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「教えてくれたんだ。穴に気を付けろって。そこだろ? 中にとがったパイプも入ってる。そんな所に、僕を落とす気だったの?」


 しゅんすけの声は淡々としていた。しかしそれは、普段の大人しいものではない、俺の知らない狂気をはらんでいた。


「こんな所に落ちたら死んじゃうよね」


 しゅんすけは穴の中からひょいっとパイプを取り上げた。


「危ないからとっとくね」


 そう言ってしゅんすけは笑った。

 勝ち誇ったような、蔑むような、俺という存在を全て否定するような顔だった。

 瞬間、全身の血が湧き立った。しゅんすけの襟をつかみ力の限り引っ張り、そのまま穴の中に突き落とした。


 ごぐっ。


 嫌な音がした。

 その音を慌ててかき消すように、俺の呼吸はぜえぜえと乱れ空気を囲っていく。

 穴の中で、しゅんすけはぴくりとも動いてなかった。


「あら、こんな所にいたの」


 不意に後ろから声がした。

 驚いて振り向くと、女の人が立っていた。

 しゅんすけの母親だった。


「これじゃ、帰って来れないはずよね」


 心臓が破裂しそうだった。対してしゅんすけの母親の顔には一切の感情がなく、まるで人形のようだった。


「やり直しましょう」


 誰に言っているのか。そう言いながら、穴の中に落ちたしゅんすけに手を伸ばした。その様子を俺は黙って眺めていた。


「今回のしゅんすけは駄目だった。だからまた戻ってきなさい」


 しゅんすけの姿勢が変わっていた。まるでそれは、子宮の中にいる赤子のような姿だった。そしてざ、ざ、と土をかけ始めた。それを見て、俺は一緒にしゅんすけに土をかけた。やがて、しゅんすけは完全に土の中に沈んだ。


「これは、捨てといた方がいいわね」


 そう言って、しゅんすけの母親はパイプを拾いあげた。


「ありがとう。次にしゅんすけと会う時はよろしくね」


 その時初めてしゅんすけの母親が笑った。

 背筋が寒くなるような綺麗な笑顔だった。


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