第12話 逃走
「生きてるか?」
「…………なんとか。」
瓦礫の下に埋もれていた枝音をシオンが瓦礫を押し退けてなんとか引きずり出し、近くの物陰に隠れる。
「かなり吹き飛ばされたな。みんなとも………はぐれちまったか。」
パッと見、枝音以外のメンバーは見当たらなかった。
「通信機器は?」
「使えるやつが残ってると思うか?」
そう、今この場所において、まともに形を保っているのは枝音とシオンだけである。
周囲の建物や瓦礫は溶けた後に固まり、全く違う形のオブジェとなっている。
周囲の地面は焼けただれ、まだマグマのように溶けている箇所もある。
「目視で確認出来ねぇな………というか、安易に姿を見せない方がいいかもな。ツクモガミはまだ健在だし。」
「どうする?」
「とりあえず、ツクモガミから逃げ切ることが最優先だ。合流するにしても、準備を整えないとな。今の状態では何も出来ん。」
「アレ、サーモグラフィーとかで位置バレしたりしない?」
「こんだけ無茶苦茶になってたら熱学センサも効果ないだろ。というか、今必死で結界貼ってる。」
「なるほど……てか、私なら全員の位置の把握できるよ?」
「………は?マジ?それ早く言って欲しかったんだけど。」
「や、分かってるかなーって。」
そうやって、枝音はシオンが知らないことがあるなんて珍しい、とばかりに首を傾げる。
「なんでも知ってるわけじゃねぇよ。ちっとばかし長生きしてて、ちっとばかし世界に詳しいだけだからな。」
対して、シオンは呆れたように肩を竦めてみせる。
「あんたほど詳しいやつはそうそう居ないでしょうよ。」と枝音も肩を竦め返す。
「とりあえず、アイツらの位置を教えてくれ。俺の使い魔を送る。」
「OK」
枝音が左眼を応用して全員の位置を探る。
幸い、死人は居ないようだ。
負傷がどれほどのものかまでは知らないが。
シオンが狼やワタリガラスをその場所に向けてメッセンジャーとして放つ。
「ねぇ、アレは倒さなくていいの?」
「グングニルを使えば倒せなくはないが……ここで使って、変に消耗したくない。」
グングニルの威力は直撃すれば凄まじいものだが、安易に使えるほど燃費がいい訳では無い。
グングニルを投槍とした攻撃は一日に1回しか使えず、しかも使った後は体力のほぼ全てを持っていかれる。
文字通り、決め技なのだ。
ここで、という時以外は使えない。
「じゃあ、逃げる感じ?」
「そうなるな………北欧まではまだ遠いし、HFも無くなっちまったしな…………どうするか。」
その時、ツクモガミからボシュッ!という音ともに何かが発射された。
煙と炎の尾を引きながらこちらに向かってくるそれは……
「誘導ミサイル!?」
「位置がバレたのか!クソっ!!」
ルーン魔術で咄嗟に防御する……が、防御魔術が破られる。
咄嗟に枝音の腕を掴んで横に飛び退いて伏せると、先程までシオンがいた場所にミサイルが直撃し、爆発した。
「はぁ!?ルーン魔術がぶち抜かれた!?うっそだァ!」
「とにかく走るよ!あれにも射程距離とか一応あるだろうし………!!」
『ザ………ザザ………ようやく繋がった!!』
「………瑠璃奈!」
『あいつ、魔術キャンセラーと光学兵器拡散フィールドを貼ってる!しかも完成してるみたいで、やつの攻撃にも魔術キャンセラーが発動しているみたい!!』
「俺の防御魔術が抜かれたのもそれか!」
『通信妨害もされてて、この通信魔術も今すぐにでも消えてしまいそうな感じ。まさに最悪。』
「一応聞いておくが、実弾類は?効くのか?」
『空間断絶結界をはってるから無理!恐らく、ブランシュやノワールが使っていたものと同等の類だわ。』
「かー、攻防どちらにおいても優れてるってか!アレが制御出来たらなぁ………欲しかったなぁ………。」
シオンが本当に名残惜しそうに呟くが、あれを倒したところでなんの得にもならないし、その上制御できないシロモノなので、何かしようにもこちらが損するだけだ。
なので、諦めたようにため息を吐きながら瑠璃奈に伝えることだけ伝える。
「お前んとこにゃ一緒にネアがいたはずだな?そっちにはフギンを送ったから、それについてけば合流出来るはずだ。ほかの連中にも、出来たら伝えといてくれ。」
『OKわかったわ。』
それだけ伝えた後、通信を切る。
第2波がツクモガミから放たれ、シオン達に襲いかかる。
だけではなく、瑠璃奈などほかのメンバーの方にもいくつか向かっていくのが見えた。
魔術による防御はキャンセルされる、ならば。
「迎撃するしかねぇってかこんのやろ!」
「でも、どうやって照準をつけて………?」
「対能力者ミサイルだ。能力者の体が発する独特のエネルギーを感じ取って追尾してくるミサイル。」
「なんでもありじゃん。」
枝音はだんだんいちいち驚いているのが面倒くさくなってきたのか、もはや反応という反応はないに等しい。
というか、驚くって感情はあるのか。
と、そこでツクモガミが妙な動きをしはじめた。
特に先程までと変わりないように見えるのだが、姿勢を固定しているようにも見える。
そこで、シオンは気づいた。
「…………まて、砲身の冷却まで何分かかる?」
その事に気づいた時、ツクモガミの背中の陽電子砲が再度、動き始めた。
だが、砲身の冷却はまだ終わっていないはずだし、必要エネルギーの再充填にもまだまだ時間はかかるはずだ。
だから、撃てるようになるまではまだまだ時間がかかるはずだ。
そう思っていたのだが、現実は非情である。
ツクモガミの砲身が崩れ、周囲の何に使うのかまったく理解できなかったパーツが変形しはじめ、先程とは違った形の砲身のようなものを形成し始める。
そして、用済みとなったエネルギーが空っぽの霊花崩壊エンジンをパージし、新しい霊壊炉をサブアームで海中から取り出し、交換していく。
「ちょ、は!!???」
あまりにも規格外な状況に、さしものシオンでさえ驚きを禁じ得ない。
枝音に至っては、もはや驚きを通り越して無表情だ。
「まずい!第二射が来るぞ………!」
「発射まで、あとどんくらい?」
「わからん!!できる限り離れてから防御体勢をとる!」
エネルギーが急激に高まり、第2射が発射される。
先程とは違って、拡散ビーム砲だ。
威力や精度はさっきより低いが、より広範囲に攻撃出来る。
しかも威力に関しては多少落ちているとはいえここら一帯を更地にするには十分すぎる。
精度に関しても、ここまで威力が高いのなら多少外れていても余波でなんとかなるレベルだ。
「凄まじいなこりゃあ!ここら一帯、全部消し炭になるんじゃねぇか!?」
「笑ってる場合じゃないでしょ!あとどんくらい逃げればいいのよ!!」
「とりあえず、地下にもぐ……………っ!!」
前方にある入口から、地下通路に潜ってなんとかやり過ごそうとしていたシオンがある事に気づく。
先程までビームが直撃して溶解し、マグマのようになっていた地面に草の芽が生えている。
明らかに、おかしい。
前が、見づらくなってきた。
………霧だ。霧がで始めている。
「………まずい。」
「………………?どうしたの?」
明らかに焦り始めたシオンの様子に、枝音が怪訝に感じているその時、異変は起きた。
ポツポツと、緑色の点々が増えていく。
芽だ。植物の、芽。
それに加えて、霧が濃くなっていく。
もう、目の前でも真っ白なくらい濃く、深くなっていく。
そして植物の芽が、一斉にゾワッ!と成長し始める。
緑が地面を多い、木の葉が空を隠す程、木が育っていく。
森だ。森が、一瞬にして現れた。
既に真横の木はパッと見、30メートル近くまで育ちつつある。
明らかに、異常事態だ。
「シオン、何これ………?」
今の枝音に、不安や恐怖といった感情は無い。
ただ純粋な興味で、この異変の正体を聞く。
そして、シオンはすごく面倒くさそうな表情で、その質問にこう答えた。
「………level6 百鬼夜行、No.VI 霧ノ森だ。」
――――――災厄と言われるlevelVI百鬼夜行、そのひとつがさらに彼らの身に襲いかかる。




