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のちに聖人と呼ばれたおれが異世界を往く ~観光したいのに自分からお節介を焼く~  作者: 蛸山烏賊ノ介
第2章 新しい世界で集落の住民となる
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第17話 初対面を果たす

 狩人たちは日がある時に森へ入って、寝泊まりで狩りをする。夜の森に来ることは観察されていない。獲物が多い時は日中でも集落へ帰るがこの森の野生動物は動きが素早いため、シカを仕留めるところは中々見当たらない。


 大人の狩人はたまにこちらへ視線を向けてくるが、身動きひとつないおれはひたすらに自分は落ち葉だと必死に念じ続けて自己暗示をかけていた。その甲斐もあってか、まだ大人の狩人に発見されることはない。



 一度だけこっちに足を向けてきたことがあったが、その時はさすがにビビった。未知の不審物を警戒してか、結局大人の狩人は来なかった。それからのおれはさらに息を潜め、自分から気配を発さないように無心でオブジェ化したためか、いつの間にか気配遮断というスキルが身に付いている。


 お、ラッキーだ。




 ある時に出会える機会を伺っていたが、狩人たちはこちらをしげしげと見ている。まずい、バレてしまったのかと冷や汗を流していた。おれが焦っていると後ろのほうでなにかの足音がしたので、ゆっくりと視線を向けてみる。見覚えある一本角のシカの姿がそこにあった。


 距離もあるので一本角のシカは狩人たちに一瞥してからこっちに寄ってきた。



「ジョセフィード、こっちにくるんじゃねー」


 シカに適当の名前を付けて、心で叫び声を上げる。もし、狩人たちが偵察ポイントに来ればおれのことがばれてしまう。きっかけすらできていない今はとてもまずい。大人の狩人はすでに警戒心を持っていると思われるため、友好関係を結ぶ前からその可能性が遮断されてしまうとおれは焦燥感に駆られた。



「ジョセフィード、早くどっか行け! せっかくの命を粗末にすんじゃねぇよ」


 しかしジョセフィード? である一本角のシカはおれの心の声が聞こえていないらしく、しきりフンフンと匂いを嗅いでくる。


 くせぇのは知ってんだよ、こっちは風呂に入れねえんだよ。ひとしきり嗅ぎ終えるとジョセフィード? は尻をこっちに向けて、身体をブルブルと小さく震えさせた。



 ジョロジョロジョロジョロ……


 あ、生暖かいや、しかもアンモニアくせーよ。



「ジョセフィードぉぉぉーーー、おしっこを掛けんなやー! てめぇは犬か!」


 ジョセフィード? はおれの心の叫びなど気にもせず、放尿を終えてから狩人たちにもう一度視線を送って、軽やかな足取りで森の奥へ去っていく。子供の狩人はジョセフィード? を追おうとしたが、大人の狩人は手でそれを止めた。そりゃね、距離があり過ぎなんだ。そのうちに狩人たちも森の奥へ違う獲物を探しに行った。



 この場に尿臭がするおれしか残されていない。ジョセフィード? の尿で濡れた偵察ポイントの落ち葉と木の枝を取り払ってから新しく作り直すことにした。偵察ポイントの再設置を終えたおれは泣く泣くで森の奥に築いた仮設の拠点へ身を清潔するために帰路についたよ。


 覚えてろよ、ジョセフィード。いつか必ずきさまを食らってやるからな!




 その日はいつもと違って、なぜか子供の狩人だけが一人で森に入ってきたんだ。おれの偵察ポイントから離れたところで、母シカが子シカ2匹を連れて低い木の若葉を美味しそうに食べている。子供の狩人はそれを見つけて、忍び足でシカのほうへ近づこうとしたんだよ。



「やめろ! そっちへ行くんじゃねぇ!」


 かろうじて声を発するのを抑えたが、子供の狩人は見えないはずの魔素の塊へ向かっている。モンスター化すると子供の狩人では対処することなどできないことは火を見るよりも明らかだ。おれは鉄の片手剣を鞘から抜き、ハチェットを左手で持つ。


 いつでも飛び出せるように足に力を入れてから身を構えた。おれが望んだのは危険性のないイベントの発生、それには大人の狩人がこの場にいなければならないんだよ。



 呑気に子供の狩人はシカのほうへ忍び足で進んで、母シカと子シカは子供の狩人のことに気付いたみたいで子供の狩人はその足を速めた。まずいぞ、あと約50メートルも進めば子供の狩人は魔素の塊に接触するだろう。子供の狩人は腰を落として矢筒から矢を取り出し、弦に矢をかけてからシカを狙う体制に入る。


 その時、母シカは首をまわして子供の狩人に目を向け、声を出して鋭い鳴き声を発した。子供の狩人はすぐさま矢を放ったが、シカたちは一斉に逃げ出し、矢は母シカが居た空間を通っていくだけ。諦めきれない子供の狩人は追撃しようとして走り出したんだ。



「走るな! バカが!」



 ついに抑えきれずにおれは罵声を上げるとともに、偵察ポイントから飛び出したが間に合わなかった。子供の狩人は魔素の塊を踏み抜き、魔素の塊の収束は開始してゴブリンのモンスター化が始まった。



 子供の狩人は声を聞いてこっちを見るが、すぐ目の前の現象に腰が抜けたように座り込んでしまった。大声でなにか泣き叫ぶ声は聞こえてきたが、その意味が分からん。聞いたこともない言葉だ。距離的にはちょっと厳しいので、魔法を使うためのアイコンを呼び出す時間もなさそうだ。この際は仕方がない、魔法は諦める。


 そう思っているうちに4体のゴブリンが子供の前で現れた。



「ゲゥギャッギィー!」


「いっけーー!」


 おれから一番近いゴブリンへハチェットを投げる。投擲にはちょっとした自信があるのでこの距離なら外すわけがない。ゴブリンどもが子供の狩人に襲い掛かろうとしているときにハチェットが一番近いゴブリンの頭に突き刺さった。



「ゲギャ?」


 頭にハチェットを生やしたゴブリンが不思議そうにひと声を発してからそのまま倒れる。よし、1体目だ。



「ギィギャーっ!」


 倒れたゴブリンを見たほかのゴブリンどもはおれに気付いた。よし、目的達成だよ、おれの歌を聴けってんだ。まあ、歌わないけどね。



 ようやくこの場に着いたおれは足蹴りをゴブリンに入れて、蹴られたそいつは態勢を崩して両手を地面につけた。倒れ込んだゴブリンは無視して、鉄の片手剣では妖精殺しのような豆腐を切るような切れ味を期待することができないから、力いっぱい突くように3体目のゴブリンの心臓へ鉄の片手剣をきっちりとさし込む。


 この距離なら混乱した子供の狩人が今の出来事をおぼろけにしか思い出せないことを期待して、戻れと念じてから戻ってきたハチェットを手に握りしめる。そのまま渾身の力を入れて、4体目のゴブリンの喉へ目掛けて叩き付けた。


 これで残りはケリを入れた1体だけだ。


 後ろ腰のククリナイフを右手で抜いて、その柄を強く握りしめる。



「来いよ」


 未だに伏せているゴブリンへ嘲笑をかけてから、ヒラヒラと左の手のひらで挑発するように手招きした。そいつは怒りに燃える目線でおれをひと撫でにして、身近にある棍棒みたいな木の枝を拾ってから立ち上がる。



「ギィギャーっ!」


 飛ぶ込んできたゴブリンが思いっきり振り下ろした木の枝は地面と衝突して、力の強さに枝の半分が粉砕してしまったよ。だがすでにおれはその場所に立っていない。



「相手が悪かった、じゃあな」


 すでにゴブリンの後ろへ回り込んだおれは左手でゴブリンの首に回して、その喉元をあらわにする。そこへククリナイフを当てて、力を込めてから横に引くように刃が滑っていく。


 噴き出したゴブリンの血は子供の狩人にかかってしまい、子供の狩人からはこれまでに一番の高い叫び声を森の中で響き渡らせたんだ。


 これでゲームセットだ。




「・・・・! ・・ゴブリン・・・・・・・」


 子供はようやく泣き止んで、その後はなにか一所懸命に喋っているようだが、はっきり言ってさっぱりわかりません。


 へぇー、ゴブリンの種族名と発音は一緒なんだ。



「おれ、名前はアキラって言うんだ。ア・キ・ラ」


 指で顔をさしながら、おれはできるだけ精いっぱいの爽やかな笑顔で子供に話しかけた。コミュニケーションの始まりは名前からということを知っている。そこでまずは自分の名前を教えることで、子供の名前を聞き出そう。



「……アキラ?」


 オドオドした口調で子供の狩人は返事してきた。よし、つかみはどうやら成功のようだな。印象を深めるためにここでもう一度繰り返すんだ。



「そう、ア・キ・ラ。おれは、アキラ、だ」


「アキラ! ・・・・・・アキラ、アキラ」


 嬉しそうに子供はおれの名前を連呼した。ここで次のステップへいこう、相手の名前を知るんだ。



「おれ、アキラ。君は?」


 自分の顔に指してから頭を傾げて疑問形で問いかける。すると考え込んだかのように子供は口を閉じってしまった。こういう時は焦らずに相手を待つことが定石だ。



「……クレス。・・・クレス」


 おお、ようやくのご返答を頂いたぜ。こういうときはクレスというのが子供の名前なのかどうかをしっかりと確認しましょう。



「ク・レ・ス。君の名前は、クレス。おれは、アキラ」


 子供に人差し指を指すとともに相手の名前を呼んでから、自分の顔に指を指し返すともう一度名前をはっきりと伝えてみる。多分これで覚えてもらえるはずだ。



「・・・クレス、・・・・アキラ!」


 子供はおれと同じ動作で自分と俺に指を向けながら嬉々と笑いかけてくる。流れは間違えなかったのようだな。これで子供を観察するちょっとした間合いができた。



 クレスは十代前半の男の子のようで髪の毛は短く、身体は全体的にスリムというか線が細い。それが体格なのか、それとも栄養不足なのかはわからない。胸部のみの皮革の鎧を着けていて、武装は落ちている弓と腰に矢筒と短剣があるだけ、割と大き目のカバンを肩に掛けている。


 いまは返り血のせいで顔や着衣が汚れていて、青い瞳だけはキラキラとにこっちを見ていた。ゴブリンを一人で殲滅したのだから、あの歳でいうと憧憬みたいなのがあるのかもしれない。



 アイテムボックスであるリュックを降ろして、中からミネラルウォーターのペットボトルを取り出す。キャップを外し、身体を流すフリしてからクレスに差し出した。クレスはちょっとの間に固まってしまったが、おそるおそるとペットボトルを受け取り、少しずつ頭から被るように水を流した。


 遠慮しているのように見えたので、さらに4本をリュックから出す。そのうちの1本は自分用に武器や手を洗い、残りの3本はクレスが使うようにジェスチャーで示す。



 ずぶ濡れのクレスはまさに水も滴るいい男の子だった。シャープな輪郭に凛々しそうな顔立ち、細めの体格だが手足が長くて世間はこれを八等身というのかな。おっさんも少年の頃は君になりたかったよ。そうしたらさぞかしモテたのでしょうね。



 クレスは空のペットボトルを興味津々で見ていた。空のペットボトルのラベルを外してから1本をクレスに手渡す。ほかは全部アイテムボックスに回収した。ペットボトルはこの世界ではない物質で作られているので、大量に出回るのは良くないと思うが、1本くらいならオーパーツということであの管理神なら笑って済ませてくれると思う。


 そんなことよりもクレスがとてもいい笑顔で大喜びしていて、これでさらに好感度がアップした。


 ペットボトルよ、いい仕事してくれたな。



 念のためにペットボトルをさしてから人差し指を唇に当てて、内密するようにと伝えた。クレスは15度くらい首を右方向に倒して、なにかに気付いたように何度も激しくおれに頷き返してからペットボトルを自分のカバンに入れた。わかってくれたようで何よりだ。


 さて、問題はどうやって次に進んで、クレスが住む集落まで連れて行ってもらえるということだ。




 うむ、めっちゃ苦労した。おれは演劇部に所属する新入生かのように、とにかく手振りや身振りで架空のストーリーを演出した。


 記憶喪失で気が付けば森の中にいたこと。この森で狩りをしながら生き延びたこと。クレスがゴブリンに襲われたのを見て飛び出したことを独りの拙い演劇で最後まで演じて見せた。これで黒歴史がまた一ページだね。


 クレスからの拍手はなかったが美少年の目じりにうるうると少し涙を見せていたので、いったいなにを想像していたのやら。同情でもなんでもいいからおれにとって都合のいいように解釈してくれよ?



 ここで決め手となる行動に移そう。


 テキパキ手際よくコンパクトバーナーとアウトドアクッカーを用意して、3枚の牛肉に下準備をする。ジュージューとステーキを焼いていると、クレスはそれを注視して目をこれでもかと燦々と輝かせていた。焼きあがった1枚目はサバイバルナイフで切り、味付けに塩を振ってから醤油をちょっとだけ垂らす。


 クレスの前にステーキを置くとクレスは戸惑ってしまい、食べていいかどうかを迷っているのだろうな。すかさずおれは手と口でクレスに食べるようにうながした。フォークを握りしめてからクレスはひと切れのステーキを口内へ送り、次の瞬間にその顔は輝かんばかりに破顔一笑したよ。


 やったぜ! 手応えありだぜ。



 結局やつは遠慮気味でありながらもう一枚をお代わりして、さらにおれの分の半分をぶんどりやがった。というのはうそでお代わりが欲しそうな顔をしていたので、おれはわけてあげることにした。こういうときはケチはダメだからね。


 食後に飴をひとつ渡すと、口に含んでからいきなり興奮してなにかをまくし立てた。なにを言っているのかはわからないが、子供は飴が大好きのはよく知っている。幼女とか精霊王とか幼女とかね。



「・・・アキラ・・ゴブリン・・・・アキラ?」


 クレスはずっとおれになにかを話しているようで、死んだゴブリンに指してみたり、集落のほうへ向いて見たりしている。


 コミュニケーションを取ることは大歓迎だけどおれ(アキラ)はゴブリンじゃありませんよ?



 冗談はさておき、クレスはおれを集落へ連れて行くつもりでいると思う。ここでちゃんと考える必要があって、それは集落の人たちの反応だ。いきなり言葉の通じない人が人のない森から出現して、いかも四体のゴブリンを一人で全滅させた。



 うん、おれ自分から見ても怪しい奴だ。でもこれからの人生を前進させるためにもここはクレスの純粋な気持ちを利用せざる得ないね。おかーちゃん、あなたの息子は大人になってから心が汚れてしまったよ、悲しまないでくれ。


 だから、さらにもう一つの手を打つとしようか。



 ゴブリンから魔石を取り出して、水で血を流し落とすとそれをクレスに手渡す。クレスは受け取ろうとしなかったが、押し付けるようにクレスの手のひらに四つの魔石を押し込み、その小さな手をおれの両手で包むように優しく握りしめる。


 クレスはとても感動しているようで何かの言葉を繰り返し話し続けた。多分ありがとうと言ってくれてるでしょうがごめんな? そんな透き通ってきれいな瞳で見つめないでくれよ、クレス。おっさんはただ、その魔石で少しでも集落の人からの警戒を下げるために君に渡しているだけ。こんな邪な大人にならないように君の未来に幸あれ。シクシク




 クレスはおれの手を強く握って、一緒に集落へ行くようにアピールしていたので同行することにした。クレス、だますようなことしてごめんね? でもあの時にきみを助けようとしたのは偽りない気持ちだよ? 口からは言えないけど、仲良くしたいのは本当なんだ。


 集落へ行くことが決まったのであとはこの場の後始末だけ。


 ゴブリンの死体はこのまま置くことにした。この森に大型肉食動物を発見することはなかったが、野犬や狐みたいな小型肉食動物は時たま見かけたことがある。以前に殺したゴブリンの遺体をあとで見に行くと、なにかに喰われた跡や死体が無くなったこともあったので、森の清掃者はそいつらだと推測した。



 クレスはサバイバルナイフとハチェットにすごく興味を持っている。彼が持っている短剣と比べてみると、双方の仕上げりと品質がまるで違う。トラブルになることはあるかもしれないがそこまで気にしたらなにも使えなくなるので、これから向かうのは30人程度の集落だから気にしない気にしない。




 集落までは結構な距離があるので、休憩を取りながら歩いていく。食事はもっぱらおれが作るステーキと、クレスが持っている携帯食である硬めの丸い形のパンに味の薄い燻製肉だ。おにぎりをクレスに食べてもらったが鮭入りは喜んでもらえたが梅味は外れであったらしい。


 酸っぱい顔したままでどうにか飲み込んだみたいが、悪いけど大笑いさせてもらった。なあに、飴1個でクレスは機嫌が良くなるのだから、安いものだ。



 道中ではいくつもの言葉を教えてもらえた。はい、いいえ、おいしいなどの簡単な単語。これでクレスと簡単なコミュニケーションができるはず。




 トボトボと二人で歩く。会話ができないので静かなものだが、久しぶりにおれ以外の人が間近にいるのでこの空気を楽しんでいる。クレスは時々果物や植物を採集したりして、それをおれに見せながら食べてみせたり、名前を教えてくれたりしている。本当にいい子だな、おじさん涙が出ちゃうよ。


 お小遣いあげようか? お金がないから飴しかないだけど。



「クレス? ・・・クレス・・・・!」


 集落へ行く道で数人の集団を見かけた。だれかがクレスを見つけるとこっちへ大声を発していた。



「アキラ・・・クレス・・・・・・?」


 クレスは気づかわしげにおれを見上げたが、行きなさいと手で向かうようにとジェスチャーをした。人の中には大人の狩人がいたが、クレスを探しに来たのでしょう。クレスは狩人のほうへ走っていき、狩人の前に足を止めた。



 あ、クレスの頬を大人の狩人が手で叩いた。そしてすぐに強くクレスを抱きしめてから泣き出した。感情の表現が豊かなんだな。



「クレス・・・! アキラ・・ゴブリン・・・・クレス・・・アキラ」


 おれはこの場からは動かなかった。トラブルにならないようにと離れた距離から、ことの成り行きを見守ることにしている。大泣きしながらクレスは懸命に何かを説明している。



 うん、それはわかるがクレスよ、アキラはゴブリンじゃないよ?


 アキラはしょぼいけど、異世界から来たのだけど、おっさん腹は肉体改造のおかげで引っ込んだけど、れっきとした人族ですからね。そこんとこはちゃんと、しっかりとはっきりと説明をするように。


 賄賂のあめちゃんはあげたでしょう?



 ああ、ものすごく警戒されているね。クレスが話している間はチラチラとこっちを確かめるように見ていたがクレスが話し終えたいま、全員がおれを疑うような視線をかくさないで送り込んできた。大人では食べ物でごまかすことはできないだろうな、うん。



「クレス・・ゴブリン・・ありがとう・・・クレス・・アキラ?」


 ほかの人を代表するように狩人がこちらに歩いてきて、少し離れた所で止まると話しかけてきた。おれがゴブリンに誤解される危機はクレスの説明によって回避したみたいだ。狩人はなにを言ってるのかはわからなかったが、ありがとうという言葉はクレスに教えてもらえたので、そこだけはわかる。



 最後のアキラのあたりで疑問詞がきたので、お前の名はアキラかと聞いているのかな?



「はい、アキラ」


 自分を指さしながら答えたが、その後の二人に言葉によるコミュニケーションはない。この狩人は見た目は年齢が30過ぎで、男前の顔に年齢がいい方向で加算されていて、すごく渋いのだよ。背負っている弓が身体のパーツの一部のように似合い、まさしくジ・狩人という感じだ。



 手と足もすらっと長く、身体は細めだが筋肉がしっかりと付いていて、これは細マッチョというべきかな。なんとなくクレスと似ているところもあって、クレスとは親族なんだろうが、一族してめちゃくちゃ格好良くて見栄えがいいぞクソが。彼らには関係ないがなんだかムカムカしてきたぜ。


 なぜ肉体改造のときにおれはイケメンになれなかった? 元が悪過ぎなんて言うなや。



「・・アキラ・・・・・?」


 ひとりでもんもんとやさぐれているとイケメン狩人から言葉をかけられ、我に返ると狩人は集落のほうへ指をさしてくれている。これは集落へ誘ってくれたと解釈すべきでしょうか? やった、チャンスだ。これでこの世界で最初の人とのイベントは成功しそうだな。



「ありがとう」


「いいえ、・・クレス・・・、・・ありがとう」


 お礼を言うと狩人からは晴れやかで爽やかな微笑で返してくれた。マジで眩し過ぎるぞこんチキショー。狩人の言葉はクレスを助けてくれてありがとうとおれは解釈した。単語だけでコミュニケーションは成り立つもんだと確認できたよ。



「クレス、ありがとう」


 言葉を教えてもらったお礼をクレスにいうと心配していた泣き顔に笑みが戻った。クレスからはなにかいいえ、アキラ、ゴブリン、ありがとうと単語が耳に飛び込んでくるが、おれの主張はたった一つだけだ。


 アキラはゴブリンじゃないのですよ!



 クレスの様子でほかの人もいくぶん緊張を解いたようで、ステーキやあめちゃんなどの安い先行投資は間違いなかった。特に21世紀の飴は市場の洗礼を勝ち抜いてきた高度な技術の賜物だから自信があったんだよ、ははは。


 何度でもいうけど、ありがとう管理神さま。あなたのおかげでイベントは無事に解決できました。


 クレスはおれの手を引っ張りながらみんなの後について行く。


 いざ、念願の集落へ。


ここに来てやっと人を出すことができました。


ありがとうございました。

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