第16話 初戦闘は大慌て
目的地に着いた。
道中で回復魔法以外の魔法レベルはすべてが上がったので、魔法スキルの表示は普魔術Lv2になっている。里山と言ってもその実態は繁茂な森林が上にある、起伏の緩やかなとても大きい丘。世界の大きさからして、おれがそれを里山と呼んでいるだけなんだ。
マップで付近一帯を見てみると、おれのいる現在地とは反対側にひとつ集落が示されている。集落の大きさ、在住の種族と人数はわからないが、目標である言語を習得する目標はできれば、そこでファーストイベントを達成したい。
ここで大事なのがアプローチの仕方だと思う。一歩間違えば敵と見なされることだってあり得るので、ここは慎重にやろうかな。
森に足を運ぶと木漏れ陽が差し込んでいて、シカやウサギなどの動物がこちらに警戒の視線を送ってきた。しばらくするとおれを見ていた動物たちは森の奥へ逃げ去っていく。気持ちのいい森林浴を楽しみながら足を進めるが、落ち葉は分厚くて足元が覚束ない。
なんだか嬉しくなったので木のほうに向かって走っていき、そのまま木を駆け登って、上のほうから眺望しようと思ったが、幹に足をかけると、地面の重力に引っ張られた感じで木の根元に落ちてしまった。
「いてて……もう面を走ることはできないか」
あらゆる面を歩行できる能力はもうないらしい。残念な気持ちで胸一杯だが、この世界で生きるならこっちのほうが正しいと思う。まあ、失われた能力のことを考えても仕方ないので、ここは先に進もうと森の中を歩み出した。
楽しみにしていた新しい食材の入手だが、光魔法でウサギを仕留めてみたけど、スーパーや肉屋でお肉を買っていたおれに解体することはできるはずもないよね。
試しにサバイバルナイフでウサギの死体を捌いてみたが、目の前にあるのはただのホラー。その光景に吐きそうになって、とても食べる気が湧いてこないね。
犠牲になったウサギに詫びながら、近くの木の下で埋葬してあげたよ。どうか、安らかに眠れ。
奥へいくほど木々が密集するようになり、辺りは薄暗くて少々の肌寒さすら感じるものだ。そして、目の前にそれが現れた。待っていた魔素の塊だ。
魔素の塊は魔物化する可能性があるので、ここは装備を変えておくべきだろうな。
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
名前:カミムラ アキラ
種族:人族
レベル:1
職業:魔法術師
体力:900/900
魔力:1635/1635
筋力:300
知力:45
精神:500
機敏:250
幸運:150
攻撃力:900/(300+600)
物理防御:2080/(250+500+300+15+200+350+250+10+200+5)
魔法防御:1250/(150+300+200+100+250+150+100)
武器:妖精殺し(アダマンタイト製片手剣・攻撃力+600・妖精族攻撃時倍増・光属性魔法発動)
頭部:黒竜のアーメット(物理防御+250・魔法防御+150・精神攻撃無効)
身体:黒竜のキュイラス(物理防御+500・魔法防御+300・物理魔法攻撃半減)
黒竜のフォールド(物理防御+300・魔法防御+200・物理魔法攻撃半減)
異界のTシャツ(物理防御+15・不壊)
腕部:黒竜のガントレット(物理防御+200・魔法防御+100・物理魔法攻撃無効)
黒竜のシールド(物理防御+350・魔法防御+250・物理魔法攻撃反射)
脚部:黒竜のグリーブ(物理防御+250・魔法防御+150・物理魔法攻撃半減)
異界のトランクス(物理防御+10・不壊)
足部:黒竜のソールレット(物理防御+200・魔法防御+100・行動+100)
異界の靴下(物理防御+5・不壊)
黒竜の鎧装着効果:闇魔法攻撃無効・火炎攻撃無効・氷結攻撃無効・雷攻撃半減・普魔法攻撃半減・闇魔法使用効果倍増・神聖魔法攻撃負傷倍増・回復魔法無効化
スキル:精霊魔術Lv1・夜目LvMax・鑑定Lv1
普魔法Lv2・武器術Lv1・身体強化Lv1
ユニークスキル:住めば都・不老・健康・超再生
称号:迷い込んだ異界人・世界を探求する者
精霊王の祝福・神龍の祝福
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
はっはっは、黒騎士ここに参上!
真っ黒だよ真っ黒、心までドス黒さが染み込みそう。
初めて黒竜の鎧を一式で着装してみたが、なんだこの反則的な効果。敵の攻撃が無効だらけで回復魔法まで拒否してんじゃねえかコノヤロ。物理防御は2080で魔法防御が1250の数値を叩き出しているけど、皮革の鎧一式と較べならないほど高いんだよな。
おれはいったい何と戦う気だろう。
まぁ、黒竜の鎧なんてある意味ではラスボス用だからこれでいいけど。安全策を取って、このままで戦闘に臨んでみるつもり、万が一怪我でもしたら大変だ。
それにしてもフル装備は重い! 動けないことはないが動きが自分でもわかるくらい鈍重だ。片手剣だけど振るうことはできるかな。
スーっと抜き放った妖精殺しは幽玄の美を讃えている。刀身の表面に細かく刻み込んだ文字のような紋様と刃の全体が鈍く光る淡い黄銅色、この片手剣が持つ存在感を感嘆せずにはいられない。この美しい剣に相応しく、ここは華麗に振り上げてから連撃、武器術の達人たるゆえんを示そうではないか!
「お、重いっ!」
そう、黒竜のガントレットで右腕が上げにくい。チクショー、せっかくの妖精殺しが泣いてるぜ。それでも身の安全が一番ので黒竜の装備でおれを守らせる。次善策として魔法の準備は怠らない。
「メニュー、スキル、普魔法で光魔法の初級と」
魔法のアイコンを出してから、おれはつま先でそっと魔法の塊を触れてみる。
信号を感応したように魔法の塊が急速に収束すると、五つほどの人型のもやが形成されていく。その様子を見てそそくさと後ろに逃げるように距離を十分に取ってからその変化を観察することにした。しばらくすると人型は1メートルを超す高さとなって、モヤそのものがモンスターに変わっている。
五体のゴブリンだ。
やつらは辺りをキョロキョロと辺りの様子見をするが、おれを見つけると一斉に奇声を叫びあげる。
「ガギャー!」
「ギギャー!」
「グギャー!」
「ゲギャー!」
「ゴギャー!」
さて、この5体の裸のゴブリンをどうしようか。頭を傾げて考えていると、やつらも自分たちの身体を見てそのことに気が付いたらしく、5体とも焦るように付近の物を見回していて、何かを探している様子だ。
「ギィギャーっ!」
「ギャッギャー!」
1体が太い木の枝を見つけると他の4体になにかを告げたらしく、あいにくとおれはゴブリン語は学んでいないので、なにをしゃべっているのかがまったくわからない。自動翻訳スキルなんてものはないのかとしょうもないことを思考していたら、ゴブリンどもは全員の手にした太い木の枝を棍棒のように振り回している。
「ゲゥギャッギィー!」
木の枝を掲げたまま、ゴブリどもはこっちに向かって疾駆してきた。よく考えてたらおれって、戦い方は知らないし戦闘することに覚悟もしていない、ただゲームしていた時みたいにエンカウントしてみただけ。
わっこれどうしよう? 怖いっ、目が血走ったゴブリンが怖い。
やばいっ! もうゴブリンとの距離が無くなったぞ。
「うわー、来るんじゃねぇ!」
足元が落ち葉に取られて座り込んでしまう、もうゴブリンどもがおれを取り囲んで力いっぱい太い木の枝を振り下ろそうとしている。恐怖で思わず目を瞑ってしまい、手に持つ黒竜のシールドも地面に落としてしまった。両手で頭を抱えてから腹部を守るように身体を竦めるしかない。
気が付けばカンカンと、けたたましい音が辺りに鳴り響いていた。
でもあれ? 痛くはないぞ?
スッと目を開けてみると、ゴブリどもはおれを殺さんばかりに木の枝を両手で叩き下ろしているが、おれの装備の防御力が高過ぎたためにダメージは通ってない。
しかしこいつらはなんなんだろう、ボッコボコと殴りやがって、おれはてめぇらの親の仇か? なんかムカっと来たぞ、次からはおれのターンだ。喰らえっ!
「うわああああー!」
もう技もへったくれもない、妖精殺しをゴブリンと同じようにただ振り回しているだけ。あれだけ鍛えたつもりの自己流の技はいったいどこへ行ったのか、とにかくひたすら片手剣を振り回すだけ。ハッキリ言ってもう子供のケンカだなこれは。
「死ね、死にさらせ!」
冷静になれた頃にはシーンと周囲はとても静かになっていた。グギャーもゲギャーの声もなく、やつらは全員がただの肉塊となっている。
妖精殺しの切れ味が凄過ぎて、肉を切る手応えはまったくしてこないんだ。5体ともとっくに事切れていたが、やつらは最後まで生きる目的を諦めなかった、おれを殺すことだ。
たとえ目に怯えと涙を見せながらも、やつらは全員が戦って死んでいた。
ゴブリンの手が、足が、胴体が、頭が身体から切り離されたよ。ウサギ以上のスプラッターが目に飛び込んでくる。漂う血の匂いにおれは吐く衝動を抑えることができず、地面にうずくまって吐きに吐いて、胃液が無くなったじゃないかなと思うほど嘔吐し続けた。
「くっそー、無様だ」
ようやく落ち着きを取り戻したおれは自分に苛立っている。最高の装備があれば低レベルのエネミーなんてどうということはないとでも思っていたのか? 腐れゲーム脳が現実から離れて働いていたのだろうな。
ここにはキーボードもコントローラーもない、そんなでゴブリンは討伐させてくれない。
とにかく一からやり直しだ。
接近戦はこの際だ、放棄しよう。
躱すことも防ぐことも今のおれにはできていない、なんの慣れもない身体がいうことを聞いてくれないからだ。まずは距離を取って、敵の動きや習性を見極めることに専念しよう。
距離を取るということは遠距離戦、戦うことに慣れるまでは魔法で敵を倒す。森の中では火炎は禁物、延焼でもしたらおれも危なくなる。土魔法も風魔法も木に当たって止まってしまう可能性がある。ならばここは貫通力のある光魔法一択だな。
装備はこのままでいい、戦闘の時は黒竜のシールドで守備を固めよう。妖精殺しを使うのは最後だ。接近されたら盾で叩く、魔法で反撃をする。連続エンカウントしない限り、魔力は十分に持つ。魔素の塊でエンカウントするおれにはその心配はないはず。
よし、休憩したら次の闘いだ。
この5体のゴブリンは初めての武術の先生、おれに命がけで戦いというものを教えてくれた。その尊い命を嘉して、地面を掘り起こしてから埋めるだけだが墓を作って弔ってやろう。
お供えは焼いたステーキ肉一枚とおにぎりにコーヒーだ。後でそれらをちゃんと完食するから悔いを残さずに成仏したまえ、バラバラになっているわが先生たちよ。
よく見ると、胸が斬り開かれた1体のゴブリンの心臓近くで石ころみたいのがあった。水で洗い落すとそれは透明度のある薄いグリーンの石。これはゲームやラノベで言うと魔石というものなのか?
こういう時の鑑定スキルだな。
魔石:魔力を含んだ魔素の結晶。
うん、当たりだ。探してみるとほかのゴブリンの残骸からも1個ずつあったので、1体のゴブリンからひとつの魔石が取れる。使う目的はまだないけど、お宝はアイテムボックスに収納するに限る。
装備や剣に付いた血糊は丁寧に水魔法の生活魔法で洗い落とした。精神的にものすごい疲労を感じていたので、周りにモンスターや肉食動物がいないことを確かめてから、テントを立てて仮眠をとる。
そうだ、次はレインジャケットを鎧の上から被ろう。防御力はないが、不壊属性があるので心強くなる。目が覚めたら次の闘いが待っている。おれは戦いに飢える哀愁なる戦士だぜ。
寝よう……
無い知恵を絞って熟考した戦術は当たったよ。魔素の塊でのエンカウントはこの森では、今のところゴブリンしか出て来ない。約3回に1回はエンカウントではなく、魔力が補給されるように魔素の塊を身体に取り込まれる。
生まれたてのゴブリンは連携を取った行動ではなく、それは個々の自力に頼った単純な戦い。光魔法のビーム乱射はいともたやすくやつらの全身に風穴を開けてから全滅に追い込んだ。何度かの戦闘を経て、ゴブリンの動きもおれには見切れるようになった。
機敏値が250のおれは、ゴブリンよりかなり早い身動きができるはずさ。
まぁ、熟考といっても適当に思い付いた魔法の威力に任せた乱暴な戦術だが、今のおれにはとても有効なやり方だ。戦っていくうちに、30回目の戦闘終了後におれのレベルが上がった。
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
名前:カミムラ アキラ
種族:人族
レベル:2
職業:魔法術師
体力:930/930
魔力:1671/1671
筋力:310
知力:47
精神:510
機敏:255
幸運:151
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
うん、筋力と精神は10、機敏が5、知力が2、幸運が1でそれぞれの数値が上がっている。
幸運はわかる、人の運なんてそうそう上がりはしない。だが知力2しか増加されていなくてその低さはなんなんだろう、おれはバカってこの世界がいいたいのか? もし精霊王がこのことを知れば絶対に笑い転げるだろうから、自分の胸の内に秘めておこう……
チクショーめ! 八つ当たりだ、ゴブリン出て来いや!
木の枝は空を切るように、おれが立っていた場所を掠めて地面を叩き付ける。一歩だけすり足で移動したおれはゴブリンの渾身の攻撃をを躱す。振り向きざま斬鬼の太刀を切り上げて、そこに居たゴブリンが縦に両断された。
次のゴブリンが木の枝を上げようとしたので野太刀を横の方向へ木の枝ごとゴブリンを水平に切り払った。
残り1匹だけのゴブリンはあっけに取られて、武器の木の枝を落としたままこっちを見ている。上段に野太刀を構えてからひとっ飛びしてゴブリンに近接し、その勢いで刀を振り下ろす。身体が左右に分断したゴブリンは声を上げることもなく絶命した。
あれから幾度となく激戦を交わしたので、ゴブリンとの戦いに慣れたおれは接近戦に挑むようにした。装備は皮革の鎧に着替えてからレインジャケットを着用し、身軽さと最低限の防御力でゴブリンどもに熱い闘いを仕掛けた。
最初こそ叩きに叩かれた、痛覚はどうしようもないけど、超再生のユニークスキルにより無傷で済ませることができる。痛さで覚える武術とはおれはドMの変態か? でも、それで回避することを身体が覚えて、機敏値が高いおれにゴブリンはもう、ついて来れない。
レベルが上がってから50回以上はゴブリンとのエンカウントしたが、レベルが変わることはなかった。水拭きだけでは身を清めた気がしない。レベル上げはひとまず置いて、そろそろ集落へ向かうとしよう。
炭酸飲料を飲みながらチョコレートを食べて、ここは脳の働きを高めよう。このままでは言葉も通じないので、友好の意を相手に示すことはできない。手振り足振りのコミュニケーションってか? なんの冗談だそれ。それが通用するなら地球にいた頃、海外のどの国でもおれはお友達をいっぱい作れたはずだよ。
しかもこの殺伐とした剣と魔法の世界だ、好意ならざる敵意を持たれることもあるかもしれない。ここは慎重にことを運ぶべきだとオレは思うね。
「そうだ、ラノベの知識で策を練ってみよう」
うん、定番では移転と同時に異世界人の危機を救うことで友好関係を築くことがある。
盗賊とか魔物とかに馬車が襲われたところでおれが颯爽と登場してかれらを救助する。うん、これをヒントとしよう。この森に動物はいる。おれからは逃げていくが現地人なら、これを獲物として狩猟するとして想定。
そこになんらかの危険が発生したときにおれが助けに向かう。命を助けられたことで、お互いはヘイトではなくハンドを握り合う。
そう、君と僕は友達さ! はっはっは!
ザルのような計画だがほかに思いつかないから、作戦はこれで実行するほかない。まずはあの集落を観察するのだ。それにしても臭いなおれ、久しぶりに熱い風呂に入りたいよ……グスン
レベル上げでの戦闘はしばらく控えることにした。目標の順位は現地の種族と交流関係を作り、言語を習得することだ。今のままではこの世界で愉快かつ快適に過ごすことはできないし、食事の種類を早急的火急的に増やしたい。というか、町で美味しいご飯を食べたい。
あっ、しまった。考えながら歩いたらエンカウントしちゃったよ、てへぺろ。
まぁいい、この野太刀の錆にしてくれようぞ、ゴブリンどもめ。
ようやく集落を遠くから眺めることができる距離までに来ることができたので、偵察の始まりだ。
木々が生い茂る場所を陣取る。
木の上や後ろに身を潜めながら様子を見ることにした。人数にして約30人程度の小さな集落で種族や性別を見極めることはできない。
周囲に畑みたいのがあって、男性数人が何かの農作業をしているようだ。女性数人は森の浅いところに植物を採集しているようだな。遠すぎて女性たちはお胸様であるかどうかがチェックできないぞ。チクショー。
確かにこの森は果物や野菜みたいな植物が多く生えていて、鑑定してからおれもそれらを美味しく頂いている。集落では家畜を飼うような畜産はしていないようで、大人と子供が二人で定期的にこの森に入ってきて、野生動物の狩猟をしているようだ。
観察していると気になるのは大人のほうはたまに足を止めて、こっちを伺うように見ているような気がするんだ。すでに何度も同じ動作が起きていることをおれは確認している。
嘘だろう? おれは人がやっと見える程度の距離を取るようにしているぞ? おれの存在がバレたということはないよな。
でも、ひょっとするとそれは気配察知によるものかもしれないから、念のためにおれはしばらく集落の偵察を控えることにした。
ゴブリンとの死闘を再開して、戦闘技術の向上と魔石集めに専念する。そのうちに光魔法のレベルが3と上がっているが、おれ自身のレベルは一向上がる兆しはない。
この頃は武器による投擲にはまっている。
管理神がいわくおれが持ってきた武器は念ずることで手元に戻るからハチェットで試してみた。木に投げつけて突き刺さっているのを確認して、戻れと脳内で念じてみると武器の柄が手のひらに戻っているので、これは中々便利だと直感した。
それからはサバイバルナイフとハチェットにククリナイフで、ゴブリンを的に殺戮劇を繰り返しているうちに、新たなスキルに投擲術が付いた。
フアハハハハ! さぁ、ここは練習あるのみだな!
それにしても本当にお風呂に入りたいよ。別にシャワーでもいい。
そういうわけで耐えられなくなっているから、お風呂作りに挑戦してみよう。土魔法の生活魔法を押してみると長さ60㎝・高さ30㎝・幅15㎝のブロックが出てきた。コンクリート自体はドワーフのダンジョンで見たことあるし、この世界の城塞都市でも似たものを見かけたので、気にするものではない。
問題はこれを使ってどうやって風呂を作るということだな。ブロックを組んでみたが隙間がある。セメントはないのでそれを埋めることができないため、水が漏れてためることができない。
はい、さっそくだがこれは失敗したな。シクシク
……大人しく湯を沸かしてタオルで身体を拭くか。
森にいる普通の牡シカは三本の角持ちだが、先に見かけたそいつは一本の角だったので、何気なく行動値255の素早さを試すことにした。
そのシカを追いかけてみるとすぐにやつに追いついた。おれも驚いたがシカはもっとびっくりのようだ。観念したように大人しく目に涙を溜めてから力なく地べたに倒れ込んでいる。頭を見てみると、角が折れたような痕が二ヶ所あったよ。
シカよ、悲観することはないぞ? 貴様を殺してもおれは解体する技術も知識もない。フッ、優しいおれは無用の殺生は好まないのだ。そもそも牛肉なんて食べ放題なんだし、貴様の肉の味はまだ未知なるもので、挑戦するのは集落に入れるようになってからだな。
さあ、お行きなさい、そして、それまでお生きなさい。
跳躍して逃走していく一本の角のシカを見ながら、おれはいつかはそいつを食ってやろうと心に誓ったのである。
偵察目標をこの森に来る狩人さんたちに集中ことにした。森の中のほうが危険度は上がるので、そちらのほうが救助イベントに適していると思われる。でも大人の狩人は気配察知のスキルがありそうなので、ギリースーツみたいなものをここで用意する。幸いなことにここは森林で材料には困らない。
なんせ、それらしいものが出来ればいいだけの話だからな。
葉っぱがたくさん付いている枝を折り、それを鎧の隙間に差し込む。さらに落ち葉を集めてから狩人さんたちの通り道から離れたところに、落ち葉と木の枝で偽装した覗き専用の偵察ポイントを設置した。観察する時は潜伏する必要があるので、食事を作ることは控えてチョコレートと飴でカロリーの摂取をするんだ。
よぉーし、ここから始まるはおれ様の愉しいピーピングライフだ。
ありがとうございました。