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(6)

 暗い公園の中。高校生になり、公園で無邪気に走る日はもはや遠い過去だ。立ち入っただけでこんなにもしみじみするのがその証拠だ。

 自分が残した痕跡の場に屈みこみ、まばらに生えた草木と土の上に掌を乗せる。じわっと冷たい感触が伝わる。


 ――わかってねえな。


 全ては可能性の話で終わっていた。

 あいつなりに辿り着いたつもりだろうが、あまりにも抜けが多すぎる。

 でもそれは仕方がない。分かる訳がない。


 ――やっと落ちたか。

 

 あの頃見たくて仕方がなかった光景が、何の興味も失せた今になって果たされていたとは。


“お前が死んでほしかったのは、僕としゅんすけどっちだったんだ?”


 どっちでも良かったよ。

 落ちてくれれば誰でも良かった。

 だがあの日、思ってもない形で落とし穴の役割は果たされた。

 



「こんな感じでいいのかな」


 みねはすっぽりと開いた地面の穴を見て満足そうに笑った。


「そうだな」


 対して俺の表情はそこまで明るいものでもなかっただろう。


「ねえ、誰をはめるの?」


 みねは嬉しそうに聞いてくる。


「まだ決めてない。でも、面白くなるのはここからだ。また決まったら教える」

「うん、分かった!」


 満面の笑みのみねを見て、俺はようやく笑った。

 馬鹿だよな。ただ利用されてるだけなのに。

 地元には公園が四つある。一号、二号、三号、四号。

 俺はみねをつれて、数日かけて四つの公園に四つの落とし穴を準備した。


「何かあっても、ふざけてつくっただけだって言えよ」

「分かってる!」


 1人で穴を掘るのは疲れる。みねはただの手伝い要員だった。

 この後の事を教える気も、俺が本当にしたい事を教える気もなかった。

 穴を掘り終え、夜に俺は各公園に仕込んだ穴の中に、死を加える事にした。鋭利な槍を一つ。

 落ちれば串刺しだ。

 穴の中で突き刺さった人間を想像して俺はまた笑った。

 誰でもいい。誰かが落ちればいい。

 だがやはり、誰かが落ちるその時を、出来れば直接見たいと思った。


「じゃあ、帰ったら二号公園集合な。スコップ忘れるなよ」


 しんいちに声を掛けたのはたまたまだ。

 大人しそうで害のない。しゅんすけに声をかけたのも同じだった。

 穴に突き落としてしまうのが一番簡単だ。だがそんなやり方じゃわくわくしない。バラエティのドッキリのように、不意打ちのように落とし穴に落ちる様が見たかった。じれったいやり方だが、想像しただけでどきどきした。

 だがしんいちは落ちなかった。

 だから翌日、今後はしゅんすけに声をかけた。

 しかし当日、しゅんすけは現れなかった。穴よりも、その現実が今度は気になって仕方がなかった。

 日が落ちた頃に、しゅんすけの家に向かった。インターホンを押すと、しゅんすけの母親が玄関から出てきた。何にそんなにくたびれているのか、ひどく憔悴した姿だった事は今でも強く憶えている。


「まだ帰って来てないわ。二号公園にいるんじゃないの?」


 ひどく素っ気ない答えだった。

 どこに行ったんだろう。ずっとそれが気がかりで、俺は夜の公園をまわる事にした。ひょっとして、何かの拍子でどこかの落とし穴にでも落ちたのじゃないかと思ったのだ。

 俺は二号公園に改めて向かった。落とし穴を確認したが、そこにしゅんすけはいなかった。

 立ち上がろうとした時、公園に誰かが入ってくる足音がした。ばっと振り返るとその人影はこちらに向かってきていた。


「やっぱりあの人の言う通りだった」


 しゅんすけの声だった。


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