第4話 evil awake
「ダレス。なんだ、この騒がしさは?」
「あぁ、ミルか!」
ミルが帰ってくると、慌ただしくなっていた。
何があったのかな?とミルは訝しげに感じる。
ちなみに、死神協会は参加人数が27万人とその規模は着々と広がっている。
「永久凍土の森の方はどうだった!?」
「魔物だっけか?それが大量にいたのと、後は……」
「あとは?」
ダレスはその言葉の先を待つ。
ミルは、考える。あれはなんて言ったらいいのか。
バケモノ……にしては神気を帯びているのは奇妙だ。グガランナだとかそこらあたりの神性を持っているものでもないし、だが、神にしては負の力が強すぎる。
「アレはなんて言ったらいいのか………神、の類なのだろうが……。」
「邪神、か?」
「ん、あぁ、確かにそういう表現が適切だろうな。」
雑魚だったが、逃がしてしまったと、ミルは忌々しそうに舌打ちする。
「聞いてくれ、ミル。樹海の方に調査に言ったヤツらは壊滅的な被害を受けた。そして、邪神教という連中があらわれた。」
「ほう、それで?」
ミルが言葉を促す。
ダレスはギリッと歯を食いしばった後、怒りを顕にしたように口を開く。
「魔女を名乗る7人が村のいくつかを襲ったらしい。さらに、神殺しも発覚している。これは恐らく、戦争になる。」
「………邪神、か。この世界の向こう側、本来ありえぬ時空から舞い降りたか。これも終焉の影響か?」
「恐らくはそうだ。終焉の力は時空を歪め、平行世界にも干渉が可能なまでの終わりを世にもたらす。」
本来表に出ることは有り得ぬ世界の裏側、その向こう側とも呼べる世界の廃棄場、処理しきれなかった負のエネルギーの終着点。
【終焉】によって世界が歪んだ時に、そこから這い出てきたモノが居ないとも限らない。
「……いつかこの時が来るとは思っていたが、このタイミングか。1000年経っても未だ神と人はお互いを信じきれていない。今でも人を道具として見る神や、己の都合の悪い事を神のせいにする人間は少なくない。」
だから、第3勢力となるものを作り、まずはこの時のために人と神をつなぎ止めようと考えていた。
だが、失敗した。いや、間に合わなかった、と言った方が正しいだろうか?
このままむざむざと邪神を放置すれば、世界は人、神、死神、邪神の4つに分かたれてしまう。
「で、先ずは?」
ミルが、これからどうするのかをダレスに問う。
「狩りを行う。………魔女狩りだ!」
まずは愚かな人間からだ、そういうダレスをミルはただじっと見つめる。
その顔は、無表情で何を考えているのかはわからない。
「邪神教なるものをむざむざと誕生させてたまるものか。死神協会全員に伝達しろ!力と欲に溺れた憐れなバケモノを駆逐してやろうじゃねぇか!」
―――――――――――
「『憤怒』と『色欲』をポイントD-4にて確認!味方が応戦中!」
「『暴食』が第2防衛戦を突破!そのまま第3防衛線にて戦闘中!真っ直ぐこちらに来るようです!」
「…………『傲慢』は?」
「未だ確認されていません!!」
七つの大罪を模した『魔女』を名乗る連中。
「『白蛇』が海側から来ます!『強欲』と『嫉妬』も共に向かっててます!」
ダレスがそれを聞いて、盛大に舌打ちをしながら指示をだす。
「ミルの部隊をそちらに回せ!なんとしても上陸させるな!」
―――――――――――
「白蛇ねぇ…………。蛇料理って美味いかな?」
「知らん。無駄口叩く暇があるなら敵を殺せ、ワース。」
「相変わらずお前はつれねぇやつだなぁ………。」
ワースと呼ばれた男が、呆れたように肩をすくめる。
「で、『白蛇』がこっちにいるってことは、残りの3匹はどこだ?」
「『大蜘蛛』は憤怒へ『腐食』は暴食の方へ向かっています。」
「厄災四魔……魔女に作られし災厄、か。ふむ、接触まで、後25秒と言ったところか。」
沿岸沿いの堤防に、ワース、ミルの2人が敵をじっくりと観察し、その他20人ほどが今か今かと攻撃命令を待っている
実際は、魔女を倒すだけでも50人、厄災四魔を倒すには100人以上でかからねばならないと言うのが、この数ヶ月でわかった事だ。
それほどまでに、魔女の能力と、厄災四魔は厄介だった。
だが、ここには22人しかいない。
それは、ダレスがミル1人いたら倒すには十分、足止め用にほか何人か連れていくだけでいいだろ、という一言でこうなっている。
何人かは無謀だ、と言って止めようとしたが、それが無謀では無いと、今知らせれる。
ミルが、大鎌を構え、縦に振り下ろした。
海が裂け、『白蛇』と魔女が体勢を崩す。
ワースがそれを見て、攻撃の指示をだす。
死神達と、邪神の力に溺れた魔女との、海上での戦いが始まる。
「死ね、死神!!」
「黙れよ強欲、欲に溺れて死んでいけ。」
強欲の魔女の攻撃を避け、ミルは『強欲』を思いっきり蹴飛ばして海中へと吹き飛ばす。
「強欲、お前は後回しだ。俺の使い魔と戯れていろ。こい、ウロボロス。」
海水を全て飲み込まんとばかりに海に巨大な虚空の穴が生まれる。
そして、その中から己の尾を加えた1匹の巨大な龍が現れる。
【グォオオオオォァァアア!!!!】
ビリビリと世界が震えて軋むような咆哮を上げ、凄まじい量の魔法陣を周囲に展開し、『強欲の魔女』に向かって放つ。
『白蛇』が、その間に割り込んで『強欲』を庇おうとするが……。
「俺様の相手はてめぇだ白蛇ィ!!」
「張り切りすぎるなよ、ワース。」
ミルが大鎌を振り回し、ワースが『アリア』という名前の銃を白蛇に向ける。
戦場に、死神の声と龍の咆哮が轟き始めた。
―――――――――――――
「………これで終わりだ、『嫉妬』。」
ミルが大鎌を振り下ろし、膝立ち状態の『嫉妬』の魔女を斜めに切り裂く。
「わ、たし、はまだ………。」
その言葉を最後に、ガクッと首が傾いて呼吸が止まる。
完全に死んだのを確認し、さらに大鎌で魂ごと死体を消し飛ばす。
「ほかの魔女は?」
「先程で6人目です。」
6人か、『傲慢』が未だ現れていないのが不思議だな、とミルが考えていると、長距離通信を行っていた1人の男が慌てたようにミルに報告する。
「傲慢が司令部の方に現れたと………!!」
「なに……?それで、どうなった!?」
「ダレス様が、『傲慢』と相打ちとなって死んだと………!」
「なっ……!?」
――――――――――――
「………おい、ダレス、世界を変えるんじゃ無かったのか?……なんとか言ったらどうなんだ?自分の納得いく理想の世界を、作るんだろ?」
ダレスの遺体はベッドの上に安置されており、周りには嘆き悲しむものが多数いる。
今更ながら、人望のある奴だったんだな、と思った。
だが、契約の一方的破棄は認められない。
まだ、自分の願いは叶えられていない。
攻めてもの手向けとして、ミルが魂を回収しようとする。
と、そこで気づく。
肉体に魂がない事に。
現状、魂を回収するか、破壊できる力を持つのは死神か、ある程度、位の高い神だけだ。
魔女とはいえ、ただの人間。人間にそんなことは出来ないはずだが………。
さらに、よく見ると、魂がない訳では無い。いや、偽装されている、と言った方が正しい。
魂は無いが、あるかのように偽装してある。
(………食えん男め。何を企んでやがる。)
その偽装の犯人が、ダレスである事は間違いない。
だが、蘇生のための方法はまだ何もわかっていない状態だ。
魂だけあっても、何も出来ないはずだが……。
ダレスは、願いを諦めた訳では無い。
それがわかっただけでも、ミルにとっては収穫だった。
奴がその気なら、自分もどんな手段を使ってでも己が望みを叶える。
と、そこでダレスの部下の女性がミルに近づいて、口添えをする。
「ダレス様が、死神協会の長にはミル様がなるように、と。」
「……そうか。」
ダレスが死んで、場は慌ただしい。
神々と人間は戦争への準備を始め、邪神もまだ残っている。
誰か、死神達を束ねる者が必要だった。
「神々が反乱を起こしました……。人間も、神と徹底抗戦をする構えです。我々にも、宣戦布告が来ました。」
「そうか。」
「邪神共も、活動を活発にしているようです。」
「そうか。」
淡々と返事をするミルに、部下の女性が不安げな表情をする。
こんな奴にダレスの、自分達のトップの夢を任せて大丈夫なのか?と。
「何か勘違いしているようだな。いいか、俺はダレスの意思なんぞ受け継がん。奴と俺の関係は、契約の上での関係だ。」
意思を受け継ぐ気は無い。
その言葉に、ダレスの側近達がざわめく。
「ヤツは、ヤツの目的の為に動いている、ならば、俺は俺のために動く。そういう、契約だ。契約はまだ破棄されてはいない、だから。」
一体、何を言っているのか、と死神達はざわめくが、その言外にて語られている事に気付きはじめた。
ダレスの夢を建前にして戦うようなヤツはここにはいらない、と。
自分のために、己の意思で、動け、と。
自分は己の目的のために動く。なら、お前らはどうするのだ?とミルは言っているのだ。
ダレスの夢を掲げるのは構わない。だが、それは自分の意思でだ。場に酔ってるんじゃねぇぞ、とミルは警告しているのだ。
その事に気づいた優秀な死神達は、みなミルの前に跪く。
「…………聞け。今から私が貴様らの王だ。」
「神々を、人を、邪神を、殺し尽くすぞ。世界のためにここで死ね!」
―――――――――
「死ね、神の座にしがみついたまま落ちて行け。」
「クソガァァァア!!」
鎖でがんじ絡めにして身動きが取れなくなった戦神アレスの胸に剣を突き刺して、殺す。
その右腕は肘から先が炭化しており、左足は消し飛ばされている。そして、脇腹には巨大な穴が空いており、今も尚生命力が零れていっている。
本来、肉体を持たないはずの神がここまでボロボロになっているのだから受けた攻撃の凄まじさが伺える。
死んだ死体を地面に落とし、ミルも空中からゆっくりと地面に降りる。
すると、着地の瞬間を狙って茨が攻撃を仕掛けてくる。
ミルはその不意打ちに対して意も介さずに、鎖で迎撃する。
『ん、やはり不意打ちに強いみたいだね。』
「てめぇは、あの時の茨ヤロウ………!!」
舐めた真似してくれやがって、殺す、と殺意を高くしてミルは大鎌を構え、襲いかかる。
『おや?なんか、あの時よりだいぶ人間らしくなったね。何があったのかな?』
「うるせぇよ。」
鎖と大鎌で茨の塊に向けて攻撃を放つ。
それに対抗して、茨の塊は大量の茨を放ってくる。
しかし、いつまで経っても決着はつかない。
なので、自分の持つ鎖に分解の力を纏わせて放つ。
茨のバケモノはその事に気づかず、そのまま茨で迎撃しようとするが、鎖に触れた箇所から先が消し飛ぶ。
そして、そのまま数本の鎖は茨の塊を貫通し、その防御を剥ぎ取る。
「なるほど、分解か。やれやれ……君の方が1つ上手だったようだ。」
分解によって剥がされた茨の塊の中から出てきたのは、見るだけでもおぞましい何かだった。
人の形をした何か、邪悪の化身。
その右目は重瞳となっており、3つの赤い瞳が妖しく輝いている。
「そう言えば、名乗るのはこの世界では初めてになるのかな?」
『ソレ』が一言喋る度におぞましい程の負の力が増していく。
そして、『ソレ』が己の名を、名乗る。
「僕の名前は虚無。世界の虚、万物より生まれし唾棄すべき泥、負のエネルギーの集積体だよ。」
どうもーどこ黒です。
過去編の続きです。
5話で過去編は終わるつもりです。
かなり飛ばし飛ばしになっているのでつまらないかも知れませんが、これがネタバレしない範囲で書ける精一杯です。
あと、なるべくちゃちゃっと過去編終わらせて現代を進めたいってのもあります。
なので、かなり過去が省略されてしまっているのは許して頂けたらなぁーっと。
そして、ワースの使っている『アリア』の能力ですが、『座標点爆破』というものです。
座標を指定して、引き金を引くだけで指定地点を爆破できます。
では、魔女や災厄四魔の説明もしたいところですが、また今度ー