第10話 飛翔戦艦ブランシュ
――――――――空中展開都市アンティオキア
枝音がミアの名残りと対話している頃、白華と夜花は壮絶な戦いを繰り広げていた。
「敵、ナノマシンを大量に散布!」「対空ミサイル多数、来ます!」「全迎撃システム起動します!」「敵艦隊、数およそ80!」「Si・La、充填率35%!」
「通常弾頭を敵要塞にありったけぶち込め!近づいてくる戦闘機類は片っ端から撃墜しろ!」
「アメリカから核弾頭の発射を確認!数は10!」
「核分裂反応停止粒子を散布しろ!!それで何とかなるはずだ!」
「続いて新ソ連、フランス、イギリスからも核ミサイルの発射を確認!!」
「世界中の軍事施設に衛星から核分裂反応停止弾頭を打ち込め!妨害電波も発しろ!電磁パルス攻撃を世界中に行なえ!」
「敵要塞、沿岸部より陽電子砲の発射を確認!数は3!」
ズズゥン!!という着弾音と共に要塞内部が激しく揺さぶられる。
「ちっ、仕返しだ!荷電粒子砲、全門開け!敵要塞にむけて発射!」
「敵要塞、沿岸部の結界の解除を確認!予想再展開時間は、約30秒後!」
「対空ミサイル、さらに多数!数、100以上!!」
「『落雷』を使え!全て迎撃しろ!!」
『落雷』、擬似的な落雷を引き起こすミサイル弾頭だが、水平に超高圧電流を放出する事によって、広範囲に渡るミサイルや戦闘機の迎撃に役立つ。
ただ、無論敵味方の判断はミサイルにはできないので、使用する際は味方はこの雷の範囲外にいなければならない。
「閣下!敵要塞内部より高エネルギー反応を確認!これは………まさか、霊花崩壊エンジン?」
「……何だと?」
「閣下!敵要塞より、霊花崩壊エンジンのエネルギーパターンを確認!!」
「まさか、飛翔戦艦か!?」
「第5区画の監視カメラが映像を捉えました!第2モニターに映します!」
「…………これは、やはり飛翔戦艦。」
「しかし、エネルギーパターンが通常のものとは違います!」
「見せろ。」
計器類のデータを見ると、敵の飛翔戦艦が使っている霊花崩壊エンジンは、通常のものより出力が少し大きい。
「恐らく、直列式を使用している。乾電池みたいなものだな。単純な発想だが、ある程度の効果はあるだろうな。」
「敵能力者、多数接近!数、およそ800!!羽を装備している模様!」
「クソ、ノワールを出せ!運送用と補給用の飛翔艦も全部だ!!失敗作の醜き人形を全てぶつけろ!」
「敵要塞内部に微量ですが、エネルギー反応を確認。上手く隠匿されてますが……これは、Si・La並の火力だと思われます。」
「………早いとこSi・Laを撃ち込むか。エネルギー充填率は?」
「現在、87%です。」
「各種兵装に回しているエネルギーを全てこちらに回せ。」
「了解!エネルギー供給量増大……行けそうです。」
「充填率100%、行けます!」
「よし、撃て。」
――――――――――――白華
「前衛艦隊の被害増大!!撃沈数38!!」「沿岸部の結界が一時的に解除されました!再展開まで、後24秒!!」「 のエネルギー充填率89%!!」
「直列式霊花崩壊エンジン、全システムオールクリア!!いつでも行けます!」
「飛翔戦艦ブランシュ、発艦!」
「敵、対地ミサイルきます!」「貫通弾頭を確認!」「空間断絶結界を展開します。」「全兵装の起動、問題ありません!」
「試作型だったが、なんとか起動出来たか………。」
直列式霊花崩壊エンジン、それが白華の開発していたものだった。
普通、霊花崩壊エンジンは並列式で接続するものなのだが、直列式にする事で通常の1.6倍の出力が出せる。
しかし、試作型でまだ完成には程遠いのもあり、今は1.25倍ほどの出力しか出せていない。
直列式霊花崩壊炉搭載した飛翔戦艦ブランシュは通常の飛翔戦艦よりも出力が大幅にアップしている。
飛翔戦艦ノワールの場合だと、各兵装の出力を調整し、動力炉に負荷をあまりかけないようにしなければならないのだが、ブランシュにはそれをする必要がなく、常にフル出力が可能……のはずなのだが、今は未完成品という事もあり、マシンポテンシャルが少々高い程度に収まっている。
しかも、各種兵装に関してはノワールの方が上なので、性能的にはどちらも同じである。
「ふむ、俺もあれに乗って敵要塞に乗り込んでみたかったが………生憎、それは無理か。」
「……っ!?司令!敵要塞より高エネルギー反応!例の超高エネルギー兵器かと!」
「ちっ、来たか。総員、対ショック姿勢!!」
夢羽が叫ぶや否や、立っているのはおろか、椅子に座っていても、いや、椅子自体が壊れてしまいそうなほど凄まじい激震が司令部を襲う。
いや、司令部だけでなく、島全体が揺れている。
それを引き起こしたのは、最大威力で撃ち込んだSi・Laだ。
このことからも、以前は手加減をしていたことが分かる。
こんなものを撃たれては、瑠璃奈達は髪の毛1つ残らなかっただろう。
「空間歪曲結界、崩壊!」「地上施設、多数消失!」「第7ブロックから第13ブロックにかけて損害多数!!」「地上装甲板全18層、融解!」「第一地下施設、損害多数!!」「地下装甲板、第7層まで融解!」
「くそ、緊急閉鎖ボルトに点火!隔壁を閉鎖しろ!第14ブロックから先に被害を出させるな!」
「ダメです!隔壁融解!閉鎖出来ません!」
「なに……?なんて熱量だ……!」
「空間歪曲結界、1部消失!再展開可能まで、後17分!」
「敵部隊の接近を確認!迎撃部隊をあげます!」
「いや、まだ待て!『アリゼア』の方はどうなっている?」
『アリゼア』、霊花崩壊エンジンを3つ使いつぶす事で発射できる高エネルギー収束ビーム砲。
Si・Laはエンジンを潰さなくてもエネルギーを再充填さえすれば撃てるのに対して、アリゼアはただでさえ生産性の低いエンジンを1回に3つも使い潰さなければならない。
しかも、エネルギーの充填が必要と来た。
Si・Laの完全な劣化品だが、この場に限っては無いよりはマシだ。
「あと、もう少しです………!98、99……よし、エネルギー充填率100%!!いけます!!」
「よし、うてぇぇえ!」
カッ!と『アリゼア』の近くの映像を映し出しているモニターが眩く光ったと思うと、敵要塞に光が突き刺さる映像が中心に映し出される。
ひどく呆気なく思われるが、直撃した。
「命中!敵空中要塞の左翼に直撃!!」
「敵要塞、空間歪曲結界再展開可能予想時間まで、後15分と思われます!」
「よし、親衛隊と307は予定通り敵要塞への侵入を試みろ。他の部隊はこれの援護、または防衛に専念しろ!!」
―――――――――――――――307特殊部隊
「少佐殿、敵部隊を確認しました!前方、2キロの地点です!」
「総員、攻撃開始!!」
瑠璃奈が攻撃命令を出すと同時に、部隊のそれぞれが遠距離攻撃わ仕掛ける。
現在、307特殊部隊の指揮権は全て瑠璃奈に預けられていた。
敵防衛部隊の突破には瑠璃奈の火力が必要である上に、水姫の火力はいざと言う時のために残しておきたい、というのが表向きの理由だ。
だが、瑠璃奈はこれには裏があるのでは?と思い始めている。
(この大事な時に、何故水姫という戦力を温存するの……?)
敵要塞への侵入を試みたいのなら、この部隊の中で1番火力の高い水姫の能力で突破を試みるべきだ。
戦力の温存という点ならば、親衛隊は何故我々と共に攻撃の命令を受けているのか。
いや、よくよく考えたらこの布陣事態がおかしい。
攻撃に向けられる戦力の方が多すぎて、防衛側の戦力が少なすぎる。
速攻性を意識して、電撃的に敵要塞を鎮圧するつもり……?いや、この本部内の配置は………。
(内部からの攻撃を素早く鎮圧できるようになってる……?)
内部からの攻撃……、しかも、本部内部の味方の数を減らすとなれば……。
そもそも、ジブラルタル海峡解放作戦の時からして怪しい。
艦隊に広範囲の光学迷彩と偽装ができるのなら、なぜそれを使って海峡を突破しなかったのか。
何故………?
「少佐殿!右舷より敵、多数来ます!」
「………っ!了解!一撃を与えて怯ませたら、無視してこのまま敵要塞に向かう!!」
敵の数は5人、どんな能力を持っているか分からないが、早々にかたづけさせてもらう。
敵部隊の陣形の中心に広範囲爆裂術式を付与した手榴弾を投擲、爆破する。
これで、敵の足は止まったはず。今のうちに少しでも敵要塞との距離をつめる。
「これで………、なっ!?」
爆煙の中から飛び出てきた右腕が、正確に瑠璃奈の左足を掴む。
咄嗟にもう片方の足で蹴り飛ばし、その右腕を引きちぎる。
(あの視界の中、正確に私の位置を……っ!?)
見れば、その敵の左半分はほぼ無いに等しいほどに破壊されていた。
しかし、そこにあるのは血肉でも、内蔵でもなく………。
「まさか、アンドロイド!!?」
機械の部品が内部からはみ出ていた。
皮膚のようなものはボロボロに引きちぎれており、眼球は何をどう偽造していたのかカメラのレンズようなものが機械音を響かせながら動いている。
そして何より不思議なのが、
「何故、機械なのに遺物と契約できている………!?」
いくら量産タイプとはいえ、遺物は魂のあるものにしか契約できない。
魂なき機械には遺物は持てないはずなのだが………。
はたして、奇怪な機械とはこの事か。
「面白いじゃない……!相手をしてやるわ。総員、戦闘態勢!!」