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第83話 「作戦」

 自分たちの世界にいるこの2人は一旦置いといて、今日ここに来た目的を果たそう。


「なあレイト、モンスターの襲来に向けて、何か作戦とかないのか?」


「ああ、もちろんあるよ。その作戦に向けて準備している最中なんだ」


「準備か……もしかしてそれって、穴掘りか?」


「よく分かったね」


「そりゃあ、ここにいる奴らを見たらな」


 周囲を見回してみると、スコップを持った冒険者が何十人といる。

 これを見て穴掘りと考えない奴はいないだろう。

 まあ、いい作戦だとは思う。飛行するモンスターには役に立たないが、グレムウルフのような繁殖力の高いモンスターは地上用が多い。落とし穴は効果的と言えよう。

 さらに、グレムウルフが襲来した時と違って、今回は時間が十分にある。この人数で作業に当たれば、3週間もあればこの街を囲えるぐらい大きな穴を作ることは可能だろう。

 まあ発想自体は戦国時代の城の堀と変わらないっていう、前時代的な作戦だがな。


「それで、地上用の対策は出来たとして、対空の作戦はどんなのがあるんだ?」


「……………………」


 レイトは俺の質問に対し、無言になった。

 これだけで分かる。何の作戦もないのだと。


「まあひとまずは地上だよ。それに地上がどうにかなったら、逃走も出来るし……」


「何言ってんだ? この街を囲うどでかい穴を作るんだろ。逃げ道なんか無いに決まっている」


「…………確かに!」


 はいこの街終わった。

 考えなさすぎだ。バカにもほどがある。

 どうせ逃げるところなんかないんだから逃げ道の確保なんかする必要もないが、もしもの時逃げるという選択肢を考えているのなら、馬鹿としか言いようがない。


「ど、どうしようマサト君!?」


「……逃げ道の必要はない。俺に対空用の秘策がある。対空どころか、対地上にも通用する策がな」


 一つだけだが俺も使える作戦は考えてきていた。最も使いたくない作戦ゆえに、出来るなら別の作戦をとここにいる奴らに期待していたが。

 しかし作戦がないのなら仕方がない。何とかしてこの作戦を決行させるだけだ。


「ほ、本当かい!? それはどんな策なんだい?」


「お前のパーティの魔法使いを呼んで来い」


「え? わ、分かった。すぐに呼んでくるよ」


 そう言ってレイトは駆け足でギルドを出て行った。

 どうやらここにパーティメンバーが全員いるわけではないようだ。助かった。

 もしあの槍を持った男と女騎士がいたら、因縁をかけられているところだ。


「さてと。そこの、ヒカリさんにシャドウさんっていったっけ?」


「ん? 僕たちに何か用かい? ああそれと、さんはいらないよ」


「ええそうよ。彼のことはシャドウと。私のことはヒカリちゃんと呼んで」


 ちゃん付けを強要するとは、この女、割と子供みたいだ。年齢は俺ぐらいだが、身に纏っているゴスロリと相まって、精神年齢のほどは幼く見える。


「2人とも、スキルについて詳しそうだから、色々と聞きたいなと思って」


「そんなことはない。スキルが願いである。これは誰もが知っていることだ。僕たちが特別詳しいとゆうわけではない。そうだろヒカリ」


「ええシャドウ。私たちはどちらかと言えば、そういう情報には疎い方よ」


「でも、俺よりは知っているだろう?」


「だろうね。どうするヒカリ、彼に教えてあげるかい?」


「そうね、彼に興味もあるし、少しぐらい付き合ってあげても構わないわ。だけどシャドウが説明してね」


「フフ、ヒカリは我儘だね。だけどそんなヒカリも可愛いよ」


「ありがとうシャドウ。あなたもとてもかっこいいわ」


「僕の女神にそう言ってもらえるなんて、光栄だね」


「おい、2人の世界に入るな。俺の質問に答えろ」


 この2人、度々自分たちの世界に突入してしまう。所謂バカップルというやつだ。

 漫画やアニメの二次創作で見る分にはギャグキャラとして面白おかしく見ていたが、リアルで繰り広げられるとこうもウザったいものなのか。


「ああヒカリ! どうして君はそんなに可愛いんだろうか!」


「シャドウ! どうしてあなたはそんなに輝いているの!」


 駄目だ。俺が何を言おうとこの2人、一向に話してくれない。

 リアルのバカップルがこれほどまでにめんどくさいとは。いっそ一発殴ってやりたくなる。

 だが、この街での俺への疑念が収まりつつある現状、暴力沙汰を起こすのは避けたい。

 この2人が現実に戻ってくるのを待っていよう。

 そう思った直後、レイトがパーティメンバーを連れて戻ってきた。


「連れてきたよマサト君。さあ、作戦とやらを聞かせてもらおうか」


 速攻で戻ってきたわりに、レイトは息一つ乱れていない。

 だが、連れてこられた魔法使いの老人は息を切らせ、とても説明を聞ける状態にない。


「こらレイト……老人は……労わらんかい」


 粗い息遣いで文句を言う老人。とてもきつそうだ。


「なあおじいさん。頭のいいあんたに、聞いてもらいたい作戦があるんだ」


「ちょっと……またんか……! どいつもこいつも……」


 何度も息の吸い吐きを繰り返し、徐々に息を整える老人。時間にして1分ほどで、ようやく落ち着きを取り戻すに至った。


「それで、わしに話とはなんじゃ?」


 そういわれ、俺は老人の耳に口を近づけ、レイトに聞こえないぐらいの大きさでささやく。

 この作戦、心底善人のレイトに聞かせてはいけない。


「俺の作戦はな…………こうして…………そんでああやって…………こうするわけだ」


「な!? とんでもない作戦を思いつくものだな」


 俺の作戦の一部始終を聞いて、老人は目を見開いて驚いた。

 それほどまでに俺の作戦は驚愕の物なのだ。自覚はある。


「レイトに……ってか、他の奴らにはなるべく聞かれたくないんだ」


「確かにレイトには聞かせられんの。非人道的なこの作戦は」


 レイトに聞こえないぐらいの小さな声でこの作戦の感想を漏らす。

 非人道的、この言葉に一切の間違いはない。一歩間違えれば人を壊してしまうほど、危険な作戦だ。

 自分では絶対にやりたくはない。


「俺の勝手な見立てだが、あんたは目的のためには手段は択ばないタイプだろ?」


「……その手段を選ばざる負えない時は、選ぶだけじゃ」


 やはり思った通りだ。この老人は感情よりも理屈で動くタイプの人間だ。

 馬鹿が多い冒険者の中で、この男にだけ話したのは正解だった。


「だが、それを実行する人間はいるのか?」


「心当たりはない。作戦と言っても最終手段だからな。切羽詰まった時にこの作戦を開示して、使わざる負えない状況にする」


「さすがのわしも、少々軽蔑するの。そんな作戦を思いつくそなたを」


 俺だってこんな作戦を思い浮かんだ自分を心底クソみたいなやつだと思う。だがそんなクソみたいな人間を形成したのは他でもない、この世界の住人だ。

 もとからクソだったわけではない。


「ま、これは最終手段と考えていろ」


「出来れば使いたくないものよな」


「で、どんな作戦なんだい?」


 目をキラキラとさせてレイトが聞いてきた。

 それに対して老人は口を濁らせ、返答に困っている。

 レイトに提案すれば、この作戦は絶対に行わせてくれないことは明白だからだ。


「レイト、これは超秘密事項だ。絶対に外部には漏らせない。お前は口が堅いか?」


「……無理、だね。じゃあ、僕には聞かせてくれないのかい?」


「残念ながらな」


 レイトは底抜けに優しい奴だ。こういう言い方をすれば無理に聞きに来ることもない。

 少々心が痛むが、そこはそれ、目的にためには手段を選ばない。


「ところでさ、穴掘りの要員、ちょっと少なくないか?」


 周りを確認しただけでも冒険者の数は50人ぐらい。はっきり言ってかなり少ない。

 今この街には全世界の冒険者が集結している。このギルドに入りきらないという理由にしても、もう少しいてもいいはずだ。

 この人数でも事足りるとは思うが、さすがに少ない。

 そんな疑問に、レイトも少々不思議気に応える。


「実は最近、ギルドを訪れる冒険者やこの街を守る衛兵が消えているんだ」


「消えた? あれか、大量のモンスターが来るってんで、自暴自棄になってどっか行ったとかか?」


「いや、多分違う。衛兵がどうだったかは知らないけど、冒険者たちは自棄になっているようにはとても見えなかった」


 なるほど、不自然だ。

 今は一人でも多くの戦える人間が欲しい。それなのに冒険者はおろか、衛兵すら消えるとは。


「でも、考えていても仕方ないから、こうやって今いる人だけでも作戦を実行しようって思ってるんだ。街の外は見たかい? もう結構掘り進めているんだ」


 どうやら俺がここに来る3日前から作戦は決行されていたらしい。

 この人数ならギリギリだろうな。


「マサト君ももちろん手伝ってくれるよね?」


「ああそうだな。じゃあナナ達を呼んでくるよ」


「うん、またね」


 手を振って俺を見送るレイト。

 面倒くさいが、あとで俺も手伝いに行かないとうるさそうだから、行かなきゃな。


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