第1話 終わりの心。
爆音とともに燃え盛る炎、聞こえる怒号と悲鳴、空を覆い尽くす雲と荒れた大地。当たり前のようにあらゆる命が散っていく、そこはまさしく地獄だった。
そしてその地獄の中、全身を血で染めた青年が一人いた。
否、正確には一人という訳ではない。
彼の腕の中には白い女性が抱かれている。
その女性の胸元には一輪の紅い花が咲き乱れ、黒い剣が突き刺さっている。
青年はただ感情のままに叫ぶ。
「なんで、だ。なんでこうなった…!どうして………!!」
どうしてこんな事に。そうやってどうしようもない怒りを覚える自分に、まるで他人事のように応えるもう一人の自分がいた。
こうなるしかなかった。こうするしかなかった。仕方がなかったじゃないか。
元はと言えば彼女と自分は敵同士だ。しかも彼女もあぁなってしまってはどうしようも無かった。これでいいんだ。彼女も望んでいたではないか。
『お願い…!手遅れになる前に私を―――』
そう言って悲痛な顔で懇願し叫ぶ彼女の姿が思い浮かぶ。ついさっきの事なのに、酷く色あせているように思える。
再びもう一人の自分が言う。お前に彼女を救うことは出来なかった。壊すことしか、終わらせることしか出来ないお前に彼女を殺める以外に何ができたというのだ?
「ふざ、けるな……!!これでいいだと?こうするしか無かっただと!?これを彼女が本当に心から望んでいたことだと!?ふざけるなァァア!!!」
彼女は泣いていた。どうしようもない現実に。このどうしようも無く狂った世界の現実に、泣いていたのだ。
これでよかっただと?これが最善の選択だったと?ふざけるな。こんなのでいいはずが無い、これは最悪の選択に決まってる。
青年は叫ぶ。だがその言葉は空を切るだった。
だって、どんなに泣き喚いて叫んでも、彼女は死んだ。自分が殺した。その事実が変わることはないのだから。
―――そう、今の彼にはもう何も無かった。もはや何も無かった。無くなってしまった。自分が、無くしたのだ。
自分に彼女を救うための力が、知恵が、知識が足りなかったから。
いや、そもそも。
自分には誰かを救う資格なんてなかったのかもしれない。
「なぁ、俺達はどこで間違えてしまったんだ……?どうすればよかったんだ……?人も、動物も、化物も、神でさえ死んでいくこの狂った世界で俺は、俺達はどうすればよかったんだ……。」
そんな青年にこたえてくれるものは誰一人としていない。変わりに聞こえてくるのは爆音と悲鳴、そして銃声や剣撃の音だけだった。地獄の歌声しか聞こえてはこなかった。
それほどまでにこの世界はどうしようも無くて。
たった一人で戦況がが大きく変わるほどの力をもっていたとしても、人一人すら救えないほどに現実は残酷で。
そんな世界に青年は絶望し、激昂する。
「終わらせてやる……!何もかも!全て……そう全てだ!!こんな世界、終わってしまえばいい!!」
そうだ。こんな世界は必要ない。彼女がいないなら自分も生きる意味はない。ならば全てを終わらせて、最後には自分自身すらも終わらせようじゃないか。
青年がそう思い力を、ある力を、今はもう使っていない、いや、使わないと決めていた力を、おのが感情の揺さぶるままに使おうとする。
それと同時に、とても感情が冷めていくのを感じる。
これが、封じていた力の代償。
全ての想いを巻にくべ、ただの機械仕掛けの世界の奴隷に成り下がり。
ふと、何かが落ちる音がした。
彼女が持っていたと思われるそれを拾い上げて見ると、それは白い花の首飾りと黒い花の首飾りだった。それが何かを自分に訴えかけているように思えて、そして青年は思い出す。
大丈夫。きっと、また会えるから。待ってて――――。
青年は思う。その言葉がこの残酷な世界に残された最後の希望と言うのか。なら、俺はその為だけに生きよう。そしてもう1度お前に会うときはお前が最後には笑顔でいられるように。そんな世界を作ってやろう。
(―――そうだ、まだ諦めるのに早い。)
お前にそんな事を願う権利があるのか?どの面を下げて彼女の前に立てるんだ?彼女を殺したのは紛れもなく自分なのに、と心の中のどこかでそう思う自分がいた。
だが、知ったことか。
彼女が笑顔で過ごせる世界を作れるのなら、いつかその日を見れるのならば、どんな姿になろうともどんな犠牲を払おうとも知ったことではない。
たとえそれが誰にも理解されなかったとしても。
「必ず、必ずこのふざけた運命を変えてやる。今度は、俺が君を救ってみせる……!」
―――そうして運命の歯車は動き出す。
これは、運命に抗い続けるための物語―――
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