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黒白の心。  作者: どこかの黒猫
第8章 未来に希望を持つために。
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第8話 凍てつく黒


『ネア、海上にコクネがいる。』


「位置はこちらも把握しているわ。」


『殺さない方針で行くが、説得が無理だと判断すれば殺して構わない………いや、逆だな。殺してる途中で正気に戻ったなら殺さなくてもいい。』


「了解。」


凍りついた海の上にいるコクネを見ながら、ネアは立ち上がる。

思い切り足を踏みしめ、影を翼のように背中に展開し、飛び上がる。

一気に上空に飛び上がり、そしてコクネの目の前にふわりと着地する。


「久しぶりね。コクネ。」


「…………。」


返事はない。

ただ氷で作った剣を両手に携え、どこか異質な殺気をネアに向けて放っている。


「お前に言うことは何も無い。ここで死んでくれ。」


そういうコクネの目は虚ろだ。

どう見ても正気では無い。


冴詠に操られているのか、だがそれにしてはどこかおかしい。

まるで彼女自信に意思がないようである。

それでいて、暗くおどろおどろしい感情だけは溢れだしている。


「冴詠の負の感情を増幅させる習性を利用しているの……?」


冴詠の負の感情を暴走させる特性、それを利用して『ネアを殺す』という意思だけを持たせた傀儡にしているのではないか?


元々、コクネのネアへの八つ当たりはなんの根拠も無いものだと本人も分かっているはずで、天ノ刹の連中はそれを利用していたはずだった。


なら、その行きつく先がこれなのだろう。

自分の感情から目を逸らし続け、他者からそれを利用された成れの果て。


ただの傀儡と化したコクネを見つつ、ネアは影を腕に纏わせる。


コクネが、周囲に氷の槍を作って放つ。

それらを影が飲み込み、防御する。

そして、氷の槍を捌きつつ、コクネの懐に潜りこみ、影で黒く覆われた腕を振るう。


ネアの手がコクネの左手を掠り、コクネの腕がちぎれ飛ぶ。

目の前にゆっくりと舞い散る赤い液体を見ながら、ネアは思う。


(私も、あのまま逃げ続けてたらこうなってたのかな………?)


考えても仕方の無いことだ。

だが、どうしても考えられずにはいられない。


自分は、過去の己から逃げていた。

自分がレミ・ネアリーの偽物であるという事実を認めるのが怖くて、恐ろしくて、ただひたすら目を逸らし続けていた。


あのまま逃げ続けてたら、もしかしたら自分もこうなっていたのかもしれない。


(だったら、私がやるべき事はひとつ。)


もしかしたら、黒音はこれを見越して私をコクネに宛がったのかもしれない。

似たもの同士、過去に完全に決着を付けるために。

馬鹿な私に打ち勝つために。


「コクネ………哀れなアンタを、救い出してやろうじゃない。」


影が四方からコクネに襲いかかり、コクネはそれを凍てつかせようとするが影は凍らない。

地面から大量の氷の針山を突き出して攻撃し、ネアはバク転をしながら回避、同時に投げられた氷の針も影でたたき落とす。


「いでよ、私の氷の城。雪は降り、世界は黒く染まりゆく。」


巨大な氷の城がコクネの背後に展開され初め、コクネの足元から氷の塔がせりあがる。

空からは黒い雪が降り始め、凍りついた海の上に黒い雪が降り積もる。


ネアは影を傘のように周囲に展開し、黒い雪から身を守る。

城の建物と建物をジャンプしながら駆け上がり、コクネのいる塔の上へと登っていく。


「とった!」


氷の塔そのものを全て影で侵食し、コクネを逃げ場がないほどの数の影の針で四方を覆い尽くす。


しかし


「時は凍てつき、世界は止まる。」


時間が、止まった。


「加速の懐中時計………!!」


黒音から貰っていたレプリカの加速の懐中時計を使って、ネアだけは動けるようにする。

影はさすがに動かす余裕は無いが、時が再始動する4秒後まで自分の身を守るために距離を摂る。


コクネが動けるのは1秒半のみ。

その間にできることをする。


「キミも動けるのか………ウザイな…………空間氷結。」


その瞬間、ネアの体がピクリとも動かなくなる。

だが、意識はあるようだ。


(これは……、私の体を………いや、全ての空間にあるものを固定したのか!)


コクネが、氷の槍を周囲に大量に展開し、放とうとした瞬間、時間が動き出し、空間氷結も解除される。

時間氷結が使えるのは4秒間、空間氷結は1秒と少しのようだ。

足を影で覆い、形を獣のそれに変えて高速で移動しながら、氷の槍を捌いていく。


「ちょこまかと………!」


なかなか狙いを定められずに、コクネが焦れる。

やはり、時間氷結や空間氷結といった能力は連続発動が不可能のようだ。


「全て呑み込め!!」


足元から影を一気に伸ばして氷の城を飲み込んでいく。

さらに、影が全身を覆い尽くし始め、姿が異形のそれへと変わる。


(見た目が真っ黒の化け物になるからあんまし使いたくないんだけどっ………と!)


この状態になると、身体性能と防御力が格段に上がる。

防御力に至っては跳ね上がるなどという話ではなく、あらゆる攻撃を飲み込んでしまう。


足の裏などの接地面などが弱点というわけでもなく、ほぼ完璧な防御となる。


とはいえ、遠距離攻撃が出来なくなり、中距離攻撃もやりにくくなるという欠点もあるのだが、元々ネアは影を四肢に覆って扱う肉弾戦が得意だ。

あまり影響は無い。


この状態ならたとえ時を止められたとしても問題は無い。

空間を固定されたらさすがにどうしようもないとは思うが、1秒と少し程度なら、この防御を崩せる暇なんてないだろうしどうとでもなる。


たがらこの形態も長くは持たない。

持続時間はせいぜい5分ほど。

その間にケリをつけなければならない。


「ふん、よゆー。」


一気に速度上げ、縦横無尽に駆け巡る。


空間を凍結させると言っても、何かしら弱点はあるはずだ。

思いつく中で最も単純なのは………


「固定する対象を認識していないとダメ………とかかな!?」


たぶんだが、空間氷結を行使するには固定する空間内にある全てのものを認識してとダメだ。

そして、その認識方法はおそらく……


「この黒い雪!」


今も尚海の上に降り注ぐ黒き雪、これが範囲内にあるあらゆるものを認識するために使われているものだろう。

逆に、1箇所だけ認識できない場所があっても不自然だ。

それはそれで逆に把握されてしまう。


今のネアがその状態だ。

ならば、範囲内の全てを分からなくしてやればいい。


影を頭上に展開し、さらに大きく引き伸ばす。

今の状態だと体から離れれば離れるほど影の制御は難しく、行使しにくくなるがそれでも何とか制御する。


「…………面倒な事を。」


ギリギリと奥歯をかみ締め、憎らしげにネアに睨みつける。

ネアがいつまでも直接的な攻撃を行わず、ちまちまと削り取るかのような戦いをしているのには理由がある。


元々ネアはコクネを殺す気は無い。

彼女もまた、実験による被害者、それに彼女自身の意思でこんなことをやっている訳では無い。

洗脳や冴詠の力の弊害が今のコクネを呪詛のように縛り上げている。


それに、ネアは確信していることがあった。

コクネの今の状態は、そう長く持たない。

コクネの意志を冴詠が歪曲させて操り、それをさらに薬物や何かしらの能力、そして機械などで操っているのだ。


「はぁ、はぁ………いつまでも……ちょこまかと………!」


かなり正気が戻ってきているように思える。

だが、そんなのは一時的なものだ。

洗脳の効力が切れたなら次は冴詠に肉体を乗っ取られる。

現に今、コクネの両目は赤く染まり、顔にも黒い影が侵食し始めている。


だから、


「まずは1つ。」


ドスッと注射器のアンプルをコクネの首に挿し込む。

中の薬品が体内に注入されると同時、コクネの左目の赤色が薄くなり、侵食していた影が少し引く。


「これで少しは理性が戻ったかしら?」


「なんの、つもり…………?」


「なに、あんたに少し付き合って上げるだけよ。」


こちらを睨みつけてくるコクネを見ながら、ネアは余裕の笑みで言う。

すでに体中に纏った影は解除され始めているが、さして問題ではない。


「あんたも本当は分かってるんでしょ。私にあたっても、何の解決にもならないって。あんたの強さを証明しても、何も変わりはしないって。」


「………………黙れ。」


「だから、あんたの話に付き合ってあげる。聞かせて?レミ・ネアリーのこと。」


「黙れぇぇぇえええ!!」


コクネが感情を爆発させ、周囲に氷山が大量に作り出され、あたり一体が次々と氷へ置き変わっていく。


「気の済むまで付き合ってあげる。さぁ、かかってきなさい!」


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