第86話 「2人の過去」
2人に連れられてきた場所は、煌びやかな装飾が施されているいかにも高級といった感じの店構えをしている。
が、ソウラの家と比べるとどうも見劣りする。
飲食店の中ではトップクラスの店であることは間違いないのだろうが、これ以上の外装の家を知っているだけに感動は少ない。
「ていうかここ、俺たちが入ってもいいものか?」
今の俺たちはモンスターを倒すための服装、ここでは不釣り合いだ。
ドレスコード、というのだろうか? それが俺たちは満たせないと思うのだが……。
「心配ないよ。この世界では力あるものが皆から崇められる。今の服装でもこの店の人は受け入れてくれるよ」
そうか、ならいいか。
俺は2人の後ろにピッタリと付いて店の中に入る。
その際、アカネは俺の左手を握り、アナは俺の服の裾をぎゅっと掴んでいる。
ナナも辺りをキョロキョロと見まわして落ち着きがない。
まあ、この外観の飲食店にはいることなど初めてゆえに、緊張しているのだろう。
ソウラの家はあくまでも知人の自宅ゆえに緊張することはなかったが、知り合いの一人もいない初めての店に入るのは勇気がいるだろう。
俺もヒカリとシャドウがいなかったらこんな店には怖くて絶対に入れなかったな。
そこへいくとソウラはさすがだ。このような店に慣れているのか、堂々としている。
「いらっしゃいませ」
店に入るとフォーマルな服に包まれた礼儀正しい店員が出迎える。
俺が立ち入った飲食店は粗野な人間が多かったのだが、さすがはお高い店。外装に合ったスタッフの服装だ。
「いつものを、今回は七人分頼むよ」
席に着く前にシャドウは注文を済ませた。
その姿に俺は素直にかっこいいと思った。
美麗に華麗に、そのスマートな振舞いは育ちの良さが窺える。そして、なによりイケメンのこんな姿、かっこいいと思わない方がおかしい。
俺は初めて会った時の、影から現れた薄気味悪い登場がすでに頭の中から消えていた。
「マジで高そうなんだけど、ホントに奢ってもらっていいのか?」
店の雰囲気に不安になってきた俺は、シャドウに耳打ちする。
それに対しシャドウは笑みを浮かべながら頷く。
「もちろん。誘ったのは僕なんだからね」
イケメンだなあ。
さらっとこんなことが言えるとは、これはレイトを超えるイケメンだ。
乙女ゲーの攻略キャラにいてもおかしくない、外見内面全てを兼ね備えたイケメンだ。
もし俺が女だったら惚れていたね。
と俺はシャドウに感心していたのだが、ヒカリはシャドウに対して不満の声をあげる。
「シャドウ、私から10秒視線を外しているわよ」
「ご、ごめんねヒカリ。つい……」
「もう、私はいつでもシャドウを見てるっていうのに」
「本当にごめんねヒカリ。でも信じてほしい。僕はヒカリのことを誰よりも愛している」
そうだ、内面に一つだけ問題があった。
ヒカリのことに関してはこの男は馬鹿みたいになってしまうのだ。
「マサトさん、私も誰よりも好きですよ」
2人に感化されたのか、後ろからナナが、俺に聞こえるようにつぶやいた。
「ああ、ありがとな」
それを俺は適当に流す。
しかし適当に流せない人間がここにいる。
「おいナナ、私の方がマサトを愛しているぞ!」
ソウラがナナに張り合うように言った。
こんな恥ずかしいことを臆面もなく言えるとは、言われているこっちの方が赤面してくる。
だがこの2人に介入してややこしくなるよりも、放っておこう。
「席も豪華だな。真ん中のこれなんだ?」
この店の中でもひときわ豪華そうな席にヒカリとシャドウはなんの躊躇いもなく座る。
真ん中にはよく分からない、小さな像のようなものが立っている。
「よく分からないんだそれ。この店の売りみたいなんだけど」
「ふーん。まあ、どうでもいいか」
高い店の考えることはよく分からん。きっとこれが客引きにはいいのだろうな。
と考えながら、俺は席に着く。
ややこしいことを避けるために、両隣にナナとソウラは座らせず、アカネとアナの幼女1人と少女1人を座らせる。
両手に花というよりも、両手につぼみって感じだな。まあどちらも美少女ではあるが。
正面にはシャドウがいて、これでややこしいことにはならないはずだ。
「さてとマサト君、今回君を食事に誘ったのは、ちょっとお願いがあってね」
「……なんだ?」
俺を飯に誘うことに対し、何か考えがあっただろうと予測していた俺は、数瞬の間を置いた後に真剣な表情にする。
「例の教団のことなんだけどね、レイト君たちはおそらく負ける」
「……どうしてそう思うんだ?」
「教団には一般人もいる。裏を知らない、単純に神を信仰する清き者たちだ」
「つまり、そいつらを人質にでもされたらレイトは勝てないと」
「そういうこと」
なるほどな。そういうことなら確かにレイトは勝つことは不可能だろうな。
あの男は大のために小を切り捨てることなど出来ない人間だ。
天秤の針はどちらにどれだけの重りを置こうが傾くことはない。
それがレイトのいい所であり、弱点となってしまっているというわけだ。
教団の関係者といえども、何も知らない信仰者を人質にでも取られているとなったら、他の3人はともかくレイトは絶対に勝てない。
それどころか敵の人質解放の甘言とかに騙されて、あっさりと命を落とすことになるだろう。
「それを知ってて、レイトを止めなかったのか?」
「僕が止めたところで彼らは止まらなかっただろうからね。100歩譲って、エルドさんだけだろう」
エルドというのはおそらくあの老人のことだろう。エルじいって呼ばれてたし。
あの老人だけが立ち止まっていただろうという意見には、心底賛成だ。
あらゆる危険性を考慮し、行動に起こすことはなかったはずだ。
それどころか、今回敵地に赴いたことさえ驚きと言える。
「それで、レイトが倒されるとして、俺に何してほしいんだ?」
「簡単さ。敵の壊滅を手伝ってほしい。それだけさ」
あまりにもあっさりと、笑顔でそう言った。
こんな危険な戦いに、何の気兼ねもなく頼むことが出来ようとは、この男も俺のことを過大評価しているのではなかろうか。
「何度も言うけど俺は弱いぞ」
この自己評価は何があろうと覆ることはない。
レイトに勝った事実、それがあっても俺は自分が弱いと言い続ける。
本当に強い人間は引きこもったりなどしない。
俺は俺の中で、この世で最高にヘタレでどうしようもないという評価が確立されている。
死の危険がある戦いに、率先して挑んだりなどしない。
このことについて調べようとしたときも、スキルで安全に調べて、レイトにでも知らせようと思っていたほどの他人任せなのだ。
「というかさ、シャドウはヒカリちゃんがいればそれでいんだろ? ならほっときゃいいじゃねえか」
「まあその通りなんだけどね、あれを見過ごせばこの街の戦力は本当に0になる。結局はモンスターに襲われて死亡さ。教団は何か逃げる策を持っているだろうけど、あいつらの考えたことを実践したくはないんだ。ヒカリもね」
「そうよ。あいつらが考えた作戦なんか死んでもイヤ。そんなことをするぐらいなら多少の労力なんかどうでもいいわ」
「お前ら、一体何されたんだ?」
この2人のあの教団嫌いはかなりのモノのようだ。
おそらく死ぬか教団に入るかを迫られれば迷いなく死ぬと言い切るほどに。
ヒカリは多少物騒な考え方をするときがあるが、シャドウと同様に心根は優しい奴だと思う。余裕があれば人助けはするほどに。
その2人がここまで嫌うには何か理由があるはずだ。
「簡単さ。家族もろともあの教団に襲われた。両親も使用人も1人残らず皆殺しさ。確か、10年ぐらい前のことだったかな」
とんでもないことをサラッと述べるシャドウ。
ヒカリも眉一つ動かすことなくそれを聞き流している。
「僕らの両親はこの世界でも比較的権力の強い家柄だったんだ。僕が言うのもなんだけど、両親は正義感の強い人たちでね、裏で悪行を重ねるレイ教を壊滅させようと色々としてたんだ」
家族が殺されたという言葉に衝撃を受ける俺たちを置き去りに、シャドウはなぜ自分たちが狙われたのかを淡々と説明する。
俺も、ナナ達も、なんとかその説明を聞き逃さないようにするだけで精いっぱいだ。
アカネやアナは暗い表情になって説明を聞いている節はない。
「だけどレイ教は強い冒険者やお金持ちがかなりの数いてね、正直、両親だけじゃ力は足りなかったんだ。方々駆けまわって助力を求めても、触らぬ神に祟りなしというか、誰も手助けしてくれなかったんだ。それで結局、レイ教徒の冒険者に家を襲われたというわけさ」
何とも軽薄に事の天幕を話すシャドウ。それは壮絶な過去であるはずだ。
計り知れないほどの恐怖を味わったはずだ。
なのに、どうしてこんなにも淡々と話すことが出来るのか。
ヒカリもこの話に興味も示さず、聞いている様子がまるでない。
「残された僕たちは生計を立てるために仕方なく冒険者となったわけさ。今じゃレベル92の有力冒険者。昔のようにこんな高い店でも食事できるようになったんだよ」
正直、シャドウの心の内が計り知れない。が、シャドウがヒカリを、ヒカリがシャドウを愛する気持ちは十分に分かった。
そんな壮絶な過去を経験し、今日まで2人、手を取り合って頑張ってモンスターを倒し、昔のような華やかな生活を取り戻したんだ。
2人の間にはどのようなことがあっても切ることの出来ない絆があるのは確かだ。
そして、レイ教の策に乗っかりたくないという2人の気持ちも。
「で、マサト君、僕たちを手伝ってくれるかい?」
どうしようか。
この2人に同情する気持ちは確かにある。出来る限り手伝い、教団の悪行を止めることがモンスター襲来のためになることも理解できる。
だが、どうしても俺が足手まといになるという考えが離れない。
俺のスキルは確かに使える。レイトを倒したのだから、そのことは理解できる。
だが俺のスキルはいちいち発動の言葉を述べなければならない。
死ぬ危険性はかなり高いのも事実なのだ。
「悪いけど、手伝ってやりたい気持ちはあるけど、俺じゃ役に立たないよ」
「なぜそう思うんだい? レイト君を倒したんだろう?」
「あれはレイトが油断してただけだ」
「それでも…………なら、僕と勝負してみないか?」
「は? なんでそんなこと」
「レイト君ほどじゃないけど、僕のステータスは君よりもはるかに上だ。普通に戦えば100回やって100回勝利するだろうね」
その通りだ。
あの時レイトに勝ったことでさえ、いまだに信じられない。
普通なら100回やって100回どころか、100万回やって100万回敗北するはずだ。
というか、確かにレイトを倒しこそしたものの、俺も多大なダメージを負った。引き分けといってもいいぐらいのものだ。
「僕は君のスキルについて知っている。油断なんか絶対にしない」
「…………まずは飯を食おう」
話の途中だが、ここで食事が出来上がったようだ。
テーブルの上に豪華な食事がズラリと並べられる。いつも食べている物とは雲泥の差の、見た事もないような料理だ。
まあ、いつもは食べなれたものが良いという理由でシーラには比較的安い、俺らが泊まっていた宿屋よりも1ランクほど高いものにしてもらっていたのだが。
「さっきまでの話は一旦忘れよう」
「……そうだね。食事は楽しまなくちゃね」
両手にナイフとフォークを持ち、料理を食べ始める。
うん、不思議な味だ。
なんというか、心の底からうまい、とは言えない。
不味くはないのだが、初めての味に戸惑い、思っていたほどのおいしさではない。
だが周りを見てみると、ナナ達はおいしそうに食べている。
俺の味覚がおかしいのだろうか?
「ん?」
少しずつ料理を口に運んでいる最中、アナの様子がおかしいことに気づいた。
「アナ、何してるんだ?」
「ちょ、ちょっと……」
よく見ると、アナは料理をタッパーのようなケースに運んでいる。
「あの、こんなに豪華なもの初めてで、ルークたちにも食べさせてあげたいなって……」
アナは申し訳なさそうに、縮こまりながらそう答える。
まあ、確かにマナー違反であることは明白なのだから、このような行為に負い目を感じることは当然と言えば当然だな。
「ルークってのは、アナの仲間か?」
「……うん」
「だけど、もう帰れないとか言ってなかったか?」
「そう……だけど、あそこに戻れなくても、一言謝りたいなって」
何かわけありか。
これ以上つっこめば、また泣かせてしまうかもしれないな。
俺は別にアナのこの行動は何とも思わないが、問題はシャドウとヒカリがどう思うかだ。
「そういうことならいくらでも持っていくといいよ」
予想に反し、シャドウはアナの行動を咎めることはなかった。
それどころか快く受け入れ、自分の料理も、まだ手を付けていない部分を差し出そうともした。
「シャドウは相変わらず優しいわね。じゃあ、私のもあげるわ」
シャドウに続いてヒカリも、自分の料理を差し出した。
これにはアナも驚きを隠せない。
「い、いいの?」
「もちろんさ。だけど、あんまり長持ちするものじゃないから、早めに渡すんだよ」
「ありがとう!」
アナは満面の笑顔でお礼を言う。
この流れで行けば、ナナ達も渡すのでは、と思ったのだが、そんな暇なくすでに食べ終わっていた。
そんなにおいしかったのか。
「アナ、そのルークって奴と何かあったんだろ? 一緒に行ってやろうか?」
「ううん、大丈夫。ルークたちの所には私一人で行く。その……ルークはお兄ちゃんのこと、嫌ってると思うから」
最後の方はボソボソとしゃべって聞こえづらかったが、何とか聞き取れた。
ルークが俺を嫌ってるか。そうだろうな。初対面の時の印象が最悪すぎた。
アナはスキルのおかげで俺がカードを渡すように頼んだことを、全てではないが知っている。それゆえに俺に心を開いてくれた。
だが、ルーク含めその他の人間は、ホームレスとして生きてきたゆえだろう。俺のことなど大嫌いなはずだ。
俺が行けば、逆効果になってしまうだろうな。
それにしても、今この場にいる人間は心優しい奴が多いな。
もう帰れないと言っていた仲間のために食事を持って行こうとするアナや、自分の食事も何の躊躇もなく差し出すシャドウとヒカリ。
なんか、俺だけが場違い感半端ないな。
書いているうちにちょっと気付いたんですが、アナとナナって名前が似ててちょっと読みにくいですね。
キャラを考えている時は特に気にならなかったのですが……。
今後はキャラの名前をちゃんと考えます。
それと、感想とかもらえるとうれしいです。




