第20話 世界の中へ。
「ウロボロス!行けるか?」
『ようやく出番か。』
グオオオオオオ、と空気を震わせ、世界の隅々にまで轟く咆哮が鳴り響く。
黒音が地面に手をつき、ジャラジャラと出てきた鎖を噛みちぎる。
すると、地面に黒い影が一気に広がり、中から巨大な龍がその姿を現す。
6枚の翼をはためかせ、長い長い尾を口に咥えたその龍は天高く舞い上がっていく。
「ガァァァァァア!!」
咆哮が轟き、放たれた極光が黒音の周囲の敵を蹴散らしていく。
その極光の隙間をくぐり抜けながら、黒音はただひたすら駆け抜ける。
しかし、なるべく手札は伏せておきたい。
極力力は使わず、なおかつワンパターンな戦い方にならないように考えながら、持ちうるカードを切っていく。
「見えた……クソ、邪魔だ!!」
前方に、新東京都市の中心部、今は半壊してしまっている元中央司令塔が見え始める。
その上空には、『世界の扉』がある。
「拒絶する。」
「邪魔をするんじゃぁぁあねぇぇぇえええええ!!!」
拒絶の王、夢羽に斬りかかり、夢羽はそれを捻れた杖のような剣………デザイアで防御する。
「拒絶する。」
「殺す。」
溢れ出る殺意が場の空気を凍りつかせ、尋常ではないプレッシャーが2人から放たれる。
剣を何度も何度も打ち付け合いながら、黒音は夢羽をジリジリと後ろに下げていく。
夢羽の剣の形状が変化し、鞭のようにしなりながら黒音に向かう。
その変則的な剣の軌道を逸らしたり躱したりしつて、黒音は夢羽の腕の1本をもぐ。
「どけって言ってんだクソが!」
黒音が冴詠を鞘から引き抜き、能力を発動する。
右目の色が、白目の部分が赤色に、瞳が金色に染まる。
『いやぁ〜ご主人も久しぶりだね。』
「お前そんな呼び方だったか?」
『さぁ?なにぶん久しぶりだからね。で、殺しちゃうの?』
「ウロに洗脳されるくらいの軟弱者なら用はない、ここで殺して楽にしてやる。」
バキバキ………と黒い翼が黒音の背中から生え始める。
見れば、夢羽もまたその右目は黒音と同じものになっている。
「ここでお別れだ。」
「待ってください!」
後ろから、ストップの声がかかる。
そこに居たのは、親衛隊のメンバー、ロイド・ヴァリウスと狂栖だった。
「なんだ、ロイド。」
「彼は私たちに任せてもらえ無いでしょうか?」
「俺はァ別にどっちでも言いがナ。」
ロイドと狂栖を交互に見てから、黒音は1歩横にずれてから、足を踏み出した。
「好きにしろ。俺はこんなやつと戯れてる時間はない。」
その言葉を放つと、黒音は夢羽の横をすり抜けていく。
それを夢羽が妨害しようとするが、その間にロイドと狂栖が割り込む。
「おっとぉ、テメェの相手は俺様達だぜ?」
「貴方は私たちが相手です。」
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「汝の罪を告げる。」
「汝の救済をここに告げます!」
アフラ・マズダとアンラ・マンユの2人が互いを睨み合う。
現状は、マユの力をアズが相殺している形だ。
100年ぶりの姉妹の再会は、最低なものになりそうだった。
「姉さん……約100年ぶりだと言うのに、連れないね。」
「罪の宣告を。」
「この、バカ姉!」
アンラ・マンユに直接的な攻撃手段は無いに等しい。
そして、それはアフラ・マズダも同じだ。
故に、戦闘はとても地味なものになる。
しかし、アズがずっと幽閉されていた間、マユは長いこと戦ってきていた。
よって、マユは少しぐらいなら剣の扱い方もわかる。
「危ないからその剣をしまってよ!?なんなの!?ヒステリックなの!?」
なので、アズが必死にマユの剣を避けているという無様な光景がそこにはあった。
「はぁ、仲のいい姉妹の再会に茶々を入れるのは嫌なんだどねぇ………。」
そう言ってマユの剣を受け止めたのは、ネアだ。
もちろん、オリジナルの方では無い。
「えっ!?ネアちゃん………?」
アズが、その姿を見て驚く。
そりゃそうだ、彼女の知っているレミ・ネアリーは生きているのかもわからないような状態で生命維持装置に繋がれていたはずだ。
「あー、人違い、です。」
「人違い……?もしかして、あなたは………?」
レミ・ネアリーのクローン達のうちの1人なのではないのか?と聞こうとして止める。
そんなことより、大事なことがあるからだ。
「………いいえ、そんなことより。………私が支援するから、前衛を頼める?」
「ネア、でよろしく。アフラ・マズダさん。」
「アズでいいよ。よろしくね。」
そう言って、2人は正面を向いて構え直す。
そこにはマユを含め、EYEやリバースなどの他の洗脳された人間たちもいた。
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「…………………。」
黒音が、ギィ………と巨大な扉をゆっくりと開けていき、その奥の闇の中へと身を投じていく。
その中には広大な空間が広がっていた。
複数の透明な球体が空中に浮かんでおり、何本もの柱が天に向かってそびえ立っていた。
そして、巨大な目玉とも言えるようなものが空を覆い尽くしていた。
そして、その目の中心にあたる瞳の部分に向かって、他のものとは違う一回り大きな、奇抜な形をした柱がそびえ立っていた。
そして、そこにソレはいた。
「やはり来たね。………決着を付けようか、ミル。」
「てめぇから何もかもを奪い返す。ここでくたばれ、ウロ。」