第87話 「スキルの本質」
「それじゃあ食事も済んだとこだし、話を戻そうか」
またか。
俺はため息をつきながら、さきほどの勝負の申し立てについて意見する。
「勝負してもいいが、この勝負にメリットなんかないと思うぞ」
「どうしてだい?」
「俺が負ければ俺は使い物にならないってことだ。俺が勝っても俺の自己評価は変わらない」
我ながら頑固だという自覚はあるが、人生のほとんどを弱者として過ごしてきた俺にとって、自分に自信を持つということほど難しいことはそうない。
というか、今も俺の中では弱者として人生を送っている。
俺を強いというのはもうすでにほとんどの人間が言っているが、弱いと言ってくれるのはマキナだけだろうな。
ふっ、強いと言われるのではなく、弱いと言われたがっているのか俺は。
「まあ、勝負については君に自信を持ってもらうこともあるけど、君のスキルについて知りたいと思ってるのもあるからね」
「……はあ、じゃあいいよ」
おそらくシャドウは引かないだろう。
俺は深いため息をついて了承した。
「そんじゃどこでやる?」
「ここの表でやろう。本気の殺し合いをするわけじゃないんだから、多少の広さがあれば問題ないだろう」
そう言われ、俺たちは全員店から出る。
アナはルークたちに先程の料理を届けに行ったが、それ以外は全員ここに残っている。
「それじゃあルールを決めようか」
「別に何でもいいよ。一発相手に喰らわせたら勝ちでどうだ?」
「うん、シンプルだけどそれが良いね。言っておくけど、手を抜いたら再戦だからね」
「へいへい」
俺は適当に相槌を打ち、どうスキルを発動するか考える。
ここは一撃を当てることを、と求めればいいか。
いや、それでは攻撃をくらいつつ相手に拳を当てる答えを示す可能性がある。
それでは俺の負けだ。
ならばどうするべきか。
攻撃をくらわずに一撃を当てることを、か?
駄目だ。これでは求めることが二つになってしまっている。
俺のスキル、色々試してみたのだが、何々しつつ何々するという風な言葉ではうまく発動しないことが分かっている。
もっと簡潔に、一つに絞らなければならない。
どうすべきか…………そうだ!
これは勝負、ならば簡単な言葉があった。
「俺は求める。勝利を」
あらかじめ設定されたルールがあり、勝利条件が明確なものであれば、この求め方は一つに絞りつつ、簡潔である。
ゆえに、スキルは問題なく発動する。
凍結されたときの中、目の前に現れた幻影は前進し、すぐさま止まる。そして右腕を振り上げる。しかしそれは実はフェイントで、今度は足を出す。それすらもフェイントで今度はバックステップ。サイドに軽快にステップしながら何度かスウェイで避ける動作をする。そしてまた右足を上げ………………………………。
時間にして約3分ほど、一発当てるだけにしてはものすごい時間がかかった。
レベル92の冒険者に対し、俺程度では一撃当てることすら難しいということか。
やっぱり、俺は弱いな。
「そろそろはじめようか。いくよ」
その言葉を聞き、俺は身構える。
俺の構えを見たシャドウは一目散に直進してくる。
俺はそれに対し、幻影が動いていた通りに動く。シャドウは攻撃を繰り出すも、俺の攻撃のフェイント、後ろや横に飛ぶステップ、スウェイやダッキングなど、様々な避ける動作でことごとくを紙一重でかわす。
俺は幻影通りに動く中、感心していた。
さすがレベル92の冒険者。スキルを使わない俺であったら10秒も保たずに殺されていただろう。
本当にすごい奴だ。
そして、俺のスキルも一体どうしてこうも強いのか。
レベル差およそ70、ステータスも数百と差があるだろう。それを覆しているのだ。
いくら答えが見えると言っても、これはさすがに異常だ。なんというか、シャドウは俺に攻撃が当たらないように動いているようにさえ錯覚する。
「すごいねマサト君、一応本気のつもりなんだけどな」
目に見えない動きを繰り返す最中、シャドウは称賛の声をあげる。
まだまだ余裕がありそうだが、すでに本気なのか。
まあ、どうでもいい。なぜならあと12秒でカタが付く。
シャドウは俺の周りを高速で移動し始め、混乱を誘う。
だが無意味だ。俺にはあらかじめ答えが見えており、その通りに動いているだけ。
どのような揺さぶりも、俺には何の意味もないのだ。
「これでどうだ!」
シャドウは俺の左斜め後方から攻撃を繰り出す。
俺はそれに反応できない。シャドウの拳が俺に迫ってきてるというのに、攻撃されているという認識すらない。
だが俺は、シャドウの攻撃が見えているように左斜め後ろを振り向く。
完全に虚を突いたつもりのシャドウは動きが一瞬硬直する。
その硬直を見逃さず、というわけではなく、幻影通りに動いて俺は拳をシャドウの胸元に向かって放つ。
その拳はシャドウの胸の右辺りを貫いた。
「ぐっ……ぐふっ……!」
胸を殴られたことにより一瞬呼吸が止まるシャドウ。
そして俺は、以前レイトと戦った時のように殴った反動で拳を痛めるのであった。
「勝負あったな」
俺は平静を装いつつも、ナナのもとに寄って、回復魔法をかけにもらいに行く。
以前のことを覚えていたナナは近づいてきた俺に何も言わず、そっと右こぶしの治療に入る。
「シャドウ、何をしているの?」
胸を押さえてうずくまっているシャドウのもとにヒカリが歩み寄り、軽蔑するかのような声をあげた。
「あなた、ぶつかりに行ったでしょ?」
ヒカリは先程のシャドウの攻撃、それをわざと俺の拳に当たりに行ったと述べる。
俺はシャドウの攻撃を思い返してみると、確かにそんな節があった。
シャドウだけでなく、レイトの時もそうだったような気がする。
俺がつきだした拳や足に、吸い込まれるように直撃してきた。
直撃したのではない。直撃してきたのだ。
「そんなことは……だけど、確かにそう見えていたのかも。いやでも、僕は確かにマサト君に勝ちに……」
言いわけをしようとしたシャドウは自身の口に手を当ててぶつぶつと何かは話し出す。
聞こえてきた内容はとぎれとぎれだが、今の自分の戦闘がいかに不自然だったか、それを再認識している感じだ。
「シャドウ、あなたは最後、左後方から彼の虚を突いて攻撃したわよね?」
「……うん、確かに虚を突いたつもりだった。でも彼は僕の攻撃を読んでいて――」
「それは関係ないわ」
シャドウの言おうとしていたことをピシャリと遮る。
「シャドウのスピードなら虚をつく必要がないわ。後ろから全速力の攻撃をすれば、たとえ読まれていても防がれることはなかったはずだわ」
「「確かに!」」
俺とシャドウの言葉が重なった。
ヒカリの言う通り、シャドウほどのスピードがあれば、後ろから攻撃すれば何も問題がなかったわけだ。
そうすれば俺の攻撃はシャドウに届く間もなく、シャドウの拳が俺に最初に当たっていたはずだ。
うん、冷静に考えれば分かることだった。
「シャドウ、あなたは頭が良いわ。どんな時も冷静で、私の自慢の兄なのよ。それなのに、それに気づかないわけがないわ」
「……ヒカリの言う通りだ。ただ圧倒的なステータスで彼と戦っていれば、絶対に負けることはなかった」
遠回しに俺が弱いと言われているが、その通りだと思った。
なんというか、今のシャドウやレイトにしても、どうも俺に都合がいいように動いていたように思える。
そもそも俺の攻撃力では、レイトはおろか、シャドウにすら効かないはずだ。たとえ効いたとしても、HPを1減らすような、蚊に刺された程度のモノのはず。
それなのにレイトにシャドウ、両名とも俺の攻撃で悶絶した。レイトなど気絶したほどだ。
俺の攻撃力でそれを可能にしたのは、カウンターだ。
2人とも全速力で俺に攻撃を食らわせようとした。そのおかげで俺の攻撃が圧倒的なステータス差を覆すことになった。
どちらも、俺が最善の行動をするだけでなく、相手が最悪の行動をした結果によるもの、だと考えることが出来る。
「マサト君、もう一度だけ、戦ってみてくれないかい?」
「別にいいけど、シャドウは大丈夫なのか?」
俺の攻撃は相当な威力になったはずだ。呼吸すら困難に陥ったほどだった。
「大丈夫。結構効いたけど、問題はない」
シャドウは胸を摩りながら答える。
見たところダメージはそれほどなかったようだ。ただ胸を攻撃されて肺がびっくりした、そんなところだろう。
だが実践であったなら、俺の追撃がありシャドウは死んでいた。
そう考えればたとえダメージがないにしても俺の完全勝利だろう。
「それじゃルールはさっきと一緒、先に一発当てた方の勝ち」
「ああ。そんじゃ始めるか。俺は求める。勝利を」
先程と同じ求め方を、気だるげに言って発動する。
その瞬間に時は止まり、幻影が動き出す。
動き自体はさっきのと比べても大差ない。
避けて、避けて、避けまくって、最後に一発チョコンと食らわせる。
そこで幻影は消え去り、再び世界の時間が動き出す。
「シャドウ、冷静によ」
構えを取るシャドウにヒカリが忠告する。
そんなことも言われずとも、シャドウは常に冷静。
負けた勝負の時でさえ、シャドウは冷静だったのだ。そんなことはシャドウ自身が一番分かっている。
「ハッ!」
シャドウは息を鋭く吐き、一目散に俺へと前進する。それに対し俺は右腕を軽く上げる。
それを見たシャドウは急減速、弧を描くように俺の後ろへと回り込む。
この動き、幻影を見ておかなければわけも分からずパニックになっていただろう。
目の前でシャドウが一瞬のうちに消えたのだ。
「くらえ!」
シャドウは俺の頭にめがけて回し蹴りをする。
その攻撃は俺には見えていない。が、身をかがませることで蹴りを避ける。
攻撃を避けた地面に手を置き、それを軸に反転。真後ろに陣取っていたシャドウの正面に向き直る。
その時のシャドウの表情は、鳩が豆鉄砲を食ったような、驚きの表情をしている。
完全に虚をつき、全速力の攻撃を避けられたからだろう。
いかに反応できなくとも、見えていなくとも、避けることならばたやすい。
が、今みたいな攻撃を繰り返されれば俺に勝つ方法はない。真後ろから攻撃されれば振り向いてカウンターを食らわせることも不可能だ。振りかぶるときにはすでにシャドウの攻撃は俺に直撃する。
蹴りを食らわせようにも、真後ろに繰り出す蹴りなど拳ほど勢いがつくわけではなく、カウンターはうまく決まらないだろう。
……いや、この勝負は一発当てればいいだけだから、威力は関係ないか。
なら勝てる。
そう意気込むも、俺の行動は幻影通りに動くただの作業だ。
集中さえ切らさなければどうということもない。
「シャドウ、動きが雑になってるわよ」
ちょくちょく小言をはさむヒカリ。
ゆうほどシャドウの動きが悪いとは思えんが、力ある者から見ればそう見えるのか。
まあ、俺でさえ避けられると思えば、どの攻撃も弱く思えるが。
しかしまあ、驚くほどきれいに避けられる。
俺の動きは全てなんの意思もない。ただ作られた道を通るだけ。
それなのに俺のすべてが正しい。そう錯覚してしまうほどの力がこのスキルにはある。
「これでどうだ!」
シャドウは声を張り上げて勝負を決めに来た。
先程の勝負と同じ轍を踏まないよう、真後ろからの全速力の攻撃。俺の後頭部を狙ったパンチだ。
俺が振り向いての攻撃では間に合わない。
この攻撃が視認できているヒカリもシャドウの勝利を疑っていない。
だが、
「よっと」
俺は頭を右に振り、左ひじを全力で後ろに引く。
「ぐふっ……!」
シャドウの下腹部に俺の左ひじがめり込む。ミシミシと不快な音を立て、腹筋を粉砕する。
ついでに俺の左ひじも粉砕する。
「あー、やべ。動かねえ」
腕に全く力が入らない。
左ひじ、つまりは関節がぶっ壊れたことにより、俺の腕は動かなくなった。
これ、治るよな?
「シャドウ、大丈夫!?」
その場にうずくまるシャドウに、ヒカリが駆け寄る。
ダメージがさっきの比ではないことに、傍目から見ていても気が付いたらしい。
というか、骨が砕ける音がしたからな。
「ナナ、回復してくれ」
両腕を力なくぶらつかせながら、俺はナナに回復を求める。
それだけでナナも俺に回復魔法をかける。
うん、気持ちいい。きっちりと回復できているようだ。よかった。
このまま両腕が動かなくなってしまったら、さすがにシャレにならん。人としてのまともな生活すらできないことになる。
「ふー、痛かったあ」
左腕を確かめるようにぐるぐると回す。
動かなくなった右腕と違い、痛みもなく快適に動く。
しかし、これの違いは何だろうか?
今回も右腕の時と同様、全く動かなくなった。
考えられるのは、右腕は細胞レベルでの損傷。左腕は物理的な損傷。その差だろうか?
ま、考えても答えは出ないか。トライアンドエラーで検証してみようにも、こんなこと実験するなんて正気の沙汰でもないしな。
「そうだ。ナナ、あいつも回復してやってくれ」
俺は地べたにうずくまるシャドウを指さし、回復を促す。
見ればシャドウをヒカリは必死で揺さぶり、目にはうっすらと涙を浮かべているのが見える。
それほどまでにシャドウのことが大事なのか。
「はい、分かりました」
ナナは快く了承してくれて、シャドウの傍による。
シャドウに手をかざすナナにヒカリはあからさまに嫌悪な目を向けるが、回復魔法をかけ始めるとその嫌悪は驚愕に変わり、徐々に安堵へと変わっていった。
「……ガハッ!」
何かを吐き出すような声をあげたシャドウ。
自分の体をさすりながら、自分にかけられている回復魔法のことを認知する。
「ありがとう。回復してくれて。」
シャドウは自分の状況を確認するとナナに礼を言う。
あれほどのダメージを負っておきながら、即座に冷静さを取り戻すとは、やはり生まれながらのイケメンか。
「……ヒカリ、心配させてしまったようだね。ごめんね」
今にも泣きだしてしまいそうなヒカリに、シャドウはそっと頬を撫でる。
うん、絵になるな。
イケメンな執事風の男に、お嬢様然とした金髪の可愛いゴスロリ娘。見てるだけで恋愛ドラマでも見ているような錯覚に陥りそうだ。
「シャドウ大丈夫!? ごめんなさい、私が無茶言ったから……!」
「何を言ってるんだ。ヒカリは当然のことを言っただけだ。僕が弱く、彼が強かった。それだけさ」
「ううん。私が考えなしだったわ。あなたにこんな真似をさせて。私が戦うべきだったのよ」
「それはいけない。僕は僕の友人をヒカリが傷つけるところなんか見たくない」
「そうね、シャドウは優しいものね。友人が這いつくばる様なんか、見たくないわよね」
うーん、今のを見て、俺がヒカリに負けることは確定事項なのか。
シャドウのレベルが92なのだから、ヒカリもシャドウと同じようなレベル、90前後のはずだ。
というか、レイトを除いて普通の人間のレベル上限は100なのだから、そこまで差はないはずだ。
一体どうしてあそこまで自信を持てるのか。
そんなことを思っている俺に、シャドウとヒカリが歩み寄る。
「いやー、やられたよ。油断してるつもりはなかったんだけど、強いね」
今さっき自分のことを盛大に負かしていた相手に、これでもかというほどの満面の笑みを見せるシャドウ。
ヒカリもシャドウに傷をつけた俺に対し、非常に好意的な表情を向けている。
「で、どうだい? 僕たちのこと手伝ってくれるかい?」
そうか、そういう話だったな。
この勝負、シャドウは俺に自信をつけさせるつもりで戦ったのだ。
かといって手加減するわけでもなく、勝ったら勝ったで特に何をするということでもなかった。
この2人を手伝うかどうか、あくまでもこの勝負とは別の話だ。
ゆえに勝った俺にはこの申し出を受諾する権利も、拒否する権利も持っている。
どうすべきかは、どちらに転ぼうとも俺の勝手だったわけだ。
そんな俺の返答だが、
「断る」
これで今日、何度否定の言葉を述べただろうか。
自分よりも圧倒的に強い者からの助力の申し出、普通の人間ならとても名誉なこととして受け入れるかもしれない。
だが俺は、そんな名誉とは無縁のところで生きてきた人間だ。
死ぬかもしれない危険な地に、行かなくてはいけない理由がなければ赴くことなどしない。
とまあ色々述べてきたのだが、これはあくまでも俺の意見。仲間の意見など一切合切排除してきた。
今まで申し出に対する返答を仲間たちに相談しなかった理由としてあるのが、
「別にいいではないか。これも人助けだ」
「そうですよね。それに、マサトさんは強いですから」
これだ。
アカネは俺の意見がイコール自分の意見になるが、ソウラとナナは若干違う。
基本的には俺の意見を尊重してくれるが、ちゃんと自分の意見を持っている。
そしてその自分の意見だが、この2人はまあお人好しだ。
自分勝手な感じが目立つソウラだが、実は困った人間がいれば手を差し伸べる、いたって善良な人間だ。
ナナはソウラ以上のお人好しかもしれない。ソウラは困った人間には何の疑問も持たずに手を差し伸べるが、ナナは少し違う。
今みたいな危険な申し出を、きちんと危険性を考慮して、断るという考えが頭をよぎる。どころか、見過ごしても問題はないとさえ思考は至るかもしれない。
だが、ここで終わらないのがナナだ。手を差し伸べないことに罪悪感を覚えてしまうのだ。
見過ごしても自分に非はない、頭ではそう分かっていても、それを割り切れないのがナナなのだ。
この2人は最終的にレイトやシャドウの申し出を受け入れることは分かっていた。
だから相談しなかった。
「なあマサト、お前は強いんだ」
「そうですよ。マサトさんは決して弱くありません。私が保証します」
「…………分かったよ」
2人がもうすでに引くことはないと悟った俺は、仕方なくシャドウの申し出を受け入れる。
それを聞いてシャドウとヒカリは、何ともうれしそうな表情で俺に握手を求めてきた。
「これからよろしく、マサト君」
俺は差し出された手を握り返し、こう切り返す。
「だけどさ、シャドウは俺が力になると思っているのか?」
「もちろんさ。君のスキルについて、その本質が分かった。君以上に頼りになる人間はいないよ」
————この口ぶり、シャドウも気づいたか。
まあさすがに気づくか。このスキルの本質に。
「シャドウ、彼のスキルの本質って、探求じゃなかったの?」
「ん? 気が付かなかったのかいヒカリ?」
「ええ、私にはさっぱりだわ。教えてちょうだい」
「うん。彼のスキルの本質はね、肯定だよ」
「肯定?」
「そう、彼のスキルはあらゆる自己の行動を肯定するもの。たとえそれが彼の力では不可能なことであっても、求めればそれはあらゆるものが肯定しようとする、っていうスキルさ」
「それはつまり、シャドウがやられちゃったのも彼を肯定しようとした結果?」
「そうだよ。あの時、僕は色々と作戦を考えていたんだ。だけど彼が勝利を求めた途端、数多くの作戦は消えた。正しくは一つに収束されたんだ。彼のスキルは僕の勝つという意思を変えることはなかった。だけど、どう倒すかという思考を変えることは出来たんだ」
「つまり、彼が倒すことが出来るようにシャドウが動いていたってこと? それも無意識に?」
「そういうこと。つまり彼のスキルは、彼の行動がすべて正しいものになるってこと」
なるほど、俺とは解釈の仕方が少し違うが、きちんと理解は出来ているようだな。
しかしそうだとすると、俺はスキルを得た時に望んだことが、俺なりの答えとして導き出せる。
このスキルはシャドウの言う通り俺のすべてを肯定するもの。
分かりやすく言うなら、俺の行動がすべて正解になる、ということだ。
俺はあの時、数多の冒険者に襲われている時、世界を呪った。
俺という存在を否定し続けた世界を、俺のすべてを否定した世界を、激しく憎悪した。
その結果現れたスキルが、俺のすべてを肯定するスキル。
なんとも皮肉な話だ。
心の底からの憎悪が、心の底からの願いになるとはな。
「なんにせよ、これは相当に強力なスキルだ。人が考える生き物である以上、彼に一対一で勝てる存在はいない」
俺のスキルはかなり強力なもの力を秘めていた。
だがそれでも、所詮この力は…………。
「それじゃあ教団を相手にするのは明日の1時。時間になったらあの建物の前で集まろう」
シャドウが指さしたのは、この街でも頭一つ飛びぬけて巨大な一つの建物。
この世界に来てから気づいてはいたものの、俺には関係のないものだと興味はなかったゆえに、一度として立ち入ることのなかった建物だ。
「分かった。それじゃあまた明日な」
俺はシャドウたちと別れ、今日はもう家に帰って明日のために休息に努めた。
主人公の過去話とかみんな興味あるかなと思ったんですが、みなさん興味ありますか?




