「わかったよ。その代わりに自分の身を案じろよ、危なくなりそうならおれにすぐ言え」


「うん、ありがとう! アキラっち大好きもん!」


 エティリアの晴れやかな笑顔におれの精神がくらくらしそうになる。思わず飛び付いて抱きしめそうになったが、フッとセイの般若面が脳内に浮かび上がったので、精神値が高いおれはグッと自分の筋肉反射を我慢させることができた。



「い、行くよ。道の方向はエティが教えてくれ」


「はい、もう少し先に道が分かれるもん。右のほうがゼノテンスの大森林に行く道もん」


 それでは気を引き締めていくか、オークとコボルトは戦ったことがないので途中で旅人の装備より強いものに着替えよう。




 エティリアの言う通りに走車がしばらく進むと道が左右に分かれている。右のほうに進むと草むらが密生していて、走車の二本の轍が前方に見える森へ伸びっている。あれがゼノテンスの大森林とエティリアは指さして教えてくれた。



 時間が進んでいないような感覚を与えてくれるのどかな風景が広がっている。太陽が大地に陽光を降り注いで、ポカポカと体温が少しずつ上がっていく、気が付けば汗がにじんでいた。エティリアのほうに目を向けるとチュニックが若干濡れたようで身体に張り付いている。変な気分になったらいけないので、前方に注意してモビス2頭の手綱を取るようにした。



「アキラっち、暑いもん」


 気が抜けたような声が艶っぽくて耳の奥に進入してくる。



「そうだね、天気いいよね」


「暑いから服を脱ぎたいもん」


 やめろ! どんなシチュエーションになるんだよ。走車の上に半裸か全裸の兎人、おれはなにを運ぼうとしているのか。



「エティ、乙女の恥じらいだよ」


「はーい。じゃあ、横になるもん」


 もう横でも縦でもご自由にしてください、おれの妄想を掻き立てないでくれたら好きにしてていいから。お好みのうさぎちゃんと二人きりだけでおれは理性をフル活性させているので、これ以上は惑わせないでくれ。



 エティリアがはしたない恰好で荷台でゴロゴロして、なるべく気付かれないようにチラ見しながら唾で喉を潤す。もうすぐゼノテンスの大森林の中へ突入しようとしているが、森へ続く道に木の幹の後ろでなにかこちらを伺っていると感づいた。



 ゴブリンと変わらない大きさで手に剣や手斧を持って、こちらの走車が森に入ったところで襲い掛かってくる気だ。モンスターは犬の頭をしているから、あれがコボルトと思われる。ハチェットとククリナイフで一当てしようと考えて走車の操縦はエティリアに任そうと彼女に声を掛けた。



「エティ、森の入口にコボルトがいるみたい。ちょっと戦ってくるから走車にいてくれ」


「え? コボルトなの?アキラっち大丈夫?」


 コボルトに手こずるなら今から戻ってゼノス川沿いから都市ゼノスへ行ったほうがいい、初級光魔法のアイコンを呼び出してからハチェットとククリナイフを抜く。



「大丈夫だからちょっと行ってくる」


「うん、気を付けてね。数匹のコボルトならあたいも問題ないけど、コボルトの集団なら頼れるのはアキラっちだけだもん……」


 頼ってくれていいよ。それじゃ、ここはうさぎちゃんを安心させるためにも一丁派手にやってきますか。おれは走車から飛び降りて、コボルトどもへ目かけて駆けていく。気付かれたと驚いたのか、先頭のコボルトが剣を鞘から抜くのに手間取っている。



「遅いっ」


 ククリナイフがコボルトの首筋に食い込み、その首を跳ね飛ばした。慌てたコボルトどもの中へハチェットを投擲して2体目を殺して、それがコボルト殲滅の序曲となったのだ。




 散乱しているコボルトの死体を見て、おれはエティリアにコボルトから金となりそうな取れる素材を聞いてみた。



「うーん。魔石かな? コボルトから作れそうなものはないもん。皮は薄くて使えないし、コボルトの肉は臭みが強くて食べる種族はいないもん」


「そうか、それならコボルトは魔石だけを集めていこうか。それとオークからはなにが取れるの?」


 オークの素材について情報の収集しようとしたらエティリアは二つの瞳を輝かせる。



「オーク? オークは売れるものが多いもん! 魔石は等級2ね。あ、ちなみにゴブリンやコボルトの魔石は等級1だもん。それにね、オークの皮は加工できるものが多くて、取った時の傷によって最高級なら銀貨35枚以上は売れるもん」


 お、おう。興奮してかエティリアは顔をドンドンおれのほうに寄せて来ている。胸の先が当たりそうな距離でそれに意識が向いてしまっておれは気が気でない。



「なにより! オークの肉が美味しい、とても美味だもん。一体分なら銀貨50枚は取れるもん。でもあたいなら自分で食べたいので売る気になれないもん」


 結局エティリアはおれに超接近しただけでニアミスしただけで無念です。オークの話をまとめると傷が少なければ全部で金貨1枚はする金のなるモンスターだ。



「でもね、オークは都市ゼノスでは危険モンスターに位置づけされているもん。冒険者でもセイっちみたいなよほどの手練れじゃいないと討伐できないもん」


 どうも白豹ちゃんクラスじゃないと対戦するのが危ないモンスターだそうだ。皮膚は分厚く刃物が通りにくいだそうで、魔法だと傷物にしてしまうので素材としての値打ちが下がるとエティリアは解説してくれた。



 思案をしてみた。オークに出会ったら投擲で眉間へズドンっと一発でかましてみよう、それでうまくいけば高い価値の素材が採集できそうな気がする。ただその場合は即時の殲滅が難しいので、せめてエティリアの装備をゼノテンスの大森林の中ではちゃんと配慮してやらないとダメだ。それならある程度のおれの情報を提供する必要がある。



「なになに? あたいのことをそんなに見つめて、ヤる気があるなら言ってよね? 覚悟は決めるもん」


 おおっと、覚悟をなさって下さるというのか。それならさっそく……って、違ーう!なに誘ってんだよこのエロうさぎちゃんが! 自制力の低いおっさんは流されてしまうところじゃねえか。



「それはありがたいがしたい話はそうじゃない。エティ、おれは君のことを信じているつもり。エティはこれからおれがすることを内密にしてくれるか?」


「うん、いいもん。あたいもアキラっちのことを信じてるもん、だから……優しく来てね、痛くなるのはやだもん」


 やだもんってうさぎちゃん? なーに話がそっちのほうに行くんだよ。流されるどころか、こっちは激流に揉まれちまうじゃねえか。自律に自重に制止に根性だ、おれはやればできる子、成らぬ堪忍、するが堪忍。忍の一字は忍者の道。


 だあー! わけがわからん!



「ふーふー……エティ? 今は、森の中、二人きり、ぼくたちは、都市ゼノスへ、無事に、辿り着く。いいね?」


 脳内のイメージが混乱の極みにあって、言葉をうまく言えることができてません。



「うん……あたい、我慢、するもん」


 真似るなや! そして、我慢してんのはおれのほうだ!



「……今から出すものはダンジョンから取ったものばかりだ。これが市場で出回ったら大変のことになると聞いたことはあるけど、エティを守るためそれらを着てほしい」


ありがとうございました。

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