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黒白の心。  作者: どこかの黒猫
第5章 変わり果てた世界
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1話 兎狩り


『司令部よりコード096へ。これより任務終了まで無線は封鎖する。』


「コード096より司令部へ。了解した。予定通り、作戦を開始する。」


被検体コード096、個体名ネア。所属組織は『天ノ刹』。

かつて世界三大組織のひとつに数えられ、『夜花』と呼ばれていた組織の総帥、この世で最強にして最凶と呼ばれた男を模倣する為に実験にて生み出された存在。

その男の名は天織黒音、またの名を天織 雅音、あるいはミル。


世界を管理、支配する九人の王の1人、序列2位の椅子に座るもの、終焉を司る王。

彼の細胞と、かつての戦い、崩壊戦線にて砕け散った『冴詠』の欠片を使って生み出されたのが彼女、被験体コード096だ。


そんな彼女が与えられた任務は『黒兎の討伐』


現在、世界各国………の残骸と、あらゆる組織を脅かしている存在だ。

兎の形をしたHFMを駆り、あらゆる組織の基地や部隊を壊滅させていく存在。


その脅威は何処かの組織に属している者ならば知らないものはいないとされる程に有名だ。


旧ロシアの黒兎。

この名を知らずにロシアに行って、こいつに出逢えば間違いなく生きて帰ってはこれまい。

それほどまでに危険なのだ。


「隊長機から各機へ。今までのデータから対象の次の予測出現位置まで後15000メートル。各自、不慮の事態にも対応できるよう備えよ。」


『『『了解。』』』


ネアを隊長機とし、ネアを含めて6機だけの部隊構成。

『黒兎』が出現するのは基本的に旧物資搬入ルートの地下通路だ。

その入り組んだ地形は索敵を曖昧にし、さらに決して広くはないその通路は味方同士の連携を取りづらくさせる。


故に、6機だけという少人数のチーム構成なのだ。


(さて、と。今回の敵には期待出来そうだけど、如何程のものか………。)


ネアはずっと気を伺っていた。

それは、任務中に死んだフリをして『天ノ刹』から逃れる機会だ。

ネアは別に好き好んで『天ノ刹』に属している訳では無い。

被検体コード096という名前から明らかだが、彼女はただの実験動物。モルモットだ。

『天ノ刹』では実験体はそれはもう奴隷同然の扱いで、いくら黒音のコピー達の中で最高傑作と言ってもそれは同じだ。

失敗作のようにならなかっただけマシではあるし、成功作と言えども最高傑作の自分とはやはり扱いに差が出る。

だから、自分の待遇はまだマシな方だったのだろうが、それでもあんな場所にいるのは嫌だ。


故に、死んだフリ作戦。

だが、それは今まで成功することは無かった……いや、正確に言うならば作戦を実行できなかった。


何故ならば、ネアが負けるかもしれない、と思えるほどの強敵がいなかったからだ。

ネアが任務として倒せと言われる敵は、基本的にネア以下か、ネアとより少し強いくらいの存在しかいない。

あくまで実験動物とはいえ、最高傑作なのだから簡単に壊すような真似をするほど、組織も馬鹿ではない。


それに、『天ノ刹』は強さこそが正義、強さを証明する為ならばどのような手段に訴えても構わないと考えるような連中の集まりだ。

故に、余程の強敵は上の連中が直々に片付けてしまうのだ。


しかし、これは今までではありえない事だった。

なぜならば、『天ノ刹』とはその組織構成か全くもって謎であり、組織のリーダーどころか、幹部ですら詳細が不明だったのだ。


なぜ、そのあり方が変わったのかと言うと、世界崩壊戦線時にて黒音が『天ノ刹』の創始者である『虚無』を表舞台に引きずり出した為に、もはや謎ではなくなってしまったためであったが、残念ながらこれをネアが知る由もない。


ともかく、今回の敵、『黒兎』には期待が出来た。

ネアの手に負えるかどうか分からない強敵でありながらも、お偉方は手を出せない。


何故ならば、『天ノ刹』の上の連中には異能力者しかおらず、そして、ほとんどの能力者はHFに乗れないからだ。

いや、乗れないのではなく、乗る必要がないのだ。

機械を使って敵を倒すより、自分の能力で倒せばいいだけ話だからだ。

故に、半径300メートル以内のあらゆる異能を全てキャンセルするという黒兎の機体性能によってお偉方は黒兎に手が出せない。


しかし、ネアは違う。数少ないHFにも乗りつつ、能力も使える人間だ。

その理由としては、ネアが黒音のコピーを目的として作られたからだ。

界崩壊戦線時に黒音がHFに乗り、驚くべき操縦技術で戦闘を行った記録がある。

当然、『もう1人の黒音』をコンセプトとして作られたネアは、HFの操縦技術を徹底的に叩き込まれている。


(上手くすれば、今日逃げれる………!)




『コード0106より隊長機へ。前方キョリ4000の位置にHFと思われるエネルギー反応を確認しました。』


4000?随分と近い。

まだ予測出現位置までは8000以上あるのだが………。

だが、こんな所に突然現れるHFなんて、『黒兎』以外いないに決まっている。


「隊長機より各機へ。戦闘態勢へ移行。充分警戒しつつ事にあたれ…………っ!?」


何かが、前方で動いた。四足歩行の巨大な黒い影。

間違いない、『黒兎』だ。

だけど、早すぎる。

この数秒で、4000もの距離を移動してきたと……?

いや、まさか、恐らく。


「隊長機から各機へ!レーダーは撹乱されている!!高額センサだけを頼りに………っ!」


横合いを何かが、通り過ぎた。

直後に味方機が爆発。

隊長機である自分に機械音で味方機の損害が報告される。


『コード112 LOST』


薄暗い通路を炎の明かりが照らす。

そこに居たのは、その特徴的な耳を味方機に突き刺す四足歩行の黒いHFの姿。


「アレが、黒兎…………!」


ライフルの照準を敵に合わせ、発射(トリガ)

だが、相手の『耳』のバリアに全て弾かれる。

―――――弾切れ。弾倉を交換しようとした瞬間、兎と言うには長すぎる尻尾の先端が、こちらを向き、光を放つ。


咄嗟に身を屈めて避けるものの放たれたビームは後ろにいた味方機に直撃、爆発する。

直後に鳴り響く報告音。


『コード074 LOST』


もう2機もやられたのか、早すぎる。

これはまずいかも知らない。

死んだフリをどうこう以前の問題として、本当に死ぬかもしれない。


左手に近接武器を展開、俗に言う高周波ブレードの剣で黒兎に切りかかる。

が、ワイヤーアンカーで弾かれて軌道を逸らされ、さらには耳で攻撃してくる。


(機体性能だけじゃない!パイロットも相当の………!)


『黒兎』の耳が左上腕部に突き刺さる。

『黒兎』の耳は機体に突き刺さればそれがどの部位であろうと確実に動力路を停止させてくる。

現に、モニターに表示されているエネルギー供給ルートが左腕から侵食されるように異常を示している。

咄嗟に、ネアは左腕をパージした。

すると、途端に侵食は無くなり、全てのエネルギー供給ルートが正常に戻る。


「お返しだっ!!」


何も持ってない右腕で敵の突き出された『耳』を掴み取る。

だが、何も持っていないからと言って、攻撃手段がないと思うのは早計だ。


ネアの機体にはある兵装が組み込まれている。

まだ試験運用しかされていない実験兵装『超振動マニュピレータ』。

それが黒兎の耳を粉々に粉砕し、さらにはその破壊を機体の胴体にまで及ばそうとするが、直前に『黒兎』が自身の片耳をパージする。

好機と見たのか、味方機が2機、背後から同時に襲いかかる。


「なっ!よせっ!!!」


ネアが静止の声をかけるが既に間に合う訳もなく。

最後にその2人は何を思ったのだろうか?

勝った、とでも思ったのだろうか?


ブレードの役目もある長い尻尾が味方機のコクピットを刺し貫き、もう一機は破壊されていない方の耳で刺し貫かれる。


『コード084、コード0112、LOST』


「………クソっ!」


残った最後の味方機に合図をし、同時に襲いかかる。

尻尾のブレードと耳はまだ突き刺されたままで、次の動作に遅れがでる。

そう思って仕掛けるなら今しかないと踏んだのだが、その想定は甘かったと言わざるを得ない。


なぜなら、コクピットを今なお刺し貫かれたままの機体が、突然動いて味方機に攻撃したからだ。


『コード0121 LOST』


「そんなっ!?」


馬鹿な話があるか、と思いながらも実際動いているのだ。

爆発四散する味方機の手から落ちてきたライフルを掴み取り、こちらに襲いかかろうとしてくる元味方機に撃ちまくる。


爆発する元味方機の煙幕の隙間から、黒兎の尻尾の先端が銃口を覗かせる。

チカッ!と光や否や、高出力のビームが放たれる。

だが、それが撃たれることは事前に予測できていたので、普通に姿勢を低くして回避。

敵に向かって牽制としての蹴りを放とうとするが、尻尾のブレードで切り飛ばされる。


体勢が崩れ、尻もちをつく形になったネアの機体に尻尾のブレードが襲いかかる。

それを超振動デバイスを作動させた右手で掴み取り、破壊しようとするが、なかなか壊れない。


「まさか、高周波ブレードの振動と、超振動マニュピレータの振動が互いの威力を相殺してるの………?」


有り得るのか?と思ってしまうが、実際のところ確認のしようがない。それに、開発途中とはいえ威力は超振動マニュピレータの方が上なのだ。このまま押し切る。


しばらく拮抗していたが、相手の尻尾ブレードの方が先に限界が来たようで、バキィインッ!と甲高い音を立てて砕け散る。


そして、砕けた瞬間に黒兎の『耳』が襲いくる。


頭部ユニットを粉砕され、モニターが暗転、コクピット内にエマージェンシーコールやエラー報告音が鳴り響く。

システムをメインからサブに切り替えて再起動、サブカメラに切り替えてモニターに表示する。


そして、がら空きの懐に超振動マニュピレータで攻撃しようとするが、エラーメッセージが右腕部に表示される。


『-ERROR- Vibro-Manipulator Doesn't Wark』


「なっ!?ふざけんなっ!!」


やはりさっきの高周波ブレードを掴んだのがダメだったのか。

だが、あれくらいの無茶で動作エラーが起こるとは、所詮はただの試作品か。

仕方ないので、近くに突き刺さっていた味方機の近接武器を掴み取る。

きちんと腕が動作して武器を掴めた事に安堵しつつ、敵に切りつける。が、当然のように避けられる。

右脚の大腿部分から先が無いのだ、当たり前だろう。

むしろ、右足が無いに等しいのにそれでもなおアクロバティックな動きを見せるネアの操縦技術がおかしいと言える。


右足破損、頭部破損、左腕損失、右腕動作エラー……もはや勝率なんて無いに等しいレベルだ。

が、切り札はある。

その為にも、残っているもう片方の耳を破壊しなくては。


再度、繰り出される黒兎の耳。

そして、それに対してネアはわざと右腕を貫かせる。


「喰らえやクソッタレ!」


右腕を自壊させて爆破、それに巻き込まれた黒兎の耳が破損していく。

完全に破壊されてはいないものの、あのボロボロの状態ではきちんと動作できていないだろう。

その証拠に、異能を封じ込める結界のような力場がだんだんと弱まっていっている。

この程度なら、ゴリ押しで能力を発動できる。


「食らえ食らえ食らえ……全てを貪り万物を飲み込め、忌まわしき醜悪なる影よ………ゆめ忘れるな、この憎悪を。」


自身の憎悪を、怒りを、悲しみを、憂鬱を、猜疑を呼び起こす。

己の負の感情、それをキーとしてネアの能力が発動する。

右目の白目は赤く染まり、その瞳は金色へ。


『憎悪の影』


黒音が使っていた、影で様々なものを侵食して自身の肉体のように扱ったり、あるいは攻撃の手段としても用いていた能力である。

ちなみに、黒音はその影を使って巨大な獲物を捕食していた。


人の身ではたしてこれほどの憎悪を抱けるのか、という程の殺気を身にまとい、溢れ出る影がネアの機体を侵食していく。


黒兎は異能をキャンセルするという機能がある為に、討伐が困難だった。ならば、その機能が破壊された今、能力による攻撃で破壊するのは簡単だ。

特に、ネア程の強力な能力ならば。


黒兎が前足に近接武器を展開、ネアを仕留めるべく襲いかかる。

あちらから向かってくるのなら好都合だ。

わざと機体の胴体に敵の近接武器を食い込ませる。


敵がネアの意図に気づき、距離を取ろうとするががっしりと影で掴んで離さない。



―――――――自爆


凄まじい爆風に煽られて黒兎の動きが硬直する。


そして、爆煙と爆炎の中からネアが黒い影を纏わせながら飛び出てくる。


「―――――――勝った。」


黒い影が剣の形をとり、黒兎を切り裂く。

動力路の周囲を破壊され、黒兎の動きが停止する。

それと同時に、コクピットに剣を突き立てて破壊。

返り血がネアに飛び、頬に血が滴る。



なんとか、勝てた。


勝利の喜び、なんてものは無い。


ただ、生き延びることが出来た、という実感はある。


黒兎残骸を見つめ、しかしどこか違和感を感じる。


しばらくして、違和感に気づく。


ネアの左胸に、黄金の槍が突き刺さっていた。



「……………は?」



なんだ?これは??

何が起きた??

痛い……………痛い?

そんな馬鹿な、なんで傷が再生しない?


「ゴフッ!!がッ、ガァアッ?!!」


バッシャァアと口から血反吐を撒き散らし、崩れるように地面に倒れる。


死ぬのか?こんな所で?

そんな、やっと、自由に、なれる、と―――――


誰だ?


誰かが、私を見下ろしている。


一体誰が――――――――――


―――――――――――




「………へぇ、これで死なないのか。興味がわいた。俺の目的の為にも使えそうだな。」




「…………ちっ、クロノスが来るな……。ここら周囲は奴の下敷きになる。さっさとトンズラするか……。」



「……おっと、こいつを忘れてく所だった。せいぜい利用されてくれよ?」




どーもー、どこ黒ですー。


ひと月ぶりですかね?

あんまり久しぶりすぎるのてま、文章に違和感がないか怖すぎて投稿したくない………(白目)


とりあえず、5章から滅亡後の世界です。

前話から3年後、世界が変質し、果たして世界はどうなったのか………。






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