第2話 囚われの白
枝音は呆然としながら、要塞内の長い通路を、行き先もわからずにただ歩いていた。
昨日、黒音から告げられた事実が、未だ忘れられないでいた。
仲間が、死んだ。
とても信じられない事実だったが、とても考えられる事実だった。
あの場所は、白華と夜花が戦う最前線だった。
そして、あのボロボロの状況下で、黒音は『世界の右目』とやらを取り戻したと言っていた。
自分にチラつかせたのは偽物だった訳だが、完全なブラフとは考えがたい。
あの黒音の事だ。自分が倒れ、ほかの仲間が疲弊している隙に、元の力を取り戻してもおかしくはない。
そうでなくても、あの飛翔戦艦や、他にもまだまだ秘密兵器を隠している可能性は高い。
この空中要塞だってどんなものか分からないが、考えるにかなりの大きさだ。こんなもので襲いかかられたらどうしようもないだろう。
考えれば考えるほど、ネガティブな思考に陥ってしまう。
仲間が助かっている可能性は希望的観測すぎる。
黒音が誰も死なないようにわざと狙いを外していない限り、生き残っている仲間はいないだろう。
黒音がわざとはずす、有り得るのだろうか?
有り得なくはない。目的のためなら、そういう事もありうるだろう。だけど、自分の仲間を見逃すことが黒音の目的にどう関係してくる?
むしろ、黒音にとって白華は敵だ。見逃す事の方が少ないと言える。
結局、どんなに考えても、何も分かりはしなかった。
確認しようにも、捕まってしまっている自分には無理だ。
どうすれば、どうすれば………。
と、そこで目の前に人が現れて、枝音は立ち止まる。
さっさと素通りして行ってほしいが、その人物はなかなか通り過ぎようとしない。
訝しげに感じて、枝音は下を向いていた顔を上げる。
そこには、マユがいた。
「あなたは………。」
「………ちょっと、話しに付き合って。」
正直、枝音はそんな気分では無かったが、無理矢理腕を引っ張られてどこかに連れていかれる。
そうこうしているうちに、何か巨大な扉がある場所まで来てしまった。
結構歩いたみたいだけど、ここは……?
「ここは?」
「クロノフィリア迷宮図書館……。確か、雑誌や地図、禁書や魔術書なんかも含めて合計約1億9800万冊が蔵書されていたはず。」
へー、1億………1億!!?
てか、1億9800万って約2億ぐらいじゃん!
枝音が途方もない数字に呆然としていると、マユが扉に手を添え、ゆっくりと開く。
「…………すごい。」
そこに現れたのは、本で作られた、芸術。
とてつもない量の本が収納された本棚が、幻想的に並んでいる。
「こっち。」
――――――――――――
「ん、そう言えば、姫の様子は?」
「現在、クロノフィリア迷宮図書館にいますね。【世界の歴史書】を閲覧するつもりかと。」
「同伴者は誰だ?灰空か?」
「いえ、アンリ中佐です。」
それを聞いた雅音が、おや?と言うような表情に変わる。
「……ん?マユが?」
「はい。意外ですね、アンリ中佐が他人にここまで関心を見せるとは……やはり、姫は閣下が一目置く人物なだけありますね。」
「俺は灰空あたりがやるだろうと思っていたんだけどなぁ………まぁ、想定とはちょい違うが、予定通りではあるから問題ないか。」
ちなみに、灰空はマユに役目を奪われて肩を竦めつつ、心労の原因が減ったこともあり、アンティオキアの第3区画、最終階層にあるテラスで外の景色を眺めながら優雅にコーヒーを嗜んでいたりする。
――――――――――――
警告、ここから先は自分の所持している閲覧権限のレベルの部屋まで閲覧可能です。閲覧権限を持たない者がこれより先に侵入した場合、即時処分となります。
と書かれた赤い表札がある。
………まずいんじゃないだろうか?
でも、マユ……だっけ?マユさんは閲覧権限を持っているようで、結構奥の方まで進んでいく。
「ここから先は、私でも閲覧権限は持ってない。」
「え?」
「1人で行って。」
「でも、マユさんが行けないのに、私にそんな閲覧権限なんてあるはずが……。」
「………大丈夫、ここ空中展開都市アンティオキアにおける貴女の権限は最高レベルのものになっている。」
…………え?
私の権限が、最高レベル?なんで?
「入れば、わかる。そして、私が言いたいことは、一つだけ。あの人を、救ってあげて。」
「な、んで………」
そんな事を言うの。
「あの人を救えるのは、あなただけ。私では届かない、あの人の手を掴んで、水底からすくってあげて。」
なんで、そんなことを、私に頼むの。
私の仲間は、友達は死んで。
それは、黒音が、殺したわけで。あいつは、みんなの仇で。
そんなことは言い訳で。
自分に言い聞かせてるだけのものに過ぎなくて。
本当はあいつに私を見て欲しくて。死んだと思ってたのに、やっと会えたあいつに振り向いて欲しくて。
でも、あいつは計画の材料としか私を見ていなくて。
その計画とやらのせいで、私の仲間は、殺されて。
「でも、私は何かをする意味なんてもう見いだせない……!みんな、みんな死んじゃった………!あいつが!あいつが殺したの!私達は敵同士だって、分かってたことなのに!!それでも!どこかで私達だけは特別扱いしてるんじゃないのかって、驕ってた自分がいて………!その考えの甘さが、こんな事になったっんだって!」
「枝音!!」
「貴女の友達は生きてる。あの人は、自分の計画に必要な事しかしない。無闇矢鱈に殺すようなことは、しない。」
「………え?」
「私から言えるのは、この扉の先にいって、全てを見てきて。そして、あの人を救ってほしい。あの人を救えるのは、貴女だけだから………。」
正直、未だに何が何だか分かってはいない。
死んだと言われた仲間が、今度は生きていると言われた。
扉を、開けるしかない。
そう枝音は思った。
ギィッと、いう古めかしい扉の音が鳴り響く。
外からは、部屋の中は暗すぎて中に何があるのかまるで分からない。
すると、突然目の前に文字が浮かび上がる。
そして、機械の音声が流れる。
『最高レベルの閲覧権限保持者の入室を確認。認識番号0001、個体名ミア。【叡智の書】を展開します。』
すると、枝音の目の前に大きめの分厚い本が浮かび上がる。
枝音は恐る恐ると言ったふうにその本を開く。
不思議なことに、パラパラとめくれる度にその本のページ数が変わる。
『【叡智の書】の起動を確認。【世界の歴史書】を映像閲覧可能にします。』
パッ、と周囲がいきなり明るくなり、枝音が驚いて周囲を見回す。
すると、そこにはたくさんの映像や文章、写真が360度、全方位に浮かび上がっていた。
それらは、世界の全てを映し出しているかのようだった。
「………すごい。」
ある意味では幻想的ともいえる、その光景に枝音は驚く。
そして、目の前にある『task:ZERO』と書かれた文字に、そっと触れる。
すると、バラバラバラバラッと凄まじい勢いで本のページが捲れ、全ての映像がひとつのものに切り替わる。
そこには、全身を黒く染めた、真っ白い髪の毛の青年がいた。
いやっはー、どうもーどこ黒ですー。
次から黒音(雅音)の過去編に入りまーす。
まぁ、それ書いてたら投稿が遅れたんですけどね(言い訳)
まぁ、お詫びと言っちゃあなんですが、5話が8000文字を超える大ボリュームとなっています!
しかし!ネタバレをしないように過去編をするには如何せんいくつか簡略化して書かねばならない!
なので、過去編はかなり大雑把なものとなってしまっています。
あくまでも過去の1部を開示したような形です。
完全な過去編はまたどこかで書きますので、御容赦を。
では、また今度〜。