花嫁動乱編第Ⅷ話 祠の場所
「で、これからどうするんだ?」
「どうするも何も………現状では『待ち』だ。打って出るだけの情報がない。それに、ミライのこともある。」
「そう言えば、彼は今どこに?」
「一応、自室で休んでもらってるよ。警護にはリリィがついてる。」
灰空の言葉に、ワースが答える。
すると、黒音がそれに首を傾げる。
「リリィが?と、するとレイリは?」
「レイリはインド方面の戦線で頑張って貰ってる。さすがのアイツも、公私の分別はついてるさ。」
「どうだか。まだ青臭いガキだぞ?脳筋だが、茨木の方がマシだな。」
「あの戦いから5年経ってるんだぞ?あいつだってもう26だ。精神的にも落ち着いてくる頃だろうさ。というか、公私混同で言えばお前の右に出るものは居ないだろ?」
会議と言うよりか、雑談のような雰囲気になってきた所に、女性の係員が入ってきて、ティーカップを配り始める。
出されたティーカップを手に取り、枝音以外の女性陣とワース、夢羽は香りと共に紅茶を味わい、「良い淹れ方だな。」と関心する。
だが、枝音、黒音、ダレス、灰空の4人はあまりいい顔をしなかった。
ちなみに、ウィルはそもそも紅茶に興味なさげである。
「紅茶か……すまんが、珈琲を入れてくれないか?」
「あ、私も。」「俺も。」「自分もお願いします。」
「分かりました。紅茶はお下げしましょうか?」
「いや、せっかく淹れて貰ったんだ、飲むさ。」
黒音の言葉に、他の3人も頷く。
「では、そのように。」
そう言って、女性は会議室から退室していく。
それを見届けてから、瑠璃奈達は不満を漏らす。
「何、あんた紅茶嫌いだったの?」
「いや、どうにも紅茶は苦手でな……まぁ飲むが。」
そう言って、黒音は一瞬のうちにティーカップごと食べてしまった。
そのあまりと言えばあまりの光景に、ほかのメンバーはドン引きする。
「うわぁ………。」
「黒音、紅茶はそうやって飲むものじゃないよ?」
枝音がお小言を言うが、枝音も味わう間もなくさっさと飲み干してしまっているから、あまり人のことは言えないのかもしれない。
もちろん、カップごと食う黒音の行動は論外だが。
「そんなことはわかってる。けどなぁ……味わう必要はないからな。わかんないし。できればさっさと飲んでしまいたい。」
「大いにわかる。やはり珈琲に限るな。」
「自分もです。自分は紅茶と言うより、茶が苦手ですが。」
「まぁ、言ってしまえば葉っぱの出汁だしな。」
黒音達がそんなことを言うのを聞いて、瑠璃奈はちょっとムスッとする。
「それならそっちは黒い豆の出汁でしょ。」
「やれやれ、夜花の総帥殿は紅茶の味もわからんらしい。」
「それなら、枝音だって珈琲派だぞ?」
というか、枝音と黒音の好みとかは全くと言っていい程同じなので、黒音が紅茶嫌いということは枝音もまた同じだという認識でほぼ間違いない。
そんなこんな言いつつ、珈琲派の面々は酸味と苦味の話に移っていく。
「やっぱ酸味ですよねぇ……。」
「は?苦味重視だろ。苦味前振りだわ。」
「「酸味と苦味は3:7でしょ。」」
枝音と黒音が同時に声を上げ、お互いキョトンとして顔を見合わせる。
それな我慢できないと言ったふうに瑠璃奈が笑いを零す。
「何、ほんとあんた達はお似合いね。こんなとこでも見せびらかす必要はないのよ?」
「あーあー、聞こえなーい。」
「………じゃあ、瑠璃奈はどうなんだ?」
黒音のその言葉に、周囲が凍りつく。
完全な地雷た。
瑠璃奈が前々から気にしてた所を踏み抜いていくスタイルだった。
「そりゃ、お前が気にしてることも知ってるけどさ。なんもしなきゃ変わらないだろ?」
「……べ、べつに気にしてなんて……!」
「別にさ、恋人作って結婚して……ってのが幸せとは限らないのは分かってる。独身で自由気ままに過ごしたいってのもわかるし、恋とか愛なんて煩わしいってのもわかる。そこは本人の自由だ。でも、お前はそうじゃないんだろ?」
枝音から前々から相談は受けていた。
枝音は当然女友達の方が多いので、あまり紹介できるような人物が居ない。
だから、黒音なら瑠璃奈にお似合いの人が知り合いにいるのでは?と枝音は黒音に相談していた。
だが、黒音の知り合いは大抵が独身主義かあるいは既に彼女持ちの人が多いので、なかなか上手くいっていない。
「ま、お前が焦るのも分かるけどな……。そこの夢羽だけじゃなく、レイリのやつも舞鬼のやつも結婚するって言ってたしな。ハハ、プロポーズはどうしようとかいっちょ前に悩んでたぜ?笑えるだろ。」
「それはお前、ブーメランってやつだろ。」
ダレスのツッコミに、更に周囲が凍りつく。
枝音と黒音の結婚。そこもまた、完全な地雷だったからだ。
そして、ダレスもまた地雷だとわかっていて突っ込んでいた。
「…………解散だな。うん解散解散。」
何とも言えないような雰囲気で、会議は終わる。
――――――数十分前 ミライの自室近く、休憩所にて。
「えーと、」
「あ、今の間だけ護衛に着くことになった、リリィ・エルジアです。瑠璃奈はああ見えて忙しいから、どうしても外せない用事が出来た時とかに、代わりに護衛するね。」
「あ、よろしくお願いします。」
「どう?ここでの生活。って言っても、私は君のこと全然知らないわけだけど。」
急にインドの方から呼び出されたと思ったら、可愛らしい少年の護衛、と聞かされてリリィは困惑していた。
リリィは自分の能力の価値を正しく把握している。
だからこそ、こんな所に居ていいのか?と疑問に感じていた。
仲間を癒すことができ、敵に必中の攻撃を与えることが出来るリリィの能力は、戦場においてその価値は他とは比較にならない代物だ。
が、仲間を癒すことが出来る、という点においては護衛向きでもある事は事実。
この少年に関しても詳しいことは分からないし、とりあえずリリィは自分なりに情報を集めることにした。
「何一つ不自由はしてないですよ。強いて言うなら………知り合いが誰もいない、って事ですかね。疎外感が、強くて……。」
元軍人とはいえ、変わり果てた世界で、なんの情報も得られずに1人だけなのだ。
黒音や枝音など、知っている人はいても知り合いという訳では無いし、しかも察するに敵から身柄を狙われているのだ、不安にもなる。
「………そっか。……あ、瑠璃奈。」
「やほ、リリィ。護衛ありがと。」
会議室から戻ってきた瑠璃奈が、自販機近くの休憩所にミライとリリィを見つけて挨拶する。
自室にいない様子だったから、どこに行ったの顔少し心配してたのだ。
「それはいいけど、この子は誰なの?」
「んー、結構極秘だと思うんだけど、まぁいっか。」
どうせイギリスやフランス方面に攻めに行くとなるとリリィ達にも声がかかるだろう。
なら、ここで話しても問題ないはずだ。
「―――――てな訳なんだけど。」
「はー、そんな事が。厄介事を持ってくる点に関しては、黒音は相変わらずだね。」
「多分そのうち、声がかかるわよ。敵がいるのはイギリスとか、あっちの方面らしいし。」
「えぇ!?イギリス!?私もうあんな戦闘するのやなんだけど!」
イギリス国土回復作戦における、ドーバー海峡解放作戦の最悪さはそれはもう有名で、前線に参加した兵士たちはドーバー海峡という名前を聞くだけで発作を起こしそうなくらいトラウマになっている。
「心配しなくても、それよりヤバいのがポーランドとロシアの方で上がってるらしいから、それよりは楽よ。」
「ヤバいのって?」
「ルーマニアの鉄門。」
告げられた瑠璃奈の言葉に、リリィが激しく狼狽する。
「まさか、カルパティア山脈を攻略するの!?ウソウソ、絶対いや。行きたくないって!」
カルパティア山脈。
ケモノ達の中でもやばいと評されている奴らの巣窟となっており、地獄だと噂されている場所だ。
特にドナウ川はそれそれはもう名状し難い状態で、かのlevelⅥの百鬼夜行がNo.Ⅹであるツチグモがいるらしい。
他にもカルパティア山脈では『アルラウネ』の目撃情報があったりなど、それはもう魔の巣窟だ。
更に、世界崩壊時に地形が激しく変わっているため、それはもう人類にとってすごく過酷な環境になっている。
控えめに言っても絶対に戦場になどしたくはない。
予想ではここを攻略するならば、3大凶作戦と揶揄されるライン川解放作戦、ドーバー海峡解放作戦、コーカサス山脈解放作戦と並ぶくらいの作戦になるだろうという話だ。
「あの、カルパティア山脈って言いました?」
「え、えぇ。言ったけど……。」
嫌な予感を感じつつも、ミライの言葉を待つ。
「あの、『祠』があるのはそこです。」
ミライのその言葉を聞いて、瑠璃奈達は一気に絶望を感じたのだった。
はい、長々と話し合いがずっと続いてましてね、読者の方々は戦闘は?って言いたくなってくる頃でしょうが今しばらくお待ちを。
そして、皆さん忘れてるでしょうが地形は現代の地球と全く違います。
陸の大まかな形は似てますが、山や川、海岸線など、細かな地形が激しく変わっているので、それを考慮した上でお読みください。
なんてご都合主義なんだ!って思うかもしれませんが、カルパティア山脈とか行ったことないんですよ……あとヨーロッパの地図ムズカシ。
ま、そんなこんなでね、戦場の地形に関しては適当なところがありますが、ご勘弁を。
ということで次回もよろしくぅ!
追記:ブクマしてくれた方々ありがとうございます!