錬金術師とティタニア家
眩しい朝日が窓から漏れて台所を照らす。
蒼い長髪の髪をポニーテールにしたカグヤは朝食のフレンチトーストをフライパンの上でこんがりと焼き、三角に切って中のチーズとハムの具合を確認していた。
彼女は姉と二人で一軒家で暮らしていた。食事は当番制でカグヤは半袖短パンの簡易的な服装の上にエプロンを付けて朝食のフレンチトーストを3人分作っていた。
「よし、いい感じ!おねーちゃん!そろそろ朝ごはんだよ」
「うん。今お花にお水をあげているからちょっと待ってね?」
玄関の扉を開け庭の花壇の前にいる姉のサクヤに呼びかけるとホースからシャワーのように柔らかく水を花壇に与えていた。
庭は花壇と芝生に囲まれており家は2階建てのレンガ造りという周りとほぼ同じごく普通の家だった。
庭の花壇に水を与え終えたサクヤがホースの水を止めたのとほぼ同時に隣の家からバタンと音が聞こえ、カグヤは思わず表情が緩みそうになるがすぐに引き締めた。
「おはよー!」
「おはようリーネちゃん」
隣の家から出てきたのはリーネと呼ばれた少女、茶色の髪に青いベレー帽。童顔で赤い瞳の色白。黒の長袖のジャケットを肘まで腕まくり、下はを膝よりやや上までの丈になっている茶色の短パンの上に青いマントを身に着けていた。
「おはようサクヤお姉ちゃん!」
いつものようにお隣に遊びに行くと出迎えてくれたのは黒くて長い髪と大きな青い瞳が印象的なお姉ちゃん。今日は白い上下一対のワンピースで出迎えてくれた。名前はサクヤ。血がつながっていないけど独り身の私を本当の妹のように接してくれる2個上のお姉さん。
「あら?ちょうどよかった。朝食よ」
「あっ!カグヤちゃんおはよ~」
「だから・・・ちゃんはやめなさい!」
手を振って玄関の前に向かってあいさつをすると何故かため息をする様子に私は首を傾げてしまう。サクヤお姉ちゃん同様の長い黒髪をポニーテールにしてやや釣り目気味な目つきなのは妹のカグヤちゃん。小さいころからの友達で私と同い年のしっかり者さん。
「じゃあリーネちゃんも来たしご飯にしようか?」
「うん!今日の朝食は何?」
「フレンチトーストよ。じゃあ二人とも手を洗ったら来るのよ。」
朝食の用意に戻った様子のカグヤを見送り手を洗うサクヤを見てから自分も手を洗おうと蛇口に近づくと不意に花壇から見せた黒い物体に目線が向かった。
「どうしたのリーネちゃん?」
「えっと・・・あれ・・・」
リーネの指す方向を見るとそこにいたのは小さな黒い猫だった。
「あら?こんなところに珍しい?迷子さんかな?」
ゆっくりと歩みより猫を抱くサクヤの様子を見てからゆっくりとリーネは歩み寄った。
「野良猫かな?普通は鈴が付いているのにね」
「うーん・・・ひとまずミルクをあげようかな。リーネちゃん。カグヤちゃんにお願いしてもらってきていい?」
「うん!まかせて!」
ドタドタと家に駆け込んでいく様子と「うるさい!」というカグヤの声にサクヤは小さく微笑み視線を黒猫に向けた。赤い瞳を持つ猫を見てサクヤは昨晩の青年を思い出していた。
(あの人も・・・こんな瞳だったなぁ)
鋭く睨まれたら怖くて動けなくなりそうな顔立ち。だけどその瞳だけは何故か悲しそう。それがサクヤの感じた青年に対する印象だった。
「お姉ちゃん!用意できたよ!」
中から聞こえたカグヤの声で我に返り首を振ってから猫を抱いて家に戻った。
「ひとまず大丈夫みたい・・・」
銀の長髪に上下が一対黒いローブにスカートを身に着け黒のマントに身を包んだ少女は閉じていた瞳をゆっくりと開き呟く。その今にも消えてしまいそうな声を聴いた青年はじっと森の中から昨晩ターゲットを暗殺した街を見ていた。
「なら無駄なことはする必要はないな」
「・・・Kはターゲット以外に甘い・・・」
Kを見る少女の表情は無表情で呟くと反転してその場を立ち去ろうとする素振りを見せてから足を止めた。
「ひとまず指令は特にない・・・それまで休暇」
「休暇か・・・それでRが来たらまた仕事か?」
Kの質問に対して少女は言葉を発することなくただ頷いてその場を立ち去る。
一人残った青年は軽く息を付き再び街に視線を向けていき休暇の場所となる街に向かい歩き始めた。