第5話 動き出す心。
各組織への支援国を若干変更しました。
「寒い、寒い、寒い、寒いいいいいい!!!」
どうも、枝音と言います。寒いです。帰りたいです。
まずここ、どこだと思う?日本じゃ無いんだよ?
ノルウェーにいるんだよ?
今、ノルウェーの山で何十キロか先にある敵の基地を監視している所であります。
そもそも、何でこんなことになっているかと言うと―――
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白華に所属すると決め、中尉の階級を貰い、総司令部直轄の第307特殊部隊に所属となった時のことである。
目の前の、総司令官である夢羽さんから発せられた言葉がノルウェー旅行の始まりだった。
夢羽さんは総司令という割にはかなり若い。私たちと同年代と言っても不思議は無いんじゃないだろうか?
「ノルウェーにある天の刹の実験施設に、不穏な動きがあるという報告がある。貴官はこの問題の対処にあたって貰いたい。」
ふーん、ノルウェーの実験施設ねぇ……。
………え?ノルウェー???
「任務の内容としてはまず、この実験施設の監視だ。それで何も問題が無いようなら放置。何かあればその時は、現場の判断に任せる。」
そして、と総司令さんは言葉を続ける。
「現場で君達の指揮をとるのは空墨中佐だ、それと瑠璃奈少佐が君と同伴する事になった。」
「ちょちょちょ、ちょーっと!待ってください!」
話の内容に頭が追いつかないので、一旦遮る。
「あのぉ……私、ノルウェー語とか話せないんですが…。」
「それは問題ない。君が持つ刀…天葵だったか。それが通訳なりなんなりしてくれるだろう。必要な知識は武器が教えてくれるという訳だ。まったく便利だな。」
と、総司令は肩を竦めてみせる。
なんでも、長年生きた武器はその武器に存在している意識体が、かなりの知識を保有しており、使用者と共有できるのだそうだ。
確かに、自分にはまるで学んだ覚えのない知識が、頭の中に入っている気がするが……。
もしかして、天葵を扱いなれていたり、戦闘慣れしてる気がするのもそういう武器からの知識のお陰なのだろうか。
いや、そんなことより。
「なんで、私なんですかね…?というか白華に所属している人で、現地の人とか居ないんですか?」
「現地にも人はいるが、視察も兼ねて本部の人間を何人かあっちに送り込みたい。なぜ君かは、たまたま君の手が空いていたからだ。」
成程、よく分からないが、とりあえず行けばいいらしい。
ていうか、そこは『君しかいないからだ。』みたいなセリフを言ってくれるとやる気も幾分かマシになるんだが。
「えーっと、じゃあいつ、ノルウェーに行くんでしょうか?」
「今すぐだ。」
………はい?
今、なんと???今すぐっておっしゃいました?
「何をキョトンとした顔をしているんだ?貴官には荷物をまとめ次第、今すぐにノルウェーに行ってもらう。既に空墨中佐は現地にいるからな。」
総司令殿は意地悪な顔をして言う。この人、嗜虐趣味でもあるんだろうか……?だとすればブラック企業もいいとこである。
「じゃあ、荷物をまとめてきます……。」
「あ、それならもう私が枝音の分も荷造りしてあるわよ?」
……はい??
私の分の荷造りもしてあるって、え、どいうこと?私の家に勝手に入って支度したとでも言うの?プライバシーの侵害じゃない?
「ふむ、ならもう準備は万全だな?すぐ出立してもらおう。」
「了解であります!」
「え?」
瑠璃奈に首の後ろをガシッと捕まれ、引きづられながら連れていかれる。
「え??」
飛行場のような所まで連れていかれ、なんかごっつい服に着替えさせられ、飛行機に乗せられ……って、え?飛行機ってかこれ戦闘機じゃね?
なされるがまま、シートベルトやらマスクやらつけられた後、前の操縦席に座っている瑠璃奈が、元気な声で言う。
「んじゃ、ノルウェーまでひとっ飛びするわよー!れっつごー!」
「え!?ちょっと待って!待って待って待って!待ってぇええ!!!ぎゃぁぁぁぁあ!!!」
こうして、ノルウェーの雪山に行く事となりました。
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――――白華、総司令部作戦会議室にて。
夢羽と、他数人が会議を行っている。
「二時間ほど前に、ノルウェー支部から二人が到着した、という報告が入りました。」
「しかし、戦闘機を飛ばしてまで、急がせるものですか?ノルウェーとその周辺諸国からの抗議が山のように来てますよ。」
「対応はどうなされますか?総司令殿。」
「………飛ばすのがこの1機だけで済むように祈っていろ、とでも言っておけ。」
夢羽のその一言で、部下達の顔色が一斉に変わる。
「それはつまり……ノルウェーで、天の刹との大規模な戦争になると?」
「私の見解では、ヤツらはおそらく地下に拠点を置いている。地上のは見た目だけで地下が本命だろう。始めたなら、かなり大規模な戦闘になるとは思うがね。」
「地下施設ですか?確かに、ありえなくはないですが……。」
本当にそんなものがあそこにあるのか?というような顔をしている部下の一人を見て、馬鹿か?と、夢羽は思う。
我々も巨大な地下施設を大量に保有しているのに、なぜ向こうが保有しているわけがない、と思えるのか。
「ですが、まだそうと確定した訳では無いでしょう?その調査も兼ねて、彼女達を派遣したのですから。」
確かに、憶測の域を出ない事で議論するのはあまり有意義とは言えない。危機意識は待たせておいた方がいいだろうが、あまり憶測でものを言うのも良くはないだろう。
議題に移ろうと、初老の男が口を開く。
「ふむ、では肝心の天の刹が実験施設で行っている実験内容に関して何か情報は?最近では、新ソ連の街が更地になったばかりだからな。」
「現地調査によると、ヤツらの実験施設がある地域で小規模な地震が何回か発生しています。そして、この写真を見てください。」
かなり画質が悪く、その上、夜中なのか周りが真っ暗で見にくいがその暗闇の中に異質なものが写っている。
巨大な、白い、翼のようなのようのものが地面から突き出ている。
「何だこれは……?まさか、天使を…器もなしに顕現させているのか!?」
「アレは意思をもつ莫大なエネルギーの塊だぞ!?器もなしに顕現させて、もし失敗したら、被害は街の一つや2つどころでは済まないぞ!?」
「例の新ソ連の事件でピリピリしてるこの国際情勢で、そんな事が起きれば国家間戦争がおきる可能性は高いな……。」
「なっ!?総司令殿、それは…些か考えすぎではないかと。」
「では、そんなことはありえない、と貴官は言いきれるのか?」
「それは………。」
現状、ノルウェー、エジプト、イタリアは天の刹、イギリス、オーストラリア、インド、スウェーデン、新オスマン帝国は白華、ドイツ、フランス、フィンランドは夜花、というふうに協力的である。
が、あくまでも少々協力的である、と言うだけであり基本どこも中立である。彼らも自国の研究機関などは持っているだろうし、そこまで協力する義理も無いだろう。
日本は全ての組織を黙認しており、と言うよりかいろんな組織からの日本政府への圧力で黙認させられており、完全に中立である。
ただ、日本の組織がやらかした時の、国際的な抗議の電文などは日本政府にも通達されるので、彼らはさぞかし頭を痛めている事だろう。
上記以外の国と新ソ連、アメリカ合衆国はあまり我々のような日本の組織に関与はしてこない。関わりたくないか、自国の研究機関や組織で遺物を御しきる自信があるのだろう。
まぁ、奈落の出現でラトビア、リトアニアは国の土地が3分の1ほど消失してしまった上、新ソ連の実験施設での事故で街が一つ更地になったという話を聞けば関わりたくない、という考えもわからなくはない。
そんな世界情勢の中、新ソ連に続いてノルウェーにて実験施設で大規模な事故が起きた上に、我々が天の刹と戦争をおっぱじめたらどうなるか、などと言うまでもない事である。
様々な国は第3次世界大戦で疲弊しきっていた為、かりそめの平和がしばらく続いたが、奈落が出現した今、第4次世界大戦が起きてもおかしくはないと言われている。
そしてその状況で、組織間の戦争のみで国家間の戦争は起きない、というのは楽観的にすぎる。
「……おそらく無理だろうが、各国には我々の戦闘にはなるべく介入しないように伝えておけ。」
「まぁ、無理でしょうね……。クソっ、なんで我々が政治側の都合を気にしなきゃいけないんだ!」
「まぁ、それももうすぐ無くなる。来年の2月には、国なんて残っていないだろうからな。」
「はっ?それはいったいどういう……」
夢羽の何気ない一言に反応した部下が、どういう事か聞こうとした時、
「失礼します!」
ドアが勢いよく開けられ、息を切らしながら報告書をもった部下が入ってくる。
「緊急事態です!ノルウェーに、夜花が……!」
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――――――ノルウェーの雪山にて。
枝音と瑠璃奈は相変わらず双眼鏡を片手に基地を見続けてる。
カメラなどの映像による監視は何かしらの干渉によって映像が乱れるため、直接、私たちの目で監視することになっている。
非常に、めんどくさいことこの上ない。
「私、1番びっくりしたのが総司令があんなに若いとは思ってもなかったんだけど。」
「あぁ、あの人は外見こそ私達と同じくらいだけど、実際年齢は50は確実に超えてるわよ。」
あの若さで中身がおっさんどころかおじいちゃん!?
あまりの衝撃に、思わず双眼鏡を落としてしまう。
「え、嘘!?」
「ほんとよ。だって私、かなり子供の頃からお世話になってるけど、その時から外見変わってないし。他の人も総司令は何十年も前からあの姿だった言ってるし。」
おじいちゃんの割には、かなり若々しい感じだけど。
いや、でも、何の力も努力もなしにこんなデカい組織作れるわけないだろうし。代々続いている訳でもないから、総司令がおじいちゃんなのは当たり前か。
「ただ、精神年齢はかなり若くて、私達と同じくらいとも言えるから、私達とも親しげに接してくれるんだけどね……。」
へぇ、実年齢はおじいちゃんだけど、肉体年齢と精神年齢は私達と同じくらい、か……。
子どもの頃からお世話になってるって事は、おそらく総司令は瑠璃奈の家の、あの事件を知ってるんだろう。
瑠璃奈にも、色々あるんだろうな……。
そんな事を思いながら、瑠璃奈の顔の火傷を見つめてると、瑠璃奈が怪訝な顔でこっちを見て、言う。
「何をボーッと人の顔見てんのよ。ほら、後15分で交代だから、頑張りなさい。」
「はーい。」
それにしても、後15分か……。この寒さだと15分でも充分長く感じてしまう。
あらためて双眼鏡を覗き込もうとした時、カタカタカタ……と地面が揺れだした。
地震かと思ったが、違う。
なぜなら、目の前の基地の地面から、天使の翼のようなものが生えていたのだから。
いや、『ようなもの』ではなく、『そう』なのだろう。
アレが天使の翼でなければ、何なのか?とすら思えるぐらい、それは神々しくも、恐ろしかった。
と、そこで耳に嵌めたイヤホンから、空墨さんの声が聞こえてきた。
「司令部よりスノウホワイトへ。そちらに接近する敵影が10、確認された。増援が到着するまで持ちこたえてくれ。」
「こちらスノウホワイト01。了解。友軍の到着予想時刻は?」
「そちらへの到着時間は早くても5分だ。」
敵の強さを把握してないとはいえ、2対10で5分か……キツいわね。
無論、相手にも遺物を使用してる兵士はいるだろうし、枝音はまだ戦闘経験も少ない。もし私達よりも強いヤツがいたら、即時撤退しか無いわね。
「了解。もし、時間稼ぎが不可能と判断された場合、即時撤退の許可を貰いたい。」
これが軍隊なら、敢闘精神を疑われなかねない発言だが、気にせずに瑠璃奈は言う。
「………いいだろう。幸運を祈る。」
と、苦笑混じりに言って空墨中佐の声は消える。
「さぁて、枝音。いざという時には逃げる許可も貰ったし、いっちょやるわよ!」
「りょーかいっ!」
どーも。どこ黒です。
キャラクターの性格とか個性がブレっブレに見えてきた今日この頃。
その人自身の個性や特徴を文章だけで伝えるのって大変ですね。
さて、今回はちょっとばかし世界情勢の説明などが入りましたが、正直言ってそこまで物語に関係は無いので、ふーん、そっか。程度の認識でいいです。
おかしな点とか質問があったら言ってください。
思ったんだけど、水姫ちゃんの出番、ほとんどなくね?