出会い
西洋風な建物がいくつも並ぶ街の中。
夜ということもあり古めかしい街灯がレンガ造りの建物をうっすらと映している中、他の建物よりも大きく様々な装飾などが施された豪邸とも言える建物でことは起こっていた。
「警備の方は問題ないのか?」
「はい。屋敷の中から外まで警備は完璧です」
中年でやや小太り気味な男が黒いスーツにサングラスの男に確認し男も問題がないことを答えた。その様子を見ようとし部屋の窓に近づくと男の目に入ったのは広い庭に何人も配置された警備の男たち。
その光景がこの男の見た最後の映像だった。
窓から外を見ていた中年の男は何かの衝撃を受けるようにして仰向けに倒れた。
胸元から血を流し腹部には小さな穴が空いていた。
「ターゲット・・・ロスト・・・」
豪邸から数百メートル離れた一軒家の屋根の上で一人小さく呟くように青年は右手に持つ黒いリボルバー式の銃を腰に納めた。
青年は黒髪で前髪を眉まで延ばし短髪のぼさぼさ頭。黒いジャケットにズボンを身につけ足まで延びた黒いコートを羽織っていた。年齢は20歳前後で赤い瞳はじっと豪邸を見据えていた。
本来なら建物が見えるだけの距離が離れているが青年の目には、その建物の窓から見えるターゲットが絶命している姿がはっきりと確認できた。
「誰かいるの?」
不意に聞こえる声に青年は反射的に下に視線を向けた。屋根の上から見下ろした先にいたのは、月明かりに照らされたベランダに立つ人物だった。黒い長髪が特徴的で大きく青い瞳が青年を見据えている。
時間的にも一般人は寝ていると考えていた俺は、予想していなかった声に咄嗟に銃を抜こうとして手を止めた。声をかけたのが自分と年が変わらない女性だった。白いワンピースに身を包みその無防備な様子からこの家の主だったのだろう。
「今・・・大きな音がしたけど花火かな?」
見ず知らずの男が自分の家の、しかも屋根の上にいる状況で問いかけるような質問ではない。銃声を聞かれたかと思ったがまさか花火と間違えているのか?
「いや・・・そんなものはやっていない。邪魔したな・・・」
「あなた・・・」
「ん?」
面倒なことになる前に離れようとした時、呼び止められ咄嗟に考えたのは目撃者であるこいつを殺す必要があるかどうかだった。
「あなたの瞳・・・なんだか・・・悲しそう・・・」
唐突な相手の言葉を俺は理解できなかった。時間にしてほんの数秒、俺は相手から目を離せずにいた。
悲しい?俺が?自問自答のくり返しは実際の数秒を何分もその場にいたように感じさせた。
「じゃあな。」
すぐ隣の屋根に跳躍しすぐに次の家の屋根に飛び移ってその場を離れた。彼女の視線が感じなくなるまで・・・