第7話 天使狩りの心。
斬る。ただ斬る。斬って斬って斬って、走り続ける。
黒音は戦場のど真ん中にいた。
「閣下!増援を確認!人数は200!」
「閣下!天使は南東の方向に向かって進行中!予想よりも移動速度が早いです!」
増援?奴らは白華とやる気だったはずだ。
ここで戦力を消耗させたくはないはずだが、こちらに増援を出せるだけの余裕があるのだろうか。
あるいは、2000はいるだろう戦力のうち、100や200は失ってしまっても対した痛手ではないのかもしれない。
厄介な。と黒音は思う。
「押し返せ!天使を潰すことだけが最優先だ!!そのポイントなら近くにセシア中隊がいた筈だ!あいつらに足止めさせろ!」
小隊規模なんかで天使や天の刹の連中を相手に出来るわけがない。
いくら黒音という個がいくら強かろうと、群れが何百人と集まれば負ける。そう、何も殺し殺される事だけが勝ち負けではない。今回は、敵を多く殺すことよりも、あの天使を倒す事が勝利の鍵となる。
だから、中隊をいくつかのポイントに待機させ、小隊を目立たせて半分陽動目的にしていた。
「セシア中隊は後3分で天使と接触します!」
「よろしい!クラミア中隊と九尾中隊をセシア中隊の援護にまわせ!それ以外は全てこちらに戻せ!」
「後、九尾には15分経過しても私が到着しなければ、九尾化しても構わないと言っておけ!」
天使はまだ本格的に活動していないからあの遅さで移動しているだけだ。本格的に活動しはじめて、翼を使って飛ばれたらほとんどの人間が対処出来なくなる。
(もしもの時も考えて、ラストにでも手助けしてもらうか……?)
暇屈王ラスト、あらゆるものに限界を最大で5つ、設けることができる能力を持つ。恐らく奴の能力なら天使の移動速度にも限界を設けることが出来るはず。あるいは、天使の顕現可能時間にも限界を設けてくれるかもしれない。
だが、奴に手助けを求めるなど、よっぽどの事じゃなきゃやりたくはない。何を対価にされるか、わかったもんじゃない。
それに、今はあまり他の九心王に頼りすぎるといろいろ面倒だ。
「セシア中隊より伝達!甚大な被害を受けている模様!!」
「…………なんだと?」
セシア中隊が甚大な被害?馬鹿な、天使を足止めするだけだぞ?
「他の中隊はあと1分で戻って来ます!」
「よし、私は天使の所に直接向かう。指揮系統は灰空に任せる。連中の足止めをしておけ!」
背中から翼をだし、一気に駆け抜け、飛ぶ。一見、空を飛んでいるように見えるが、そこまで力を使っていないため、ジャンプしていると言った方が正しい。
天使の巨大な翼が近づいてくる。
4つある翼のうち、1つぐらい切り落としていくか。と思い、全力で刀を叩きつけるが、ガゴォンという音と衝撃波を撒き散らしながら、天使の巨体が傾いただけで終わる。
「なっ!?硬すぎんだろ!?」
黒音は驚愕に喘ぐ。だが、それも無理のないことだ。普通の天使ならば、黒音の持つ刀……冴詠にかなりの力を込めて叩き切れば普通に切れるはずだった。
明らかに異様な防御力を有していた。
(昔、四大天使の一つとやりやった時も、斬った部分が再生された事はあるが、ここまで力を込めて斬れなかった事は無かったはず……。)
あの頃よりかは幾分か力が落ちてしまっているとはいえ、それでも翼の一つぐらいはもぎとれるだろうと思っていた。
(冴詠で切れない……。このレベルの天使にあの攻撃を防げるだけのエネルギーなど……。)
天使の翼がグワッと思いきり振り下ろされる。
避けるのは容易いが、凄まじい衝撃波に煽られ、一瞬動きが止まる。
その一瞬の隙をついて、天使がかざした掌から出た光が、黒音を貫いた。
1本や2本程度なら、避けれた。だが、あたり1面の地面を覆うように光の雨が降り注ぐ。
「な、にッ!!!??」
動きも、力も、けして天使のそれでは無い。
見れば、セシア中隊は壊滅的な被害を受けていた。死者こそ居ないようだが、重傷者が多すぎる。足止めをする程度なら、天使相手にここまで、こいつらがやられるとは到底思えなかった。
無理やり顕現させられたからか、自我や知能が低くなっているため、そこまで複雑な攻撃を仕掛けてこないが、単純な力量なら天使の力をゆうに超えている。
これが複雑な攻撃を仕掛けてきていたら、神々とも互角にやれる程の力はあるかもしれない。
(神々と、互角のレベル………?)
ふと、思った。明らかにこいつは天使の力量ではない。なら、こいつは天使ではないと仮定する。では、こいつはなんだ?
(まさか……、こいつ……!!?)
少し確かめてやろうと、黒音が、今出せる全力を出す。左目の白目も赤く染まり、右目からは赤い涙が流れ落ちる。黒い翼が4本に増え、体中から漏れ出たエネルギーが黒い靄が瘴気のように漂う。
ドンッッツ!!!と一気にジャンプし、刀を翼に叩きつける。
天使の巨体がぐらつき、体制が若干崩れる。そして、1番エネルギーの層が薄くなっている肩口の関節部分を、思いっきり切り飛ばす。
なんとか天使の左腕を切断することに成功。した、はずだった。
切り口から、新たに腕が生えてくる。それは、先程の腕とは形状が全く違っている。
完全な本気では無いが、ほぼ全力の自分でも、敵の攻撃を避けるのが精一杯といった有様。
そして、切り口から生えてきた腕、アレだけが、桁違いな力を発揮している。その証拠に、黒音は左腕をもっていかれていた。
(あの腕……、やはり……!)
「総員、撤退だ!!今の我々では、こいつを狩ることはできん。いや、出来なくはないが……色々と都合が悪い。」
「はっ!?撤退ですか!?しかし、このままこいつを放置するわけには……!!」
「そんな事はわかっている。封印結界の釘を2本突き刺せ!もしもの時に持ってきていた筈だ!そうすれば後始末は天の刹の連中が勝手にやるだろ!」
正直、封印結界の釘は使いたくは無かった。あれは性質上、あちらの動きを封じれるとはいえ、こっちもあまり干渉できなくなる。それに、あの釘は大量生産出来ておらず、数が希少だ。
上空から物凄い速度で、巨大な槍のようなものが2本、天使に向かって落ちていく。天使は翼でそれを防御しようとするが、翼を貫通して、天使の頭部と胸部に突き刺さる。天使の動きが、止まる。
それを見て、黒音はさらに続ける。
「もう1度言う!総員撤退だ!!確か神喰は今、日本に居たはずだな?日本支部に連絡をとれ!」
こちらの撤退の意思を感じたのか、天の刹の兵士達も後退していく。この分なら、数十分もかからずに楽に引き返せるだろう。
「クソ……ヤツら、何を考えてやがる……?」
黒音は、動きを止めた天使を睨みつけながら、吐き捨てるように言う。が、何かを思いついたのか、すぐさま笑みを浮かべる。
「逆に利用させてもらうか。計画に修正だな。」
―――――――――――――――――――
腕を修復し終わり、枝音の治療をしている瑠璃奈は、困惑していた。
明らかに、今の戦いは夜花の方が若干有勢だったはずだ。
なのに、突然引いていく。
いったい、何がしたかったのか全くわからない。
なぜ、突然現れたのか。
なぜ、私達は殺されなかったのか。
なぜ、天使と戦い始めたのか。
なぜ、突然撤退したのか。
全くわからない。
天の刹や、あの天使のことだってそうだ。
「そうか……。私も、本当の戦闘というものを知らなかったのね……。」
強さも、知恵も、知識も、何もかもが自分には足りない事が自覚させられる。力量も、すぐに枝音に追い越されてしまうかもしれない。
「戻ったら、特訓しよ……。」
そう、あらためて決意する瑠璃奈であった。
―――――――――――――――――
――――――日本 白華総司令部にて。
「先ほど、夜花と天の刹の戦闘が終了した、という報告が入りました。」
「天使は封印結界の釘を打ち込まれ、活動を停止。現在、天の刹によって回収されている所です。」
「このタイミンクでの夜花からの介入……。どうみます?」
「問題ない。予定通り、事は進める。」
天の刹との戦争。勝利条件は、天使の殲滅。それに変わりは無いが、夜花からまたもや横槍が入る可能性はある。
「それにしても、総司令の予想通りでしたね。これだけの戦力……。それに天使の出現位置から考えて、巨大な地下空間があるのは間違い無いでしょう。」
「しかし、内部構造を把握している暇はありません。おそらく、奴らは天使の封印を解き次第、仕掛けてくるでしょう。」
「一点突破しか無いか……。白咲中尉の容態は?」
「安定しています。それどころか、体内のエネルギー反応は以前より増しています。」
「ふむ。なら、作戦には彼女も使えるな。あと、私も行こう。夜花がまたちょっかいをかけにきたら、それの相手は私がやる。」
ザワザワと、動揺が広がる。総司令自らが最前線に出ると言ったのだ。
「307特殊部隊の中から24ほど選抜して本部の護衛に当たれ。他は全て作戦に参加させる。」
「なっ!?本部の護衛が手薄すぎます!作戦行動中に他の奴らに本部を狙われでもしたら……!」
「それに、夜花が急に撤退した理由もわかってはいません。もし、奴らでも撤退するしか無いほどの戦力を奴らが抱えているとしたらどうするおつもりです!?」
正気を疑うかのような顔で聞いてくる。
彼らは自分の部下達を過小評価しすぎているようだ。本部の護衛に24人もいらないだろうし、作戦行動に307の人間を48人も使うというのに。
「だから、24人、残すと言ったろう?あちらに回している戦力の半分もこちらに戻していい。それで本部の護衛は充分だろう。307部隊が48人と私がいるのだ。敵に夜花が撤退するだけの何かがあったとしても、勝算はある。」
総司令と307特殊部隊、そして現地に既にいる戦力3600のうち、1800人、合計1849人がこの作戦の戦力である。
対する天の刹は、夜花との戦闘時に580は確認されているが、現在の推測では3000はいるという話だ。そして奴らには最大の兵器たる天使がいる。
そこに、さらに他の組織も横槍を入れてくるかもしれないという状況。だが、天使の討伐だけを目標とするならば、勝算はある。
「そもそも、一つの基地と天使を潰すのに307から中隊規模の人員を割くという事自体が前代未聞だ。この時点で充分に戦力過剰だと思うのだがね?」
諦めたように、部下の一人がため息をこぼしながら、言う。
「……わかりました。やりましょう。」
覚悟を決めたように、部下達は一斉に頷く。
それをみて、夢羽は笑いながら言う。
「あまり緊張しなくてもいいさ。これはハンティングだ。単純に、天使という名の憐れな兎を、追いつめて狩ってやろうじゃあないか。」
そう言葉を発しながら、夢羽は含みのある笑みを浮かべる。
俺は書き終わらねぇからよ……!
お前らが読み続ける限り、その先に俺はいるぞ!
だからよ…。読み飽きるんじゃねぇぞ……!!
どうも、どこ黒です。
最近、この小説が読者にとって面白いのかどうかが気になる今日この頃です。
何かアドバイスあったら言ってください。
後、伏線なども結構バラまいたつもりなので、よかったら探してみてください。
ちなみに、遺物を使用してる部隊の人間は、12人が小隊、36で中隊、72で大隊といった形になっております。
なので、遺物を使っている部隊は実際の人数よりかなり、少ないです。
後、世間一般は奈落や、遺物というものがあることは知っていますが、遺物をめぐって様々な組織が戦闘を起こしている事は知らないです。
国同士が争ってる事は、一般人でも知ってる人や聞いたことがある人はいます。あまり多くはないですけど。
それと、遺物の存在の詳細もあまり知りません。
科学技術を促進する便利なものが発掘された程度の認識です。
ですが、情報規制などを組織の人達は気にしていないので、バンバンいろんな所で戦ってます。それに対して、各国政府は頭を痛めています。ご苦労さまですね。
では、また今度。
今日はスーパーブルーブラッドムーンとか言う月が見れるらしいので、楽しみです。