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のちに聖人と呼ばれたおれが異世界を往く ~観光したいのに自分からお節介を焼く~  作者: 蛸山烏賊ノ介
第2章 新しい世界で集落の住民となる
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第20話 強くなりたい思い

 今はジョセフィードと森で熱い視線で交し合って、つぶらな瞳がウルウルとおれのほうをジッと見つめている。ゆっくりした足取りでトコトコとおれのそばまで来たので、おれはいつものようにその頭を労わるような手付きでなでなでする。


 良かったね、角が3本に生え変わったね、雄々しくてカッコいいよ。



 狩りで何度もジョセフィードと森で出会っている。初めは弓に矢を掛けて射ようとしたが、ジョセフィードは逃げずにただただ、悲しそうに涙の粒を目に湛えているだけ。それを見るとおれの手から力が抜け、弓と矢は地面に落ちていく。


 ジョセフィードは涙したままおれのほうに歩いてくる。その首にそっと両手を回して抱き締めて、ジョセフィードも首をおれに預けたまま、まるで再会を果たした恋人のように、おれたちはいつまでも互いの体温を感じあっているのだ。



「ジョセフィードーーー!」

「ミャーーー!」




 とにかく変なシカに懐かれた。この森は天敵が少なく、シカ自身の繁殖力も相まって、狩りきれないほどシカたちは群れている。そういうわけですでにジョセフィードを狩る気にはなれず、いつの間にか森の友みたいになっている。



「ジョセフィード、角はどこに落ちているの?」

「ミャア」


 立派な角をさすりながら枯れた枝を落として冗談で聞いてみた。するとジョセフィードはなにかを悟ったように口でおれの袖を引っ張って、どこかへ案内しようとしている。



 リュックのアイテムボックス機能や限りのない食料品などのことで、集落のみんなからはかなり疑念を抱かせてしまっていたが、ファージンさんとイ・コルゼーさんには記憶喪失のためになにも覚えていないということで無理矢理に納得してもらっている。


 ただ、無用の誤解を避けるため、集落以外の人には用心しろと諫められた。確かに魔法の袋というアイテムは世界にもあるがそれはダンジョンで手に入るお宝。試しに使用してみたけどやはりアイテムボックスみたいにメニューで使うことはできない。



 魔法の袋はやはりダンジョンのお宝、特に商人たちは血眼となって手に入れようと市場に出るたび高価で取引されているらしい。もしもおれの魔法の袋が商人たちに知られたら大変なことになるとファージンさんから教えてもらってる。それについては管理神からも注意を受けているので異論はない。


 ただ、狩りのときに獲物を運ぶのも大変なので、集落で擬装用に木製の二輪の荷車を開発してみることにした。



 集落ではアウレゼスさんという人が日用道具の制作と修理を担っている。その人に紙で簡単でへたくそな意匠図を書いて見せると見事に作ってくれた。車輪も木製で引っ張るのは重たいが、シャウゼさんとクレスはとても喜んだみたいで、やはり獲物の運搬は大変だったみたい。



 ジョセフィードについて行くと巨木がある所まできた。その根元を見るとシカの角が沢山落ちている、樹幹を眺めると傷跡が縦横に刻まれていて、そうやら牡のシカたちはここで角を叩いて落としているみたいだ。この世界のシカは角が生え変わるではなく、落としてから生えるものなのか。


 それはそうとシカの角は集落の大切な交易品、ぜんぶ拾って帰ろう。ひょいひょいと。



 ジョロジョロジョロジョロ……



 しゃがんでるおれの背中に温かいジョセフィードのいばりが勢いよく命中している。確かに油断しているおれが悪い。しかしだ、隙があるからってマーキングすんじゃねぇよジョセフィード!


 狩るぞてめえ!



 あ、そんな潤んだ瞳でこっちを見ないで、狩る気が萎えるから。




「おいおい、どんだけあるんだよ……」


 山積みになっているシカの角にファージンさんとシャウゼさんがかなり引いていた。クレスは両手を握りしめて輝く目でしきりに熱い視線を送ってきているし、マリエールはというと面白そうに笑みを浮かべておれとクレスを見ている。



「シカの角落とし場を見つけたんだ。もったいないから全部持ってきた」


「ふぅ……アキラは立派な狩人、もう何も言わない。だが危ないことだけは気をつけろ」


 よし、シャウゼさんから免許皆伝をもらったよ。今からおれはシャウゼ流の弓剣狩人だ! そんな流儀はどこにもないけどね。



「アキラはすごいよ」


「やるわね、アキラ。見直したよ」


 おれを褒めるクレスとマリエールがいるが、今はガキの子守りをする気はない。大猟の日にはお酒を飲むに限る、これが真理ってもんさ。


 飲むぞ! その前にパックからすでに取り出した牛肉10枚を出す。



「シャランスさんに肉の山菜煮込みを作ってほしいな。酒のつまみに最高の味だ」


「おう、あいつが聞いたら喜ぶぞ。ガハハ!おーい、かーちゃん!」


 ファージンさんの奥さんのシャランスさんはとにかく料理がお上手なんだ。どんなしようもない食材からでも唸ってしまうほどの美味を作り出せるマジックハンドをお持ちなのさ。



「えー、また飲むの? つまんないわね。ねー、クレス」

「うん……」


 ふくれっ面のマリエールはしょんぼりのクレスに同意を求めるが、おっさんは気にしません。大人の社交に参加するにはまだ早い、子供は飴でも舐めてなさい。



「ほら、三つずつやるから外で遊んでろ」


「またそうやって子供扱いするぅ、いいよもう。行こ、クレス」

「うん……」


 こらこら、しっかりと飴をかっさらったじゃねえか。名残惜しそうにしていたクレスはマリエールに引っ張られてお外へ去っていた。



 シャウゼさんがその場面になにかを思っているみたいで、先まではクレスとおれの様子を眺めていた。


「アキラ、クレスはな……」


「シャウゼさん、この集落は小さいから見知った人たちばかりだ。歴頃の子は新鮮なことを発見するとどうしても好奇心を向いてしまう。物であれ、人であれ」

「アキラ……」


「ましてや狩りの技術とか自分ができなかったことを簡単にやり遂げてしまうと、それが自分の命の恩人ともなれば憧れみたいのが心の中で育んでしまうこともあると、おれはそう思っている」

「……」


「大人はな、子供をなるべく正しい道に導くことを必要だと思う。こういう青春期に風邪みたいな情熱を誰かに燃やすことも生きていくには貴重な出来事、自分だけのかけがえのない思いは記憶に残るからね」

「……そうだな」


「おれはクレスとシャウゼさん、ファージンさんに集落の人たちに助けてもらった。すごく感謝している。だから、おれはいい隣人でいるつもりなんだ。この集落の子供たちはおれにとっても子供みたいなもの、あの子たちが健やかに大人となってくれれば、それに少しでも役立つことができれば、おれにとってもそれは集落への恩返しになると思っているよ」

「そうか……」


 父親だから、いつも一緒に狩りに出かけるのだから、クレスのことはシャウゼさんが一番知っている。おれに向けられているクレスの思いは知っているつもりだが、応えてあげることはできない。



 まだ言えてないけど、いずれは爺さんと幼女との再会を果たすためにこの集落を去るつもり。だから、しっかりとシャウゼさんにおれのクレスに対する思いを伝えておかねばならない。




「ほう、歴の功だな。マリエールも手を出さないでくれよ。ガハハ!」


「まぁ、ちゃんと考えてくれているんだね。素敵よ、アキラさん」


 あ、ファージンさん夫妻は覗き聞きしたな。シャウゼさんも目をウルウルさせるんじゃありません。無駄に美男なんだから、おれを惚れさせるのはやめろ。男に興味はありませんよ。



「旦那にゾッコンしててよかったわ、うちがあなたに惚れてしまうところよ」


 バンバンと叩くんじゃないシャランスさん、夫婦そろって体格がでかいから痛いんだよ。あんたら親子3人揃ってはち切れんばかりのファミリーか。体格が多少横に広がっててもシャランスさんは美人だから侘しいおっさんを誘惑するなや、本気にするぞ。


 まあ、あんたの旦那にビビっているし、人妻属性は持っていないから絶対にしないけど。



「おいおい、かーちゃん。そういう言葉は口にしないでくれよ」


「まぁ、焼いてくれるの? 大丈夫よ、うちはあんたに一筋だからね」


 こらこら、このガッチリ夫妻が抱き合ってイチャイチャし出したぞ? 人前だから気にしろよ! あとですきなだけヤってろよな。



「はやく新しいガキでもこさえやがれよ」


 腹いせで吐き捨ててやった。



「……そうだな、アキラのおかげでシカの素材や魔石を計画的に売れば、小麦を買う金に困らなくなった。これで集落に新しい血を育つこともできるようになる、ありがとうな」


 しみじみとファージンさんが真剣に穏やかそうにしゃべった。それを聞いてシャランスさんはファージンさんをさらに強く抱きしめた。



「まぁ、嬉しい。ずっとあんたともう一人の子がほしかったの」


「ありがとうね、アキラさん。これで待ち望んだことがかなうわ」


 シャランスさんはファージンさんに引っ付いたままで柔らかい笑みをおれに向ける。



「そうだな、クレスも弟か妹がほしいと言った。ファージンがいいというならうちも子を成すか」


 ボソッとシャウゼさんが物凄く羨ましいことを言ったぞ。あのアリエンテさんと気持ちイイことを今夜から頑張るつもりか! チクショー! お前らは独身のおれの前でなんてことをほざきやがる、てめえらの血の色はなに色だ!



「や、ヤってろよ、好きなだけヤれ!お前らみんな爆ぜろやー!」


 エールをひったくったおれは涙を流しながら扉を蹴ってファージンさんの家から飛び出した。牛肉の煮込みはくれてやる、それでスタミナをつけてやりたいことをヤりやがれ。どうせおれの心を慰めてくれるのはジョセフィードだけだ。



 あ、ジョセフィードは牡のシカか、獣人族の女ならいいが獣は嫌だ。使えないな、ジョセフィード。




「ケっ! 幸せなこったなぁ、よかったなおい」


 やさぐれたおっさんが集落を行く。だってよ、集落の主婦たちはみんな、ツヤツヤしてるんだぜ? 旦那たちも満ち足りた顔をして、集落がピンク色に染まっているよ。


 おれの小屋以外はな。



「アーキラ。どしたの? そんな膨れっ面で」


 ガキどもが来たよ。クレスとマリエールは仲良く手をつないで話しかけてきているから、離れた所でチョコ兄弟がこっちを凄い目で睨んでいる。まあ、兄のほうだけなんだけどね。



「チっ、何でもないんだよ。今はガキと遊ぶ気はないから、散った散った!」


 大人げない大人がガキみたいなセリフを恥とも思わずに吐いている。



「なにそれ、今のアキラは感じ悪い。行こ、クレス」


 心配そうにこっちを見るクレスを無理矢理連れてマリエールは早足で走っていく。チョコ兄弟はその後を追うようにいなくなった。うん、おれってば、もう小物全開だな。



 入れ代わるようにファージンさんがこっちへ来て挨拶してくれた。



「おう、アキラか。なんか凄味があるな、ガハハ!」


「そうだぜ、今ならあんたにも負ける気はしないよ。手合わせするか!」


「ああ? やめとくよ。ここんとこは体力ないし、腰がな。かーちゃんがしつこくてよ」


「あーそうですか、ギックリ腰には十分気を付けてくださいよだ」


「ガハハ! そうだな、若くもないから無理はきかんよな。心配してくれてありがとうよ」


「心配ちゃうわ、皮肉じゃアホ」


 もう好きに集落の人々で幸せになってくれ、おれ抜きで。



 でも、少し集落の役に立ってて本当に良かった。この世界で最初に出会えて、迎えてくれた人たちがいつまでも笑顔でいてほしいから。




 レベルは順調に上昇している、いまはLv8になった。スキルも狩猟生活を中心としたもののレベルが上がっている。普魔法は光魔法をメインに使っているから、火魔法以外は全部がLv3で光魔法がLv4だ。



★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★

名前:カミムラ アキラ

種族:人族

レベル:8

職業:魔法術師


体力:1110/1110

魔力:1887/1887

筋力:370

知力:59

精神:570

機敏:285

幸運:157

攻撃力:395/(370+25)

物理防御:111/(30+10+15+16+18+10+12)

魔法防御:0/0


武器:鉄のショートソード(攻撃+25)


頭部:無し

身体:レザーアーマー(物理防御+30)

   チュニック(物理防御+10)

   異界のTシャツ(物理防御+15・不壊)

腕部:レザーグローブ(物理防御+16)

脚部:皮革のブレー(物理防御+18)

   異界のトランクス(物理防御+10・不壊)

足部:皮革のサンダル(物理防御+12)


スキル:精霊魔術Lv1・夜目LvMax・鑑定Lv3

    普魔法Lv3・武器術Lv1・身体強化Lv4

    投擲術Lv5・気配遮断Lv3・気配察知Lv3

    魔力操作Lv4・解体Lv3

ユニークスキル:住めば都・不老・健康・超再生

称号:迷い込んだ異界人・世界を探求する者

   精霊王の祝福・神龍の祝福 

★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★



 ゴブリンとの戦闘で確かにレベルは上がるが、狩猟でシャウゼさんの動きを観察するとおれが不足しているものは薄々気付いていた。単調なゴブリンの動きと違って、シャウゼさんのそれは洗練されている。流れるような動作で最小限の歩調を操り、獲物の突進を躱してから瞬く間にその急所への絶命なる一撃を与える。


 シャウゼさんは無駄な力を一切使わずして回避と攻撃が同時に繰り出されていた。


 ステータスから見ればおれのほうがシャウゼさんより数値的には上。だが、戦いともなればおれは少しずつ削られて最終的には敗北するのだろう。魔法や武器装備を駆使すれば負けないことに徹することもできるかもしれないが、達人が数人いれば間違いなく今のおれは負かされてしまう。



 だから、優れた技術によって訓練と経験を積むことは今のおれにとっては必要不可欠だと考えた。




「ほう、鍛えてほしいとな……」


 スッと目を細めたファージンさんはいつもと違って、得もしれない迫力と殺気に満ちていた。ゴクッと唾を飲み込んでから頷き返す。



 いまはファージンさんの家に来ていて、シャウゼさんにお願いして同席してもらった。村の子供たちは畑の収穫を総出で出かけている。居間にはシャランスさんが空になった木製のコップに森から取れた若葉で作ったお茶を入れてくれた。



「シャウゼはどう思う?」


「うん。アキラは異常、狩りを覚えるのも弓を扱うのも飲み込みが早かった。しかし、体の使い方はぎこちない、無駄が多い。全体的にギクシャクだ」


 ファージンさんはおれに答えずにシャウゼさんに質問して、その回答を得てからシャランスさんにも同じことを聞いた。



「お前はどう思う?」


「そうね、アキラさんが武器を扱ったところは見たことないけど、見る限り不自然ように思えるわね。持ってる能力に身体が付いていけないと思うの」


 あれ? ひょっとしてシャランスさんってすごい人なの? いつもニコニコしているし、冗談ばかり言うからそういう風には見えなかったけど。おれって、目が節穴というわけか。



「前から聞きたかったことがある。アキラはここにずっといるつもりはないんだな?」


「……はい、すみません」


 いつか聞かれる質問がファージンさんは口にした。この人たちは誠実におれに接してくれて、精いっぱい温かく迎え入れてくれた。だから、ウソをつくことはおれ自分自身が許さない。



「そっか、残念だ。アキラはいいやつだから集落いてほしかったが、出る気があるならしょうがないな。残るならマリエールをくれてやってもいいぞ」


「あんたとシャランスさんをとうさんかあさんで呼ぶのは勘弁させてください!」


「ガハハ!」


「アキラさん、お母さんと呼んでくれてもいいのよ?」


「だから勘弁してって」


 真面目な話をしているのに茶化すなや、このバカ夫婦は。



「そうか、アキラから父と呼ばれるか……」


 シャウゼさんも真剣そうな顔でしょうもないことを考えないで、その気はまったくないから話を混ぜ返してややこしくしないでくれ。




「わかった! 一丁揉んでやるか」


「ありがとう」


 よかった、これで技を鍛えることができる。



「アキラは片手剣を使っているんだな」


「ああ、実は武器全般を鍛えたいのだが今のところは片手剣だ」


「欲張っちゃいけねえ。得物はなにを使うにしろ、まずは基礎を身体にしっかりと叩き込め」


「わかった、じゃあ片手剣で頑張る」


 本当はゴブリンの天敵である野太刀のほうの使用頻度が一番高いが、この集落で太刀使いは見かけていないし、片手剣の妖精殺しもけっこう使っているからね。



「そうか、じゃヌエガブフとこのじっちゃんを先生につけるから、みっちり叩かれて来い」


「お? あの酔っ払いのじっちゃんってそんなすごいのか?」


「ヌエガブフは俺たち仲間なかで一番の片手剣使い、それを鍛え上げたのがニモテアウズのじっちゃんだ。じっちゃんは俺たちの師匠でもあるからあとでやめたいなんて泣きついて来るなよ」


「いや、そりゃ鍛えてもらえるなら頑張るよ」


 人はマジで見掛けで判断しちゃいけないな。集落のあっちこっちで酒を漁っている爺さんが剣の達人には到底見えなかったよ。



「勿論おれたちもきっちり稽古をつけてやるからな! ガハハ!」


「そうね、双剣なら教えられるわ」


「大剣はぼくが教える」


「武器全般を習得したいならほかのやつらにも声を掛けておくか? 両手斧はおれだ!」


 あら? 皆様やる気まんまんですがおれはなにか至らないことをしましたか? それともこれは集落全員からのイジメなのですか、ファージンさん。




「ついでだから子供たちもやらせるか! そろそろいい歴だしな」


 ファージンさんの呟きにシャウゼさんとシャランスさんは同意しているように頷いている。ちょうどいいチャンスだ、したかったことをこの場を借りて提案してみる。



「あの、それならおれも手伝わせてくれ」


「ああ? アキラは学ぶのほうだろう?ガキどもと一緒にやってくれりゃいいだよ」


「いや、そうじゃなくてレベル上げのほうで」


「れべるってのはなんだ?」


 そうだよな、やはり管理神が言った通り、この世界の人にはレベルと能力の数値という概念はない。これはおれだけが知っているチートだな。



「あー、底力を上がるというか、モンスターと戦って身体能力を高めるってとこかな」


「それがお前の秘密ってわけか」



 そうです、それがおれの強さの理由ですよ。



「気持ちはうれしいが、賛成はできないな。子供に危ない目は合わせられない」


「そうね、危なすぎるわ」


「うん……」


 難色を示すファージンさん夫妻に横でシャウゼさんも難しい顔で頷く。言いたいことはわかるよ? でも、これはおれが集落の子供たちにしてあげられることでもあるから引かないよ。



「心配しないでくれ、おれは魔力でモンスターを察知することができる。この森もゴブリンしか出現しないから、普段はシャウゼさんとおれがいれば大丈夫だ」


「アキラは森を探索し尽くしたか」


「そうだよ、シャウゼさん。この森でおれが行っていない所はないよ」


「たまに陰の日を跨ぐ狩猟はそれのためにか」


「ええ、そうだ。森を把握したかったから」


 おれとシャウゼさんのやりとりをファージンさんは黙って見ていた。狩猟についてはシャウゼさんに一任しているので口を挟まなかったのでしょう。シャウゼさんはしばらくおれを見つめていたが、やがてファージンさんに頷いて見せた。



「わかった、その魔力でモンスターを察知するとやらを見せてもらおう。それで判断する。お前もそれでいいよな?」


「ええ、わかったわ。アキラさんの今の力を見せてほしいしね」


 ファージンさんに問われたシャランスさんは反対しないことを表明した。これで子供たちを連れて森でレベル上げが出来れば確実に強くなることができる。武器の技術は集落の猛者たちが仕込んでくれるから、それはおれが心配することではない。



「よーし、アキラ。今度の陽の日に森に行くぞ、お前のすべてを出し切って見せろ」


「了解」



 さすがに黒竜の鎧は披露できないが、ある程度の装備なら出しても問題はないはずだ。


ありがとうございました。

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