第17話 耳元に鳴り響くInterlude
「…………ミサイルポッドは弾切れ………でもまだまだ火力に余裕はある。」
【WARNING】
『launcher remaining bullets=0%【Out of ammo】』
『All Weapon remaining bullets=62.3%』
表示される英文や計器類を見ながら、瑠璃奈は呟く。
エネルギー兵装などは心配しなくてもいいが、やはり実弾は弾切れの心配がある。
残り残弾数の割合は約62%、まだまだ半分以上残っている。
『瑠璃奈、そんなの気にしたところで仕方ないよ。結局は弾切れはいつか起きちゃうんだし。適切に使ってるから問題ないでしょ。』
「分かってるよ、黒瑠璃。………それでも気になっちゃうし、仕方ないよ。」
気にしている余裕があるのかと言われれば否だが、やはり気にせずには居られない。
と、エネルギーの再充填と排熱が完了した知らせが、瑠璃奈の横画面に映し出される。
「射線上にいる味方は待避!!」
トリガーを引くと同時、眩い光が敵を飲み込みながら第3防壁に直撃、貫通してさらに第2結界にぶち当たる。
ビシ、ビシ、と確実にダメージを与えた後、光が収まっていく。
導き出された計算結果から、結界を1枚破壊するのにはおよそ2~3回ほど、全く同じ位置に霊壊式エネルギー砲改を当てる必要がある。
黒瑠璃からのサポートもうつつ、なんとか1枚は破壊したものの………。
「敵からの攻撃が苛烈になってきてるわね………。」
迎撃システムの殆どは実弾のため、弾切れを起こせば防御用の結界に任せるしかない。
だが、いくら防御結界とはいえ、キャパシティを超えるダメージを喰らえば破壊されてしまう。
果たして、この機体が持つかどうか………。
『HEAT EXHAUST EQUIPMENT:【cooling complete】』
『Sephirothic tree Furnace:【overload practicable】』
『Sephirothic tree energy cannon custom:【Energy filling rate=100%】』
3つの英文が、瑠璃奈の横の画面に映し出される。
砲身の冷却完了、霊壊炉の過負荷起動可能、霊壊式エネルギー砲改のエネルギー充填率100%を指し示すそれらを見て、瑠璃奈が警告を通信機に向かって放つ。
「射線上の味方は全員待避!!」
3発目のエネルギー砲が放たれ、結界に当たる。
が、まだ壊れる様子はない。
前方には、能力を使用し始めている敵が大量に確認できていた。
どうやら、まだまだ長い戦いになりそうだ、と瑠璃奈はため息を吐いた………
――――――――――――――――――――
「起動。」
黒音の言葉と共に、左手の刀が稲妻を纏い、右手の剣が炎を纏い始める。
大体の敵は瞬殺できるが、こう長く戦闘していると、どうしてもある程度の敵は能力を十全に発揮できるようになってしまう………まぁつまり、黒音との戦闘に慣れてしまうのだ。
だが、大抵は攻撃される前に瞬殺できる。
既に第1防壁を抜け、第2結界の手前まで来ている。
しかし、ここから先は今までのようには行かないだろう。
今のところ、あまり強い能力者やワルキューレは出てきていない。
目の前にいる12メートルはあろう異形だって、ただ面倒なだけで大したことは無い。
目にも止まらぬ速さで抜かれた刀が、敵を7回切りつける。
「七殺爆裂。」
この刀の固有能力、7回切って相手を内側から爆発させる能力。
異形が内側から膨れ上がり、爆発四散する。
もう少しで第2結界にたどり着く。
だが、まだ結界は壊されていない。
「…………瑠璃奈、早くしろ。」
『分かってるわよ!!こっちも敵の妨害がうっとおしいの!射線上の味方は待避!!』
いうやいなや、すぐさまエネルギー砲が放たれ、結界にぶち当たる。
衝撃波が吹き荒れ、地面がめくれ上がり、結界外にある数少ない建物が溶けて消滅する。
ガラスの砕け散るのような音と共に、第2結界が崩落していき、第2防壁も続けて破壊されていく。
そして、その向こう側から大量の機械が現れた。
「…………HFか。内部に生体反応は無し……ワルキューレの情報処理システム……つまり擬似生体脳だけを搭載した自立駆動タイプか。」
人工的に作った脳だけを情報処理用に搭載する。
なんとも趣味の悪い話だが、一般人の脳ミソが使われていないだけマシか、と黒音はどうでもよさげに考える。
「ガラクタどもが。」
人と違って怯んだりしないから面倒になったな、と思いつつ、黒音は敵機体の脚部を中心にして攻撃する。
正面に現れた少し大型の機体を氷漬けにして破壊する。
撹乱型なのか、すこし座標を把握するのに手間取った。
が、機械ならば1度視てしまえば終わりだ。
すぐにでも右目の力で物質を書き換えられる。
氷の彫刻へと変わってしまった機体をバラバラに砕き、前に出た瞬間、異様な程に大きな砲身が、その奥に異様な光を輝かせながらこちらを狙っていた。
陽電子砲搭載型。
それに気づいた黒音が、慌てて右手を前に突きだす。
「――――っ!夕焼けの空!」
障壁が黒音の目の前に展開され、迫り来る光の攻撃を尽く弾いて防ぐ。
弾かれた光が、周囲のあらゆるものを消し飛ばしながら黒音の側面を駆け抜けていく。
光が、収まった瞬間、さらに敵内部のエネルギー反応が高まる。
「連射型か……どういう仕組みをしてやがるんだ。」
瑠璃奈の持つ『ネメアの衣II』ほどでは無いが、この威力を連射できるというのはかなりの脅威だ。
足元の影から巨大な筒を取り出す。
Acht-Achtと呼ばれるその武器は、高射砲であり、本来は生身の人間が使うような武器ではない。
しかも、当然中身は魔改造されている。
8.8cm FlaK 2025 Typ Flaschenfrucht
2025年頃に黒音が開発、配備したもので、88口径の弾丸を電磁加速して打ち出すという馬鹿げた代物だ。
しかし、黒音が開発するものにしては珍しく有用性がコストと見合っている事からアンティオキアの1部防衛システムや、1部の戦闘において使用されることとなった。
ちなみに、本当はビーム兵器並の威力を出したかったらしいが、やはりアハトアハトは実弾兵器でなければならない、という考えのせいで割とまともなものが出来たという経緯である。
しかし、そこは黒音、きちんと魔改造された頭のおかしいものも作っている。
8.8cm FlaK 2027 Typ klang der nacht
初めて実用化された能力と科学の複合兵器。
これまでにも能力を科学的に用いた武器などは使われていたが、本格的に科学と異能を混ぜ合わせた兵器は西暦に置いてこれが世界初となる。
その内容は、前後の空間と空間を接続し、弾丸を永遠に電磁加速し続けるというものだ。
とはいえ、理論が無茶苦茶な上に構造も無茶苦茶なため、1発撃てば砲身が吹き飛ぶ。
さらに、永遠に加速できると言っても、砲身の耐久面の問題もあるため、弾丸を加速するのにも限界がある。
そもそも、この理論で行くとこの長い砲身すら必要ないのだが………まぁそこはロマンなんだそうだ。
「吹き飛べ。」
およそ発砲音とは思えないような轟音が鳴り響き、衝撃波が吹き荒れる。
放たれた弾丸は真っ直ぐ陽電子砲搭載型を貫き、ぐちゃぐちゃに破壊する。
だけでは飽き足らず、さらにはその背後にいたHFを次々と貫通して破壊していく。
最終的には弾丸がその威力に耐えきれずに砕け、さらに摩擦熱で溶けて消失。
かなりのダメージを敵側に与えたその威力は凄まじいものである。
とはいえ、連射はできないし、隙も大きいからあまり頼ることはできない。
既に砲身は熱で溶けて折れ曲がり、色々なパーツにヒビが入って砕け散っている。
前方にはガチャガチャと音を鳴らしながらアホみたいな数のHFがわんさか湧いている。
とりあえず黒音は使い物にならなくなった砲身を捨て、薙刀を取り出す。
その薙刀は、片方の刃からは氷が、もう片方の刃からは炎が吹き出ていた。
――――――――――――
「第2防壁も予定通り突破………後は最終結界のみ……っ!?」
【Alert】
『enemy in sight』
『Detect:high energy』
【WARNING】【警告】【WARNING】
『Detect:energy type=Nothingness』
『《data-base Access》comparison complete:name=【type・videre】』
突如、警告表示が次々と画面に現れアラート音が鳴り響く。
「何事!?」
『高エネルギー反応を確認、これは………地面の下からだ!!』
地面がひび割れ、機械の一部が次々と姿をあらわす。
地面の中だけでなく、空間に一瞬目玉模様が浮かび上がった後、ガラスが砕け散るような音と共に機械パーツが出現する。
「なんじゃありゃ……………。」
『識別反応確認、なんだこれ……タイプ・ウィデーレ?』
機械部品が次々と組み合わさっていき、ひとつの体を形成していく。
そして、地面の崩落はさらに進んでいき、その大きさはさらに増大していく。
「待て、待って待って!?大きさが!おかしい!!どれだけの…………っ!?」
目測だけで、200メートル以上の大きさがある。
『ネメアの衣II』もかなりの大きさだが、それをゆうに超えている。
そして、機械部品で出来た目玉模様のようなものが、敵の頭上に浮遊し、起動する。
【Alert】
『Detect:electromagnetic pulse』
【-ERROR-】
『ABNORMALITY DETECTING SYSTEM=【Start-up】』
『An error occurred in system』
『AUTOMATIC RESTORATION SYSTEM FOR ERROR=【failure】』
「なになに今度は何!?」
『………ザ……強力な……ザザッ…電磁波攻……を確………通信……妨害………ザザザ』
アンティオキアから通信が入るも、ノイズだらけで上手く聞き取れない。
「通信妨害………!…システムに深刻なエラー?敵の強力なEMP攻撃………きゃっ!!?」
爆音と共に、機体が大きく揺れ動く。
近くの機材に頭をぶつけ、痛みに少しだけ涙を流しながらも計器類を見る。
「機体システムにエラーを確認。……敵の妨害電波のせいで、迎撃対象を上手く認識できなくなった………!」
システムのエラーの修復には失敗。
敵ミサイル攻撃を光学センサが捉えるも、他のセンサー類は全滅。迎撃はほぼほぼ不可能。
つまり、防御は結界に依存する形となる。
しかも、あらゆるセンサが使えなくなったということは、射撃照準もオートからマニュアルに切り替えられる。
「空間歪曲結界は物理的な攻撃……銃弾やエネルギー弾などしか防げない……クソ、痛いところを突かれたわね………!!」
目の前の巨体を睨みつけながら、瑠璃奈は歯噛みする。
―――――夜明けは、まだまだ遠い