第1話 そう、今こそ始まりの刻。
「ここまで来た。ついに、ここまで。」
その言葉を発端として、黒音の事情説明と、これからについてが語られ始める。
「ここにいる奴らはあらかた事情は理解していると思う。俺の目的、計画の内容についてもな。」
作戦会議室の中にいるのは、白華の上層部から、夜花のメンバーの中核に当たる人物、そして9心王達だ。
当然、彼らは事のあらましは知っている。
知られるように、分かるようにしたからだ。
「12回目、ここに来てようやっと俺は前に進んだ。ここから先、どうなるかは俺には分からない。だが、未来はどうなるか分からないなんて大口叩いた奴が味方………それも切り札と来たもんだ。まぁ、そこまで悲観はしていない。」
「そんなことより、」
瑠璃奈が、突然話に割ってはいる。
そして、いかにも不服というか、納得いかない、と言ったように黒音を睨みつける。
「今まで敵だったやつがなんで当たり前のようにここにいんのよ。しかも、なんか仕切ってるし。」
「ちょ、瑠璃奈………。」
ネアがそんな瑠璃奈を宥めに入る。
とはいえ、瑠璃奈の疑問も最もだろう。
白華がおいそれと夜花と協力関係を築けるとも思えない。
なにせ、ついこの間まで敵だったからだ。
特に、黒音といえばその総大将だ。
あまりよく思わない人物は多いだろう。
「ん?元々、白華も夜花も俺が作ったんだがなぁ……まぁ、仕切ると言うよりは説明を円滑にするための司会だわな。指揮は別のやつにとって貰う。」
確かに、ここでいちいち突っかかっていてもしょうがない。
瑠璃奈は仕方ないか、と言ったように渋々ひき下がる。
「んで、まずは白華の総司令官を誰にするかだな!」
「決まってんじゃん。」
と、ほぼ全員が口にする。
その視線は、枝音の方を向いていた。
「じゃ、総司令官は枝音で決定………っと。んで、次に決めなきゃならんのが……」
「ちょっとまてぇぇえええーいい!!?」
たまらず、枝音が突っ込みを入れる。
このまま黙っていたら何もしないうちに全てが決まってしまいそうだ。
「どゆこと!?私ムリだよ!?」
「水銀の姫がなにいってんだか。」
「人間側の英雄さんでしょ。」
「ノワールが出てきた時に指揮とれてたけどね。」
「そもそも、小隊の隊長なわけだし。」
「てか、枝音が1番この中で事情に詳しい。」
「しかもトップに据えても特に反論来ないと思うし。」
次々に色んな人物から声が浴びせられる。
「え、え、」と枝音が戸惑っているうちに、話はトントン拍子に纏まってしまった。
「という諸々の理由より、枝音が総大将で決定な?はい決まり!!この話は終わり!」
「ぇ、ちょ、えぇ〜…………。」
なんの反論も許さないまま、決まってしまった。
理不尽だ!と叫ぶものの誰にも取り合ってはもらえず、(´;ω;`)みたいな顔で部屋の隅で体育座りをする。
「んで、具体的な戦場は決めておかなきゃ行けない。陣の配置は大切だ。それと、俺が集めていたウロの戦力も公開しておく。………アンティオキアはどうなってる?」
「エネルギーは既に保管済み、あとは起動するだけだ。」
「なら、すぐにでも起動準備に取り掛かってくれ。」
それを聞いて、数人が会議室から出て通信機器を手に取りはじめる。
そして、黒音は正面のモニターに天ノ刹のメンバーがそれぞれリストアップされた資料を映し出し、説明する。
「天ノ刹の中でも鬱陶しいのが黒薔薇の実験体どもだ。もはや人とは呼べなくなった化け物でもそれなりの力を発揮するし、成功体など鬱陶しいにも程がある。」
そして、その中でも数人を拡大して画面に表示する。
「とりあえず、イザナミは瑠璃奈、コクネはネア、俺のパチモンは………まぁ、俺か枝音だな。他の黒薔薇は特筆する所はないから、各々が遭遇し次第、適当に割り振ってくれ。」
瑠璃奈は、なんであんたに戦う相手を決められなきゃならないのか、とは思ったが、イザナミには一度辛酸をなめさせられている。
リベンジするにはちょうど良かった。
と、黒音が影の中から何かを取り出して、瑠璃奈に投げて渡す。
「瑠璃奈……ほれ。」
「なによ………?………っとと。」
突然投げ渡された物を手に取ると、それはひとつの剣と桃の果実だった。
「イザナミを倒すのに役立つはずだ。持っとけ。」
「これが……?………わかった。」
具体的になんの役にたつのかは分からないが、巫山戯ている様子では無い。
桃の果実も、一見巫山戯ているようにしか思えないが、黒瑠璃が特に何も言わないところを見ると重要なアイテムなのだろう。
いや、自分にはこれがなんの役に立つのか全くわからないが。
「んで、ネアの方だが………。」
「正直、やだ。逆恨み女の相手なんかしたくないー。」
「そう言うな。実験体としての自分の過去にケリを付けて来るって意味でも、ヤツの相手はお前だ。それに、コクネはこちら側に引き込めそうでもあるしな。」
とはいえ、ネアの言い分も最もだ。
自分の認めたくない部分を認め、自分の過去を割り切った彼女は、目を逸らし続けてきた部分をきちんと見据えられている。
そうしておもったことは、コクネのそれは完全に逆恨みだということだ。
コクネはオリジナルのネア……すなわちレミ・ネアリーと仲が良かった。
恐らくは、私が成功体になったから彼女が培養液の中で実験させられ続けてると思っているのだろうが、意味不明だ。
そもそも、彼女が培養液の中で実験させられた結果、生まれたのが自分だからだ。
「………わかった。ちゃんとあの子ともケリつけてくるわ。で、私には何かないのかしら?」
瑠璃奈の時のように便利アイテムをよこせとねだる。
図々しいな、と思いつつもコクネに対抗出来るような武器で、自分の手持ちにあるものが中々思いつかない。
「加速の懐中時計なら時間凍結とかにも対応できるんだがなぁ………。まぁ、これかな。」
「なにこれ?」
手渡された砂時計を見て、ネアは困惑する。
「加速の懐中時計もどきみたいなもんだ。本物ほどの性能は発揮しないが、それがあれば時間凍結中でも1秒ほどは動けるはずだ。」
たった1秒ちょっとしか動けないが、それでも動けないよりかはマシだ。
何かしらの対策は取れるだろう。
それをもらって、とりあえずネアは引き下がった。
「戦闘場所は俺から特に言うことは無い。各々で話し合って、最良だと思うところにしてくれ。そこで、迎え撃つ。」
「迎え撃つったって…………そもそも来るの?」
「来る。ヤツは枝音の肉体に取り憑きたくて仕方ないはずだ。今の体では、本来の力の半分も出せていないだろうしな。早急に器を手にして、世界を滅ぼしたいはずだ。」
そして、改めて全員を見渡して、黒音が言う。
「俺らの勝利条件はウロを倒すことだ。敗北条件は、枝音の肉体を乗っ取られること。それをされたら勝ち目は無い。」
その言葉に、各々が理解を示して頷く。
そして、その事を深く胸に刻んでおく。
「戦闘準備は今すぐにでも取り掛かった方がいい。場所はどうする?」
「まぁ、別にどこでも良くはあるのですが。」
能力戦となれば、地形などあまり関係ないことが多い。
制空戦には能力者も加わるため、地形を無視して空から攻撃する事も多いし、地形を作り替える方法などいくらでもある。
それに、ここまで大規模な戦闘となると地形が次々と変わりそうだ。
「東京………か。」
「船での戦闘も有り得ますね。というか、確実にあるでしょう。海上の戦力も整えておきます。」
「海上都市が全部沈まないか心配だな。」
「沈むと思うぜ?それを利用するのも手だが。」
今現在の東京は、基地施設が海上に建設される形となっている。
地上の全てが奈落に落ちてから、様々な地形が変化したが、日本はその地形の多くが海中に没した。
なので、海上都市という海の上に作られた巨大な都市がいくつもある。
それに、地上とは違って海中の百鬼夜行は撃退しやすいのだ。
ウミヘビや1部の例外はあるものの、海中の百鬼夜行の方が地上にいる百鬼夜行よりも強い個体が少ない傾向にある。
現に、レベルVIだけを見ても13体のうち海に棲息しているのは一体だけだ。
海岸沿いにたまにいる事があるものの、それらの基本的な棲息地は地上だ。海中ではない。
よって、海中に建設するために防御施設の建設や都市の建設には手間取るものの、危険性の低さでいえば海上の方が安全と言えた。
故に、海辺に隣接した大都市は地上側よりも海側に都市を増設していく傾向にある。
「…………沈む。なるほど。いや、浮かせて貰おうか。」
何か悪いことを思いついたような顔で、黒音が呟く。
その後も、作戦会議は順調に進んだ。
第8章!開幕ー!
ついに最後も近くなってきました!!
この章か、次の章のどちらかで完結となる予定です!!
とはいえ、まだまだ先は長いのでよろしくお願いします!!