(7)
「教えてくれたんだ。穴に気を付けろって。そこだろ? 中にとがったパイプも入ってる。そんな所に、僕を落とす気だったの?」
しゅんすけの声は淡々としていた。しかしそれは、普段の大人しいものではない、俺の知らない狂気をはらんでいた。
「こんな所に落ちたら死んじゃうよね」
しゅんすけは穴の中からひょいっとパイプを取り上げた。
「危ないからとっとくね」
そう言ってしゅんすけは笑った。
勝ち誇ったような、蔑むような、俺という存在を全て否定するような顔だった。
瞬間、全身の血が湧き立った。しゅんすけの襟をつかみ力の限り引っ張り、そのまま穴の中に突き落とした。
ごぐっ。
嫌な音がした。
その音を慌ててかき消すように、俺の呼吸はぜえぜえと乱れ空気を囲っていく。
穴の中で、しゅんすけはぴくりとも動いてなかった。
「あら、こんな所にいたの」
不意に後ろから声がした。
驚いて振り向くと、女の人が立っていた。
しゅんすけの母親だった。
「これじゃ、帰って来れないはずよね」
心臓が破裂しそうだった。対してしゅんすけの母親の顔には一切の感情がなく、まるで人形のようだった。
「やり直しましょう」
誰に言っているのか。そう言いながら、穴の中に落ちたしゅんすけに手を伸ばした。その様子を俺は黙って眺めていた。
「今回のしゅんすけは駄目だった。だからまた戻ってきなさい」
しゅんすけの姿勢が変わっていた。まるでそれは、子宮の中にいる赤子のような姿だった。そしてざ、ざ、と土をかけ始めた。それを見て、俺は一緒にしゅんすけに土をかけた。やがて、しゅんすけは完全に土の中に沈んだ。
「これは、捨てといた方がいいわね」
そう言って、しゅんすけの母親はパイプを拾いあげた。
「ありがとう。次にしゅんすけと会う時はよろしくね」
その時初めてしゅんすけの母親が笑った。
背筋が寒くなるような綺麗な笑顔だった。




