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「その穴と、俺がしゅんすけを殺した犯人ってのに、話はどう関係してくるんだ」


 顔をあげないけんたが、今どんな顔をしているのかは分からない。

 いつまでそんな態度がとれると思っているのだろうか。


「ずっと残っていた落とし穴。昔、しゅんすけをはめようとした落とし穴。あれは何公園だったかな」

「……さあな」

「嘘だね。憶えていないわけがない。二号公園だよ。しゅんすけは二号公園の落とし穴にはまって死んだ。お前は絶対に憶えているはずだ。お前が掘った穴でしゅんすけは死んだ」

「……そうだな。けど、犯人は捕まったろ」


 そうだよな。そこに逃げたいよな。でもそうはいかない。


「犯人の男、あの後どうなったか知ってるか?」


 知らない。こいつは後を追っていない。何故なら追う必要などないからだ。あの空気の中、犯人という確定事項がしっかりと蔓延していたあの空気が完成しきった中で、そこまでの必要性はどこにもない。それ以前に、年齢が味方をした部分もあるだろうが。


「男は無罪で釈放されたんだよ。証拠不十分でね」


『俺じゃない。俺はやっていない』


 犯人の証言をあの時誰も信じなかった。明らかに不審な無職の若者の味方をするような人間はどこにもいなかった。情緒不安定とされ、その証言能力自体も疑問視されていた。警察も、そんな彼が犯人である事を疑わず捜査を進めたのだろう。だが、そんな思いとは裏腹に一切の証拠は出なかった。そこで警察も気付いたのだ。

 

 彼はやっていない。彼は犯人じゃない。彼は正しい証言をしている。

 彼は確かに当日しゅんすけに近付き、二人で歩いていた。これは間違いない。

 でもそれだけだった

 そしてそのまま、彼の死は時と共に薄らいでいく事になる。

 

「過去を辿っていく中で、思い出した事が一つあった。憶えてるか? 彼に声をかけられた人間が他にもいた事」

「いたような気もするし、いなかった気もするな」

「いたんだよ。当時、あいつに声をかけられた同級生が。そいつに、あの時何て声をかけられたのかって聞いてみた。そしたら教えてくれたよ。『穴に気を付けろ』って。そう言われたらしい」


 男は犯人じゃない。

 穴に気を付けろ。

 当日のしゅんすけと男。

 落とし穴。

 しゅんすけの死。


「あの男に話が聞けたら一番良かったけど。そこまでは辿れなかった。だからこれは断片の組み合わせだ。でも僕はこれが真実だと思ってる。」


 二号公園で死んだしゅんすけ。

 

『小学校男児、公園の落とし穴に落ちて大怪我』


 最近になって起きた落とし穴。

 あの穴は二号公園にあった。

 あれはいつつくられた穴だ。

 誰がつくった穴だ。


「なあ、けんた。教えてくれよ」


 犯人とされた男は、ほんとは全てを見ていたんじゃないか。

 穴の中に、更なる悪意が仕込まれていた事を。


「お前が死んでほしかったのは、僕としゅんすけどっちだったんだ?」


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