17話 救出
「敵戦艦、来ます!」
まあ、敵の戦艦を鹵獲したのだから、当然奪い返しに来るだろう。
ならず者の集まりみたいなものだから、この船の扱いもよく分かるまい。
ここは古木森に任せることにする。
「古木森!ここは任せたよ。」
「え、ちょ、夜姫奈達は?」
「ん、枝音ちゃんの救出!」
と、その言葉が意外だったのか、古木森は首をかしげる。
「あれ?そこまでするほど彼女に接点あったっけ?」
「んー、無いけど。でもこの現象の核になってるのって明らか彼女でしょ?」
「しかも、あっちには9心王が3人もいるんだよ?9心王3体の討伐なんて不可能に近いし、枝音の救出の方が現実的。」
最初に出会った時は枝音は黒音達と一緒にいたので、敵だと認識していたが、色々調べた結果、ただ捕まっていただけで所属は違うという事がわかっていた。
まぁ、白華と夜花は裏で関与していたのだが、枝音がそれに加担していたという情報は無かったので、信用してもいいとは思っている。
味方は多い方がいい。
特に、私達は人数がすくない。
1つの組織とやり合うなんて不可能だ。
ここで枝音という、1連の騒動の中心となっている彼女と接点を作っておくのは、悪いことじゃない。
「まぁ、そうだけどさ………。」
「んじゃ、いってきまーす。あ、ノワールは沈めといてね!」
「また、そんな無茶な……。」
古木森が、夜姫奈の言葉に困ったように頭をかく。
実際、ノワールとブランシュは性能で言えば若干ノワールの方が有利、しかも敵の数も練度も圧倒的に向こうの方が高い。
沈めるのは、無茶と言えるが……
「無茶じゃないよ、きっとできる。信じてる。」
「こっちは必ず成功するから、そっちも必ず成功させてね!」
ティアと夜姫奈の2人からの言葉に、古木森は照れくさそうに笑う。
あいつらとも腐れ縁だが、夜姫奈にこんな無茶ぶりを要求されたのは久しぶり………いや、ここまでの無茶は初めてかもしれない。
しかも、信じてるなどと言われてしまった。
だから、ここで応えないような奴は男ではない。
(妹みたいなやつだと思って見てたけど、成長してたんだな……。)
兄のように夜姫奈を見守り続けていたが、夜姫奈ももうこんなに大人だ。
ならばここは兄らしく、意地を見せねばなるまい。
「総員、戦闘配置。目標、敵戦艦、ノワール!ヤンチャな妹からのお願いだ………沈めるぞ!!」
「「「応ッ!!」」」
――――――――――
黒音はブランシュから出撃してきた敵の姿を見て、その正体が夜姫奈とティアだと気づく。
続いて、ラストや夢羽達も気づいたようだ。
「天井女の連中か!」
「ラスト!自体の娘は自分でなんとかしろ!俺は黒いのをなんとかする!」
夢羽とラストが前に躍り出て、ティアと夜姫奈の前に立ち塞がる。
「移動速度、切断威力、再生速度を低下、これがお前の限界だ!」
ティアの能力はこの前の戦闘で把握済だ。
ティアは、その移動速度と切断威力を活かした接近戦を得意としている。
構っている暇はないので、先手を討たせてもらう。
「私の能力は、それだけじゃない!」
「なっ!?」
ティアの左手からでて白い鎖が、ラストの腕を雁字搦めに縛り付ける。
ラストは『怠惰の魔眼』でその力を奪おうとするが、何故か奪えない。
(ちっ、これは俺の魔眼よりも高位の能力なのか………?)
限界を定める力でなんとか出来ないだろうか、と考えていると、夜姫奈がいつの間にか接近してきていた。
「分解するッ!!!」
「………っ!?移動速度加速!!」
鎖で縛られていても指はなんとか動かせる。
だからラストは、加速の懐中時計で移動速度を大幅にアップさせてなんとか分解の稲妻から逃れる。
「テメェの相手は俺だ!拒絶する!」
「分解ッ!!」
周囲の様々な物を分解し、光をねじ曲げる。夜姫奈の周囲が暗く包まれ、姿が見えなくなる。
そして、一瞬困惑した隙に夢羽の前に閃光手榴弾を投げつける。
だが、そう何度も同じ手を食らう夢羽では無い。
今回は冷静に、即座に閃光手榴弾を拒絶、光を発する前に消し飛ばすが、それは次への攻撃への致命的な隙となる。
夢羽の周囲の光をねじ曲げ、一瞬だけ姿を見えなくする。
「なっ、しまっ!?」
「黒音えぇえええ!!」
「させないっ!!」
夢羽の脇を掻い潜って、そのまま黒音の所まで行こうとするが、マユが立ちはだかる。
「罪よ!罰よ!その悪しき魂に呪いあれ!」
マユの攻撃は音か霧を媒介として発動する。
口が動いた瞬間に音を介して発動するタイプの方だと瞬時に判断した夜姫奈は、音波を分解して聞こえなくする。
もし、ハズレの方で霧のタイプだとしても、霧を吸い込む前に霧そのものを分解すればいいだけの話だ。
「ラァァァアッ!!」
「………くっ!?」
夜姫奈の猛攻を前に、反撃する暇もなくマユが追い込まれていく。
そして、擬似・空間転移魔術を使用することによって移動速度限界という枷を乗り越えたティアが戦闘に復帰する。
切断威力は失われているままのようだが、あの鎖を見た後では攻撃手段は他にもあると見た方がいい。
一見すれば夜姫奈達の方が優勢に見えるが、依然として状況は芳しくない。
このまま時間を稼がれては、枝音を救出する前に世界が滅ぶ。
まぁ、もうほとんど滅んでいるようなものなのだが。
すると、夜姫奈達が攻めあぐねている中、突如、見知らぬ男が現れた。
「惑え。」
「……………っ!!??」
わからない。
捉えられない。
突如、ここではないどこかの光景が辺り一面に広がる。
明らかに目の前の光景は偽物だ。幻影だ。
だが、そう頭で分かっている事を除けばアレは明らかに本物だ。
故に、理解できない。
そして、唐突に幻術が、消えた。
「何が………?」
起きたのか。周囲を見渡すと、いつの間にか男はいなくなっていた。
否、男だけでなく、マユやラストといった敵もいなくなっている。
どういう状況なのか分からないが、何もせずに佇んでいる訳にも行かない。
とりあえずは、枝音の救出が最優先だ。
護衛はどこかに消えてしまっていて、防御は既にがら空き。
このチャンスを逃さない手はない。
――――――――――――――――
「く、ろ…………?」
「ミアの1部を取り戻したか。ふむ、ここは枝音だけの意識空間か。」
「なぁ、枝音。お前は、覚えているか?」
「あの頃は、おそらく楽しかったんだろう………。あんな滅亡を目の前にした世界でもな。」
「………おかしいんだよ。世界に、俺みたいなのがいるのは。」
「終わりなんて物が、当たり前のように組み込まれているこの世界は、おかしいんだ。」
「………なぁ、枝音。思い出せないんだ。何が、かは分からない。だけど、何かが思い出せない。……お前は、覚えているか?」
「泣かないで、くろ。だから、――――――――――――。」
――――――――――――
「枝音ちゃん!枝音ちゃんっ!!」
誰かの呼び声で意識がはっきりとしてくる。
そうだ、自分は、黒音に負けて………
「ここは……、っつ……。」
少し頭がクラクラとするが、身体に問題は無さそうだ。
見れば、いつぞやの女の子が私を介抱してくれているみたいだ。
確か、名前は夜姫奈………だったか。
あの時は、場の流れで敵対することになってしまっていただけだが、こちらの事情をあちらが知るはずもない。
ゆえに、私を助ける理由なんて無いはずなのだが……。
「あなた、なんで………?」
「説明はあと!とりあえず、一旦引くよ!!」
「クソ、やってくれたな夜姫奈………!」
ウロボロスは今エネルギーの制御装置の役割を与えているので、動かすことは出来ない。
やはり、エネルギーの制御は自分でやって、ウロボロスは護衛に回した方が良かったか……?
だが、この莫大なエネルギーを己だけで制御仕切るなど、どんな負荷がかかるか予想できない。
まぁ、予定分の書き換えはある程度終わっていたので、ここで枝音を奪われてもあまり問題はないのだが………。
だからといって、ただで帰らせる義理はない。
やられた分の礼は、返させてもらう。
夜姫奈が先手必勝とばかりに、雷のエネルギーを3箇所に集めて、分解能力もそれに最大で付与し、放つ。
「砂塵と化せ!」
「天よ輝け、澄み渡りし蒼空に。月よ灯せ、星流れし夜空を。展開、『大空』。」
瞬間、枝音の『朝焼けの空』と黒音の『夕焼けの空』のふたつを合わせた、巨大な盾のような形の障壁が2枚展開される。
そして、その盾は己の主に絶対に傷1つつけさせない。
夜姫奈の最大火力を簡単にしのぎ切ってみせた黒音は、自身の攻撃を無傷で凌がれたことに呆然となっている夜姫奈にむけ、白い刀と黒い刀を構えて能力行使のための言葉を紡ぐ。
「……白よ、黒よ、光よ、影よ。世界は2つに分かたれた。『偽・世界を彩りし白黒』」
世界の全てを白と黒に塗りつぶす、モノクロの光が襲いかかる。それは、何もかもを消滅させる究極の光。
夜姫奈はそれに対して、自らが持つ中で最も強固な守りを展開する。
「展開、『夕暮れの空』!!」
だが、枝音の時と同じく、夜姫奈の全方位バリアもヒビ割れ、バラバラと砕け散っていく。
一撃耐え切っただけマシだろう。
もし、あの光に晒されている途中で砕けていたら、自分は存在さえ残らなかっただろうという事を本能で悟り、夜姫奈は戦慄を覚える。
「うそ、一撃で………!?」
夜姫奈は、驚愕に喘がざるをえなかった。
今まで一撃では破られた事が無かった障壁が、簡単に砕け散った。
それは、驚いても仕方の無い事かもしれないが、だが、戦場では致命的な隙となる。
その隙をついて、黒音は夜姫奈を攻撃しようとするが……
「ぐぁ、が、ごはっ。ハッ、ハッ………。」
黒音が、口から明らかに普通ではない量の血を吐き出し、肩で荒く息をする。
腕や体の所々が、何も攻撃を受けていないのに突如切り裂かれたように弾け、血を流す。
枝音と夜姫奈は突然のことにあっけに取られてあて、しばらく動けなかったが、直ぐに撤退の姿勢にもどる。
「なんだが分からないけど、今のうちに……!」
が、黒音がそう易々と逃がす訳もなく、傷ついた体を動かして追撃にうつる。
「逃がすわけが無いだろうがッ!!」
右手で血の流れる口元を抑えながらも、左手から鎖を取り出し、枝音に巻つけようとする。
と、その時、聞き覚えのない男の声が割って入った。
「惑え。」
瞬間、灰空のものより強力なのではと思えるほどに強大な幻術が展開される。
そして、黒音がその幻術を打ち破った時には、夜姫奈達はどこにもいなかった。
黒音は、その幻術を展開した男を見て、舌打ちする。
「………京都の連中か。この件には、介入しない約束のはずだ。それを違えると言うのならば、貴様ら一族を根絶やしにしてやってもいいんだぞ?」
「それが出来るのか、などと言う事は聞きません。貴方になら、それは可能でしょう。ですが、我々も一枚岩では無いということをお忘れないように。」
その言い回しに、黒音が怪訝な表情をする。
ここで奴らを逃がすことの何処に、京都にとってのメリットがあるのか。
「約束は違えませんよ。貴方の計画の邪魔をするつもりはありません。ですが、貴方の私事の邪魔をするなとは言われていません。彼女達を自由の身にし、手遅れとはいえリベンジできる状況を作ること。それによって京都に名を連ねる方々がどのような反応をするか、それを見るのが我々の目的です。」
「お家掃除に我々を利用するか。世界の一大事だと言うのに?………呑気な事だな。」
なるほど、彼女達が黒音達の計画を止めるチャンスがもう一度ある、という事をある程度だけ事情を知っている連中に見せる。
それによって、各々がどのように動くかで上層部の思惑から外れようとしている連中を見極める、ということだろう。
それに、今更何をしても無駄なので、実際彼女達を自由の身にしても黒音の障害にはならない。
だから、黒音の計画の邪魔をしないという契約には違反しない。
「ただで利用されるつもりは無い。1度いいようにさせると、図に乗るからな。………何より気に入らん。なぁに、話は簡単だ………さぁ、殺しおうぜ。」
「貴方のご機嫌取りをしている暇はないんですがね。手加減してくださいよ?私はまだ死にたくありませんので。」
「保証は出来んな。」
――――――――――――――――
「枝音、大丈夫?」
「えっと、貴女は確か……夜姫奈さん、ですね?」
「夜姫奈でいいよ。あと変な敬語もいらない。ところで、状況なんだけど。」
変とはなんだ、変とは。
それはそうとして、今の状況は私が今1番聞きたかったことだ。
一体、何がどうなっているのだろうか?
「単刀直入に言うと、非常にまずい。というより、もう私たちには打つ手が無い。」
ふむふむ、確かにこういう時、単刀直入って言葉を使ってみたくなるよね。 わかるわかる。
それはそれとして、打つ手がない?
それはどういう………
「黒音の計画は順調通り、世界の崩壊も始まったし、書き換えもほとんど終わった。」
「ね、その書き換えって何?」
「私達もよくわかってはないんだけど、ようは世界の有り様を変えた、と言う事みたい。書き換えたのは、恐らく9心王への能力の制限。それと、後もう1つ何かを書き換えてたっぽいんだけど、分からなかった。」
9心王は、その概念を操る能力の強大さ故に、世界からある程度枷をかけられている。
その枷を緩めたのだ。タダでさえ厄介な9心王達が、厄介極まりない相手となることは予想できる。
「もう一度言うけど、私たちに打つ手はない。出来たとして、嫌がらせみたいなもんでしかない。」
その言葉に、枝音は途方に暮れる。
手遅れ、もうどうしようもない。
だけど、そんな事を言うためだけなら、黒音と戦うわざわざリスクを負ってまで私を助け出さないはずだ。
「だけど、結果は変わらなくても、その後と、過程は変えることができる。……枝音、まだ黒音を止める覚悟があるのなら、やってみるといいわ。」
「結果は変わらなくても、その後は変えられる………か。」
はい、久しぶりの更新ですねー!
今週頑張って4章終わらせるつもりです!(終わるかな?)
いやー、新しい小説を書き始めてんですけどそっちの方が面白い気がしてきたんですよねー(まだ投稿はしてないです。)
で、それの2話を書いてたら保存し忘れてたんですよね!(絶望)
それがショックすぎてどっちもしばらく書く気が起こらなかった………て言うのが更新遅れた理由でもあります。
セーブをしないことの恐ろしさ……それを忘れていたことが私の落ち度よ………!
というわけで頑張ってまた書いていくのでよろしくお願いします。
では、また今度ー