第30話 とても簡単で、馬鹿らしい方法。
『おい枝音!!今から言うことをよく聞け!それでミルの野郎は止まるはずだ!』
「えっ何それ、そんな方法があるの!?なになに!?」
枝音は通信に応答しつつも、現在進行形でミルと血と肉を双方撒き散らしながら、骨をぶった斬る戦いをしている。
しかし、所々なにも攻撃されていないのに血が吹き出してきていることから枝音の肉体が限界を迎え始めてるのは明解だ。
『枝音まずい!後、10分も持たない。』
『私の感情が侵食され始めてる。あんた正の感情強すぎ。もうちょっと押えてくんないとバランスがとれないよ!』
天葵と冴詠から警告が発せられる。
だが、感情を抑えてる余裕なんてない。
肉体がボロボロでも、このまま力の行使に耐えなければすぐにでもこの拮抗状態は崩れる。
『なに、とても簡単なことだ。すぐ終わる………クク……。』
「笑ってないで、早く教えなさいよ!」
『わかったわかった………そう怒るな。なに、単純な事さ。………くはっ、ダメだ、笑いが止まらん……ぷっくく……。』
未だに笑っているダレスにいい加減ウンザリしてきたので通信を切ろうとしたが、そのまさに切ろうとした瞬間、ダレスはその策を言った。
『いいか……?ヤツの唇を奪え。』
「…………は?」
『だーかーらー、口付けだよ。つまりキス!』
「いや、え、は?」
ダレスの策を聞いて、素で聞き返してしまった。
何言ってんだこいつ。
「ダレス………いくらあんたみたいな頭のおかしいやつでも、そこまでじゃなかったと思うんだけど………え?頭でもうった?それとも変な薬飲んじゃった?」
『いいから、やれって…!クク、俺は知ってんだぞ〜?前の世界でも決戦前にしてたよなぁ?』
「ちょっ!いや、でもあれはほら、なんて言うか………そんな雰囲気だったし………。」
枝音が少し顔を赤くして言い返す。
恥ずかしそうにしているが、今は戦闘中である。
普通に終焉の攻撃が幾つも飛んできている。
『ラブパワー的な何かでどうにかなるだろ………笑いが止まらねぇ……ぷくく……!』
「あんたねぇ……ふざけてないで真面目に考えなさいよ……!」
『いや、至って真面目だ………それがおそらく1番やつに効く………はは、そんときのやつの顔を想像したらもうたまらない………笑い死ぬ………!!』
「いや、でもさぁ………あんた乙女の心をなんだと思って………」
『いーじゃん、別に。初めてじゃないんだろ?』
「良くないっての!こーゆーのは順序とか、ムードとか、こう、色々大事なのっ!!」
そう言ってなんだか学生の恋愛相談というか、「私あの子とどうしたら進展あるんだろう?」「くく………唇でも奪えばイチコロよ。」みたいな、なんかそーゆーノリになってきているが、戦闘中である。
ミルとか、時空崩壊式の丙を幾つも撃ち放っている。
絶賛、文字通りの命をかけた死闘の真っ最中である。
『あーだこーだ言ってないで早くしろっつーの。それが一番早いし確実なんだわ。てか、いい加減くどい。』
「はぁぁあ!?何それムカつく!キスもした事ないドーテーに言われたかないから!!そんなだから彼女の1人も出来ねーんだよばぁーか!」
『なっ!?んだとてめぇ!!』
中学生の喧嘩みたいなのを始めたが、何度も言うが戦闘中である。
それはもう、くどいかも知れないが、戦闘中である。
くどすぎてはよ進展しろや、と思うレベルかも知れない。
だがしかし!このザマなのである。
というか、そもそもミルに隙が無いので、現状、枝音は手も足も出なかったりもする。
そして、この通信をダレスの横で聞いてるラストは笑い転げ、それを見てレルヴァが呆れると言った光景も繰り広げられている。
「ちっ、何かしようにも隙が無いわね………!!」
「何を企んでるか知らんが無駄なことだ。」
なんかその言葉にカチンと来たので、とりあえずなかなか終焉で終わらせにくい複雑な構造をした鎖を生成し、やつの足に巻き付ける。
幾重もの層が重なった構造をしているので、1枚目を終わらせても2枚目、3枚目………と一度に消し飛ばすことが出来ないような構造にしてある。
「おっらァ!!クソがァ!」
鎖を思いっきり引っ張ってミルを引きずり下ろす。
そのまま地面に叩きつけるが、完全に叩きつけられる前に鎖を完全に消失させて脱出される。
だが、体勢は崩れた。
そのまま蹴り飛ばして近くの瓦礫の山に叩きつける。
「つぅかぁまぁえぇたぁぁあ!!」
白と黒の刀を両腕の掌に突き刺し、首を右足で押さえつける。
そのままへし折る勢いでぐぐっと足に力を入れるが、自らの両腕を終焉の力が付与されていない棺を生み出して切断、枝音の足から体を捻って逃れつつ、腕を再構築する。
「逃げんなゴラァ!!」
天葵を思いっきり投げつけ、凄まじい速度で刃がミルの首を貫通する。
ミルが十字架をライフルのように持ち変えて発砲、枝音の右肩をぶち抜き、右腕を吹き飛ばす。
だが、天葵の持ち手に巻き付けておいた鎖を手繰り寄せつつ、天葵の形状を反しがつくように変更。
そのまま思いっきり引っ張ってミルを近づける。
ミルが反しを無視して無理やり天葵を引き抜く。
既に再生を終えた右腕でミルの左腕を押さえつけ、左手に持った冴詠でミルの腕を刺す。
ミルが引き抜いた天葵で枝音の脇腹を刺し貫く。
だが、これでミルの両腕は塞がった。
両手でしっかりと胸ぐらを掴んで
頭を、こちらに引き寄せて――――――
「んぐっ……!?」
「ん……………」
―――――その口を塞いだ。
――――――――――――――――
「ぎゃーはっはっはっは!!!マジでやったぞ!すっげぇ!!馬鹿だ!あはははは!!」
「ひひひひ、は、くくくく………最っ高だよほんとに。ちょー面白い………くく。」
「お前ら馬にでも蹴られて来たら?」
笑い転がるダレスとラストの2人をジト目で見ながら、レルヴァが呆れたように言う。
傲慢の眼を持ってたり、支配とか司ってる割には意外とまともな人物であったレルヴァ。
性格的にもオレサマ的な性格なのに、この場においては至って普通の人だった。
一番まともな人物であった。
「よし、一通り笑い終えたし、すぐにでも準備に取り掛かるか。」
「ま、時間は少ないしな。」
「もうヤダ。なんなのこいつら。」
―――――――――――――
「ぷはっ!これでどーよ!?」
枝音が顔を赤らめながらやけグソ気味に叫ぶ。
ミルは……なんか、よくわからない感じで固まっている。
「枝音、よくやった!魂が揺らいでやがるな、そのまま押さえつけとけ!!レルヴァ、ラスト!!」
「あいよ!!」
「おら、それがてめぇの限界だ!」
レルヴァが魂を支配しようと試み、ラストがその抵抗力を弱める。
そして、ただでさえ揺らいでいる心……魂に、さらにその2人によって抵抗力を弱めた所で、ダレスが能力を使う。
ダレスの権能のひとつは、相手が許可を出したばいいのみ、その魂を自在に扱える、と言ったものだ。
なので、戦闘にはまるで向かないのだ。
無論、死体の魂は許可もなにもないので、自由に扱えるが、それでも生きている魂とでは使い道が少ない。
一応、疑似霊魂生成という死体をゾンビ化させるような能力も持っているが、これもそこまで便利ではない。
まぁ、その話は今は置いておくとして、今重要なのは他人の魂を自在に操り、その本質を変更出来るという力だ。
その強力な力は、実は『許可』以外でも行使する方法はある。
許可を貰うのが確実な方法というわけであって、別に許可を貰わずとも相手の魂が揺らいでいて隙が大きい状態なら能力を行使できる。
とはいえ、確実とは言えない所か、成功しない確率の方が高い。
それを、枝音やレルヴァ、ラストの力を連携して使うことで無理やり成功させようとしているのだ。
「アクセス………ロード…………ぐっ!?」
魂に意識を接続し、その眼でミルの魂を視認する。
しかし、その異常なまでの膨大な情報量に、脳に過負荷がかかる。
既に眼は熱く、血が流れ出ている。
(一筋縄では行かないと思っていたが、これ程か。)
しかし、こんな事でリタイアする訳には行かない。
魂の情報を閲覧し、終焉王としての権限のところにアクセスする。
さらに、負荷が増えた。
「ぐぁっ………がっ…………ぐぅぅ!!」
あまりの激痛に歯を食いしばる。
脳がガンガンと揺れて何かが弾け飛びそうだ。
閲覧しただけでこれだ、これからさらにこれらを弄ろうとすればどんな負荷がかかるか分からない。
それでも、やるしかない。
ここで能力が使い物にならなくなっても構わない。
なんなら死んだっていい。
別に生きる意味なんてないんだから。
生きる理由も、心も、未練も、何もかも、全て前の世界に置き去りにしてしまった。
だから、ここで死んででも、終焉の力をなんとかする。
――――――――――――――
あれからどれだけ時間が経過しただろうか?
1分、2分といった短い時間のようにも思えるし、数時間も経過したようにも思える。
実際には、12分程しか経過していないのだが。
「はぁ、はぁ、施術は………終わったぞ………。」
体中の至る所から血を流し、右目は失明していて見えていない。
頭痛は和らいだものの、未だに頭の奥がガンガンと鳴り響く。
「ちょ、あんたボロボロじゃない。てか、終わったってことは………。」
「終焉は制御できるようになった。世界からの干渉は完全に拒絶するように仕組んだ。………まぁ、次元崩壊終式だとか、時空崩壊式の甲だとかの巫山戯たような技は使えなくなっただろうが。」
ダレスが目線だけで見れば、ミルは髪の毛は元の黒色になっており、見た目も黒音の時のそれになっている。
「まぁ、そいつも暫くは起きないだろう。………それと、ついでだが鍵がかけられていた前の世界の記憶の部分も何とかしておいた。記憶の整理も相まって、暫くは寝てるだろうな。」
俺も暫くはこのザマだしな………と思っていると、不意に声が聞こえてきた。
「寝てる暇なんか、ないぞ………すぐにでも、ウロは来る。寝ている余裕は、ない…………。」
驚いて半身だけ起き上がってみれば、すでに黒音は目が覚めていた。
「もう起きたのか。相変わらず化物だな。んで?次は、どうすんだ……?」
「俺たちは休むしかねぇよ………暫くは指示をする側に回らせてもらう。てめぇも、そんな肉体じゃ戦えないだろ。」
「俺は非戦闘員なはずなんだがなぁ………」
「生身で能力者を手玉に取れるような化物の癖に、何言ってんだか。」
その事実に枝音とラスト、レルヴァが驚愕に目を見開くが、その事実は一旦置いておいて黒音の調子を確かめる。
「………で、黒音。調子はどう?正直、言いたいことは山ほどあるし、1発どころか何回かぶん殴りたいんだけど。」
「まぁ、まて。記憶が混濁しててな。詳しい説明とかは後にさせてくれ………ミアだか枝音だかコハクだか分からなくなってくる……。」
「黒音だか雅音だかミルだかクロヤだかシオンだか名乗ってたやつに言われたかないんですけどー。」
「んじゃま、とりあえず本部まで撤収、だな?」