第13話 異世界で生きていくために
アルスの世界を第二の故郷にしたおれは、まずは持っている能力のことを把握したいと考えている。基礎能力のことやスキルのことは神龍の爺さんからはこの世界にないことばかりだと聞いている。精霊王の幼女もそれに同意した。
それならこの管理神はなにか知っているかもしれない。ダンジョンの宝箱のことや魔素の塊などについても聞いてみたい。
「ダンジョンで宝箱からお宝が取れたんだけど、一つの宝箱からは1回しか取れないのはなぜなんだろう?そういう仕様なの?」
『そうですよ、ゲームでもそうじゃないですか? そもそも宝箱というのはわたしがダンジョンを探索した者へ与える恩恵です。この世界は生きづらい、自分の力を頼るほかありません。そのために己の能力を上げたい者はダンジョンへ潜り、モンスターを倒しながら持つ技を磨き、底力を高め、自分を強くしていく。その者達へのご褒美が秘宝というわけでその秘宝を収めたのが宝箱です。いにしえではダンジョンのことを秘宝殿と言う言葉で伝えていましたね』
「あのう、おれはその試練を経験しなくて、色んなダンジョンから沢山のお宝を手にしたのだけど」
『ははは、本当は良くないですけど、経歴した年月が歴史になるぐらいに時空間が停止したあなたへのお詫びということでそのまま納めてもらっていいんです』
「ダンジョンの強いボスキャラから来い来いって声がしたが、行かなきゃだめかな?」
『ハッキリ言ってお薦めはしません。ダンジョンで発生したモンスターは他の種族と同じのように受肉して長期間の生存闘争で生き残り、進化することでダンジョン種族を成すがことが多いです。そのために今では一つのダンジョンに一つの種族が統治すること場合がほとんどです。その長たるダンジョンボスは強力な技量を所持していて、半端な能力では太刀打ちできませんよ』
そうなのか、やはり思った通りだ。やつらはお宝を取られた仕返しにおれを呼び寄せようとしたんだ。だれが行くかバーカ。でも、もしもおれに力があれば、ゲームみたいにダンジョンアタックはしてみたいのよな。
「ありがたいご助言をどうも。それでステータスについてを聞きたいんだけど、エンシェントドラゴンの爺さんからは聞いたことないって教えてもらった。でもおれは見ることができたんだが、どういうことなのかな? メニュー」
パネルを開いてから管理神に見せるようにステータス欄を呼び出した。
『ええ、エンちゃんからそれも聞きました。へぇー、こんなのあるですね、本当にゲームの設定みたいですね』
それからマップやアイテムボックス、灰色表示の精霊魔術などのアイコンを管理神は興味津々におれに操作させながら細かくすべての機能を時間をかけて、見落としのないようにと地球から持ってきたものまで確認していた。
『こんなの見たことはないです。まずはメニューで開いたパネルはわたしとエンちゃんとティちゃん以外は見ることができないと思います。また、基本的に能力というものは数値化されることは地球でもアルスでもありません。数字で生き物の能力を表現ということは、その者の生い立ちや性格を無視した失礼極まりない行為だと思いますね。武器や道具などの物を測定するために鑑定というスキルはこの世界で存在していますが、それは地球みたいに科学を利用する手段がないためなのです。しかし、生き物を鑑定することはできません』
あれ? おれって世界初? 知らない間に貴重な人間になってしまったな。これがバレたら研究生物として捕獲決定ってこともありうるのかね。
『それにアルスでは魔法の袋というアイテムはありますが、収納する数量が限られていて、貴重なもの時間停止が付いて10トントラック一台の積載量を収蔵できるかどうかですね。あなたのアイテムボックスはわたしが創造したダンジョンの宝箱によく似ていて、ほぼ制限無くものを入れることができますし、中の時間も止まっています。その上にパネルを通して目録みたいに順番ごとに並べることが可能ですから大したものです。いったいどうやって出来上がったのでしょうね』
「え? ラノベ参考ならこんなの簡単にできるじゃないの?」
『下手したら世界にあるものを全部入れてしまう可能性を秘めているんですよ? そんなものは世界の秩序を影響しうるものをわたしは創りませんよ』
「ええー、じゃあこれは取りあげてしまうのですか?」
嫌だな。アイテムボックスには地球から持ってきたものや収集したお宝が山ほど入っているのでこれは無くしたくない。魔法の袋はダンジョンで数多く手に入れているがおれのアイテムボックスみたいに機能付きじゃないと思うから、今のままがいい。
『取り上げたりはしませんよ。そこはあなたの良識を期待して、出来る限りご内密にしてもらいたいのです。それとリュックの外見をこの世界のあるものと似せるように変えておきます』
「了解ー、そのお言葉に従いますよ」
『マップ機能も面白いですね。しかしよく色んな所まで行きましたね。これはアルスの全貌がよく分かりますよ。アルスではまだ天体学がなく、星が球体であるということはしられておりませんので後人の学問発展のためにこのことは心に秘めてくださいよ』
「了解ー、そのお言葉も従いますよ」
知識は五里霧中の状況で暗中模索して、実験と検証を積み重ねてから正解へ辿り着くもの。それはこの世界の種族の未知へ挑戦する権利であり、学問についてはおれと直接関係のない限り、この世界で自分の知識を話すつもりはない。観光はしたいけど学者になる気はないからね。
『ステータスについて、わたしが創造したものではないから推測したことしか言えないのですが、体力値は筋力値の3倍で魔力は知力値と精神値の合計数値の3倍に相当します。筋力は物理的な強さに関係していて、攻撃力に影響するものでしょう。知力は知能の良さを表しており、精神とともに魔力の強弱を示すものだと思います。精神については、アルスでは魅了や混乱に恐怖などの異常状況を起こす手段があるため、これらに抵抗するための数値ではないのだろうか。物理と魔法防御は着装する防具の性能によって変動しますので、それは自分で体験してくださいね』
管理神が検討したことはある程度おれが予測したものと大差がなかったため、あとは自分で立証するしかない。でも精神の定義を実証するのって怖いな、魅了や混乱の攻撃を受けないと判らないからな。
『スキルについてはこの世界で普遍的に存在する才能であって努力すれば習得できる。剣術や炎魔法など特殊技能のことを意味するのですね。逆にユニークスキルというのはその個人にしか所有できない、もしくはわたしやエンちゃんとセイちゃんにしか与えられないスキルのことです。それにしても住めば都と不壊は見たことがありません。さすがは異界人ってことですかね』
「不壊はしらないが、住めば都ってのはたぶん元の世界であちらで各地へ転勤してたから身に着いたジョークスキルみたなものさ、ははは」
『それはいいユニークスキルではないでしょうか。それならこちらでもすぐに住み慣れるのでしょうね。それと不壊はあなたが時空間停止した世界で死亡することがないように付いた特別スキルです。そういう状況が解除された時と同時に消えるユニークスキルだと思ってください』
「ああ、それでいいよ。物理的に壊れない人間なんてただの化け物。こっちの社会に帰属するのに障害としかならないだろう」
『ご理解して頂けて助かります。エンちゃんとティちゃんからの祝福についたユニークスキルはあなたのもので、そのままにしてもらって結構です。それと地球から所持品は、不壊属性のある道具についてはそのままにします。食べ物や文房具などの消耗品について、新たに地球から取り寄せることはできないため、今あるものは数量に限りがないように変えておきますね。もう帰れない故郷を懐かしむ時もあるでしょうから、わたしからの贈り物ということで受け取ってください』
「感謝するよ、食べ物はとてもありがたいな。でも道具で手斧やナイフとかが不壊属性で強力な武器になれそうだけどいいのか?」
『ええ、かまいませんよ。あの程度ならこの世界にそれより強い武器はあることですし、別に魔法属性がついているわけでもないですからね。あなたが持つ全てのものはあなたが戻れと念じれば手元に戻るようにしてあります。無くすとあなたが面倒なことになりそうからね。この世界の人から目を付けられたくたいなら、人前では多用を避けるようにしたほうがいいかもしれませんよ』
そうか、使用については自己責任という制限付きだな。どのみち武器とかはアイテムボックスに色んな種類が入っているから、それは状況に応じて使えばいいと思う。食べ物については長らく食事を取ることができなくて、今は食欲そのものを失っているから気持ち的に感謝! という感覚だな。
でも、せっかく神様が色々とご用意して下さるものだ。遠慮することもない、ありがたく頂戴しようか。
「ありがとうございます」
『アルスの住人になるのですから、多少のことはさせてもらいますよ。それでスキルについてですが、何かご希望するものはありますか?』
「ないです」
世界を徘徊するときに考えたことはあった。最初は異世界転移したものだから、チート無双を妄想したこともあったが普通に生活するならそんなものは邪魔になるだけ。精霊王の幼女は努力することで技能が身に付くことがあるということを教えてくれた。それならハチェットやサバイバルナイフとダンジョンで手に入れた武器で普段から自己流で鍛錬していくつもりだ。
結局管理神からはスキルをつけてもらうことはないが、この世界で生きていくために、鍛えるという楽しみを自分のために残しておくのも悪くない。初めから全部できてしまうと、強くなることが体験できなくなるのもなぜかもったいないとおれはさすらう間にずっとそう考えていた。
魔法は精霊魔術しか使えそうにないが、幼女はこの世界で生きるなら精霊の契約をしてくれると言ってくれている。ゲームやラノベで表現されているド派手な魔法ができなくても、それはそれでいいじゃないかな。
魔王を倒すとか、無双をしたいとかの目的でこの世界で生きていくわけじゃないから、今後の目標は程々死なない程度のスキルを習得すればいい。おれは幼女と爺さんから不老と健康のユニークスキルをもらっているし、過ぎた欲は身を滅ぼすというのはどこかで見たことがある。
『あなたは無欲ですね』
なんとなく管理神が微笑んでいる気がした。
「いやいや、生きる欲があるから欲しくないのだよ。強すぎる能力は周りに巻き込まれる確率が大になるので、自分が困らない程度この世界で慎ましく生きていくよ」
『わかりました、あなたの意志を尊重します』
これで管理神との対話は終わりなのかな? もう時空間停止の世界はようやく終点に着いたというわけかな。
『あなたは長い間流浪しました。時空間停止が解除された前例はほとんどないため、その身になにが起こるかは明白な予想ができません。そのためにあなたの命を守るという意味でわたしからは超再生というユニークスキルを付けておきます。それと世界の知識が少ないあなたが少しでも生き延びれるように鑑定のスキルは付与します。それで食べれる動物や植物がわかるようになります。確かにあなたのアイテムボックスでも鑑定は可能ですが、その都度に入れるわけにもいかないのでしょう。これくらいはさせてください』
「そうですか、ありがとうございます」
やっぱりは神様ってことだね、お心遣いをどうもありがとう。確かに言われたように、まずは生き残るが一番の目標だ。せっかくここで生きると決めたのに、いきなり爆死するのは笑い話にもならないよ。
『それとわたしの予測ではあなたは魔法を習得することができそうで、それも魔族のような魔法陣によらない魔法の発動です。どんな魔法となるかはわかりませんが魔族認定のそしりを受けないためにもちゃんと偽装する工夫は凝らしてくださいね』
「ファイアーっ!」
やはり何も出ないぞ! 俺ってやつは成長できないのかね、来た当初に患った病気は完治できてないらしい。
『今はできませんよ。その身体がこの世界に適応するようになってからにしてください』
この管理神は絶対に見守るような目でおれを見てるぞ。顔を認識できないから確認できないけど。
「世界を回った時によく魔素の塊を見かけるが、あれはなんだ?」
『魔素はこの星に存在するエネルギーと言いましたね、最初は地表を這うように星を被覆していたのですが、万物創生や各種族による取り込みで量的には安定するようになりました。そして、空中を漂うように薄い魔素は存在するのですが、密集するものは地中に地脈を形成して星の核から新たに生み出される魔素と合流するとともに、星全体を循環するようになっています』
「じゃ、地面に湧いたものはなんだ?」
『この星に生きるものにとって、魔素は不可欠なのです。そのためにある程度は地上に出現するようにわたしが手を加えています。ただし、魔素は思念と結びつくと形になることがあるので地球人ほどではないが人型多種族も、特に人族は思念を発することがあり、それは時としてモンスターの発生に繋がります。ですから村や都市近辺では湧くことにないように調整しているのです。人族は空中を漂う魔素で生存することが可能ですし、濃度のある魔素を必要とするある程度以上の強さを持つモンスターは人族の生存圏へ近付くことを嫌うようにしてますから』
「それで町の近くには魔素の塊が少ないのか、謎が解けてすっきりしたよ」
『あなたは魔素の塊と接触するときは気を付けてくださいね。魔力の補給は可能ですが、人の思いを秘めるあなたではこの世界の種族と同様、それがモンスターと化す場合があります。ゲームで解説するとエンカウントですね』
「マジで? こわいなそれ」
『ですがそれは技能の訓練やレベルアップになる場合もありますよ。ちゃんと自分の力量を弁えて、初めのうちは人族の生存圏付近で成長してから、森林や荒野へより強いモンスターに挑戦するというスタンスでいいじゃないのでしょうか?』
まるでゲームの設定だよな、でも悪くはない。貨幣や言語の取得などアルスの社会性を知るためにも人型種族との交流は必要なことだ。
『最後に忠告をひとつだけさせてください。なるべくこの世界の人らしく生きてほしいです』
「それはどういう意味で?」
『先ほど申したようにあなたがどう変わるかは予想できません。もしかするとこの世界を脅かす存在になる可能性を持っているかもしれません。わたし自身はあなたをどうこうとするつもりはないのですが、そうなった場合はエンちゃんとティちゃんが敵にまわるかもしれませんよ?』
「そんなことはしない、あいつらは友達だ!」
思わず大声を出してしまった。爺さんと幼女はかけがえのない友、敵にするのはなしだ。勝てる気がしないし、勝負する気すら起こらない。
『エンちゃんとティちゃんが聞いたら大喜びするでしょうね。私がもっとも危惧するのは、あなたがこの世界でとてつもない強大な存在として世界に良からぬ影響を与えることになれば、アルスからは相反する強者が生まれてくるということです。例えば、あなたが本当の意味での世界を害する魔王ともなれば、必ずあなたを討伐する膨大な魔素を持った勇者が現れてくるでしょう。そういう存在はどちらも世界の文明を消滅させる力をもっていますからね』
「おいおい、穏やかじゃないな」
『ええ、以前に多種族と魔族が争った時に、アルスの星は荒らされてしまったのです。その時に双方を討伐する存在がアルスによって、まさに産み落とされそうになったのでエンちゃんとティちゃんに戦争を止めさせたのです。わたしはわたしが管理する星々を愛しているのです。この手で壊すということをしたくはありませんから』
「……肝に銘じておくよ、心配しないでくれ」
世界の破壊となるきっかけにはなりたくもない、どんな大罪人だよそれ。
『では、お話ができてとても楽しかったです。エンちゃんとティちゃん以外との対談はいつ以来だろうか。もう、あなたとお会いすることもないのでしょうが、このアルスの世界で楽しめる人生を過ごしてもらえれば嬉しいです』
「ああ、互いにとって不運があったけど、誠実に色々と御高慮してもらえたことを心より感謝するよ」
神様だから拝んだほうがいいのかなと思ったりもしたが、握手を求めたほうが今の雰囲気に似合うような気がしたのでここは右手を差し出した。
管理神はすかさず添えるようにおれの右手を握って、それは温もりの感じさせる手のひらであった。たぶんこれでこの神様と再び対面することもないのでしょうが、この感覚は死ぬまで忘れることがないのだろう。
『ご迷惑お掛けして申し訳ありません、アルスが好きになれるようにらしく生きてくださいね。どこか人型種族の近くまで送っておきますから』
「はい、手間を掛けさせて悪いな、おれはどこでも住めば都ですから」
握られた手になにかの力が流れ込んでくる。
『全身至る所まで表現しがたいほどの激痛が迸るのでしょうが、ユニークスキルの超再生がちゃんと作動しますから耐え切ってくださいよ」
「え? ど、どういうこと?」
時空の揺らぎがさざ波のように押し寄せてきて、世界が動き出そうとしている。
『痛さは超再生で絶対に治まるようになってますからね』
「ま、待て!」
おい! そういうことはさきに言え!
螺旋状のように周囲の景色が様変わりするとともに、身体を引き裂くような痛みが襲ってきた。
これで第1章は終わりです。
ありがとうございました。




