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番外編 第1話 銀龍は覗きにおかんむり

番外編です。

『おう、親父ぃ、スケベ変態クソ野郎が俺の身体を堂々と覗いた!俺のことを女だと舐め腐りやがって、ぶっ飛ばしてやんねえと気が済まねえ!』


 雌型のドラゴニュートは歩幅を広くして歩く大股歩きの豪快な姿で巨乳を揺らしながら竜の神殿に入るなり、神龍に向かって大声で怒鳴っている。魔族領のほうではで神龍の代理にして、高名な竜の使いで知られている彼女メリジーは未だかつてない侮辱に誰が見てもわかるようにかなり機嫌を悪くしていた。



『ほっほ、そう怒るでないぞ。あやつは毛並みは違うがのぅ、ただの人族ぞよ』


 神殿の中央で伏せている神龍は細めていた目をうっすらと見開いて、この世で最初にできたもっとも信頼しているの配下を宥めている。



『なにい?人族がここに来れるはずがねえだろう。それに禁を破って入山したなら俺がぶっ殺しに行ってやる!』


『これこれ、アルス連山に入ることをわしは別に禁じておらぬぞ。あれは魔族と多種族たちが戒めに自分たちが勝手にきめたものぞよ』


 メリジーは神龍の言葉が納得できないようで首を数回左右に振る。



『そんなことを今更言ったって、魔族どもがはいそうですかと言うわけがねえ。いいか、親父、ここは神山だからあいつらは越えるのを憚れている。それを人族が通ったって知られてみろや、あいつらこぞって山越えして来んぞ。なんせ魔族は揃いも揃って暇を持て余しているやつが多いからな』



 左の手のひらを広げるとメリジーは右手の拳をそこへ大きな音を立てて殴りつけた。力と知恵こそが生きる証とする魔族がメリジーに心服しているのは、その圧倒的で誰も寄せ付けない強さと緻密な頭脳がありながらも単純明快な思考をしているからだ。




 名持ちのドラゴニュートは大抵人化することができる。神龍の血を分けたメリジーは太古より銀龍の名を持つ。人魔大戦の時に神龍に代わって主に魔族と戦ったのが彼女であり、焦熱の吐息(インフェルノブレス)と際限のない光魔法を撃ちだせることが魔族にとっての恐怖の的であった。アルス神教の教典にも銀龍メリジーの名が記載されていて、アルス女神と戦場に降臨した記述はこの世の終わりとして描かれている。



 その時に女神の刃の風が吹き荒み、多種族と魔族を分けることもなく滅多切りにしてから、銀龍の発するブレスが戦場にいる兵士達を猛炎で焼き尽くす。このままだといくつの種族が絶滅の憂き目に遭うとか思われたときに一人の男が女神と銀龍の間に出現して、彼女らの攻撃を両手でかざしただけで風と炎が掻き消されてこの殺戮劇を止めて見せた。



 アルス神教の教典で重要な教条に当たる人魔の争いの章の最終節によると、それは神の化身たる聖なる人が神々の怒りを鎮め、その場にいるいかなる種族の命も生き長らえさせるために現身(うつしみ)されたとされ、種族の行いが神々の怒気に触れたときの唯一の救いとなる。アルス神教の教会ではそのように解読して、神々の憤怒による災厄から人々が救われる神の恩愛だと広く信じられている。



 実際にメリジーと風の精霊がその場で得体のしれない圧力に萎縮してしまい、戦う気を一瞬にして奪われた自分たちが遥かに及ばない存在を大戦のあとに神龍と精霊王から、現れたのが主様とお呼びしているこの世界の至上のお方だと教えられた。




『とにかくだ、あいつが何者であろうと勝手に覗いた罪とその後に何回もこの俺を無視した罪を思い知らせてやんよ! その身を塵ひとつ残さずに俺の炎で燃やしてやんからな』


 まるで子供を見るような温和な目で神龍は未だに怒りが収まらないメリジーのほうを見やる。



『ほっほ、相も変わらず血の気の多いやつだのう。そうカッカするでないぞ、あやつはこの世界の者ではない、異界より迷い込んだ者ぞよ』


『なんだあ、その異界より迷い込んだというやつは? 親父はあいつがこの大陸の者ではないというのか。そんなの聞いたこともねえぞ』



 神龍の言葉にメリジーは少なからず動揺してしまった。よく考えたら会ったのは現実の世界ではなくて、何者かが目の前にいてメリジーを()()()()()()()()。話しかけたのも口ではなく思ったことにそいつが反応しただけ。あれから何度も見たようだが全てはそいつが()()()()()()のである。



『お前があやつを見たというのはのぅ、時間と空間が停止している状態ぞ。あれは異界から迷い込んだやつに発生することだと主様から聞いたことがあるぞい。そうでないと異界の者は魔素を持っておらんから死んでしまうでのぅ』


『じゃあ、親父はそいつがこの世界の(ことわり)から外れたやつだというのか』


『うむ、わしはそう確信しているぞ。長らく生きてきたがのぅ、こんなことは初めてぞ。あやつと話してみたがのぅ、異界のことも中々面白くて楽しいぞい』


『親父はそいつが今どこにいるのかは知ってんのか?』


 その問いに神龍は残念そうに両目を瞑る。最後にアキラがここに訪れたのは魔族領を回った後だと聞いていた。その後はアキラから何の連絡も入ってこない。



『知らぬのぅ。主様が久方ぶりに現れたのでのぅ、あやつのことを伝えておいたぞ。慌てた主様が会いに行っておると思うぞよ』


 主様と言う言葉を耳にしただけでメリジーは思わず身震いした。ここに来てたらしいが会わなくてよかったと心底ホッとした思いである。



『あやつが主様にこのアルス・マーゼにいることを許されたならばいずれはここに訪れようぞ。許されないのなら、再び会うこともなかろうぞい』


『くそ! 主様のお許しがあるなら俺も手が出せねえんだよ』


『よいよい、あやつが現れない内は放っておくが良いぞ。放浪する癖あるやつでのぅ、来るのも来ぬのもわしらは待てば良いぞ』


 それから神龍はメリジーのにアキラのことについて今後のことを申し付けた。



『その者の名はアキラと言うぞ。主様の許しがあればその者はこのアルス・マーゼで生きるであろうぞ。そこでメリジーよ、お前に命ずる。アキラなる者がここに来れば何を思い何を成すか、そのアキラなる者の生を見届けよ。然らばあやつがこのアルス・マーゼに害を成すならわしに知らせよ。そうでないのならあやつが助けを要することがあれば力になれ』



『チッ、なんで俺が……わかったよ、親父の頼みは断れねえよ』



 あのスケベ変態クソ野郎がここに来たら、その腐った歪な性根をとことん叩き直してやると銀龍メリジーは密かに決意した。


ありがとうございました。

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