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第39話 うさぎちゃんに天使の降臨

 おれからの商売の話を聞いたうさぎちゃんは瞳孔と鼻を同時に開いてフンスと興奮するが、自分の現況に気が付いたかすぐに目を真っ赤にして俯いてしまう。



「……お金ないもん……スンッ」


 セイがなにかを言いかけて立ち上がろうとしたが、おれは左手を上げて彼女に口を遮る。セイが言いたいことは知っているつもりだが今が肝心なとき、金銭をやるなんて選択肢で間違うことでうさぎちゃんの退路を断つ恐れが生じてしまう。



「それは知ってる。そこでだ、今日だけのいい話に戻ろう。聞かないと損するぞ? 商人としてそれはやっちゃいけないことだよな」


「……スンッ。話を聞くもん」


「いい子だ。これらの商品はおれがエティに投資をしよう」


「……とうしってなあに?」


 投資をしらないのか、ではワタクシがアナタの愛しきエンジェルになろうとも。



「早い話、これらの商品は買値の金額でエティに引き渡す。それでエティが商人ギルドで売り払ってからおれに買値の金額を戻してくれる、利益の分はエティのものだ。真っ当な商売だろう? エティとおれがWin-Winでみんな儲ける、借り貸しの関係はなしだ」


「うぃんうぃんってなあに?」


 惜しい! 気にするべきことはそこじゃない、ファウルじゃホームランにはならないぜ。



「きみは勝ちでおれも勝ちってことだ、これなら敗者はいない。代償無しじゃないから商人ならどうすればいいか、おれが言わなくてもいいよな」


「うん! これならすぐにお返しはできるもん」


 いい子だ。やはり笑っているきみが一番君らしいよ。知り合ったのは今だけど。



「アキラっちはどうして見ず知らずのあたいにこんなトウシとかいういい話をしてくれるの?」


 俯き加減に聞いてくる可愛いうさぎちゃん、まさかきみがとても可愛らしくておれのドストライクだからなんて言えない。そういうことを言ったらが最後、セイによる情け無用の成敗が必ず来る。実は先から彼女による牽制の視線が突き刺さって痛いのなんの。



「おれはこれを持ってても売れない、商人じゃないからな。それなら一番高く買ってくれるエティに預けて売ってもらう、それならおれも損しないだろう?」


「あ、あたい売値言っちゃったもん」


 あははは、うさぎちゃんによるやっちゃったのテヘペロがすっごく可愛え。もうそれを見るだけでおれの全ての素材を無償で渡してやりたくなる。



「いいよ。それはエティが信用できる商人ってことだ、言った通りの売値で渡すからな」


「うんっ、アキラっちはいい人もん。大好きよ」


 うわっ、この太陽みたいに輝く笑顔はなに? 抱きしめてていい? 力一杯抱き着きたいけどセイの気炎がとてつもなく恐ろしいからやらない。


 このうさぎさんのシスコンめ。




「ところで、ゼノスへ行くよな。ゼノスで売れるものってなに?」


「魔石だもん。魔石ならゴブリンのもんでも1個で銀貨3枚と銅貨50枚で売れるもん」


「そうか……ところで話は変わるがきみは小麦粉をどこで買ったほうが安いと思うのかな?」


「ここテンクスの町だもん。ゼノスは都市ラクータにも食糧を販売しているから食料関連の商品は安く買い付けることはできないもん……」


 あれ? なんだか若干顔色が沈んで声がちょっとくぐもったような気がしたぞ、なんでそうなったのかな?


 まぁいいか、今はまだそういうことを直接に聞けるだけの信頼関係を彼女との間に築いていない。うっかり余計な口出しすると物事がいい方向に転ばないことは社会人時代で学習済みだ。




「ならばここできみへの先行投資の話をつけてしまおうか」


「せんこうとうしってなあに?」


 あーもう、説明することが面倒くさくなってきた、文化や思想の違いはイライラさせることもあるんだよな。でもちゃんとうさぎちゃんに理解させないとこの話を受けてもらえないだろうから、細かいことでいいから大雑把で言っちゃえ。



「きみの腕を見込んで、先に資金または商品を渡す。それできみがそれを売って、儲けれたら金をおれに返すってことだ。もしも儲けられなかったときはおれの見込み違いということで終わり」


「大丈夫よ、あたいはこれでもちゃんとした商人よ? アキラっちに損はさせないもん」


 頼もしいね、それなら話が早い。



「ではこうしょう。小麦粉は全部ここで買い付ける、金はレッサーウルフの皮革60枚と牙のネックレス35点で作った分の全部だ。それで魔石はおれからエティに1000個を投資するからそれをゼノスで売る。魔石はファージンの集落の値段で渡す、1個で銀貨1枚と銅貨50枚だ。ゼノスで売値はエティが決めるといい、おれは関知しないからそれでいいか?」


「アキラさん、あなた魔石1000個って……」


 セイのほうが呆れそうにおれに声を掛けてきた。彼女らのことでここまでおれが関わりを持つのなら隠していられないことは多くなるので、無理な偽装ことはやめにした。



「ああ、それ以上はあるけど、仲良くしたいとみんなも思うならなにも聞かないでくれるとありがたい」


 それから口を開けて阿呆みたいな顔をしているエティに話しかける。



「エティもそうだ。おれは君のスポンサー、言わば投資してくれる人。君も商人なら商品の出どころは大切な秘密だってわかるよね。心配はするな、別に怪しいものじゃない」


 うさぎちゃんに言い終えるとおれは白豹たちに話を持って行く。



「セイとレイも心配ならファージンの集落で聞き込みをしてくれても構わない、それで裏付けは取れるはずだ。いいね?」


 二人がおれのほうに向かって頷いた。これでうさぎちゃんと商売話の続きができる。



「そこでだ、これからエティにはちゃんと帳簿をつけてもらう」


「ちょうぼってなあに?」


「簡単言うとに物をいくらで買ったのか、どこで買ったのか、幾つを買ったのかと物をいくらで売ったのか、どこで売ったのか、幾つを売ったのか、利益はいくらなのかをきちんと書いておくことだ。内容はその程度でいいだろう。それを記録していればその地域での売買商品が予測できるし、違う都市へ販売することで損を無くさせる。儲けないものには手を出さなくなるし、お金の支出がわかる」


 うさぎちゃんが目をパチクリさせて面食らった表情で訝し気におれを覗いている。



「……アキラっちは商人なの?」


「違うよ、そのくらいはわかるってだけのことだ。ほら、きみも投資してくれる人に安心させないとダメだろう?」


「わかったわ、アキラっちが心配しないように紙を買ってきてちょんと書くもん」


「そこでだ、これをきみにあげよう」


 操作してからリュックよりノートとペン1本をうさぎちゃんに渡す。



「これは貴重なものだから見られないようにね。でもおれは補充がきくから無くなれば言ってくれていいよ」


 管理神は人前では多用を避けておくべきと言ったが人にやるなとは注文していない。万が一の場合は念じることで戻れるからいいよな。



「……アキラっち、これは本当に貴重すぎてもらえないよ。この筆も魔道具みたいだし」


「これも投資だから使ってくれ。いいね?」


 お膳立ては大体こんなものか。あとはうさぎちゃんが自分で努力すること、それはおれにはどうにもできないことだから口は出さない。




「アキラっち! あたいは決めたもん」



 うつむき加減のうさぎちゃんがいきなり晴れやかな顔でおれに微笑んでくれて、セイとレイもその顔を見て満ち足りたように顔を綻ばせている。ついに商売で頑張る気になったんだね、おれも嬉しいよ。



「アキラっちは初めて会ったあたいに一杯一杯してくれたもん。あたいはなにも返せていないけど、アキラっちは先からずっとイヤらしい目であたいを見たのは知ってるもん。こんな小さい体でいいなら、またシたことないけどアキラっちにあげるもん! 好きに使っていいもん!」


 言うなりにうさぎちゃんがおれにしがみ付くように抱き着いてきた。ああ、柔らかいな、温かいな、意識が飛んでいっちまいそうだ。そうか、初めてなのか……



 って違う! 掠るどころか大空振りじゃねぇかこの勘違いうさぎが。凍り付いた白豹たちの目が点になってるぜ。あ、灼熱の炎でセイが溶け出したぞ、これちょっとマジでやばいことになりそう。



「エティ、エティよ。離してくれないかな? このままだときみにアキラっちが投資する前に大変なことになりそうだよ」


「いやっ! 獣人はお返しはしっかりするもん。こんなあたいでいいならあーんなこともこーんなこともアキラっちが好きなだけ好きなようにしてくれていいもん!」


 いいもんじゃねぇよっての。うさぎちゃんもこういうのは誰もいない所でしてくれよ、そしたらあーんなこともこーんなこともしっかりするから。



 あっ待て、セイ。その右腕だけ上げたのはなんで? おれは被害者だよ? ちゃんと見てる? ねえったら!



「アキラさん? エティ姉に手を出したら承知しないって、言ったでしょーがっ!」



 避けることもできなく脳天に強烈な一撃を食らって、胸にある柔らかい感触を惜しみつつ、おれは遥か遠くのアルスの森に思いを馳せて、そのまま意識が飛ばされてしまった――


ありがとうございました。

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