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第11話 やっとお逢いできました

 それは前兆もなく突如訪れたのである。


 はい、神様のご降臨、美しい土下座姿で。なにこのお決まり(テンプレ)。来い来いとはもう覚えられない長い間ずっと待ち望んでいたが、これがその結末か、全身の力が抜けたおれはorz。




 アルスの森を出てから海を向かう、ただ真っ直ぐに歩くだけだ。



 時間が停止したこの世界で果たしておれはどのくらいの時間を歩み続けたのだろう。数百年か? それとも数千年を越えたのか。もう思い出せないほどおれの中で時間は意味を持たない概念となってしまった。



 アルス・マーゼ大陸は菱形であることは海沿いでマッピング済みだ。アルス連山はちょうど真ん中を横断する形で連なっている。魔族領は菱形大陸の北側部分、多種族領は南側部分でアルス連山によって両断された形だ。


 だがおれは知っている。アルス連山の西側に多種族領で生い茂る森の中でひっそりと隠れて暮らしているドワーフが魔族領へ通じる洞窟が掘られていた。このことは爺さんと幼女には伝えていない。洞窟の両側はドワーフが住んでいて、魔族領側では魔族たちと交易も行っている様子だった。


 こんなのがもあってもいい、精霊王が知ってもたぶん黙ってくれると思う。すべての種族は彼女にとっての愛し子だ。爺さんのほうはどう思うかはしらないけど。



 魔族領の特徴と言えば多種族領に比べて魔族の数が少ないお決まり(テンプレ)通りというべきかな。また、都市を初め町や村などには城壁や柵などの防御施設はなく、どれもドーム型の透明な膜に包まれていて、物理的におれの進入を阻んでいる。


 たぶんそれは張られている結界で、時間と空間が停止している世界でも効力は発揮しているとおれは予想している。そのせいで魔族領では街の観光はできなかったが、道行く魔族とは出会うことができた。



 魔族領内では様々な魔族を見てきた。豊満なお姉さん(サキュバス)とか妖艶なお姉さん(ヴァンパイア)とか麗しいお姉さん(セイレーン)とかの魔族の女性を集中的に脳内メモリーに焼きつけました。もうそれだけが楽しみなんだよ、雄の魔族なんぞには興味はないよ。


 一番の収穫と言えばダークエルフ様は魔族領にいました! もうね、どのダークエルフの女性もエルフ様に劣らない美貌と蠱惑的な身体をお持ちであらせられました。もし今の状態から脱することができたなら、この美女たちとはお話をしたいものだ。特にダークエルフ様とぜひご縁が結びたいものです。



 精霊王がいる世界樹のアルスの森は多種族領でいうと、ちょうど真ん中辺りのやや南側寄りで、こんなに大きい世界樹は爺さんの神殿から見れないとはこの大陸の広さは計り知れない。多種族領には色んな種族の里や町に大小様々な都市、その中には迷宮都市もあった。あれから何度もエンシェントドラゴンと精霊王を訪ねた、本当に稀に人恋しくなるんだよ。



 爺さんは大陸の東側の海を渡って行くと竜の一族があると教えてくれた、爺さんの影響を受けない自生のドラゴン族だ。種族の攻撃性は高く、幾度となく大陸へ侵攻を繰り返している。魔族領もその被害を受けており、その長は邪龍マーブラスとして恐れられていて、爺さんは無視を決め込んでいるが、動いた時は中々手を焼く連中だそうだ。



 暇つぶしで海を歩きで渡って探検しに行ったことがある。本当に野生のドラゴン族が存在していた。黒き竜たちが島いっぱいにひしめいていて、どの竜も爺さんの眷属に負けないくらい強そうに見えた。もっとも数では爺さんの眷属のほうが多いはず。なんせアルス連山の至るところにいるからね。



 黒竜の島にもダンジョンはあった、地下59層までは行ったが地下60層からは物凄い威圧を感じて、降りることを身体が拒んでいた。あれはアカンやつだ。多分邪龍マーブラスかその直属の配下がそこにいて、秘宝を守っているのだろう。


 黒竜の鎧一式を得たおれはそれで良しとしてダンジョンから出ることを選んだ。地下45層でハントした滅竜の槍は闇属性で凄まじい攻撃力を誇っているのでそれで満足した。黒竜の秘宝はきっともっとすごいものだと思うが、身の丈に合わないトレジャーは身を滅ぼすだけ。



 すでにこの世界の多くの強者から目を付けられている身として、これ以上敵を増やすべきじゃない。幸いそのほとんどはダンジョンボスであるためにダンジョンから出られないはず。それだけが救いなのだろう。



 巨乳のドラゴニュートは行く度になんか叫んでいるが、そんなの無視だよ。この世界に目を張る巨乳で美女はいくらでもいる、覗き見しても怒れないオブジェたちがね。ドラゴニュートはファンタジーで大事だが、色気がないと魅力も半減するのよね。




 世界をさらに渡り歩いた。




 もうすでになんも思わなくなり、もとの世界へ帰りたいという想いも薄れてしまい、残滓のようで心の奥の底にわずかに漂っているだけ。ユニークスキルがつくのなら多分それは無心というものであると思う。



 することと言えばただマップを開いてはマッピングしていない所を埋めていくだけの歩行作業。それに苦も楽もない、この世界で今の俺ができることはそれだけ。それすら終えればもうこの閉ざされて動かない世界でおれができることは幼女と下らない戯れ話を繰り返し、爺さんによるこの世界の伝説でも聞いて過ごすことだと思う。


 そうなったら巨乳ちゃんの罵詈雑言を聞いてやってもいいし、邪龍マーブラスに逢いに……は行かない、本能的に怖いから。



 さて、少なくなってきた未マッピング地域へ行こうか。






 そして、ついにやつは現れた。


『すみませんでした! どうかご容赦ください!』


 土下座姿が顔を地面に擦り付けたまま謝ってきた。というか、だれこいつ?



「えっと、顔を上げてください。話が見えて来ないのですが」


 おれの返事にそいつは動かない。



『いいえ! お許しが出るまで謝らせてほしいのです。本当にご迷惑を掛けてしまい申し訳ありませんでした』


「いや、それはいいのだが。あんた、誰?」


『それは失礼しました。エンちゃんとティちゃんから話を聞いて、慌ててあなたの許へ駆け付けて来ました』


「んん? エンちゃんとティちゃんってだれ?」


 知らない名前がでたぞ?



『またまた失礼を。エンちゃんはエンシェントドラゴンで、ティちゃんはティターニアのことです。あなたが名前を付けてくれたと聞きました。申し遅れましたが、わたしはこの世界を管理するもので、身分や能力から言えば君の世界の概念でいうと神みたいなものです』


 もしかするとそうじゃないかなとは思っていたが、爺さんをエンちゃん呼ばわりしているし、この停止した世界を干渉できるものだからとんでもない大物のはず。しかし神なんて気軽に呼べるのかな? 神ちゃんとか。全身から力が抜けてしまったよ。



 それにしてもこの人にもおれが考えたことは読めているんだね。



『それでもかまいません。神ちゃんとか神くんとかお好きにどうぞ』


「いやいや、論点が可笑しいでしょう。ちゃん付けとかくん付けとか、人の子が勝手に神の尊称を決めていいもんじゃないよ。強いて言えば、この世界を管理する神だから管理神さんなんてのはいかがでしょう」


『そうですか、悪くないと思いますね。そうなればわたしはヒヨっこのエプロンを着て、駄犬を飼ったほうがいいのでしょうか? 犬の名前は総三郎とか付けて』


「うん、それだと竹の箒を用意したほうがいいよ。って、違うから。あんたが管理するのは世界でアパートじゃねぇんだよ。それにあんた女か? 旦那はもういないか?」


『わたしに性別はありません。しかし夫がいないとはいいところをついてきますね、さすがエンちゃんが褒めただけはあります』



 こいつは間違いなく爺さんの上司だ、だれが初対面からダジャレしろって言ったんだ。



「ああもういいですから、顔を上げてくださいよ。話が進まない」


 神様とやらが顔を上げた。なんだこれ? 顔が認識できないぞ。顔はあるはずだがおれにはその全体がぼやけてしまい、まったく見えてこない。目をこすってから周りを見てみたが、持ち物のリュックやハチェットはくっきり見える。



 ほかのことに気付かされたことがある。こいつはやたらと地球のことに詳しいぞ。




『そうですね、まずは地球とここアルス星はわたしの管轄管理する対の星の一つですよ』


 対の星ってなんだ? ついに話が惑星を飛び出すことになったのか? 宇宙のマッピングなんてしないぞおれ。



『いいえ、数ある星を管理する身としてはひとつずつ見ていたら時間が全然足りません。そこで二つの星をワンセットとして、互いに不足するものを補い合いながら管理すると手間が省けて楽ができます』


「あんた頭いいな、確かに管理の範囲が半分となればすることも半分となる。でもそれじゃおざなりにはならんのか?」


『いいえ、管理すると言ってもわたしは足りない所を必要な分すこしだけ足してやるだけです。星の発展はその星に住まう、生きとし生けるもの達の責任ですから、星そのものを滅ぼすのでなければ、わたしは特に手を出しませんよ。そこまでの義務もないですし』


「ははは、義務論で来たか。それじゃのさばらすことにはならないのか?」


『そう言われても、総じて生き物は生きたいように生きてるのですよ? 例えばわたしが神だからって、あなたに定められた生き方を強制するとあなたは嬉々としてそれのすべてに従いますか?』


「そうだね、それで良しとする人もいるのでしょうがおれは嫌だな。社会的なルールとか法律とかは守らねばならないけど、生き様を事細かいことまで決められちゃ、生き苦しくてしょうがないぜ」


『そうですよ。それが全ての生き物ともなれば大変です。命あるものはそれぞれ独自の生態があります。だったらそれぞれらしく生を全うすればいいじゃないですか? わたしはその環境が極力悪化しないように管理するだけですよ。それはそうとして、あなたにお聞きしたいことがあります』



 ん? 話しを切られた上に質問して来たぞ? まだおれは聞きたいことがいっぱいあるけれど。



『ええ、あなたが聞きたいことはちゃんと後で回答しますが、まず質問にお答えしてください。この世界で生きていくつもりはありますか?』



 思い悩んでいたことをいきなり聞かれたよ。爺さんと幼女にそれとなく触れられたこともあったが、結論が出ないまま神様にお会いしました。



「あのー、それは帰るという選択があるということかな?」


『あははは、質問を質問で返されましたね。まぁ、いいでしょう。あなたが流浪したのはわたしのせいですからね。来た時と同じ時間で帰れますよ、管理神さんたるわたしが保証します』


「本当ですか! じゃあ、おれはきた時へ帰れるのか」


『ええ、そうですよ。但し、この世界のことも、この世界で得たものも、エンちゃんとティちゃんのことも、すべて忘れてください。いや、正しくは覚えていてもここには二度と帰ってて来れませんよ』


 凍り付いてしまった。この世界での出来事が、この長く積み重ねてきた時を、おれは失われなければならないのか。


 それは……嫌だ。




『そりゃそうでしょう。それともなんですか? あなたは好きなだけ好きなように行き来したいというですか? ええとですね、ライトノベルでいうと、おれは世界へ戻れる異世界チートスローライフ? あなたは商人チートでもしたいのですか?』


「い、いや。そういうんわけじゃ……」


『この世界へ迷い込んだのはあなたが初めてじゃありません。また、アルスの生き物も地球へ迷い込んだりするんです。いつもはすぐに気が付いて、元の世界へ返してあげるのですが、あなたはこれだけ長い間彷徨ったことはわたしにとっても滅多にない例なのです』



一息を置いてから話が続けられる。



『だからわたしとしてはエンちゃんとティちゃんもお世話になったことですし、あなたの考えを無視して送り返すというわけでは申し訳ないと思っているのです。そのためにこの世界に留まるつもりはありますかと意向を伺っているのに、地球に帰る気はある、でもアルスも離れがたいと見えてくるのですが、いったいあなたはなにがしたいのでしょうね』


「そんなこといきなり言われたって、急には答えられねぇんだよ! なんだよ、好きでここに来たわけじゃないのになんでおれが責められんだよ。おかしいだろうがおい!」



 感情の起伏なんてもうないと思ったのに怒ってしまった。散々置いてけぼりかましといて、いきなり現れてはこの世界との繋がりを切られそうになったことに気が昂ってしまったのか。



『いいでしょう、では少し雑談して落ち着きましょう。確かに時間は停止していてもあなたとしてはこちらのほうが遥かに長い人生の時間を過ごしているのだから、決断するには時間を要すると思います。これでもわたしは管理神さんですから、ほかにしなければならないことはありますが、時間が許す限りお付き合いしましょう』


「……声を荒げてごめん」


『お気になさらずともいいですよ。結果としてあなたを放置してしまったわたしが悪いのですし、それには責任を感じています。ただね、環境が極力悪化しないように管理していると言いましたよね? 対の星で自由に行き交う存在は許しませんよ。地球の破壊兵器がこちらに運び込まれたらどうなりますか? ドラゴンが地球の空を飛び回ったらどうなるのでしょうね。日本人は想像力が豊かなのですから、そこはちゃんと考えてくださいね』


「わかった……」



 管理神の言葉こそ柔らかいものの、そこには堅固たる意志がある。ぼやけた顔からは表情こそ読み取れないが、目は絶対に笑ってないはずだ。



 この神様は怖いよ。


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