~最初の街、サグタリア~
サーバル王国南部に位置する町、サグタリア。この街は、魔族達の幾度もの進行を妨げてきた屈強な戦士達の街である。街な外周にはそれほど大きくもないが城壁のような物が建っている。高さは5メートルといったところだろうか。街自体はそれほど大きくはないようだ。聞いたところだと、住民達や戦士など合わせても一万人いるかどうかってとこらしい。だが街は、魔族がいつ攻めてくるか分からない中でも活気で溢れていた。街のメインストリートには、軒並み商店街などが立ち並んでいる。喫茶店や酒場といった物もちらほらとあるようだ。酒場に至っては昼間にも関わらず喧騒で溢れかえっていた。騒いでいる奴らが冒険者と呼ばれる類の者で間違いはないだろう。まるで魔族には怯えているようには見えないので比較的、山のこちら側は安全圏のようだ。そんなサグタリアの街をこじんまりとした部屋から眺めていた少年がいた。光一だ。
先日の一件で怪我をしたリーシャを連れ訪れたのだがやはりリーシャはお偉いさんらしく、街に着くなり貴族が血相を変えて飛んできてなにやら騒いでいたが、顔見知りに治療してもらえるならリーシャも安心できるだろう。光一自身も泊めてもらえる事になったので願ったり叶ったりだった。この街に来てすでに一週間がたつので、リーシャの怪我も大分よくなったはずだ。そんな事を考えていると部屋のドアがノックされたので返事をすると筋骨隆々とした厳ついおっさんが入ってきた。右頬には大きな切り傷があり、腕や首など見えるだけでも無数の傷が見受けられる。この野蛮そうな人間はアルド・サグタリアだ。光一やリーシャを泊めてくれているこの街の領主であるらしい。やはり戦士の街と言われるだけあって領主も戦士のようだ。
「コウイチ殿、よろしいか?」
「ええ、どうされました?」
「いや、大した事ではないのだがね。リーシャ・メイデル卿の話を聞く限りではコウイチ殿は冒険者登録もしていない一般人とお聞きしたものですから。あのオーガから逃げてくるとは大したものだなと思いましてね。それもメイデル卿を抱えてなんて、称賛に値しますな。」
ここに来てからとゆうもの、何度もこちらの素性を探ろうとしてくるのだ。リーシャには面倒になるので今まであった事は話さずに誤魔化してもらっていた。
「それでアルドさんはお世辞を言いに来たわけではないんでしょう?」
「いやはや、まったくコウイチ殿は手厳しいですな。いやいや、本当に大した事ではないんですがね。これからはメイデル卿と共に王都に向かわれるとおっしゃってたものですから、微力ながらも助力いたせればなと。我も王には恩を売っておきたいですからな!はっはっはっ!!」
この男は見た目だけではなく性格も豪快なようだ。王に恩を売るってのは事実だろう。なにかしらの支援があるのは正直ありがたい限りだ。リーシャともここ数日で話し合いリーシャは一度王都に戻らなければならないそうなのでここでお別れかと思ったが「コウイチも行くに決まっているだろう!!」なんてすごい剣幕で言われたので二人で王都に向かう事になった。王都まではここから北北西に六百キロ程の道のりらしいので厳しい旅になるのは間違いない。少しでも支援してくれるなら助かる事だろう。コウイチ自身も魔族を倒した時の事は正直記憶が曖昧なのだ。あの妙な武装もあれから試したが出来なかったのだ。自分の力が未知数なため、不安は山積みだ。
「それは、助かりますね。俺も彼女への負担が軽くなるなら喜んでお受けしますよ」
「それは光栄なかぎりですわ。数頭の馬と食料を支援しましょう。・・それと、コウイチ殿も冒険者登録はしておいた方が良いでしょう。王都には身分を証明するものが必要となりますからな。それに冒険者ギルドで傭兵なんかもついでに雇ってはどうだろうか?」
「そうですね。一度、彼女に相談してからギルドに行ってみますよ。」
そんな事を話、軽く挨拶を交わしてアルドは出て行った。
「ギルドに行くのよね?行きましょ!!早く行きましょう!!」
アルドと入れ替わりで入ってきたらしいリーシャが興奮気味で促してくる。こうしていると歳相応で微笑ましい限りだ。まぁ一週間も外に出ていなかったのだから外にでたいのだろう。
そんなこんなで外に繰り出した二人。目的のギルドは物凄く近かったようで外に出て数百メートルで着いてしまった。
リーシャはなぜか買い物に行きたいと駄々をこね始めたがとりあえず無視して用を済ます事にした。
ギルドに入ると中に居た冒険者達が一斉に振り返った。なんだか生暖かい視線を受けているが、冷めた視線よりかは幾らかマシだ。
そんな視線の嵐を搔い潜り奥に見えるカウンターを目掛けて進んで行く。受付らしき場所にはエルフと思われる耳が長い種族の綺麗なお姉さんが居た。茶髪のセミロングにこげ茶の瞳、ギルドの制服と思われる衣服に身を包むは豊満な体躯。男ならその艶めかしさに見とれてしまうほどだ。そんな情欲をそそられる大人の女性にはコウイチは慣れていないため、目を泳がせながら恐る恐る声を掛けた。
「あ、あの~・・・」
「あ?なんだいちび助」
「!!!」
見た目はとても綺麗なのに第一声でイメージが崩壊した。見た目はとても清楚なのに残念な人だった。この世界にはまともな性格の女性はいないのだろうか?
「いやっ、あのっ、冒険者登録しに来たんですけど・・・・」
「あ?お前みたいなしょんべん臭いクソガキが?フンッ。まぁいいわ。この紙に名前を書いてそこの水晶に手をかざしな。」
またもや暴言の嵐だ・・・。とりあえず時間を無駄にするわけにもいかないのでゆう通りにするしかない。
光一は気持ちを切り替えて用紙に必要事項を書いて占いに使われるような胡散臭い水晶に触れると・・・。 何も起こらない。。。
「あ、あの~、これって?」
「さぁね。これは触れた奴の強さを図る魔道具なのさ。光る強さによって冒険者のランクが決まるのさ。壊れてもないだろうからなんの光もないお前は赤ん坊以下って事さね。ま、Fランクよりも低いランクはないから底辺からのスタートだろうね。」
いきなり戦力外通告を受けた光一は項垂れていた。 それもそうだろう、勇者のはずが何故か赤ん坊以下の存在になり下がったのだ。このままではゴキブリと肩を並べる事になってしまうかもしれないと危機感を募らせていた。
「とりあえず冒険者ライセンスを発行するからどっかに行ってな。目障りさね。」
「あ、すいません。もう一つあるんですけど・・」
「めんどくさいクソガキさね。で?なんだってんだい?」
「王都までいくんで傭兵を雇いたいんですけど・・・・」
おどおどと受付のお姉さんと話していると、後方から声がかかった。
「ちょっと話を聞かせてもっらたよ。その話なら、私も王都に行くから付いて来るといいよ。こう見えて腕には自信がある方でね。ま、よければの話ならだけどね」
そんな声を掛けられて振り返るとそこにはコウイチより少し身長が高めの少女が立っていた。スカイブルーのように透き通る青い髪はストレートで腰程までの長さだ。整った顔つきに髪と同色の瞳が輝いている。胸の膨らみは貧相だが全体的にスラッとしていてモデル顔負けのプロポーションだ。
「・・・よろしいんでしょうか?・・・」
「あぁ、私は全く問題ないさ。」
「こいつはここいらじゃ有名な剣士さ。力量も冒険者ランクAといった折り紙つきさ。心配は無用さね。」
なんだか申し訳ない気持ちになりながらも聞き返すと快く返事を貰えた。強さも受付嬢さんの補足で申し分ないことも理解した。そんな考えも頭の中を過ぎていき、名も知らぬ剣士の手を取っていた。
「!よろしくお願いしますっ!!!」
光一は目を輝かせながら手を握っていた。この世界に来て一週間たったが初めてまともな人間に巡り合えたのかもしれない・・・と。