第2話 黒へと続く心。
一同が訓練を初めてから、はや3日たっていた。
「そりゃー!!」
「うおっ!?危ねぇ!?」
地面から大量の杭が飛び出し、それらが直撃する寸前で舞鬼が後ろに飛び退く。
背後から襲ってくる羅鳴の攻撃を屈んで避けつつ、後ろに思いっきり蹴りを放って羅鳴を吹き飛ばす。
その蹴りの勢いのままに反転、ゲヴェーア98を舞鬼に向けて発砲。
ボルトアクションで薬莢を排出、そして次弾を装填しさらに発砲。
2発の弾丸が着地直後の舞鬼に向けて放たれ、弾丸に刻まれた爆裂術式が起動。
舞鬼に当たる寸前で爆発し、煙幕が舞鬼の視界を遮る。
背後に現れた気配に向けて大剣を振るうが、みればそれは人の形をした木だった。
先程までなかったソレが突然現れたのは明らかに枝音の能力によるもの。
しまった、と思い、再び前を向くがもう遅く、枝音がライフルの先端にとりつけた銃剣を舞鬼に突きつけている。
ついでに、起き上がろうとしていた羅鳴には、いつの間にか手に持っていた拳銃の銃口を向けている。
起き上がる直前のこの体制では、放たれる拳銃の弾丸を避けられない。
しかも、どのような効果の術式が弾丸に付与されているかも分からないのだから尚更だ。
「ふっふーん。まだまだだねぇ………この枝音さんを倒すにはなぁ!」
「てか、枝音ちゃんってこんなに強かったっけ………。」
蹴りの直撃を食らったものの、手加減されていたので大したダメージもなく起き上がった羅鳴が愚痴をこぼす。
舞鬼もどうしたら勝てるかと思案してるが、頭を使うタイプでは無いので何も思い浮かばなかった。
「はぁー、マジで勝てねぇ……どうすりゃいいんだ。」
「あっちよりマシじゃない?」
枝音がそういいながら見た方向には、レイリとリリィがいる。
二人とも近接戦闘にほ向かないため、最低限の近距離戦闘と、後は遠距離攻撃の訓練を行っている。
シオンが真ん中に立ち、少し距離が離れたヶ所からレイリが銃撃、そしてかなり遠く………2キロほど離れた箇所からリリィが狙撃してきている。
が、どちらもシオンに1発も当てることが出来ないでいる。
そもそも、能力者とはいえ狙撃は1キロ程度が普通だ。
2キロなど、狙撃特化の能力者でさえ厳しいと言える距離だ。
「リリィ!まぁた外したなぁおまえぇええ!!!」
『2キロ先から動く的に当てるってそもそも無理でしょ!!動かなくても無理なのに!!』
「はぁ???」
言いながら、シオンは肩に担いでいたクラッグ・ヨルゲンセン……ノルウェーで開発された、ボルトアクション方式の狙撃銃をスコープも覗かずにおもむろにリリィのいる方向に向け、引き金を引く。
『きゃっ!?』
放たれた弾丸はリリィの持つ練習用の狙撃ライフルの銃口に吸い込まれ、銃身が破裂する。
「2キロとかこんな適当でも当たるんだし、無理じゃないっしょ。」
『それは君だけでしょ!!』
ギャーギャーとシオンとリリィが口喧嘩する。
普段から温厚なリリィがここまでうるさく口ごたえするというのは珍しいことだ。
だが、確かにあれよりかはマシ………なのか?いや、マシだろう。と舞鬼は思うことにした。
それよりも心配なのが、三日目も精神世界で戦っているネアと瑠璃奈の2人だ。
2人とも、特にこれと言った進展を見せていない。
「とは言っても、俺らにゃどうしようもねぇからな………。」
――――――――――――――――
「また黙りか。えぇ?瑠璃奈。」
「…………………。」
「お前はずっと目を逸らしてばっかだ。その結果がこのザマだ。違うか?」
「これがお前の本心だ。復讐心をてめぇはいつまでも抱え込んでやがるからこうなる………さっさと肉体を私に寄越しててめぇは消えな。」
「…………………。」
「………ちっ。今日もこれか。」
瑠璃奈が俯いた状態で座っており、それを黒い瑠璃奈が見下ろす構図になっている。
何も喋らず、ずっと何かを迷っているかのように黙り続けている瑠璃奈に、黒い瑠璃奈は飽き飽きしていた。
もう3日もこんな調子だ。うんざりする。
と、そこで瑠璃奈がポツポツと喋り始めた。
「あなたは………」
「んぉ?なんだ?恨み言の一つか二つ、出てきたか?」
「あなたは、枝音や水姫のこと、どう思ってんの?」
「………なんだ、そりゃ?どういう意味だ?」
「そのまんまの意味よ。………確かに、小さい頃は、復讐心と理不尽への怒りでいっぱいいっぱいだった。それしかなかった。………あなたがいるのだから、今でもその復讐心は消えてはいないのだろうけど、でも、私はアイツらに出会って、変われた。根本的には何も変わってなくても、それでも私は少しだけでも変われたって、そう言える。アイツらとの日常は、楽しかったから。」
瑠璃奈は、何かを決めたような強い目で、もう1人の自分を見つめる。
「でも、あなたは?あなたは、どうなの?」
その問いに、黒い瑠璃奈は答えに詰まった。
「私は……………。」
「私は、表面上だけでも、アイツらと出会って救われた。でも、あなたは?あいつらと一緒に遊んで、馬鹿みたいに騒いで過ごしたあの日々の中でさえも、復讐と憎悪しか無かったって言うのなら…………、」
聞きたくない、とでも言うように後ろに少しずつ下がっていく黒い瑠璃奈の手を掴み、瑠璃奈は立ち上がる。
「あまりにも、救われないじゃない……………!」
「う…………あ…………。」
恨み事ばかりいう黒い瑠璃奈の本当の願いは、私自身が知っている。
当たり前だ。彼女は私自身なんだから。
「そうやって恨み言ばかり言って。そうやって露悪的な態度ばかり取っているのには、理由がある。それは冴詠によるものだけじゃない。」
確かに、冴詠による精神への揺さぶり、それが彼女が露悪的な態度を取っている理由でもあるだろう。
だが、それだけが理由ではない。
「貴女は、消えてしまいたい。殺されたいんでしょう?だから、私から否定の言葉が出ているのを待ってる。自分が間違ってて、消えるべきは自分だと思っているから。」
だから、瑠璃奈が、喋り始めた時の言葉が、「恨み言のひとつぐらい出てきたか?」だったのだ。
彼女は、復讐心を忘れられず、変われなかった彼女は、私に否定されて消えたかったのだ。
本来なら、存在しなかったはずの人格が、瑠璃奈の奥底にあった、もはや人格とも呼べないほどに消えかかっていたものが、冴詠によって呼び起こされたのが彼女だ。
冴詠が語りかけていたのは、彼女に対してだった。
彼女の本当の願いとは、復讐心と憎悪の固まりである己自身が消えること。
だけど、それじゃ、彼女は救われない。
「私は、あんたを否定しない。あんたが、あんたでも、あいつらと笑い合えるようになって欲しいから。」
「……………はっ、はは、なんだ、それ。都合のいい、綺麗事………ばっかり…………。」
「綺麗事でも!!それでも………私は…………!」
瑠璃奈が、黒い瑠璃奈に必死に話しかける。
彼女に、救われて欲しいから。変わって欲しいから。
自分が、変わりたいから。
黒い瑠璃奈は少し俯いて、何かを呟く。
「―――――――ありがと」
ボソボソと小声で伝えられた言葉は、残念ながら瑠璃奈の耳には届かない。
だけど、何を言ったかはだいたいわかった。
「…………え?今、なんて?」
「なんでもないっ!!いいからっ!協力してあげるっつってんの!!」
その言葉に、瑠璃奈はぱぁと笑顔になる。
「ほんとに!?」
「何度も言わせるなっ!………いいよ、力、貸してあげる。まぁ、その時は精神の表面には私が出ることになっちゃうだろうけど………。」
「全然いいよ!だって、あなたも私なんだから!!」
こうして改めてお互いと向き合えた2人の精神空間に、いつの間にかまう1人現れていることに、瑠璃奈は気づいた。
【ん、話しは上手く纏まったのかな?】
「あなたは…………!」
そこに居たのは、冴詠の意思体だった。
瑠璃奈の精神世界で見るのは、初めてである。
黒音が戦っている時は、よくこの姿が仮染めの肉体をもって現実世界に現れているのを見たことはあるが。
何をするつもりなのか、と黒い瑠璃奈と瑠璃奈の2人が警戒していると、冴詠は攻撃の意思はないとばかりに両手を上にあげてひらひらと動かす。
【あぁ、今更君に何かするつもりは無いよ。いいもの見せて貰ったしね。……それに、そこの黒いの。良かったじゃん。願い、叶って。】
「………別に。」
【今の私は……まぁ、残骸っていうか、抜け殻みたいなものでね。ほとんどそこの黒いのと融合しちゃったから。まぁ、所詮は欠片だし、仕方ないよね。】
【それよりも、君自身と融合しているとはいえ、よく私を制御してみせたね。そこの黒いのが君自身だからこそ和解はしやすかっただろうけど、でも君自身だからこそ黒い感情に呑まれ安くもあった。そのうえで、それと和解できたのは賞賛に値する。】
【私という存在はもうすぐ消えてしまう。でも、君達に惜しみなく力を貸すことは約束しよう。存分に、この力をふるうといい。………ここまでは枝音の思い通り、か。】
その最後の言葉だけ、音量がとても小さかったが、それでも何故か明瞭に聞こえた。
「…………え?ちょっとまって!今のはどういう………!?」
だが、瑠璃奈が詳しく問いただす前に、冴詠の精神体はサラサラと消えて言ってしまった。
はい、というわけでね。
どこ黒ですー。
2話ですー。
まぁ、なんか、今回のお話、こじつけ感っていうか、話のテンポが悪い気もするけど許してください(いつもの事か)
ここからは自分の話とかいろいろ、ちょっと長めですね。
この『黒白の心。』もテキトーになんかホワホワと想像してたのを、友達が執筆をしている、というのを聞いて、じゃあ自分もこのほわほわしてるものを物語として書いてみよう!って感じで始めました。
一昨年の秋頃ですかね。
で、まぁ、実際書いてみて、そのホワホワをストーリーとしてまとめるのに苦労するわけですよ。
話のテンポや様々な設定、キャラや伏線とかこれからどうして行こうか、とか。
なので、「あー、プロット構成をもっと綿密に練っておけば………」みたいなのは感じてますね。
こことかもっとテンポよく………とか、ここいらなかったんじゃ………とか、話の軸がブレすぎじゃない……?みたいなのが多々感じるわけですよ、書いててね。
とはいえ処女作であるこの作品、完結までの道のりはまだ遠いですがもやもやと見えてます。
なので、絶対に完結はしてみせます!えぇ。
なんなら、完結後のアフターストーリーをダラダラと書く毎日を送りたい…………!
最後に、全体的にみて至らなさは多いでしょうが、それでもこの作品とキャラ達を読者の皆様に楽しんで見て貰えると幸いかな、と思います。
これからも、『黒白の心。』をどうぞよろしくお願いします。
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