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黒白の心。  作者: どこかの黒猫
第5章 変わり果てた世界
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第16話 黒い雪。


「ネア…………!」


「……………っ!!」


目の前の女性が、ネアを憎々しげに睨み付ける。

5分ほど前、第7格納庫にて様々な物資を強奪していた時だった。

突如、天上をぶち破って彼女が現れた。

そして私は、彼女のことを少しだけだが知っている。


確か、天ノ刹での人工的な『黒薔薇』の生産、その実験場にて、彼女の姿を見たことがある。

名前は確か……コクネ。

とはいえ、見たことある程度の繋がりであり、関わりはほとんど無かった。

ここまで恨みをかう理由など、ないはずだが。


「ネア……キミさえいなければ!!」


「どうやら、私へのお客のようね。あなた達は先に行ってて……」


「そう行かないよ!ねぇ、そこの傷顔のお姉さん、私と遊ぼうよ!」


もう1人、小柄の女の子が瑠璃奈を指さして言う。

いつの間に現れたのか。ただの少女という訳では無いようだ。


「ちっ、私にもお客のようね。舞鬼、あんたに一時的に隊長代理を任命するわ。ある程度強奪は完了したし、先に脱出してて。」


「おーけ、了解した。」


「場所、移す?」


小さな少女はそう瑠璃奈に問いかけるが、それを無視して瑠璃奈は攻撃をしかける。

先手必勝だ。


「移してる暇があるならねっ!」


「あははっ!お姉さんったらごーいん!!」


少女は、瑠璃奈の剣を受け止めつつもそのまま後ろまで押し込まれる。

瑠璃奈はネアと距離を離すことが目的だったので、なるべくこのまま奥まで押し切りたい。

が、少女の雰囲気が変わる。


「ならここで使っちゃうよー!来たれ、私の国!!黄泉よ!!」


彼女の右目の白目が赤く染まり、瞳は金色へ。

周囲の空間が軋み、悲鳴をあげる。

黒い亀裂が入り、風景が書き換えられていく。


「私の名前はイザナミっていうの。よろしくね!!」


彼女、イザナミが自己紹介する。

そして、目の前には正しく黄泉の国、おぞましい亡霊たちと廃墟の光景が、目の前にあった。


――――――――――――


「キミさえいなければ………ボクは、ボクは…………!!」


「コクネ……。」


黒薔薇、黒音から何かしらの感情を受け取り、それが適合した者達を指す言葉。

普通の人間に付与してもいいが、成功する確率はかなり低い。

ほとんどが黒音の感情に飲み込まれて発狂、暴走してあらゆるものを破壊した挙句、肉体が崩壊して死に至る。


しかし、能力者に付与した場合、ある一定の成果が得られる。

それは、能力者が本来所持する能力を高めることが出来る、という事だ。


その人の本来の能力のあり方を歪め、使用者の心を呪詛で染めあげて能力を向上させる。

ネアのように、本来の能力とはかけ離れた形になってしまうこともあるが、それでも全ての黒薔薇の能力にはある共通点がある。


すなわち、元が黒音の能力であるということ。

だから、その人の力の一端を見ただけでも、能力の大まかなことはわかる。

複数の能力を持っている場合は別だが。


故に、コクネの能力は、おそらく。


「キミよりボクの方が強い!強いんだっ!!それを今、ここで証明する!!」


ビシ、ビシ、とコクネの足元を中心にして周囲が凍りつき始める。

いやわ凍っているのではなく、氷に置き換わっているのだ。

おそらく、コクネの能力はあらゆる物質を氷に変えるというもの。

だが、それだけでも無さそうだ。


「ネア、ここで死んでくれ!!」


「………っ!」


ビシ、とネアの周囲で音がした。

瞬間、氷の槍が周囲から殺到する。


その全てをかわし、時に影で砕きながらネアは避け続ける。

コクネが、掌をこちらに向ける。

すると、周囲に新しく氷が生み出されている。

空気中の水を集めて氷に変えたのか。


今度は氷の弾丸がネアに襲いかかる。


「ちまちまと鬱陶しいわね!!」


「死ね!死ね死ね死ね死んでくれ!!」


雪が、降り始めた。

黒い雪だ。とても、黒い。


「ぐっ……!?」


その雪が体に触れた途端、何かが抜き取られるのが感じられた。

身体がだるい、重い。

雪が、どこからか吹雪いてくる。


「いでよ、私の、氷の城………!!」


コクネの足元の、凍りついた地面がゆっくりと持ち上がっていく。

いや、そこだけではない。

コクネの周囲に、氷の塊が次々と姿を現し、ある形を象っていく。

それは、城だ。


巨大な、とても巨大な氷の城。


「ネア………キミは最高傑作だのと言われて調子に乗っているようだけど、ボクの方が強い。」


「………随分と、くだらない事を気にするのね。」


最高傑作?強い?そんなの、どうでもいい。

あんな狂った実験場で強くなったところで、何を得られるというのか。

それに、こんなもの、得たところでいい事なんて何も無い。

今だって、耳元で囁き続ける怨嗟の声が、とても煩くて仕方がない。


「うるさい、うるさいうるさいうるさい!!ボクはボクの存在価値を証明する!!そのために、キミを殺してボクが、僕こそが最高傑作であることを証明するんだ!!」


氷の城から、大量の氷でできた武器が出現する。

もはや城と言うよりは、要塞だ。


体はどんどんと動きが鈍くなっていく。

まずい、このままでは―――――。



『このままじゃ、勝てないよ?』


「―――――っ!!」


視界がブラックアウトし、気がつけば見たくもないのに何度も見た場所にいた。

おそらく、精神世界のような場所、周囲のあらゆるものが真っ黒で、血のようなとても赤い液体が色んなところから流れ出ている。

ここで、彼女の言葉にのってしまうと、地面が崩れて感情の海底まで落とされてしまう。


『勝てないよ。このままじゃ。君は死ぬ。』


「黙れ。」


『ねぇ、私を使ってよ。私に身も心も委ねて?』


「黙れ。」


『みんな、死んじゃうよ?キミだけじゃない。瑠璃奈も、舞鬼も、レイリも、リリィも、羅鳴も。みぃーんな。』


「………?」


ネアは、目の前の彼女の言葉に疑問を感じた。

枝音と、シオンの名前が、無い。


『ん?あー、あの子達は、また別物だからね………。たぶん、世界が消滅しても生き延びれるんじゃないかな?』


いかにもしまった。というような顔をしている。

この事は言うつもりなんか無かったのだろう。


だが、それにしても何故、彼らだけ………。


『強いからだよ。キミとは違って。』


「――――――――っ。」


『彼らは、キミなんかと違って強い。』


「そんなことは―――――」


わかっている。


シオンは、強い。枝音だってそうだ。

クロノスと戦った時に痛感したはずだ。

枝音は、シオンは、その知識と力で持ってクロノスに対抗していた。


だが、自分はどうだ?


所詮借り物の力、彼女に肉体を譲り、暴走しなければクロノスに手も足も出なかった。


『わかっているんでしょう?私を使えよ。ほら、』


足元の地面に亀裂が入っていく。

血のような赤い液体の流れる量が増えていく。

膝まで既にその液体で埋もれてしまっている。


『いつまでもそうやって、感情の海に沈んでいろよ。ネア。』


足元が崩れ、深い、深い海の底へと沈んでいくネアの姿を冷徹な瞳で見続けるのだった。


―――――――――――


「あぁぁぁぁぁあああ!!!」


「……………!暴走したのか。」


ネアの身体が黒い影に覆われていく。

氷の城を黒い影が侵食し始め、ボロボロと城壁が崩れ落ちていく。


全てを飲み干す黒き影、これがネアの能力。


黒い影が氷の城を飲み込んでいく。

地面が黒い影におおわれ、

だが、


「その飲み込む速度を遥かに上回る量で攻めてやる。」


氷の城にも引けを取らないほどの大質量の氷塊を、いくつも生成してネアに向けて放つ。

そして、それだけでは終わらない。


「見せて上げるよ。ボクの本気。」


瞬間、凄まじい冷気が周囲を襲う。

そして、目に見える範囲の全てが停止した。


時間氷結。

時の流れを、凍らせたのだ。


「空間氷結はまだ使えないか。でも、君を殺すには十分だ。」


動かないネアの両腕を氷で作った剣で切り落とす。

両足も切り落とそうとした所で、時が動き出した。


「時を凍らせられるのは4秒くらいが限界か。」


影を再生するまでの腕の代わりにし、ネアが攻撃を再開しようとする。


「だから、無駄だよ。」


氷の槍で串刺しにし、さらに内側からも氷で肉体を弾けさせ、破壊する。

そこまで肉体を破壊されてもなお、影で失った部分を補填してネアは動く。


「………ここまでしても死ねないなんて、むしろ哀れだね。」


黒薔薇の能力者が持つ能力は基本的にランダム、またはその人の本来の能力にある程度似たものだが、それ以外で必ずもつ能力がふたつある。


ひとつは、絶対防御能力。

黒音の完全防御障壁を展開する『夕焼けの空』や、夜姫奈の360度全方位に分解を纏った障壁を展開する『夕暮れの空』等だ。


もうひとつは、異様なまでの再生能力。


首を切り飛ばしても、心臓を破壊しても、なんなら身体の半分を消滅させても再生し、蘇る。

夜姫奈なんかは、自分の肉体を分子レベルまで分解しても肉体を再生出来る。

黒音に至っては、ただ一つの例外を除いて殺す方法が無い。


テロメアによる寿命なんてものはなく、この手の外道な実験によくある寿命が短くなるなんてことは無い。

むしろ、寿命という概念が無くなる。


自殺か、他殺………それもかなりの威力、高位の次元の攻撃でないと死ねない。


不老不死と呼んでも、過言ではない。


「でも、もう苦しまなくていい。」


コクネが、黒い、黒い氷の剣をその手に持ち、ろくに身体を動かせないネアの近くに歩み寄る。


【ねぇ、それでいいの?】


「―――――っ、今は黙っててくれ!!」


【ねぇ、こんな終わり方で、キミはいいの?】


「今いい所なんだ!黙ってくれ!!」


コクネが、アンプルを取り出して首筋に突き刺す。

中身の液体が体の中に流し込まれ、囁き声が小さくなっていく。

はずだった。


【薬なんか使って感情を制御して、私を扱えた気になってるの?調子に乗るなよ?】


「……………っ!」


【ねぇ、ねぇ、ねぇねぇねぇ!キミは本当にこれで、いいのかな?】


【終わっちゃうよ。終わっちゃうよ。】


【これで終わりだよ。彼女を殺して、最強になって、存在価値を証明して、あの子の死に報いる。これで、終わっちゃうよ?いいの??キミはこれで、いいの??こんなの、つまらないじゃない。】


「…………やめてくれ。」


【あぁ、じゃあこういうのはどうだろう?『………キミのせいだ。』】


「―――――――――っ!!!??」


目の前に、女の姿がうっすらと見える。

幻覚だ。本物の彼女じゃない。

そう分かっていても、目をそらせない。


【『自分の罪から目をそらすなよ、コクネ。君のせいだ。この女のせいじゃない。君のせいで、私は死んだんだ。君のせいで………!』】


「そ、んな………。ウソだ………ウソだ……!」


【『キミが、助けてくれるんだろう?キミが、強くなって、誰よりも強くなって、私を助けてくれるんだろう?あの実験場から、あの地獄から、ほら、早くしろよ。』】


「………あ、…………あぁ………そんな………」


【『…………出来ないんだ?そうだろうね。だって、彼女が君より強くなったから私が廃棄された訳じゃない。キミが、彼女より、弱かったから。キミが弱かったから私は死んだんだ!何もかも、お前のせいだ!!』】


「…………ウソだ、ウソだぁぁぁぁぁあああ!!!」




みんなのSAN値がゴリゴリ削られていく。

てか、黒音の能力持ってるやつ量産化されすぎなんだよなぁ〜。

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