第7話 深界迷宮へ その3
「…………ここは。」
次の入口をくぐると、先程までとはまた違った光景が目の前にあった。
海と、森。
その2つが目の前に、広がっていたのだ。
空はきちんと雲が浮かび、太陽が当たりを照らしている。
そして、次に枝音が気づいたのは、周囲に誰も居ないことだ。
「…………どゆこと???」
とりあえず、能力で空へ飛び上がる。
眼下には、大きな島があった。あれが、先程まで自分がいたところなのだろう。
しかし、人の気配は一切感知できなかった。
いわゆる無人島、なのだろう。
そして、瑠璃奈達の姿も見えない。
つまり、全員が別の場所に移動させられたのだろう。
「…………で、どうしろっていうのよ。」
無人島サバイバル生活でもしろってか、と枝音が呟く。
「……………とりあえず、開拓するか。」
そう言うと、枝音の左眼に模様が浮かび上がり…………
――――――――――――――
「…………ふう、こんな物ね。」
瑠璃奈が完成した建物を見て、満足げに頷く。
周囲には誰もいないし、ここは無人島のようだ。
最初の方こそ驚いたものの、これは何らかの試練なのだろう。
とりあえず、無人島サバイバルではお馴染み、気で作った小さい家を作り出す。
「……………うむ、我ながらいい出来ね……あとは食料だけど。」
モリなんてものは無いし、そもそも海に入ったことが無い。
プールにも行ったことがないし、泳げるかどうかがまず分からない。
身体の火傷をあんまり見せたくないので、そういう所からは1歩距離を置いていたのだ。
「うーん、水着は着てみたいし、いつかみんなを連れて誰もいない海にでも行きますかね。」
そんなことよりも今は食料だ。
山の食べ物の知識など当然ない。何が食えるのかもわからない。
毒入りの変なものとか食ってしまったら大変だ。
なら、釣りか?と思うがそもそも釣りをしたことがないし、道具もない。
「うーん、………黒陽。」
『ちょっとまてえぇぇぇぇえい!!??』
海の中に黒陽を突っ込めば死んだ魚が浮かび上がってくるか、と考えてそれを実行しようとするが、黒瑠璃がそれを止める。
「なによ?」
『なによ?じゃねぇよ!環境破壊もいい所だろうが!!』
「どうせここは迷宮内なんだし、環境も何も無いでしょ。」
『いや、そりゃそうだけど………てか、そんなことしたらここら一体の海洋生物は死滅しちまうじゃねぇか。明日からの食糧はどうすんだよ。』
「…………あ、そっか。」
―――――――――――――――
「ふう、こんなもんだな。いやぁ、山に大量の食いもんがあって良かったぜ。」
舞鬼が、そう言って山菜や果物などを大量に抱えて歩く。
適当に作った丸太の家の近くにどさりと置き、一つだけつまみ食いをする。
元々、茨木家の一族は山の奥に住んでおり、こういう山の中でのサバイバルには詳しいのだった。
「さて、イノシシでも狩りに行くか。」
そう言って、茨木は自作の弓と愛剣である大剣を携えて山の中に再び入っていった。
――――――――――――――
「よっと、3匹目の獲物だな……。これくらい狩っとけば食糧充分かな?」
と、木の枝の上に座りながら、狙撃銃で鹿を仕留めつつ、レイリは独り言を喋る。
家の作り方とかは分からないが、木の上に住んでおけばだいたい問題ないだろうし、能力で食糧も確保出来らので、当面の生活には問題なさそうだ。
しかし、木の上だとどうしても身体をきちんと休めることが出来ないだろう。
寝床の確保は、早急に解決すべきだな、と思いつつ今しがた撃ち抜いた鹿を回収しにレイリは向かう。
―――――――――――――――
「家が完成しないよぉぉぉぉ!!?」
そう叫びながら、リリィが膝をついて絶望する。
能力こそ強力なものの、元はただの平凡な少女だ。
当然、サバイバルの経験などありはしない。
どうしろと言うのか。
体力や精神の疲れなどは『ユートピア・オブ・ヴァルハラ』で回復するので、ほぼほぼ24時間作業できるし、食糧は『ディストピア・オブ・ヴァルハラ』で魚や動物などを確保出来る。
しかし!
料理の仕方もわからず!そして、家の作り方も分からないのだった…………。
材料はいくらでも集まってくるが、それを活かせないとは、なんとも言えないものがある。
「てか、ここどこ!?」
そして、絶賛迷子中である。
うろうろと森の中を散策していたら、元の場所へ帰る方法が分からなくなったのだ。
「ちくしょー!アリア、アリア、アリアぁぁぁあ!!」
そう言いながら、やけっぱちとばかりに空間爆撃をそこら中に行う。
山の奥深くに入りすぎて、どうすればもとの砂浜に帰れるかも分からないので、とりあえず空間爆撃を行って盛大な森林破壊を行いつつ、開けた土地を歩いて進んでいく。
こうやって真っ直ぐ進めば、いつかは島の端っこに到達するはずだ。
そして、島の端からぐるーっと外周を回れば、いつかはもとの場所に辿り着く。
そんな気の長いことを考えながら、森の木々を爆発させていると………
「ん?何これ?」
何か模様の描かれた、洞窟のようなものが姿をあらわしたのだった。
―――――――――――――
「やっぱり、この扉が攻略の鍵みたいね………。」
ネアが森の中を探索していると、明らかに怪しげな洞窟を見つけたので、奥底へ入ってみたのだ。
すると、そこには門番のような化け物と、ひとつの扉があった。
その化け物を倒し、その扉をくぐると、全く別の空間にたどり着いたのだった。
周りの自然はよく似ているが、しかし、明らかに違う。
なぜならば、自分がいたところは春のような気候だったが、ここは明らかに冬だ。
森の木々に、雪がふり積もっている。
そして、しばらく探索していると……………
「あれ?ネアじゃん。」
蘭鳴がいた。
…………イノシシと呼べるかどうか分からないような、猪の形に限りなく近い巨大なナニカの腹を爆散させ、贓物を撒き散らすというグロッキーな状態で。
頭からは角が5本はえている。八重歯は通常のそれよりも長く鋭利になっており、足は人のものとは呼べない形へと変化していて、肩口からは4本、巨大な腕が生えている。その掌の中心には眼がギョロりとこちらを睨んでいる。
羅鳴の周囲はいくつもクレーターが出来ていたり、なぎ倒された木々が散乱していたりと、その戦闘の壮絶さが伺える。
「あ、ちょっと待ってね、元に戻るから。」
そう言うと、いつものどおりの普通の人間の姿に変化する。
「戦闘がちょうど終わったところでよかった。さっきのは完全に鬼を解放した状態でね。戦闘が終了するまで理性が鬼のそれになるんだ。だから、普段は使わないんだけれど……。」
「てか、このイノシシみたいなのなんなの?私んとこにはいなかったんだけど。」
「ん、なんかさぁ………突然目の前にいたイノシシが強くなったんだよね。環境も急激に変わるし。」
聞くところによると、蘭鳴が目の前のイノシシを倒して食糧を得ようとしたところ、急にイノシシが巨大化、凶暴化し始めたのだという。
そして、環境が夏から秋に変わったのだという。
何かおかしいと感じつつも、目の前のイノシシを倒そうと能力を発動した途端、さらにイノシシが進化、もはや原型すらとどめぬ化け物に変化したのだという。
さらに、気候が秋から冬に変化し、雪が降り始めたのだという。
「………まさか、私が空間を移動したから?」
だから、イノシシが巨大化したのだろうか?
だとしても、2段階にわけてイノシシの変化と気候の変化が起きたということは、自分以外にも空間を移動した人物がいるのだろう。
「てか、ネアはどこから現れたのさ?この無人島、他に誰もいないみたいだけど………。」
「あぁ、それは洞窟みたいななのがこの島のどっかにあって、そこにあった扉をくぐり抜けてきたらここに着いたのよ。」
「へぇー、じゃあ、私達もそれを探し出せば皆と合流出来るかもね!」
「じゃ、早速探しますか。」
みなさんどうもこんにちわー!
新元号になりましたね!
今まで読んでくださっているかたも、これから読むって方も、これからもよろしくお願いします!
今宵、私達は歴史の目撃者となります。
さようなら平成。ようこそ令和!