8話 真ナル呪イノ眼
針路このまま!ヨーソロー!!8話投稿よーい、てええぇ!!!
枝音は、夜姫奈と黒音の戦闘を見て、愕然としていた。
あんなにも強くて、どうすれば倒せるのか分からなかった黒音が、口から血を大量に吐き出し、息を荒くしている。
通常なら即死レベルの傷を受けていながらも、まだまだ余裕があるように戦えているものの、黒音が劣勢なのは誰が見ても明らかだった。
あんなにも絶対的な強者だった黒音が追い詰められている。
その事が、何故か分からないけれど気に入らなくて、枝音は内心イラついていた。
戦闘に、介入しようとすれば夜姫奈からの黒い稲妻が威嚇で放たれる上に、黒音との攻防に割り込む余地が無かった為に傍観してしまっていたが、無理矢理にでも一発黒音を殴り飛ばして、夜姫奈に一太刀入れてやろうか、と考え始めていたところで、黒音に変化が起きる。
「ノウ、使わせてもらうぞ……!」
黒音が影から、エネルギーを纏った黒い球体を取り出す。
そして、右目の眼球をえぐり出して、代わりにそれを右眼に入れる。
真っ黒い、この世の全てを呪い尽くすかのような黒い瘴気が、黒音の身体を覆う。
「死ね。人の子よ。呪われろ。全ての魂よ。この世に在る全てのモノよ、この世の何もかもから消えてしまえ。」
呪詛が、吐かれる。
消えろ、消えろ、消えろ、呪え、呪え、奪え、殺せ、死ね、失せろ、滅べ、終われ………。
怨念が、呪いが、憎悪が、黒音の口から放たれる。
否、それはもはや黒音では無い。
髪の毛は異常なまでに長く伸び、後ろの方で髪の毛の一部を括ってあるにも関わらず、腰の当たりまで伸びており、色は真っ白に色が抜け落ちている。
左目の瞳は金色に輝いているが、その右眼は果たして眼なのか。
その目は全体的に真っ黒であり、その上に紋様が浮かび上がっいる。
その紋様は、夜姫奈の手の甲に描かれているモノとよく似ていた。
それが、雅音、かつての死神として働いていた頃の力、『書き直し』を取り戻した黒音の姿であった。
今はその能力は一切を失っていたはずだが、裏技のようなやり方で取り戻す方法が一つだけあり、黒音はそれを使ったのだ。
九心王の1人、知識王ノウの能力、あらゆる物体や生物、または現象を生成するモノにもよるが、大体24時間ほど生み出す能力。
それによって、今は冥界に封印されて閉まっている黒音の本来の右眼を生成し、それを使うことで本来の姿を取り戻したのだ。
だが、本来の性能を発揮できない上に、1時間ほどしか使用出来ないなどのデメリットが存在する。
また、それを使用し終えた直後は、20分間、再生能力が大幅に低下する上にあらゆる能力を使用不可となる。
黒音……いや、雅音が大鎌を具現化する。
形状は普通の鎌とは違っている上に、自分の身長よりも長いその鎌を、雅音は構える。
そして、次の瞬間には夜姫奈の両腕は切り飛ばされていた。
「っ!!!??」
夜姫奈の顔が驚愕に染まる。が、それだけで終わりではない。
夜姫奈が傷を再生する暇もなく、雅音の大鎌が腹部を指し貫き、同時に雅音の蹴りが夜姫奈の右脚に炸裂する。
夜姫奈の右脚が破裂し、そのまま数十メートルほどぶっ飛ぶ。
雅音の脚もまた、凄まじい威力で蹴った衝撃によって爆ぜるが、何事も無かったかのように再生する。
そして、未だ宙を待っている夜姫奈の左足に雅音から伸びてきた鎖が巻き付き、今度は反対側に引っ張られ、吹き飛ばされる。
そして、そのまま吹っ飛ばされた夜姫奈は数メートル先の民家に直撃し、轟音を撒き散らす。
鎖が雅音の元に回収され、雅音は大鎌を構え直して様子を見る。
圧倒的な力が、そこにはあった。
相手に、能力を使わせる暇もなく攻撃を連続で行う雅音。
ボロボロと、破壊された家屋から夜姫奈が現れる。
その息遣いは荒いものの、身体の傷は全て元通りに再生している。
それを見た雅音が更に攻撃を仕掛ける。袖や裾から大量に黒い鎖が飛び出し、その全てが物凄い勢いで夜姫奈に向かう。
バチバチッと、夜姫奈の周囲に黒い稲妻が帯電し、それに触れた全ての鎖がある一定の部分から先が消えてなくなる。
遠距離攻撃は無駄と判断した雅音が、再び距離を縮めて蹴りを放つ。
が、蹴りを放った雅音の太ももから先が消える。
それを再生しつつ、影を地面から大量に突き出し、更に様々な方向から鎖で攻撃する。
全方位からの猛攻撃に夜姫奈は舌打ちした後、叫ぶ。
「『夕暮れの空』!!」
黒い膜が球状に夜姫奈の周囲に展開され、雅音の攻撃は全てそれに触れた瞬間に触れた箇所から先が消えてなくなる。
「これでっ!!」
攻撃を全て防がれ、次の攻撃の為に一瞬だけできた雅音の隙をついて、夜姫奈が動く。
前までと同じように、夜姫奈が雅音の眼前から消え、背後に現れる。
背後に現れた、と気づいた瞬間には雅音の左胸にポッカリと穴が空いていた。
「まだっ!!」
更に、夜姫奈が稲妻を恐縮したエネルギーの塊を周囲に3つほど生成し荷電粒子砲を3発、分解の能力を纏わせた状態で放つ。
その全てが雅音に直撃し、大爆発を起こしながや粉塵や衝撃波を周囲に撒き散らす。
これだけの威力が、傷の再生もしていない状態の奴に直撃したのだ。無事ではいられまいと夜姫奈は考えたが………。
「調子に乗るなよ?劣化品の分際で!」
その考えが甘かったことに、気付かされる。
無傷の状態の雅音が、ギンっとその右眼で夜姫奈を睨みつける。
正確には、夜姫奈の足元の地面を。
「っ!!!?がはっ!??」
夜姫奈の足元の地面が盛り上がり、鉄の槍が突き出して夜姫奈をさし貫く。
更に、周りの家屋が巨大な腕に形を変えて、その巨大な拳を振り下ろそうとするが、途中でボロボロと崩れる。
「ちっ、流石に性能は落ちてるか。まぁ、本当に能力が戻ったわけじゃないしな。」
所詮は能力で作られた贋作か、と雅音はため息を吐く。
と、鉄の槍を全て分解し、傷を再生させた夜姫奈が瞬間移動とも言える速度で距離を縮めてくる。
「戦闘の最中に余所事考えてるなんて余裕ねっ!!」
分解を纏わせた蹴りを放つが、雅音の大鎌によって防がれる。
大鎌は、分解されない。
「…っ!どうしてっ!?」
分解を纏わせたイザリアで剣撃を繰り出すが、全て、雅音が巧みに扱う大鎌によって防がれる。
雅音の大鎌はやはり、分解されない。
夜姫奈の姿が消え、雅音の背後に瞬間移動かのように移動する。
背後に現れた、と気づいた時には、雅音の腹部に大きな穴が……開かなかった。
夜姫奈が困惑していると、雅音が振り返って説明する。
「お前の分解能力は物体を分子のレベルに分解する事だろ?ならば、それ以上分解出来ないものは分解できない訳だ。」
それ以上分解出来ない、1つの物体だけで構成されているものはそれ以上分解されない。
だから、『書き直し』で攻撃を受けた瞬間、自分と大鎌の構成する物質を単一のものであるという風に情報を書き直す。
本来の力のならば、物理法則などをガン無視して常時その状態に書き換えておけるのだが、今はそこまでの力はない。
「これで、お前が何をしても無駄と言うことは分かったな?なら、もっと強くなって出直せ。」
夜姫奈が再び目の前から消えようとする所が、はっきりと見える。
そう、今の雅音の右眼には光の反射による視覚情報とは違うものが見えている。
0と1の羅列。
周囲のあらゆるものを構成するための情報の羅列式。
だから、肉眼では見えなくてもそこで何が起こっているかがわかる。
夜姫奈が先程から姿が消えるのは、自分自身を分解しているからだ。
自分自身の肉体を分子レベルまで分解し、姿を消す。
気配を感知出来ないのは当然だ。空気の振動なども分解することで音も消し、ほぼ完全なステルス状態となる。
そして、姿を消した状態で敵の身体に直接触れて抉りとるように分解し、そのまま敵の背後で身体を再構成する。
このプロセスを一瞬のうちに行っているのだから、まるで瞬間移動をしているかのように見える。
夜姫奈の分解以外のもうひとつの能力、それは物体の再構築だ。受けた傷も、再構成する事で完璧に修復する。
魂を破壊されない限り、九心王や夜姫奈、枝音、と言った再生能力がある一定のレベルを超えたものは死なない。
だから、物理的な攻撃など無意味だ。魂を傷つける程の威力や、能力を用いなければ、ソレらは殺せない。
だから、自分の身体を分子まで分解したとして、それが単なる物理現象ならばノーダメージである。
今の雅音には、夜姫奈が自分の身体を分解し、自分の身体に分解の力が働いている所が見える。
その分解の情報を、違うモノに書き換える。
分解は、行われない。雅音は、無傷のままである。
背後を振り返ってみると、夜姫奈が自分の肉体を再構築している所が見えた。
夜姫奈の足元の地面の情報を書き換える。
土は鉄へ、形状は槍へ、速度と威力を付けて飛び出るように。
「ぐっ、がはっ!??ゴフッ。」
鉄の槍が、何本も夜姫奈を刺し貫く。
更に、鎖で夜姫奈を縛り上げ、動きを封じ込める。
夜姫奈は鎖を分解して抜け出そうとするが、分解出来ない。
「アリアドネ。」
右手に、ウィンチェスターの形状をした銃、アリアドネを具現化し、動きを封じられた夜姫奈に向けて、撃つ。
『感情抑制弾』、黒音や枝音のような感情をエネルギーとして扱う能力に対して最も有効なものである。
試作品の段階の時ですら、暴走した枝音の動きをある程度抑制する事が出来た程だ。
撃ち放たれた弾丸は、寸分違わず夜姫奈の右眼に吸い込まれ、撃ち抜く。
再生能力が自動的に働くが、纏っていた分解の能力の力は解除され、夜姫奈は力尽きたように意識を失う。
そして、雅音は、
「ぐっ、ごぽっ。がはっ、ぜハッ。はぁ、はぁ。」
口から大量の血を吐き、目から血の涙を流しながら、息を荒くする。
右眼が元に戻り、髪の毛の長さも元通りになる。
白かった髪の毛は黒く染まり、大鎌も空中に霧散して、消えてなくなる。
よろよろと歩いて壁の近くまで移動し、ズルズルと壁を背もたれにしながら座り込む。
明らかな疲労が、見て取れた。
枝音と、灰空は呆然としていて、何も出来ない。
と、そこで出掛けていたメンバーが戻ってくる。
色々と破壊された街の惨状と、倒れている謎の少女、あと、ボロボロの黒音を見て、困惑している。
と、ラストがややあっと黒音に近づいて、
「いやぁ、頑張ったようだねぇ?雅音くぅん。」
と、ニヤつきながら黒音に話しかける。
その話し方から、今まで傍観していたという事が察せられる。
「……おい。お前、どこから見ていた?」
「そりゃ、吸血鬼を倒す所からだねぇ。」
と、呑気に答える。つまり、全部見ていた、というラストに。
「お前の能力があったらここまで俺が頑張る必要無かったよな!?なぁ!?」
黒音が、キレる。まぁ、ここまで黒音が頑張らなくてももっと簡単に無力化出来たのだから当たり前だろう。
「ところで………、これはどういう状況で、こいつは誰なんだ??」
と言う、雷狐の至極真っ当な疑問は、黒音とラストの喧嘩のせいで暫く無視される事となる―――――――――
どうも、最近、黒と言う漢字を使う度に黒音と書きそうになるどこ黒です。
黒音や枝音、夜姫奈の能力はそれぞれがどう言った感じのものなのか頭の中ではイメージが掴めているのですが、それをいざ文章として書くとなると難しいものですね。
では、また9話にて。
え、能力やらなんやらの細かい説明は今回は無いのかって?
自分でちったぁ考えろぉ!(無責任)
どこをどう説明したらいいのか自分でも分からなくなってきてるので、気になる点があったら言ってください。
ネタバレにならないレベルで説明します。
あと、活動報告あたりでそこら辺の細かい説明はいつかやろうと思います。はい。
では、また今度。