第ⅩⅠ話 その心はわからない。
「お前が、お前が……!」
「私がどうかしたの?」
枝音と水姫は、白華内にいる反乱分子を粛々と処分していた。
抵抗なんてほとんど関係ない。ただの作業だ。
「お前さえいなければぁあ!!」
「だから、私がいなかったらなんなの?」
答えを聞くのも面倒なのか、一瞬で枝音が敵の首を跳ねる。
先程から同じようなことばかり言われている。
お前がいなければこんな事にはならなかった、だとか、この裏切り者め、だとか。
まぁ、恐らく夜花との関係のことを言っているのだろう。
戦っている間は良かった。ウロという共通の敵がいたから、敵同士でも手をとりあえた。
だが、戦いが終わって平和になると、余計なことまで考えるようになる。
例えば地位や富、名声、あるいは、夜花への敵対心。
枝音のような元々何でもなかったような一般の女性がいきなり力を得て上に立ってきた事への嫉妬や、元々敵だった夜花に、同盟関係だから表立って敵対出来ないことへの怒りなど、それはもう様々だ。
たしかに枝音自身、いきなり白華の総司令官という立場になったのはやりすぎだとは思った。
だが、水姫と夢羽は事情があったとはいえ裏切った立場だし、瑠璃奈は副官でいいと言ってる。
じゃあ他にあの時の戦いで多大な戦果をあげ、なおかつこの地位に相応しい人物がいるのかと言えば、居ないのだ。
特に、ウロを討ち取った枝音がなんの立場にも居ない一般兵と同じ扱いというのは大変宜しくない。
黒音が夜花の総帥として座っているのならば、当然の如く枝音がその地位に座る事となる。
その辺は分かっている人たちは分かっているのだが、それを分からないヤツらや、分かっていてもよく思っていない奴らは沢山いる。
「枝音、こんな奴ら、気にしなくても……」
水姫が、枝音が嫌な思いをしているのでは、と思って声をかける。
だが、枝音はそうではなかった。
「お前に俺たちの気持ちが分かるものかぁ!」
「ごめんね、分からないから。」
そう言って、たんたんと、本当に何も分かってなさそうな表情で、キョトンとしながら枝音は敵を屠っていく。
「あなた達が抱いている感情、まだ分からないんだ。敵対心?というか、恨み?みたいなのは分かるんだけど………。」
そう、枝音は本当に分からない。
特に、嫉妬。
正の感情しか持たない枝音は、負の感情しか持たない黒音と感情を共有し合うことでそれがどう言った感情なのか理解している。
過去に色々あったおかげか、負の感情も少しくらいなら湧き出るようになったし、強く枝音の心を揺さぶるような出来事があれば普通に正の感情以外も感じることが出来る。
だが、嫉妬だけはよく分からなかった。
それは、黒音があまり嫉妬しないというのが大きい。
それに黒音だけではなく、枝音の周囲の人間も嫉妬心を燃やすことがほとんどないと言ってもいいので、枝音は嫉妬というものが本当に理解できなかった。
「ま、いいや。理解できないってことはくだらない事だろうし、そんなんで裏切るようなやつは、死んじゃっても仕方ないしね。」
そう言って、簡単に割り切りながら、枝音は反乱分子を粛清していく。
誰が反乱分子なのか、というリストは既に黒音から貰っている。
この際だし裏切り者は根絶やしにしてしまいたいから、後で確認のために読心系の能力者に手伝って貰う必要がありそうだが。
「んー、白華本部内にいるのはこのくらいかなぁ……34人、意外と少なかったね。」
「あ、……うん。」
「えーと、他の………この17人は事情があるんだっけ?」
「そ、捕まえる………。殺すには、しのびない。」
「面倒くさそうだなぁ……とりあえず両手をもげばいっか。水姫は死なないように敵の回復よろしくね。殺していいって言うにはそこまで悪い人たちじゃないらしいし。じゃ、行こっか。」
「外、敵部隊………。」
「あー、外壁にいるんだっけ?」
「攻めてくる。そっちのが、先。」
白華の本部がある新東京の中心から壁の外まではそこそこ距離があるなぁ……と枝音はうんざりする。
「で、ヤツは?」
「泳がせる、らしい。落ちぶれ組織の残党狩りが終わるまで。」
「なるほどね。瑠璃奈はこれを?」
「当然、知らない。目を逸らさせる役目。」
「あくどいねぇ………。」
―――――――――――
「さて、と。」
この世のほとんどの知識がそこにあると言われるクロノフィリア迷宮図書館にてある程度の調べ物を終えた黒音は、次の手を考える。
「後は一般人に紛れ込んでるヤツらや、天の刹、それに京都の連中か………どうするかな……。」
正直、あっちこっちにバラけている敵勢力を一つ一つ潰し、なおかつ一般人と見分ける方法がない。
読心系の能力者を使えば敵かどうかはそれはもう1発で判断出来るが、世界中の人間1人1人にそれを行うなど到底不可能だ。
「ちまちまと情報戦を仕掛けるしかないか。」
やはりこう言った戦いは待ちに徹するのが1番だ。
相手に戦力を小出しさせ、着々とその戦力を削いでいく。
そして、今回の一連の流れで分かったこともある。
こう首尾よく相手の虚をつけているのが何よりの証拠だ。
「敵の親玉は分かってるんだがなぁ……そいつを倒すよりも雑魚を倒す方が面倒くさそうだ。」
全面衝突という形にすれば楽なのだが、こうゲリラみたいな戦法を取られると面倒くさいことこの上ない。
何か簡単に見分けられる方法が…………いや、ある。
「末端の末端、そこら辺の雑魚にさえついている、敵勢力のみについてるものがある。」
思ったより簡単に割り出せそうだな、と黒音はほくそ笑む。
地味な作業だが、末端はこれで削れるだろう………あとは幹部連中だけだ。
「ヤツは必ず事を起こす………そのために必要な儀式が、いや、思考を誘導されているんだったな。」
じゃあ逆にそれを利用させて貰おうか、と黒音はさらに悪い笑みを浮かべる。
善は急げ、黒音はさっさと迷宮図書館からでて枝音のところに向かった。
――――――――――
「という訳で枝音、結婚式をあげよう。」
「ふーん?いいよ。でも、こういうのは今回だけだから。」
黒音の唐突の告白に、枝音が奇妙な返事をする。
そして、周囲は困惑と驚愕のカオスだ。
「えっ、ちょ、いきなり!?」
「ていうか、反乱分子とかの問題が起きてる今やるか!?」
瑠璃奈やワースが驚く反面、ダレスや灰空はどこか納得した様子だ。
「政治的な面から見たらむしろ今だとは思うが?」
「そうですね。夜花と白華の両トップが結婚すれば、両組織の仲は良好であるということが内外ともに示せます。」
「結婚式は一般人は遠慮するが、白華や夜花の兵、そして諸外国の連中はほぼ全員に呼びかけろ。警備は任せる。」
「では、警備システムの計画を練らなければ行けませんね。」
灰空達はもう計画を練り始めている。
そりゃああの『虹色の夜』における英雄の2人が結婚するとなれば、多数の人間が集まるだろう。
「しかし、こんな悠長にしてていいのか?敵だってまだ倒せてるわけじゃないし、花嫁のティアラだって………。」
「問題ない。どうせ姿を現したやつから順に削っていくような『待ち』の戦法になる。気長にやるしかないが、だからこそ士気は高めておきたい。」
「まぁ、アリかナシかで言ったらありだろうな。」
結婚するという話自体は急だったが、各々は話の内容を飲み込んでいく。
そして、1人だけその中で他のメンバーとは違う笑みを浮かべるものがいた。
かくして、様々な思惑が合わさった結婚式が始まる。
どーも、どこ黒です。
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で、次回から大きく事が動きます。アフターストーリーの花嫁動乱篇はあと数話で終わりますね。
その後、2、3話ほどの短編を少し書くつもりなのですが、本編を見返してみるとそれはもう拙い文章が沢山あるわけです。特に最初の頃ですね。
なので、1話からどんどんと書き直して行こうかなって思ってるんですが………気が遠くなりそうです。
それに、続編となる異世界転移編も書いてる所なので本編の修正に関しては当分先になりそうです。
今回の報告はこんな感じです、ではまた今度。
*次は明日のお昼頃に投稿できると思います。