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第92話 ワイワイしない帰り道

「ああいう場合はあらかじめ落とし穴とか掘って、そこへ誘導して足を取ればいいじゃないかな。それか、射手があたらなくてもいいから魔法で撃ち続けてアタッカーの所まで誘い込むもありかもな」


「はいっ!」


 兎人とエルフの若者たち全員が声を揃っての返事におれは少なからずに照れてしまう。その後ろにはエルフの五人衆もいるがおれの建言を聞き入るだけでなにも言ってこない。



「いや、別におれも集団戦に長けているわけじゃないから、みんなで色んな形を模索して、戦いに合わせた陣形をその都度に組み立てればいいじゃない?」


「アキラさん、凄いです!」


 ゾシスリアは感動した様子で両手を合わさっておれに称賛の言葉を送ってくれているけど、正直にむず痒い気持ちでいっぱいです。だって、おれが考える集団での戦いなんてのはネトゲーでパーティを組んだくらいの経験で、あとは小説や戦記からの知識しかない。



「おもしれえな、人族の戦い方はよ」


「いやいや、おれが人族を代表しているわけじゃないよ」


 ニールさん、あなたもですか。


 そんなことを言われても、おれは人族との戦いではダンジョンから取得した圧倒的な管理神様謹製の武器を使って、高い火力で押しての勝利してきただけ。それはあいつらがおれの駆使する力について無知であるのと、おれがいつも速攻をかけているからだと思っている。


 おれのことが人族のほうに知られていたら、きっと違う形の戦闘になることは自分でも理解している。



「お前はエルフの集落で落ち合うって言ったな、急に戻ってきてどうしたんだよ」


「あー、エルフの集落は行ってきた。あんたたちがいなかったからローインにニールの気配を辿ってくれるように頼んだよ」


「そうかよ、あいつは風の中に漂う気配を察知できるからな」


「ところで先の話だけど、人族の戦い方は個体よりも集団だよ。なんともあれ、人をナメるじゃない。戦闘中であっても常に修正することができるから」


「ああ、それは知ってんぜ。大昔の時に人族の中で勇者というやつがいたが、そいつはとんでもなく学習能力が高くてな、中々面白い奴だったぜ。そいつが率いていていた人族の集まりも戦いに慣れて、魔族たちも苦労したんよ」


 あ、ここで神話が出て来ますか? ネシアはみんなを連れて、おれとニールから距離を取ろうと離れようとしてくれている。でも彼女の顔こそ背けているけど、その長い耳がこっちに傾いてきていることは丸わかりだよ。可愛いね。



「で、その勇者と愉快な仲間たちはどうしたんだ?」


「おう。勇者はエデジーがやったから俺は知らんけどよ、一度だけ人族の軍勢とかいう集まりが神山まで押し寄せてきてよ、警告したがそいつらは引き下がらんからムカついた俺が炎の一吹きでまとめて消し炭にしてやったぜ」


「そうっすか、銀龍(ニール)お強いでござんすね」


「んなのなんてこったあねえよ、ドラゴン(俺たち)をナメっと痛い目を合わせないとな、人族って付け上がんからな」


 ニールさん、そこでジト目でおれのことを見ないように。



 確かにこの頃のおれはちょいとばかし調子に乗っていることは否めないがそこはあなた、お菓子とかをねだって来るから、ついついメリジーさんは神話級の化け物ということを忘れさせているからですよ。



「い、いやー、そおうかなあ。それはないんじゃないんかな」


 なんとか言葉だけで誤魔化そうと思ったが、なぜか態度をすごく尖っているニールにはそれが通用しない。



ノロマ(ペシティグムス)ごときのブレスをマーブラスの防具で防いだくらいでいい気になんなよ? 俺の炎吹き(ブレス)は容易くこの森を全焼させてやれんぞ」


「なんだよ、やけに絡んでくるな」


 答えないニールは右腕を伸ばしておれの頭を胸に寄せるように抱えると彼女の柔らかなお胸様に意識が吹っ飛びそうになった。



「一人でご機嫌になんかやったなてめえ? てめえから血の匂いがプンプンすんぜ?」


 あっ、アルガカンザリス村での戦闘がバレテラ。どんだけいい鼻をしてやがるんだこいつは、ドラゴンの鼻は犬並みの臭覚をしているとでもいうのか。


 お胸様で遠くへ飛びそうになったおれの意識が一気に引き戻されていた。仕方がないから今でも睨んでくるニールこと銀龍メリジーに詳しくことの成り行きを吐かされることになりました。




「俺は今からラクータというところまで飛んで来んぜ」


「ちょっとお待ちになって? ニールさんはなにをされるおつもりですか」


 おれは必死にニールの腕を掴んで、彼女がここから飛び去らないように取り押さえている。銀龍(シルバードラゴン)に襲われることになれば、既存している世界のバランスを揺るがすことになってしまう可能性が出る。



「んなの決まってんだよ、ラクータを平らげてやんぜ。調子に乗ってっとどうなるかを思い知らせてやんよ」


「だあー、ヤメなさい。そうなれば人族と獣人族の生存競争じゃ済まなくなる!」


「んなの知るかよ、もう聞き飽きたぜそれ! 俺の弟子に手を出した罰を与えてやらんと気が済まねえよ!」



 怒り心頭のニールの気持ちもわからないことはないが、子供の争いに親が手を出すのは大げなさすぎるし、人族と獣人族のパワーバランスが大きく崩れ去ってしまう。そうなると人族側にアルス神教がつくことになるかもしれないので、人族と獣人族の争いの構図が新たな神話の誕生になりかねない。


 それも魔族と繋がりのある銀龍(シルバードラゴン)が付いた獣人族が悪の側になるという、このアルス・マーゼ大陸に住むすべての獣人族の未来を影響するような頂けない展開になってしまうかもしれない。



「今でもおれは色々と獣人たちのために手を尽くしている。メリジーがおれを見守る者なら好きのようにやらせてくれよ」


「……くそ、なんでてめえはいつも痛えとこに突いてくんだよ。わかったよ、てめえに任すぞ」


 おれの頭をコツンと軽く叩くとニールは膨れっ面でそっぽを向いてしまった。その様子を見たおれは心底からホッとする、これで事態が変な方向に発展しなくて良かった。おれはエティリアのために獣人たちの安住の地を作り上げたいとは思っているが、アルスの世界観を変えてしまうような争いにするつもりなどない。



「...あのう、もうお話は済んだのでしょうか?...」


 ネシアが気遣わしげにおれとニールに話しかけてきて、兎人の若者とエルフたちは遠巻きにこちらを気遣わしげに見ているだけ。



「ああ、もう終わったよ」


 おれが答えるとネシアは小さく息を吐いている。どうやらおれとニールの話し合いは彼女にとってはプレッシャーになっていたようで、それは申し訳ないことをしたと心から思った。



「...それでこれからはどうするつもりなの?...」


「エルフの集落へ帰ろう」


 テンクスの商人ギルドのワスプールに依頼した食糧や道具の仕入れはまだしばらくはかかることだろうし、ここは一旦切り上げて愛する恋人のエティリアに会いに行きたい。イベント続きで精神的に疲れているおれはうさぎちゃんに癒してもらうとともに、獣人たちによる話し合いの途中経過も知りたいと考えている。



「さあ、ここから先は集落に戻るまでネシアを守りつつ、きみたちが襲ってくるモンスターを倒していけ。おれとニールは後方で控えているから心配ないけど、連携を大事に臨機応変でやって行けよ」



 全員が黙って力強く頷き返してくる。帰途はおれによるエンカウントをするつもりはない、彼や彼女らで実戦の形式で自力で戦い抜くことに期待しよう。なんといっても、おれは想像でしか伝えることはできないがこの子たちはきっと、これからの獣人族とエルフが技術を持つ集団戦闘の先駆けになるのでしょう。



 若人よ、思うままに羽を広げ、自らを高めろ。


 さすれば、おっさんは楽にエルフの集落へ帰ることができるから。ちょいとおっさんはね、戦いに疲れているんだ。




 おれが願った通り、若者たちを煽ったおかげで帰路は大変楽な道のりとなった。



 兎人とエルフの若者たちが先陣に立ち、ネシアを守る使い手の五人衆がネシアとともにバックアップ役に回って、たまにエンカウントするモンスターや森に棲み付いているモンスターなどを状況に応じた隊形を変えながら撃破していく。



 アラクネの里はエティリアとまた来ることにして、今はそこへ寄り道することはしない。遠くからこっちの様子を窺っているアラクネたちがいたけれど、それはおれたちが通っていくのを見送るために里から出たアラクネたちだと思う。


 親交を深めるのは今度でいい、いまはとにかくエルフの集落へ帰ることが先決だ。




 ここまでの道中を振り返ってもみんなの心配は見当たらないし、ニールが同行しているからここでおれは自分のわがままを押し付けようと食事の最中のみんなに語りかける。



「なあ、このまま食べてていいから聞いてくれ」


 焼き肉を焼きながら手伝ってくれているゾシスリアとネシアもおれのほうに顔を向けてくる。



「ニールがみんなと一緒に集落へ帰るから、おれはここからは別行動だ」


「んだと! てめえはまた一人だけでご機嫌なことをすんつもりかよ。許さねえぞ、俺も連れてけや」


 やはりというべきか、想像したように最初はニールはむしゃむしゃと牛肉をほうばりながらも反論の声を上げてきた。



「違うよ。これからのことを考えるために一人になりたいんだ」


「...それはあたしたちではアキラの役に立たないってこと?...」


「そうだぞ、横暴だぞ!」


 ああ、恨み言を言ってくるネシアは悲しそうな顔でも大層お美しいだね。美人って、本当に得するよね。んでもってペッピス、お前はなにを言ってるんだ? ネシアの言葉に乗せられただけだろうに。



「それも違うよ、一人になってゆっくりと思案したことがあるんだ」


「アキラさん、前に教えてくれているときに言ったんじゃないですか? みんなで知恵を出し合えば答えは出てくるって」


 ゾシスリアは肉を焼いている手を止めて、少し責めるような口調でおれに話しかけてきた。それはいいけど上質な肉は焦げたらもったいないので、ちゃんとこまめに裏返すように。



「いやいや、そりゃ言ったけど、おれの中でまだはっきりと浮かび上がらない考えがあってだね、そこをまとめるために一人で行動したいと思っている」


 みんなが見つめてくる中、おれとしてはここで譲るつもりはなく、じっと状況を見ていたニールのほうが諦めたようにため息ついた。



「ったくよ、もう好きにしろ」


 ニールの一言のおかげで、みんながおれの独行を渋々ながら同意するという流れになった。




 やったー! 本当に久しぶりなんだけどお一人様になることができる。


 考えたいことがあるのはあながち嘘でもないけど、よく考えたらファージン集落を出てテンクスの町で白豹たちと再会してから一人になったことは少ないよね。



 人と触れ合うのはいい、孤独は寂しいことは時空間停止の時代で経験してきた。だけど、たまにでいいから、一人ぼっちでいたい自分が確かにいる。エティリアの温もりは身も心も心地よく満たしてくれる。それは間違いないのだが、お宝動画をただ眺めたいときもあるんだ。


 それを見ることで二度と帰れない世界を思い起こさせてくれる、月が一つしかないあの懐かしくも平和な故郷のことを。



 戦いが続く中、精神的に参っているかもしれないとおれは自覚している。



「ったく。てめえを心配してんやつらがいることを忘れんなよ」



 穿った視線でおれの心の内を見抜いてか、ニールは若干優しげな言葉をおれに送ってくれている。


 人を思いやれるような銀龍メリジーは素晴らしい女性になったとおれは微笑ましく思えた。


ありがとうございました。

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