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クリア済みゲームを今度はリアルで救う  作者: エスト
第四章 初めての労働
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第72話 「ドキドキの夜」

 状況を再確認しよう。

 俺はなんと驚くことに、女性二人から求婚された。幼女はノーカウントの方向で。

 しかもこの状況は仕組まれたものだったということだ。一人は想定外だろうが。

 そして俺は急に気分が悪くなり、気を失ったのだ。


「俺って、ヘタレなのかな」


 部屋のベッドの上で頭を抱えながら俺はつぶやく。

 女性2人から迫られただけで気を失うとは、さすがに自信を無くす。

 以前、マキナにヘタレと言われたことも思い出し、より一層、俺の心は傷つく。


「まさか、気を失うとは思わなかったわ」


 ベッドの横、俺がこんな状態になった元凶、シーラが呆れながら言う。

 辺りを見回すが、ここにナナとソウラはいない。

 シーラだけだ。


「安心しなさい。あの2人なら別室で待機させてるから」


 その言葉にほっと胸を撫で下ろす。

 正直まだ頭は冷静さを取り戻せていない。

 この状況で2人に会えば、また気を失いかねない。


「それでマサト君、どっちを選ぶの?」


「どっちも選ばねえよ!」


 いきなり何を言いだすのか、この女は。

 まるで近所のおばちゃんのノリそのものだ。

 ウザったいことしか言わない忌み嫌われる存在。

 本当に殴りたくなる。


「大体、どうして俺をソウラと結婚させようとすんだよ」


「あなたが、私の後継にふさわしいからかしら」


「へあ?」


 思わず変な声をあげてしまった。

 俺は貧乏人だ。金持ちと釣り合うわけがない。

 知能ならソウラよりも完全に上を言っている自信はあるが、それ以外では勝てる要素はない。

 戦闘力も、財力も。

 俺にふさわしさのかけらもないはずだ。


「覚えているでしょ。裁判所で見たあなたの過去の映像」


「……思い出したくもない」


 苦い過去だ。

 あの場で俺の過去が晒されることはなかった。

 だが、あの映像のせいで俺の忌まわしい記憶がトラウマとしてほんの少しだが蘇った。

 分かりやすく言うなら、いじめられた記憶だ。

 出来ることなら記憶から完全に消去したいとさえ思っている。


「詳しくは分からなかったけど、あの時、算術の勉強をしてたでしょ」


「確か……そうだったっけな」


 記憶は曖昧だが、確か数学の授業だった気がする。

 方程式の勉強だったかな。


「見た事もない文字だったけど、相当にレベルの高い授業だと私は睨んだわ」


「大層なもんじゃねえよ」


 事実、大したものではなかった。

 xを使った問題など、あの時学んでいた段階では小学生が解く穴埋め問題と大差ない。

 ?に入る数字を答えろ、そんな感じだ。


「マサト君、17×11は?」


「187だけど…………そんなもん誰でも解けるだろ」


 突然の問題に驚いたものの、簡単な問題ゆえにすぐ解けた。

 こんな問題、17を10倍した数に17を足せばいいだけだ。

 だがそんな問題でも即答できたことはこの世界では珍しいことなのか、


「それだけの計算能力があれば十分よ。それに、あなたはうちのゴーマを騙せるぐらいの話術を持ってる」


 そう言われると、なんだか俺でも金持ちの後継になれる気がしてきた。

 そもそも、あのゴーマですらきちんと仕事をしてるのだろう。

 なら俺でも出来るはず。


「だから、ソウラと結婚して」


「また振出しに戻った……あのな、あの2人にも言ったと思うが、俺には好きな人がいる。だから結婚できない。分かったら少し1人にしてくれ。まだ少し気分が悪いんだ」


「そう……まあこれ以上は、あの子に任せるとしましょう」


 そう言ってシーラは部屋を出て行った。

 あの子に任せるとはソウラが俺を落とすのを待つということかもしれない。

 ならば、心配ないだろ。あいつバカだし。

 ほんの少しの安堵をしたのち、俺の頭の中に不快な声が流れてくる。


「ヒューヒューマサト君、モテモテだね」


「死ね」


「ちょちょちょ、別に茶化すために声をかけたんじゃないよ。1カ月たって力がたまったから、また何か転送してあげようと思っただけだよ」


 そう言えば、ピストルを転送してもらってちょうど1カ月が経ったか。

 今度転送してもらうとしたら、やはり銃弾か。

 だが、カードに入れられない以上、銃弾はかさばるな。


「どうする? コンドームでも送ってあげようか?」


「ぶっ殺すぞ!」


 冗談にしても笑えない。

 もしもこの会話がナナ達に聞かれていたら、神の野郎はセクハラで訴えてもいいレベルだぞ。

 即事案発生だ。


「そんなに怒らなくても……」


「転送したいものはあとでみんなと相談してからにする。気分悪いんだから頭に語り掛けるのはやめてくれ」


 普通の時でさえ不快だと言うのに、こんな状態では不快度がカンストしてしまう。

 ちょっと頭痛がしてきた。


「分かったよ。まあ色々大変だろうけど、頑張ってね」


 神の声は聞こえなくなった。

 やっと、1人になれた。これで落ち着くことが出来る。

 こうなったのも全部シーラのせいだ。

 大体俺がソウラと結婚?

 冗談じゃない。

 俺の好みは年上でも年下でもない。同い年ぐらいの女性だ。性格は物静かな感じがいいな。髪型はロングヘアーで身長は俺と同じぐらい、ちょい下でもいい

 ソウラはロングヘアーだが、年上でうるさいし俺よりも背が高い。ナナは物静かだが、年下でショートヘア―で俺より10㎝ほど小さい。

 改めて考えてみると、マキナは俺のストライクゾーンど真ん中だな。

 まあそれはともかくとして、結婚などしない。


 でも、これを逃せば俺みたいな奴は一生独り身、下手すれば一生童貞。

 ソウラもナナも世間一般では美人だ。

 結婚相手にしては申し分ないのかも……いやいや、見た目だけで決めるのは駄目だ。

 重要なのは見た目と性格のバランスだ。

 ソウラは性格が俺には合わない。イラッとすることが多々ある。

 ナナは容姿が少し幼い。ちょっとした犯罪に見えてしまうレベルだ。

 結婚はない。これは確定だ。

 さて、考えるのはこれぐらいにして、一休みしようかね。

 俺は目を瞑り、頭痛が収まるのを待った。

 1時間ほど経ったのち、いつの間にか俺は眠りについた。




「んん……んー……今何時だ?」


 目が覚めると、もう辺りは暗くなっていた。

 部屋はろうそくの明かりで、少し薄暗いが視認できる。

 時計は見えない。

 だが、この暗さから察するに、もう11時以降だろう。

 どうしようか。

 もう眠気は覚めてしまった。当分は寝られない。

 かといってこのまま待っているのも暇だな。

 暇つぶししようにもみんなは寝てるだろうし……。

 そう思った矢先、ドアを開く音が聞こえた。


「誰だ?」


「私だ。お前の目が覚めた時のために、水でも用意してやろうと思ってな」


 そこに立っていたのはソウラだった。

 だが、俺が知っているいつものソウラではない。

 ソウラはいつも腰に剣を携え、上は長袖、下は長ズボンの露出が少なすぎる服装だった。

 だが俺の目の前に立つソウラは、薄いピンク色のネグリジェ姿で、かなりの露出量だ。

 思わず見とれてしまうほどの。


「調子はどうだ?」


「あ、ああ、もう大丈夫だ。何の問題もない」


 ベッドの横にある椅子にソウラは腰かける。

 その姿はいつものソウラとは違い過ぎる。

 少々過激な衣服がソウラの元々持つスタイルの良さをこれでもかと引き立てている。

 俺はソウラから水をもらい一息つくものの、ソウラを直視できず、視線を泳がせる。

 ここでも引きこもりの童貞力をいかんなく発揮している。


「し、しかし、お前のそんな恰好、初めて見るな」


「私も、こんな格好をしたのは初めてだ」


「えっ?」


 ソウラは俺が寝ているベッドの上にのる。

 そして寝転がっている俺に、馬乗りになった。

 突然のソウラの行動に俺は動揺を隠せない。


「マサト、私はどうしようもなくお前のことが好きになってしまったんだ。ほら」


 そう言って、ソウラは俺の左腕を取り、自身の心臓の高鳴りを俺に伝える。


「分かるだろう。お前を見ていると、こんなにもドキドキするのだ。そして、こうして触れているだけでも、幸せを感じられる」


 ソウラの鼓動は激しく脈打ち、通常の速さではないことが俺にもわかる。

 だがそれは、今の俺も同じだ。

 ソウラの心音を確かめる。それはつまり、ソウラの胸を触っているということだ。

 今まで見てきた中でもトップクラスの大きさを持つソウラの胸。

 マキナとは比べ物にならないほど大きく、弾力がある。


「私はお前が好きだ。だから……」


 ソウラは赤く染まった顔を近づける。

 俺とソウラの距離が縮まり、それに比例するように、急速に心音が早くなる。

 やがて、ソウラの口が俺の口につきそうになる。

 理性が失われ、俺のファーストキスをソウラに奪われそうになったその時、


「ソウラさん、何してるんですか?」


 ドアからナナが出てきた。

 俺は慌てて馬乗りになっているソウラをどかそうとした。

 だが、ただでさえステータスはソウラよりも下なのに、片腕が動かない状態ではどかせるはずもない。

 そしてソウラは、まるで見せつけるように俺の腕を胸に当てる。


「何だナナ、空気を読んでほしいな」


「黙ってください! こんな抜け駆けして、空気も何もありません!」


 ナナは必死の形相で俺たちに詰め寄る。

 しかしソウラはそんなことはお構いなしといった表情だ。

 ヤバイ、逃げ出したい。

 ナナの出現により冷静さを取り戻したが、同時に恐怖した。

 これから女たちの戦いが幕開けなことは、火を見るよりも明らかだ。


「いつまでそうしているんですか! 早くその手を放してください!」


「なんだ、自分には胸が無いから嫉妬しているのか?」


「そんなんじゃありません!」


 といいつつも、ナナは胸を手に当て若干涙目になる。

 ちょっと可哀想だ。


「いいから、早くマサトさんから離れてください!」


 ナナはソウラの腕をつかみ、強引に引っ張る。

 不安定なバランスの状態で引っ張られたソウラはナナの力に抗えず、ベッドの上から転がり落ちる。


「何をする!」


「何をするじゃありません! 抜け駆けなんか許しません!」


「お、おい2人とも、まずは冷静にだな……」


「早い者勝ちだ! 大体ナナはいつも細かいことにうるさすぎるぞ!」


「この状況は細かくないでしょうが!」


 駄目だ、俺の話なんか一向に聞く気配がない。

 ていうか、なんで俺がこんな思いをしなくちゃいけないんだ。

 俺は仲間のために行動していたというのに。

 なんか、ちょっと腹が立ってきた。


「2人とも、ちょっと俺の話を聞け」


「ソウラさんこそ大雑把すぎるんです! 大体なんですか、その恰好は! 恥じらいってものはないんですか!」


「人のことを言えた義理か! 知っているぞ、お前がエロい下着を穿いていることを! マサトに迫るつもりだったのだろうが!」


「ど、どうしてそれを……!」


「てめえら話を聞けええええ!」


 一向に俺のことを無視する2人に、俺はついにキレた。夜中だというのに、他人の迷惑顧みず、叫んだ。

 怒鳴られた2人はビクッとなり、数秒の硬直の後に、恐る恐る俺の方を向く。


「お前たち、俺の気持ちは完全に無視か!」


「だ、だってソウラさんが……」


「私のせいか!? ナナこそ、お前が邪魔しなければ今頃私はマサトと……」


「シャラアアアアアップ!」


 またも言い争いを始めそうな2人を一喝する。


「いいか、お前たちからの好意はいやじゃない。むしろ、可愛い子2人に迫られて悪い気はしない。というか嬉しい」


 怒りで冷静さを失った俺は、2人のことを正直に可愛いと言った。

 そのことに2人は若干の照れを見せる。


「だが、俺の気持ちを無視しすぎだろ! 言わなかったか!? 俺には好きな子がいるって!」


「そ、それは確かに聞いたが、だからといって諦めきれるものでは……」


「俺も今、お前と同じように恋をしているからその気持ちは分かる」


「私だってマサトさんに恋してます!」


「あ、ああ。分かった。だけどな、最低限のマナーってもんがあるだろ。今日ぶっ倒れて頭が正常に働いていない人間に、していいことか? もうちょっと俺の体を労わってくれよ」


「……分かった。今回のことは、すまなかった」


「実は私も、マサトさんに迫ろうとこの部屋に来ました。すいません」


「分かればいい。今日のところは2人とも、部屋で休め」


 2人は反省しているのか、下を向きながら部屋を出て行った。

 だが部屋を出て直後、またも2人の論争が聞こえてきた。

 本当にしょうがない奴らだ。

 だけどこれで、今日のところはひとまず一件落着だ。

 今後はめんどくさいことが起きそうだが、もうどうでもいいや。

 今日は休も。


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