第2話 始まりの心。
夢を、見ている。
自分は何故か知らない人と喋っている。なんの話をしてるかは自分にも分からない。
でも、なんでだろう。顔はよく見えないけれど、明らかにその人を私は知らないはずなのに、その人に懐かしさ感じる。
前にもこんなふうにこの人とこの満天の星空の下で楽しく笑いあっていた気がする。
そんな事を考えているうちにふと急に水底から水面に向かうような浮遊感に襲われ、夢が覚めるのだと悟る。
夢が覚めるその最後の瞬間まで話し相手のその顔はよく見えなかったけれど、その人はどこか寂しそうに見えて―――
―――――――――――――――――
ありふれた町の、なんの変哲もないありふれたアパートの1室で透き通るように真っ白な髪をした一人の少女、白咲枝音は今、最大の脅威と戦っていた!
そう、それは!
「うぅううぅう、さむいいいぃぃい。」
寒さである。眠気すら覚めるほどの寒さと戦っていた。めちゃ、寒い。なんだってこんな寒いのか。それは当然、冬だからである。もっと言うのなら、暖房が壊れていて動いてないからである。
「なんで冬はこんな寒いんだだだだ。」
もう一歩も動きたくない。布団から出たくない。
よし、今日はこのまま二度寝しよう、そしてお昼になって暖かくなってから大家さんに電話して暖房をなおして貰おう。
ちなみに今の時刻は10:25、今から暖房を修理してもらった方が早い気はするが……。
寒さで思考が停止し、もはや寝ること以外にすることはないと言わんばかりに布団をぴしっと敷き直し瞼を閉じたその時、ピロン♪と、携帯の音がなった。
「メール?こんな朝っぱらから誰………?」
朝っぱらどころか昼に近づいてくる頃なのだが、それはさておき。メールを開くとそこには
『いったい何分遅れるつもりよ??まさか待ち合わせ時間を忘れてる訳じゃないわよね?』
と書かれていた。待ち合わせ時間?なんの話だ?と思ったが、ふとそこで、視界の端にうつったカレンダーを見ると、そこにはこう書かれていた。
待ち合わせ10:00△□駅 瑠璃奈、水姫ちゃんと買い物に行く。
そして現時刻は10:27である。
「ああぁぁぁあああ!!!しまったあぁぁぁあ!んぎゃー!やばいやばい怒られるううううぅ!!!」
パンをレンジに突っ込み、寝癖でボサボサになった髪をなおし、近くに適当に置いてあるだけの服に着替え、身だしなみを瞬時に整える。
そしてチン♪という音とともに全ての仕度が完了する。見事な手際である。
食パンをくわえながら家を飛び出し駅へと直行する。
思っていたよりも駅は近くで、15分ぐらい走ると駅についた。
これなら自分の部屋まで来てもらえば良かったと思ったが、自分の部屋が他人に見せれたものじゃないと思いだし、すぐにその考えは消した。
駅の入口に見知った顔を見つけ、息を切らしながら走って近づいていく。
「ごめんごめん。ちょっと遅れちゃった。」
「おっそい!!ちょっとどころじゃないじゃない。いつまで待たせるつもりなのよ!?」
「いやぁ〜、申し訳ない。まぁまぁ、二人とも昼飯奢るから許して?1000円以内でならだけど。」
「ほんとに反省してるでしょうね……?まったく、これだから枝音は…。水姬もなんか言ってやってよ。」
「枝音のこの性格は、もうどうしようもないから…何言っても無駄だよ?」
「もう、みんな言いたい放題言ってくれちゃって。そんなこと言ってると置いてくよ〜?」
「あっ、ちょ、ほんとに奢るんでしょうね?ちょっとー!!?」
そんなこんなで私たちは電車で20分ほど掛けて移動し、適当な喫茶店でちょっと早めの昼ごはんを食べながら雑談にふけっていた。
「いやぁ、瑠璃奈のその火傷のある顔、よく目立つからどこにいるかすぐわかって良かったよー。水姬ちゃんだけならちっちゃすぎて気づかなかったわ。」
ちっちゃいという単語を聞いた途端、水姬が鬼の形相でこちらを睨みつけてきた。凄まじい殺気で、黒いオーラが見えそうな勢いである。
「ちっちゃいって、言うな……!!寝惚け白髪の分際で…!!」
「え、ひどっ!?水姬ちゃんそんなこと言うような子だったっけ!?」
「あんたほんっとにデリカシーってのが無いのね……。私は別に良いけど水姬は小柄なの気にしてるんだから……。それに目立つっていうのならあんたの髪も充分目立つわよ。」
「うぅー、すんましぇん。これから気をつけます……。」
「あんた、いっつもそう言うけどまたやらかすわよね………。」
そんな雑談をわいわいと話してるうちに食事も食べ終わったので、お会計を済ませる事となった。
奢る話は誤魔化そうと思ったが誤魔化しきれず、きっちり3人分を払わされた。
2000円の出費はちょっと痛かった……。くっそー、いつか逆に奢らせてもらうからなー。
などと心の中で思っていたその時、水姬ちゃんが何かにつまづいて私とぶつかり、私たちは盛大に転んでしまった。
「あいててて……。水姬ちゃん大丈夫?」
「うん……。大丈夫。」
「なにやってんのよあんた達。はやく行くよ。」
とりあえず特別何かがしたい訳でも無いので、みんなでいろんな店を見て回ることにした。
いくつかのお店を見てまわり、本屋の前を通った時、ふと『奈落によって変わる世界〜滅亡へと走り出す人類〜』という本が目に入った。
「そういやさ、奈落の遺物とやら、最近ニュースであんまし聞かなくなったよね。どうなったんだろ。」
「あっそれ聞いた話だと、日本のある組織が奈落の遺物のいくつかを研究用とかで、秘密裏に日本に持ち込んだらしいよ。それで遺物に関しては少し情報規制がはいってるんだって。」
「え、なにそれ。ヤバくない?確か奈落の遺物を巡って、いくつかの国が戦争してたよね。」
「結構やばい、と思う…。奈落にある遺物は、兵器として活用したらあらゆる組織、国家の戦力比が大きく変わる、から…。」
「こりゃ戦争とか、起こってもおかしくは無いわね。いざって時の逃げる準備ぐらいしときなさいよ?」
「準備っていったって具体的にどうすりゃいいのよ?ていうかあんた達、ただの高校生なのになんでそんな事知ってんのよ?」
「ただの高校生なのは枝音もじゃん。というか、あんたが知らなさすぎるだけよ。」
確かに私が世間に疎いとは言え、なんで国が秘密にしてるようなことを知ってるのよ……と思ったが、あまり興味のある話題でも無かったので、さほど気にとめないことにした。
と、そこでふと違和感に気づいた。さっきよりからなんか服が軽くなったなーなどと思っていたのだが、ポケットの中にあるはずの物がないのだ。
そう、財布が。
「ん?あれ??え!?財布がない!?」
「え、嘘でしょ?」
「たぶん……さっきの喫茶店でこけた時に落としたんじゃ……?」
「えぇぇえ、ちょっと取りに戻ってくるー!」
――――――――――――――――――――
喫茶店に走って戻ると財布はお店の店員さんが預かってくれていた。店員さんがいい人で助かった。
まったく今日はなんかついてないなーなどと思っていると突如、
ドオォオオオン
となにかが爆発するような音と車のブレーキの音が連続して聞こえてきた。
「は?ドォン??」
店の外に出て見ると、目の前の交差点で爆発が起きており、トラックが横転していた。そのあと連続的に爆音が響き渡り、その交差点に武装した集団と、後なんか、巨大な怪物が5匹ほどいた。
「は???」
あまりに常識をかけ離れた出来事に、頭が真っ白になる。
映画の特撮か、ドッキリかな?とも思ったけどそんなものではないのはすぐ分かった。なぜなら、
「グォォアアアアアアアア!!!!!」
とその怪物がその場がビリビリと振動するほど大きな叫び声をあげ、近くの野次馬に襲いかかったのだから。
現実感のないその光景を見て、私と同じように映画の特撮かドッキリだろうと思っていた人達がいっせいに悲鳴をあげ逃げ始める。
「「「うおおおぉぉおあぁぁあああ!!??」」」
大混乱だった。あちこちで爆音が聞こえ、悲鳴が、怒号が街中に響きわたる。
自分も余りにも突然のことで頭が真っ白になるがとにかく走って逃げる。
しばらく走ったあと、とりあえず路地裏に逃げ込み、息を整える。
未だにドンドン、と爆音やさっきの怪物のものと思われる声が遠くの方で聞こえてきた。
「はぁ、はぁ、なに、あれ………。」
分からない。あまりにもわけがわからなくてこれは夢なのかとも思えて来る。いや、いっそ夢であって欲しい。
(ついてないどころか今日は厄日よ……。瑠璃奈や水姬ちゃんは大丈夫かな……。)
と、そこで奥の方から何やら話し声が聞こえてきた。そんなことしてる場合じゃなくて、逃げるべきだと思ったが、何故か身体が何かに吸い痩せられるように自然とそちらの方へと動いてしまう。
奥の方へと慎重に歩いていき、物陰から覗いて見るとそこには何やら厳重そうに鎖や布で巻かれた箱と、その周りに人が数人いた。
「おいおい、正気か…?『天の刹』の連中、こんな街中でおっぱしめやがって……。」
「情報によるとヤツら、街中に百鬼夜行を放ったらしいな。」
「冗談だろ?本当に戦争でも始める気なのか?」
「連中が自重しないのはいつもの事だろう?……だがまぁ、こんな大々的にやられると、はたして完全な情報規制が可能なのか怪しいがな。」
「まったく、かんべんしてくれよ………ん?ちょっとまて、おい!そこに誰かいるのか!?」
と言って男が一人、こちらに近づいてくる。
(げっ、バレた………!?)
まずいと思って逃げようとした、その時、バゴォという音とともに近くの建物の壁が爆ぜ、眼の前に百鬼夜行と呼ばれていたさっきの怪物が吹っ飛んできた。百鬼夜行が飛んで来た方を見ると、
「え!?枝音!?ちょ、あんたこんなとこでなにしてんのよ!?」
真っ赤な炎を纏った剣をもった瑠璃奈がいた。
「え!?瑠璃奈?え、なにしてんの!?てか何それ!?なんでこんな所にいるの??」
「いや、そりゃこっちのセリフよ。なんでこんな所にいるのよ?水姬がメールで逃走経路教えたはずでしょ?っと……。」
ズン、と言う音とともに倒れていた百鬼夜行が起き上がり、こちらに手のようなもので攻撃を仕掛けてくる。瑠璃奈は、それを炎を纏った剣で受けとめ
「とりあえず、あんたは早くここから逃げなさい!こいつらは私達がなんとかするから!」
「それは困りますね。彼女には捕縛命令が出てるので。」
突然、横に、フードを被った全身真っ黒の男が現れ、その手に持っている黒い剣を振り下ろした。
「なっ!?くっ!」
瑠璃奈が百鬼夜行の攻撃を強引に弾き返し、その剣をギリギリのところで受け止める。が、衝撃を抑えきれずに吹き飛び、壁にぶつかって地面に落ちる。
「ガハッ、ゲホッゲホ、ぐ、ぅ……。」
「まったく……なんで『白華』の連中がここにいるんですかね。事前の情報だと遺物を運搬している『研究室』とそれを襲撃する『天の刹』しかいないはずだったんですが……。」
と言いながら、鬱陶しいというふうに剣を適当に振り下ろし、襲いかかろうとしている百鬼夜行を真っ二つに両断する。
「その、力……遺物を、使用してる…わね……。あん…た、いったいどこの、組織よ…?」
「さぁ?どこでしょう?『杯利教』かも知れませんし『研究室』、『天の刹』……もしかしたらあなたと同じ『白華』かも知れませんよ??」
「嘘…おっしゃい、遺物を兵器として、使用できてるのは『白華』と『夜花』と『天の刹』だけ……、どうせ『夜花』からの差し金でしょう……?』
「あら?バレました?じゃあ、まぁ仕方ないので口封じということであなたにはここで死んでもらいましょうか。」
などと男はどうでも良さそうに適当に言って瑠璃奈の心臓を剣で突き刺そうとする。
枝音は何とかしなきければ、と思ったが恐怖で身体が動かない。ただ、見てることしか出来ない。
と、そこで上空から落下してきた黒い物体が、男の頭上で起爆する。
枝音と瑠璃奈が数mほど爆風で吹っ飛ぶ。瓦礫が近くに落ちてくる。周辺の建物はほとんど瓦礫と化してしまっている。
「ちっ、相変わらず『天の刹』は無茶苦茶ですね……!ヤツら、ここに遺物がある事に気づきましたか。」
真上で爆発が起きたにも関わらず、男は相変わらず傷一つなく平然と立っていた。
「まぁいいです。予定は対して変わりません。とりあえず最優先目標である白咲枝音と遺物を回収しましょうか。」
男が、ゆっくりと、こちらに近づいてくる。
でも、何も出来ない。瑠璃奈を連れて逃げるための力も瑠璃奈を守るために戦う力も、私には何も無い。
もう諦めろ。大丈夫だ、瑠璃奈はともかく、お前は連れていかれるだけだ。死ぬことはない。後々、隙を見つけて逃げ出せばいいじゃないか……。
うるさい、黙れ。私は諦めない。大切な友達を見捨てて自分だけが助かる事が出来るか。絶対に諦めるものか。何か……何かがあるはずなんだ……!
そして、横を見ると遺物と呼ばれていた、鎖や布が巻かれた箱が半分程崩れ、布と鎖はほつれた状態で落ちていた。
その中に見える青白く光る刀の柄のようなもの……いや、紛れもない刀の柄は、まるで力が欲しいなら自分をとってみろ。とでも言っているかの様だった。
いや、それはただ自分がそう思いたかっただけかも知れない。
これを手に取れば、瑠璃奈を助けれるだけの力が手に入る……そう、自分が思いたかっただけ。
これを手にしたところで何も無いかも知れない。あるいはもっと最悪な状況になるかも知れない。
でも、それを手に取る以外の選択肢は元よりなくて、その希望に縋る他の選択肢はなくて、
私はそれに向かって駆け出し、手を伸ばす。
私が走って手を伸ばす先に、遺物がある事に気づいたのか、ゆっくりと歩いていた男が舌打ちをして、走り出す。
男の手が私に届く―――、そのコンマ数秒早く――
―――私は、その刀を手に取った―――
いやぁ、3000~4000文字あたりを目安にして書いてるのですが、まさかの5000越えって……読みづらかったらすみません。
今回は日常がら非日常への転換なんですが、なるべく自然な導入にしようと必死で、こんな文字数になってしまいました。
なのに肝心の転換する所は雑な導入になってしまった感があります。ほんとすみません。大目に見てください。
おかしな点などがありましたら教えてください。