第ⅩⅤ話 みるもの。
久しぶりの投稿ですが、今日から少しづつまた更新していきます。
「全く………面倒なことをしてくれるね。君たちは。」
ラカがやれやれといったふうに肩を竦め、鬱陶しそうに目を細める。
「お前には言われたくないな。大人しく棺桶の中で眠っていて欲しかった。」
棺桶、というのはラカが発見された時に眠っていたコールドスリープ装置の事だろう。
まぁ、あれが本当にコールドスリープ装置なのかどうかは今となっては怪しいものがあるが。
「それはこちらのセリフだ。終焉の棺桶で寝ていればいいものを。」
「………そんなに言うんならくれてやる。なに、眠り心地は保証するさ。」
黒音が終焉の力を使い、棺桶をいくつも生み出していく。
触れれば即おしまいの棺桶の雨を巧みに避けながら、しかしラカは特に大きな動きを見せない。
(………やつは何を狙っている?)
やつの意図が分からない。
結婚を儀式に見立て、何かしらの儀式的道具を使用させようとしたのは分かるが、正直ここからの動きが読めない。
あるいは、これも何かしらの時間稼ぎなのか。
こちらから揺さぶって情報を手に入れるか、いや………いっその事、相手の好きなようにさせるか。
このまま膠着状態が続いても何も良いことは無い。
なら、一旦事態を進展させるのも手と言える。
(いや、そもそもここはどこだった……?)
ふと、疑問に思う。
ルーマニア、カルパティア山脈。
ケモノたちの巣窟、例の『祠』とやらがある場所。
だが、ケモノたちの姿はない。
本来ならば、途方もない数がいるはずなのに。
「不完全な覚醒になるが、無理やりにも起動させてもらう。」
何やら不穏なことを呟くラカに、枝音は苛烈な攻撃を繰り広げていく。
「要は起動条件さえ満たせば良いのだ……儀式が不完全あっても、起動が正式な手順でなくとも。」
狂気の表情を見せるラカに、枝音はさらに攻撃を加えようとするが黒音がそれを制止する。
ここは1段階状況を繰り上げる。
こちらは不利になるかもしれないが、このままだと手詰まりだ。
やつを倒す方法が見いだせない以上、やつの目的を理解し、潰す方が先決となる。
「さぁ、鬼が出るか蛇が出るか………?」
―――――――――――
「さて、本気を見せて………。」
「待て瑠璃奈!様子がおかしい。」
ダレスの制止に、瑠璃奈が困惑する。
「様子が変って言ったって………」
ギチギチと機械音を鳴らし、今も尚変化をし続けているHF共がおかしいのは自明だ。
これ以上、何が変だと言うのか。
いや、HFだけではなく、ネメアの衣すらも、姿が変化していく。
「………………というか、これって…………ッッ!!!??」
ネメアの衣と、変化、増幅していくHFの境界が曖昧になり、輪郭が崩れていく。
溶け合い、絡み合い、そして融合していく。
そして、出来上がっていくのは、頭。
そして、HFとネメアの衣の中にいる数十人のパイロットの魂を代償として形が組み上がっていく。
「なっ………ティアラが……!」
ラストが隠し持っていたティアラと指輪が光り輝き始める。
『ケモノ、人、そして黒薔薇、終末を司るこれらを代償とし、我らは彼の者を呼び覚ます。』
最後の最後で、『ネメアの衣』のパイロットの呟きがスピーカーから流される。
何をする気なのか、いや、何が起こっているのか。
しかし、何が起こるのかはわかる。
何故ならば、今目の前にある巨大なそれ。
様々な機械部品が融合して出来上がっていくその頭は。
「……タイプ・ウィデーレだと………?」
それは、人々の終わりを告げる、人類の裁断者の頭なのだから。
――――――――――――
「なるほど、これは………。」
山脈が崩れ落ち、中から巨大な何かが姿を現していく。
いや、その表現は適切ではない。
物理的な山の中ではなく、恐らく次元の裏側、別位相からそれは這い出てきている。
たった今、ダレス達から『タイプ・ウィデーレ』の頭部が姿をあらわしたとの情報が入ってきたが、それはこれの為の手段の1部にしか過ぎないのだろう。
『祠』、そう呼ばれる何かは、祠と言うよりかは墓と行った方が適切かもしれない。
巨大な墓。
そこに眠るのは、一体何者なのか。
「災厄の獣…………か。」
「一体何をトリガーにして……?」
枝音が儀式の内容や、発動条件などを考察しようとするが、黒音がそれを制する。
「それを考えるのは後だ。やつの計画が1段階進んだ今、それを止める方法は2つ。やつを倒すか、災厄の獣を殺すことだ。」
「それは分かってるけど………。」
分かっていても、現状が手詰まりすぎる。
膠着状態が長々と続いている今、真正面からの戦いではなく、何かしら別の方向からのアプローチが必要なのは明らかだ。
「…………何故応えない。」
ふと、ラカがボソリと呟いた。
何かおかしげなその様子に、枝音と黒音は警戒を強める。
「封印は解かれた……少々無茶をしたが、儀式も成功したはずだ……封印さえ解ければ、後もう少しで…………!!」
ラカが狼狽える。
その焦りはみるみるうちに大きくなっていく。
「最後の儀式を、『誓い』の儀式を行いさえすれば………何故だ!何故、応えない!?」
その様子を見て、黒音と枝音はさらに困惑を深める。
「何やら奴さん、相当漁っているようだが?」
「………なるほど、たぶんアレね。」
枝音がその目で見る方向、そこにいる巨大な化け物。
枝音と黒音のその『眼』は、化け物の魂が人間のものだと言うことを写し出していた。
(………HFを使って人間を化け物に変える技術に、人間の魂を持った化け物、か……何となく見え始めてきたな。)
枝音が警戒を解き、そしてゆっくりとラカに近づいていく。
しかし、殺意は消えていない。
今、ここで全てを終わらせる。
「ラカ、その子の魂は還りたいと願っている。あなたの願いも、ここまでよ。」
「黙れっ!ボクは………、あぁ…………どうして………っ!!」
災厄の獣、その姿が崩れていく。
枝音がラカに近づき、白い刀を抜き放つ。
「9つの器が1つ。『空虚』のラカ。覚悟。」
「諦められるかっ!こんなところまで来てっ!!」
ラカが枝音を睨みつけ、叫ぶ。
「ちっ、こちらにはまだウィデーレがある。儀式のために触媒として使い潰したとはいえ、まだ動く。」
言いながら、ラカが銃剣で枝音に切りかかる。
黒音がラカの後ろから大鎌で切り掛る。
「君たちはァっ!!!」
激昂しながらラカは力を解放していく。
その姿は、人のものから醜い何かへと変化していく。
「クソがァっ!!」
全身から肉片が分離し、それぞれが独立に動いて攻撃し始める。
それらの攻撃を弾き、避けながら黒音はラカに近づく。
「醜き姿だな、ラカ。今ここで。終わらせてやろう。」
「まだだっ!まだ僕はッッ!!」
久しぶりです。半年ぶりくらいでしょうか?
今まで何やってたかって言うと普通にPCでゲームして遊んでました(白目)
あとはこの1つ目の小説とこの黒白の心の続きとなる2つ目の小説をすっ飛ばしてまだ投稿すらしてない3つ目の小説の内容を考えてました。
一応、この黒白の心は全部で4つの小説で完結とする予定です。なので、めちゃくちゃ長いです。
この作品の続きである「やがて世界は黒く染まる」もそのうち更新し始めていくのでそちらもよろしくお願いします。
2作品目は3作品目の繋ぎのようなものなのでそこまで中身の濃い内容では無いですが、読んでいただければ幸いです。
また、何故『祠』とかがあるのか、何故、ラカがこの世界に存在しているのかなどの謎は3作品目の序盤で明かされる予定です。
後、「みるもの」とはなんなのかも、そのうち説明があります。