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黒白の心。  作者: どこかの黒猫
第8章 未来に希望を持つために。
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第2話 戦いの前日


「まさか、3日でここまで仕上げるとはな………。」


上空には常に輸送機が何百機も飛び交い、海上も護衛艦やら輸送艦やらが何百隻も移動している。


新東京の市民は全て別の都市へと移動済みで、今は新東京やその周囲の戦力増強及び要塞化を推し進めている。


そして今、黒音が上空を見上げると、そこには復活させた空中要塞アンティオキアが浮かんでいた。


そんな黒音に、後ろから枝音が声をかける。


「凄い人の量よね。………これから、沢山死ぬんだよね。」


「おいおい、総司令官足るものが、そんな悲壮面すんなって。もっとどっしりと構えてろ。」


どこか重い表情の枝音に、黒音は優しく声をかける。


「お前はよくやってくれてる。夜花と白華が協力体制を敷くことにもっと反対意見が募ると思っていたが、言うほど反発は少なかった。」


実際にはもっと反発が大きいと思っていた。

昨日まで命をかけた殺し合いをしていたのだ。無理もない。

つのる恨みもあるだろうし、下手すれば誰かの仇ということもありうる。


最初から協力関係でいたならば、こんなことにはならなかったのだろう。

だが、それでは意味が無い。

命をかけた戦いを経験していない状態では、とてもウロには勝てない。

故に、本物の殺し合いをしてもらう必要があった。


とはいえ、割り切れないことの方が大きいだろう。

兵士たちの不満は大きかったはずだ。

それを、一つ一つ丁寧に説得し、話を聞いてやったのが枝音とその仲間達だ。


「俺の部下は全員が笑って死ねる。そういう連中だからだ。だが、お前のとこはそうじゃない。なら、兵士たちの士気を纏めるのはお前の役目だ。そして、お前はそれを俺たちの想像以上に上手くやってくれている。」


「まぁ、前の世界では人類解放軍の副官やってたわけだからね………。」


世界そのものと戦うことになった人類は、各々が協力関係を築き、ひとつの巨大な軍を作り上げた。

その代表として祭り上げられたのがクロヤこと黒音であり、その副官をしていたのがコハクこと枝音である。


「俺も一応、あの頃の記憶は戻った。まだ整理しきれてないけどな。こればっかりは、ダレスに感謝だな。」


「う、あの………その、」


「なんだ?」


頬を赤らめて何やらぶつぶつと呟く枝音に、黒音は怪訝そうに眉をひそめる。

何かおかしな事でもあったのか。


「あのぉ………覚えてる?」


「何を?」


「いやぁ………その………。」


何やら歯切れが悪い。

要領を得ない枝音の様子に焦れったくなってきたが、言葉の続きを待つ。


「その………キス………したよね?」


「……………………………………あぁ。」


返事までに異様なほどの間があった。

が、どうやら覚えているらしい。

黒音はどこか気まずそうに目を必死で逸らしている。


「………………で、どうだった?」


「…………………どう、とは?」


「…………………。」


「…………………。」


双方が何も言葉を発せないまま、沈黙があたりを支配する。

とはいえ、静寂とは程遠い。

未だに要塞の建築のための工事音や、輸送機の音などがうるさいほど鳴り響いている。


「あー!もう!!」


突然、枝音が叫び声を上げる。

その顔は耳まで真っ赤だ。


「私は!あんたの事が好き!………だと、思う。たぶん。」


たぶんなんだ。と思ったが、口には出さない。

やぶ蛇だと思ったからだ。


それに、枝音という人格は人生が波乱万丈過ぎて、明確に恋というものを認識出来ていない。

とはいえ、コハクの記憶も、ミアの記憶においても恋心というものを自覚している。

それらに照らし合わせれば、枝音のこの胸の高まりも恋と呼べるのだろう。


だが、結局はこれが恋だという確証はない。

だから、たぶん、などと言ってしまうのだろう。


「で、あんたは?あんたはどうなのよ!」


枝音の告白に、黒音が応える。

まぁ、答えなど最初から決まっているようなものだ。

自分の6万年近い人生の全ては、彼女のために捧げてきたのだから。


「……………それは俺も「いや、やっぱ言わなくていいわ。」………は?」


黒音の言葉に被せて枝音が言う。

その言葉に、黒音がはぃ?という言葉を顔全体で表現しているかのような表情になる。


「ここでこんな事すると、なんかフラグ見たいじゃん?」


「はぁ。」


「だから、返事は、全てが終わってから!この戦いが終わったら聞かせてね!」


そっちの方がフラグではなかろうか?と黒音は思った。

というか、遮られた俺の気持ちになってみろ、と思って少し不機嫌になった。

まぁ、それはそれとして。


「…………綺麗だな。」


話題転換のために、夕暮れを指さして言う。


「…………うん。」


確かに、その光景はすごく美しく、綺麗だった。

それを見て、枝音もさっぱりしたような気分になる。


「………あーあ、世界を守る戦いかぁ………。」


「急にどうした?」


黒音が尋ねると、枝音はなんでもない、と言ったふうに首を横に振る。


「いや、前は世界を相手に戦ってたのに、今度は世界を守るためかぁって。」


「………俺たちは、俺たちの大切なものを守るために戦ってきた。それは今も昔も何も変わりはしない。だけど、そうだな。」


少し考えこむように下を向いて、どこか遠くを視るような瞳の黒音は、再び枝音の方に顔を向けて言う。


「この戦いが終わっても、俺の目的は果たされる訳じゃない。」


「…………どうして?」


「あいつらに、平和な世界を見せてやらなきゃ行けないからな。」


そのアイツらっていうのが誰なのかすぐに理解して、枝音は辛そうな表情になる。

そんな枝音の内心を察したのか、黒音は笑って応える。


「だからそんな顔するなって………何、お前のために6万年も費やしたんだ、その後はアイツらのために何千年費やしても良いだろうさ。」


そう笑っていう黒音を見て、枝音は一瞬ドキッとする。

やっぱり、新鮮な気持ちだ。


「それに、まずは目の前のことだ。」


突然、電子音が辺りに鳴り響く。

黒音が通信回線を開くと、若い男の声が聞こえてきた。


『閣下、死神協会の使者が来てます。お話を伺いたいという事なので、作戦本部C棟の7階の客室まで来てください。今どちらに?』


「今は海上都市の第27防衛施設だ、すぐに向かう。………それにしても、やっと来たのか。連中、危機感が薄いんじゃないか?………枝音、またな。」


「うん、また。」


そう言って黒音はどこかに向かう。

予定にはまだ少し空きのある枝音は散歩でもしようかな、と屋外を少し歩きはじめる。


少し歩くと、HFを運搬する列車が大量に見えた。

その少し手前には、車両がいくつも止まっていて、クレーンなどでコンテナを大量に積み込んでいた。

どうやら、物資運搬施設のようだ。


色々眺めていると、瑠璃奈の姿が目に入った。

何やら、小さい女の子と、しわくちゃのおじいちゃんの2人組と話し合っている。


「マジで言ってる!?これを私が使うの!?本気?」


「お前さんにしか使えんだろう。作ったからには使ってもらわんと困る。」


「いやいや、『ネメアの衣II』って言ったって………どこがIIよ!?前の3倍くらいの大きさがあるじゃない!?兵装類もおかしいでしょ!」


「もともと私と黒音が、空中要塞などを個人で制圧できるように設計したものよ。まぁ、何世代前か知んないけどそこのおじいちゃんがそれをさらに魔改造したからね。常人では30%も性能を発揮できないとされてたけど、あんたなら100%発揮できる。」


「扱いきれるわけないでしょ………何この超兵器………この武装は何よ?」


「エナジードレインよ。敵味方関係なしに半径1キロメートル以内の特定のエネルギーを吸収できる。だから、崩壊エネルギー砲を撃ってもエネルギーを再充填するまでにタイムロスがほぼない。砲身を冷却するだけですぐに撃てるようになるわ。」


「はぁ!?なにそれ!?じゃあこっちは?」


「それはね…………。」


などと、ワイワイ言い合っているようだ。

さらにてくてくと歩いていくと、レイリとリリィがなんかいい感じだったので、とりあえずさっさと通り過ぎた。


舞鬼と羅鳴がその先では楽しそうに談話していて、ネアは屋上で何やら昼寝しているようだった。


一通り散歩した後、最終チェックがあるだとかで枝音も通信で呼び出された。



決戦前の夜は、とても静かだった。








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