棺が待っている
後悔も反省もない。改めて穴に誰かを落とそうとだなんて思ったりはしないが、あれはただの子供心の悪戯だと思っているし、見れるものなら落ちる様は見たかったなと今でも思う。
後で知ったが、しゅんすけは学校では大人しかったが、家ではかんしゃくを起こしたりひどい有様だったらしい。しゅんすけの母親が憔悴していたのも、あんな事を言っていたのもそのせいだろう。
次にしゅんすけと会う時。そんな時はない。
しゅんすけは死んだ。消えたのだ。俺としゅんすけの母親の手によって。
助けようとしたあの男こそが正義だとは誰も信じず。
笑いが込み上げた。世の中正しい事だけがまかり通るわけじゃない。皮肉が平気で世の中を横切っていく事も多々ある。俺の存在がまさにそれそのものだ。
「やっぱり君じゃないか」
不意に後ろから声がした。
振り返ると、男が立っていた。
「ちゃんと教えてあげたのにな」
見た事のあるようなないような。こいつは――。
「本当に落ちるべきは君の方なのに」
次の瞬間、鈍い音と共に頭に衝撃が走った。その場に倒れ込み、一切の伝達が身体に働かなくなった。
「行こう。あの女は先に穴の中で待っている」
顔は見えない。だが分かった。
あの時誰にも見向きされなかった、唯一の正義を持った存在。
彼は、あの時の正義を今まっとうしようとしているのだと。




