7話 黒ヲ受ケ継グ心。
灰空が吸血鬼に攻撃…………
したと思った時には、既に吸血鬼はそこにはおらず、数メートル離れた場所にいた。
そして、灰空の腕と剣が宙を舞う。
「フフハハ、ハハハハハハ!!素晴らしい!!なんだこの血は!!こんなに素晴らしい血は味わったことが無い!!教えてくれた奴には感謝だな!!」
吸血鬼はこれで勝てる、と思っていた。
こんな凄まじい力の奔流ほ今まで感じたことがなかった。
自分の血を飲むことで喉の渇きに耐え、枯れ木のようにひっそりと何もせずただただ毎日を生き延びる。
戦闘力も体力も何もかもが抜け落ち、死んだように過ごしていたが、餌が来た。
奴には感謝せねばならない。
こんなに素晴らしい餌の存在を教えてくれたのだ。
死ぬかもしれないという高いリスクを負ってでも来たかいがあった。
「ハハハハハハ!!貴様らは恐れ戦き、膝まつくがいい!俺様のこの力の前に、ひれ伏、せ………っれ??」
高笑いをしていた吸血鬼の様子が、急におかしくなる。
左目の白目の色が、青色と白色に交互に変わる。
右目から血の涙を、左目から青色の涙を流し、口元から血が流れ出る。
「が、あ?なん、だ、これは??」
体がガクガクと震え、口から血を大量に吐き出す。
「なんだ、これ、は???嬉、しい?楽し、い?愛、おしい、なんだ、この感情の渦はっ!!!??」
口元に笑いを浮かべ、目からだけ困惑している事が伺える。
喜び、嬉しさ、楽しさ、慈しみ、親しみ、愛しさ、幸福、勇気、希望、友情、充足、安心…………等といった、ありとあらゆる正の感情が彼の中で渦巻く。
『まぁ、資格がない奴が僕と枝音の感情を大量に喰らって無事なわけ無いよねぇ。』
と、天葵が薄笑いを浮かべながら言い、
「負の感情と違って正の感情はすぐに拒絶反応がでるからな。耐性の無いやつはすぐに崩れ始める。自滅してくれるとは、倒す手間が省けたな。」
と、黒音がニヤニヤと嘲笑うかのように吸血鬼を見つめる。
吸血鬼は苦しみながら、体がボロボロと崩れ始めている。
そして、ついには体のほとんどが崩れて無くなり、本人は訳の分からないまま砂となって風に吹かれて消えた。
枝音は瞳が赤くなり、爪がのびて耳が長くなり、牙が生え始めている。
が、少し経つと徐々に元に姿が戻り始める。
抜き取られた何かが体の中に戻ってくる感覚があり、感覚がいつものそれに戻る。
「さて、一件落着……と、言いたい所だが謎は残るな。ここのことを教えた奴がいるみたいな事を言っていたが……。」
そう、吸血鬼にここの存在を教えたやつがいるかもしれない、という謎が残った。
(調べなきゃ行けないことが増えたな……。だが、やらなければ行けない事もあるし、どうするか)
と、そこで枝音に手伝って貰えばいいんじゃないか?と、枝音が敵であるという事を最早忘れた黒音が考える。
が、状況の変化は突然起こる。
ゾワッと、凄まじい殺意を感じた黒音は、戦闘態勢に移行して気配を探る。
「………っ!?上からか!!!?」
大きな地下空間の天井部分が、バチバチィっと言う音と共にボロボロと崩れていく。
そして、崩れた天井から1人の黒い長髪の女性が落ちてくる。
その女性は捻くれた杖のような剣で落下速度を活かしながら黒音に襲いかかる。
バチッと、黒い稲妻が帯電した瞬間、黒音の左腕が吹き飛ばされる。
「ちぃいい!」
黒音が再び腕を再生しつつ、体の1部を影で覆い、形を崩して攻撃する。
その女性は空中で一回転して、影を全部避け、着地する。
が、黒音は着地の瞬間を狙っており、地面から槍のように影を突き出し、不意打ちを決める。
が、影は全てその女性に突き刺さる直前で全て掻き消える。
「何者だ……?」
そう言って黒音が問いかける。
さっきの攻防から、強敵であると察した枝音と灰空も敵の様子を見る。
「私は黒杉 夜姫奈………。雅音、あなたには死んでもらう……!!」
そう言って怒りのこもった瞳で黒音を見つめるその瞳が、金色に輝いて、右目の白目が赤く染まる。
「なっ!?その目は……!!」
黒音が驚愕する。
灰空と枝音も驚きすぎて言葉が出ない。
なぜなら、その目は、夜姫奈と名乗った彼女のその目は、黒音の目の色と全く同じなのだから。
バチッと再び剣に黒い稲妻を帯電させながら黒音に攻撃を仕掛けていく。
灰空がそれを横から妨害しようとするが、まるで眼中に無いのか、無視してそのまま黒音に突撃する。
黒音が相手の攻撃を捌きつつ、影で攻撃するが夜姫奈の周囲に黒い稲妻がバチッと帯電した途端、全て掻き消える。
「灰空!幻術はどうなってる!?」
「さっきからやってますが全然効果ありません!」
吸血鬼の動きですら鈍らせた幻術だが、夜姫奈にはまるで効いていないようだ。
(相手の能力が分からないな。俺と同じ目だと?恐らく『書き直し』の劣化版だと思うが……これを持つやつなんて二人しか知らな……っ!?)
黒音が夜姫奈の能力について考察していると、夜姫奈が一際大きな稲妻を広範囲に放つ。
その稲妻が触れた建物の1部が、消えて無くなる。
黒音は『夕焼けの空』で防御しつつ、能力について更に考える。
(あの稲妻に触れた物は消えるのか……?拒絶王の能力じゃあるまいし、完全に消滅したわけじゃない。何が起きた?)
と、そこで彼女の右手の甲に、紋章が描かれていることに気づく。
(あの紋章……、それに、黒杉という家名。まさか?)
「お前、まさかあの時の餓鬼か?」
黒音が、問いかける。
灰空と枝音は何のことかさっぱりわからないと言った顔である。
対する夜姫奈は、更に怒りが増したように黒音を睨みつける。
「えぇ、そうよ。私は父と母の仇をとるため、ここに来た!」
叫びながら、黒い稲妻を周囲に放つ。
(なるほどな、て事はあの力の正体は………。)
自分の『書き直し』の能力と照らし合わせて、彼女の能力を推測する。
触れた物体の分解、恐らくこれだと黒音は確信する。
『書き直し』はそこにある物体や現象を構成する情報を書き換える事で別の物体に変更したり、違う現象に変更したりする能力である。
物体や現象に直接作用する能力だが、消滅させる事なんて出来ない。あくまで、違うモノに変えるだけである。
ならば、あれは恐らく物体を分子レベルで分解している事で攻撃と防御を行っているのだろう、と黒音は考える。
すなわち『書き直し』ならば、水→氷、炎→水、土→鉄、などに書き換えるものを、水→分子に分解、炎→分子に分解、土→分子に分解、としているのである。
だが、稲妻を放出する能力なんて無かったはずだ、と一瞬だけ疑問に思ったが、それはすぐに解決する。
恐らく、稲妻は武器の能力だろう。
あの武器の正体にも宛がある。
イザリア、デザイアシリーズの2番目に作られた武器。
その特徴は武器の形を自在に変えることと、1つの基本魔術をなんの術式も詠唱も道具も必要なしに高速で発動できること。
雷を生み出す系の基本魔術を武器に仕込んであるのだろう。
それに分解の能力を纏わせる事で、本来は座標点攻撃や、近接戦闘となってしまう、『書き直し」の劣化版、「文章改竄」を遠距離攻撃も可能としているのだと考える。
だが、能力の正体が分かっても対処方がわからない。
触れたら分解されるので、攻撃は全て分解、無効化されるだろう。
さて、どうしたものかと黒音が思っていると。
突然、正面から夜姫奈の姿が消える。
消えたと思った瞬間には背後に気配を感じ、振り返ろうとするが、出来ない。
なぜなら、黒音の右脇腹に、大きな穴がぽっかりと空いてしまっていたから。
「ぐっ、ごぽっ。」
影で腹部の大きな穴を塞ぎ、再生するまでの応急処置とする。
背後からの夜姫奈の攻撃を振り向きざまに冴詠で受け止める。
(今、何が起きた……!!??)
相手が正面から消えた、と思った瞬間には攻撃を喰らい、敵は背後にいた。
腹部の傷は分解の能力だろう。だが、あの移動速度はなんだ?
瞬間移動とも言える程の速さだった。
と、また夜姫奈の姿が消え、黒音の右腕が右胸ごと消し飛ばされる。
「ごぷっ、がはっ。ぐ、ハァ、ハァ……。」
黒音は傷を再生し、息を荒くしながら、思う。
やはり、傷の再生が遅い。
そこら辺の兵器や遺物の攻撃を喰らったところで、脳を破壊されようがお構い無しに再生できる黒音だが、枝音や夜姫奈と言った同種の能力による攻撃だと、再生が追いつかなくなる。
相手にまだ何かしらの能力があるかもしれない以上、このままではジリ貧どころか負けるかもしれない。
奥の手を、使う時が来たのかも知れない。
「ノウ、使わせてもらうぞ……!」
黒音が、右手の指を自分の右目に突き刺し、眼球をえぐり出す。
そして、影の中から1つの丸い球体を取り出し、それを右眼に嵌め込んだのだった。
はい、どうも、どこ黒だがどこ猫だか忘れましたがどっかの黒猫ですー、7話です。
『書き直し』の能力についてですが、物体の情報を書き換えて、別物に変えることが可能です。
動物は流石に直接触れなければいけませんが、無機物や植物なら目で見るだけで書き換えれます。
ほかの詳しい説明は次話や活動報告でやる予定です。
では、またこんどー