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のちに聖人と呼ばれたおれが異世界を往く ~観光したいのに自分からお節介を焼く~  作者: 蛸山烏賊ノ介
第2章 新しい世界で集落の住民となる
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第21話 おれも子供たちも成長する

「それがお前の防具か、見たことのない鎧だな……」


「すごいわ、ダンジョンものね」


 おれの小屋で集合した武装したファージンさん夫妻は驚嘆の声を上げて、いつもの装備に大きなツーハンデッドソードを背負ったシャウゼさんは目を開いたままひたすら沈黙を貫いているだけ。



★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★

攻撃力:820/(370+450)

物理防御:387/(85+150+15+60+55+10+12)

魔法防御:-35/(-10-15-5-5)


武器:斬鬼の野太刀(ゴブリンキラー)(ミスリル製太刀・攻撃力+450・ゴブリン族攻撃時倍増・雷属性魔法発動)


頭部:小鬼の兜(物理防御+85・魔法防御-10・無特性)

身体:小鬼の鎧(物理防御+150・魔法防御-15・無特性)

   異界のTシャツ(物理防御+15・不壊)

腕部:小鬼の籠手(物理防御+60・魔法防御-5・無特性)

脚部:小鬼の臑当(物理防御+55・魔法防御-5・無特性)

   異界のトランクス(物理防御+10・不壊)

足部:皮革のサンダル(物理防御+12)

異界の靴下(物理防御+5・不壊)

★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★



「見たことのない剣だな。だが鍔にある紋様は魔法陣のようだ、それは神器か?」


「うーん、魔法の袋に入っていたから由来はよくわからないけど、これで魔法が使えるから神器というのならそうかもね」


「……お前、それを人前で出すな。今のお前はまだ弱い、目を付けられたら大変だ」


「わかってるよ、あんたらの前だから見せたんだ」


 3人して感動した目でおれを見るな。それとシャランスさん、今にも飛び込んで抱き着く姿勢をみせるな、旦那にやれ旦那に。



 森に入っていき、おれが先行に歩いてその後ろを3人が付いてくる。道の脇に魔素の塊があったので、草を分けながらそれ近づいていく。おれが立ちとまると後ろの3人も足を止めた。



 左手で腰に取り付けた鞘を持ち、右手で太刀の柄を握りしめる。野太刀だから両手で持ったほうが使いやすいがここは演出することも大切な場面だから、敢えて使ったことのない居合抜きで決めるつもりだ。魔力を流して身体強化を起動させる。


 3人に頭を向けて笑みを顔に浮かべさせる。足はつま先だけを上げて、魔素の塊を踏む用意を整えてからみんなに声をかけた。



「これでモンスターのお出ましだ」



 芝居じみたようにつま先で魔素の塊を踏み込んで、魔素の塊は収束し始めて人型に変わりゆく。おれは息を吐いてからモンスター化の瞬間を待つ。後ろにいる3人のことはもう脳内にない。


 これはゴブリンたちと命のやり取り、余所見はしない。



「ゲギャー」


 6体のゴブリンは産まれたてでまだ状況を掴んでいない。悪いな、今回はデモストレーションだから武装するのを待ってあげられないんだ。



 抜刀一斬! 殺!



 水平に振り払った野太刀は瞬時に2体のゴブリンを切り捨てた。まだなにが起こったかがわからない四体のゴブリンはようやくおれに気付いたが、呆けたままの顔で目を開くだけ。


 悪いけど次の技に移すね。


 太刀の先をゴブリンに向けて、今度は両手で柄を強く握力を込めてから魔力を電流のように鍔に伝導させる。白銀の刃身に微かな光りが帯び始めて魔法の起動に成功した。



「出でよ、イカズチ!」



 放出させる意識を強く持って魔力を込めると、四体のゴブリンへ向かって白く輝いた幾筋もの電流のような光が乱れた軌道で襲いかかった。断末魔の叫びをあげられないままでゴブリンたちは一瞬で焼け焦げて全滅した。


 本当は掛け声がなくても武器による魔法を放つことはできたが、ここはあくまで見せ場だからあえてそうしてるだけ。こんな恥ずかしいことはわざとじゃないとやってられない。



 ゴブリンの焦げた異臭と血の匂いが立ちこもる中、おれは3人のほうへ身を向けた。軽く野太刀を見せるようにひと振りして、ついた血糊を地面へ飛ばす。刃身はあとでちゃんと洗うつもりで鞘へ野太刀納めてからファージンさんたち声をかける。



「このようにモンスターをせん滅しました」


「……」


 3人ともものすごく引いているが、気にしませんから。このあとでいくつもの魔素の塊によるモンスター化させねばならない。この森はゴブリンしか出ないことを証明する必要があるから、気にしたら負けだ。




 長身のツーハンデッドソードを持つシャウゼさんは剣の重さを感じさせることもなく、いつものようなステップで最短距離の移動から強烈な斬撃でゴブリンを切り払っては肉塊が大地に撒き散らされている。


 シャランスさんが持つ二本のカッツバルガーは華麗でとめどなく流れる水がごとく、軽やかにステップを刻みながら左右から繰り出す無数の剣影が蛇のようにゴブリンの身体にまとわりついて、容赦なく切り裂いていく。


 ファージンさん? うむ、表現が要りません。ハルバードによる力任せの一撃だけです。しかし計算し尽くしされた攻撃はパワーに溢れていて身体のバランスを崩すことなく、二撃目へとつながっている。



 なにこの人たち、化け物なのか? おれはただ武器や能力値とスキルを頼っているだけだが、この人たちは命を刈り取るための技術を所持しているんだよ。無駄も隙もなく、敵の一番柔らかい場所へ無慈悲な硬い金属の刃を入れるだけ。



「確かにゴブリンだけだな。これだけモンスターを葬ったのはいつ以来か。ガハハ!」


「引退して以来かしらね、久々に運動になったわ」


「なるほど、確かにゴブリンしかいない。これならぼくとアキラだけで対処できる」


 満足そうに勇猛果敢な戦士たちが愛用の武器を清めながら楽しそうに話している。インパクトを与えようとしたおれが逆に驚かされてしまったよ。



「よし、アキラの言う通りでこの森はゴブリンしかなさそうだ。これならお前とシャウゼに子供を任せられる、思う存分にそのれべるとやらを上げてやってくれ」


「今回の収穫は多い、これで森は危険でないことがわかった。集落のみんなで色々なものが採れそうだ」


 そうですか、よかったです。集落の人的資源と物的資源が底上げにつながるなら今よりさらに繁栄することもできるでしょう。



「でもぉ、アキラさんの実力が見れてよかったわ。とっても鍛え甲斐がありそうでウズウズしちゃうわ」


 その炯眼でおれを舐めるように見るのは止してもらえないだろうか、シャランスさん。なんでそんなに嬉々としているのかは知りませんが、なぜかおれは生きた心地がしないんだよ。



「そうだな、おれもウキウキしてきたぞ。久しぶりだから手加減が出来なくなるかもしれないが、上達するように揉んでやるからな。ガハハ!」


「そうだな、これからの狩りは同行。その間にも手合せする」


 おーい、君たちは殺気に漲っていないか? おれを殺す気なんだな。せめて屍はちゃんと埋めてくれよ、グスン




 アウレゼスさんにお願いして木刀と木の片手剣を作ってもらった。木刀は野太刀を見せて、鍔はいらないと伝えたら器用に仕上げてくれた。この人は槍の扱いが上手で、今も稽古をつけてもらっている。最初はみぞおちへたったの一突きだけで終了、初めのかけ声から3秒未満でおれはうずくまって胃液を吐き散らかしただけ。



 ニモテアウズのじっちゃんとはエールで話がついた、ただし毎日が木製の壺が1本だ。このじっちゃんは本当に凄かった、スピードもパワーもないように見えるが剣の筋が隙もなく、一振りごと寸分の違いもなく急所だけを狙ってくる。


 おれが振るった剣を剣身の腹で軽く払っただけでおれは態勢を崩されてしまい、空振りになったおれにニモテアウズのじっちゃんは一気に近づいて喉に軽く木の片手剣を払う。ちょっとの間に呼吸ができないおれは地べたでのたうち回る。



 いまやおれは集落の強者(みんな)たちに可愛がられる玩具で、毎日に起こっている出来事は失神に嘔吐と全身打撲。命がある素晴らしさに生きる喜びで心が満ちている……って楽しくないわ! 集落の人たちの笑顔が憎いわ! 超再生のおかげさで復帰するのは早いが、それは扱きの回数が増多すると同義なので全然嬉しくない。


 武器扱いの腕は確実に上がっているから文句は言えないけど。



 ファージンさんたちがこの小人数でも開拓に乗り出すわけがこれでよくわかった。この集落を襲うなら軍隊でも連れて来ないと落ちる気がしない。本当に管理神の言う通りおれの引きが強い、いい集落でお邪魔することができたと感謝している。



 お仲間もいるから寂しくない、子供たちが泣きながら集落の人たちに揉まれるのを見ながらおれも落ちた木剣を取る。本格的な修行が始まって、おれと子供たちはしばらく集落での仕事はしなくていいということになった。


 チロが目に涙を一杯溜めて槍を突き、マリエールは号泣して双剣を振るう、クレス以外は大体似たような状況だ。そのクレスは武器をロングソードを選び、一生懸命シャウゼさんに稽古つけてもらっているが、シャウゼさんの一撃であえなく失神したのはやり過ぎだと思います。


 情けなくて気弱なおれはシャウゼさんが怖いからなにも言えません。




「今からは森でゴブリンと戦って強くなってもらう」


 シャウゼさんの言葉に子供たちは緊張を隠せないまま少し震えている。初の実戦だ、しかたがない。おれの初戦闘なんかみっともなくてみじめなもの、誰にも見られなくてよかったよ。今回は冒険での設営や移動など知識も伝授するということでヌエガブフも同行していた。



 集落の二代目たちは本格的な戦闘術とサバイバルの技術を学ぶこととなった。



 クレスはロングソードを背負っており、最近はシャウゼさんとどうにか打ち合えるように上達して、時折ではあるが力任せのとんでもない斬撃を繰り出すことがある。きっとユニークスキルの暴発のせいだ思うが、剣の腕の成長は目覚ましい。その実力は子供たちの中では突出している。


 マリエールはシャランスさんから借りたカッツバルガーを構えているが、まだ彼女が持つには重たそうだが、腕力の潜能は両親譲りなので期待はできる。無理な時は短剣で代用するようにシャウゼさんから指導されている。


 チョコ兄弟のチロはアイアンスピアを持ち、距離を置いた突きを主な攻撃手段に使っている。ルロは右手にショートソードで左手はバックラーで防御していて、身軽さを生かした攻撃を加えたり、バックラーで突然の攻撃を防いだりと遊撃の役割を担うように訓練を積んでいる。


 チロは小柄の身体に似合わずの剛腕を有していて、その突きはシャウゼさんして回避をせざる得ないときもあるがとにかく隙が多い。それを庇うかようにルロはチロが崩れた所の横から思いかけない一撃が飛んでくる。双子ではの息の合うコンビネーションアタックを身上としている。



 他の男の子はカッスラークにエイジェ。カッスラークは身体が大きく筋肉質の体格をしていて、普段はもの柔らかかつ寡黙な性格で、いつも畑で農作の仕事をしているためおれと会話をすることは少ない。ただ、一度言ったことをしっかりと覚えているため、理解力のある子だなと記憶している。ファージンさんによる武器の指導の結果、チームの要である盾役を担うことで攻守兼備のデュエリング・シールドを装備し、接近戦になった時の予備武器であるカットラスを扱うための剣術を学習することとなった。


 エイジェは普段から明るくて物怖じしない、知識欲も旺盛でよくファージンさんの対外交渉や集落の補修や整備を手伝っていてアウレゼスさんからの受けもいい。現におれが使う木刀は彼が作成している。ファージンさんによれば集落の次の長として育ってて行くつもりだという。


 以前にエイジェのステータスを覗いたとき、スキル欄に回復魔法・光魔法に神聖魔法の魔法レベルがLv0になっていた。イ・コルゼーさんにそれとなく魔法が使えるそうですよと伝えたこところ、非常に喜んでいた。どうやらこの世界では女神像がある教会で魔法使いの素質があるかどうかの神託を巫女から確認できるらしく、これまでに集落の子供たちは都市まで行くことがないので神託は受けられなかった。


 エイジェはいま、イ・コルゼーさんの弟子として神官の見習いや回復魔法の習得に勤しんでいる。魔法が使えることで集落の人たちが検討した結果、子供チームの回復と作戦の指示に専念するということで、シャウゼさんが弓と短剣をエイジェに教えることとなった。




「前衛はカッスラークとクレス、中衛はチロとルロだ。指令はエイジェで後方にいろ、マリエールはその護衛兼遊撃だ」


 シャウゼさんが不安そうな子供たちに陣形を決めているとき、おれは魔素の塊を探していた。森の道から少し入り込んだ所にそれを見つけると、ヌエガブフさんと相談した結果、地形について問題はなく、突発事故に備えて救助もしやすいということでそのことをシャウゼさんに伝えた。



「相手はゴブリン、いつもの力を出し切れば大丈夫だ。相談が終わったら始める」


 緊迫した空気が子供の間に走る。6人は寄り集まって意見を出し合っていて、たまにチロがなにかを言うとマリエールは呆れたよう顔で叱っている。クレスとルロはエイジェをまじえて盛んに意見を交し合っていて、カッスラークはそれを黙って聞いている。どうやらみんなは覚悟を固めたようでエイジェが代表してシャウゼさんの前に立つ。



「準備できました!」


「そうか」


 シャウゼさんはおれのほうを見たので、魔素の塊の前で全員に向かって手招きをする。ヌエガブフさんは万が一に備えてすぐにでも助けが入りやすい位置に付いた。



「モンスターはもうすぐ現れる、落ち着いていけ。ぼくたちもいるから戦いに専念しろ」


 シャウゼさんの声にみんなが顔を幾分こわばったまま頷いた。始めますか? 魔素の塊を足で踏む。



 混戦に乱戦。子供の陣形はすぐに崩れ去り、あとは敵も味方も入り乱れて乱打があるのみだ。現れたのは5体のゴブリンだが、エイジェが指令を出す前に慌てたチロがいきなり飛び出した。それに釣られたマリエールとルロも攻撃に加わってしまい、それを守ろうとカッスラークが位置から離れて戦闘の中に乱入した。


 クレスは状況を見て、エイジェの所へ行き、素早く相談してから二人で弓を構えたが、フレンドリーファイアを避けるため、矢を撃つのは控えているらしい。



 うん、頑張れ若人たち! きみたちの未来は明るいよ。


 必死に戦っているが、戦況では子供たちが大怪我しそうには見えなかったので、戦闘の推移をシャウゼさんとヌエガブフさんとともに見守っている。あ、ゴブリンがまた一体倒された。




 陽の日と陰の日を跨いだ遠征は無事に終わったので、今はみんなでワイワイと騒ぎ立てながら集落への帰途についている。子供たちのレベルは上がり、最後のほうではおれが子供たちにモンスター化をせがまれるようになっていた、こいつらは逞しい。


 特にクレスは初めておれに出会った時のことを思い出してか、これでもかと身体の接触をしたり、やたらとなにか話しかけてきている。楽しそうにしているクレスとはよそに、おれはシャウゼさんとルロからの突き刺さるような視線にはちょっと参っていた。



 魔石も大量に集めることができたので、シャウゼさんとヌエガブフさんは集落へ帰ればファージンさんに定期的に遠征することを進言するみたい。魔石は集落で使用するだけでなく、行商人にも売ることができるので、食料や日用品にこれまで買えなかった贅沢品と武器防具を購入することもできる。



 おれとしても鍛えられた腕で武器術などのスキルレベルを上げていきたいので、独りで森籠りを断行するつもりさ。



 もし子供たちに知られれば、絶対について来そうから黙って出かけよう。


ありがとうございました。

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