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クリア済みゲームを今度はリアルで救う  作者: エスト
第三章 新たな街へ
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第64話 「本当の気持ち」

 目を覚ますとそこには、見慣れた天井があった。

 いつものボロイ宿屋の天井ではなく、綺麗に整えられた天井だ。

 窓から光が差し、俺の視界を覆う。

 光がまぶしい。

 俺は光をさえぎろうと目を手で(おおお)うとした。

 だが、腕が動かない。

 肩から肘までは何とか動く。

 だがその先、肘から手の先までが全く動かない。

 それどころか、感覚が何もない。

 まるでそこには何も存在しなかったかのような、そんな感じだ。


「そうか……そういや、やられたんだっけな」


 俺の腕は、ロックタートルの酸をくらい、さらに密閉された空間で魔法を放ったことにより、多大なダメージを受けた。

 その結果、俺の右腕は死んだ。

 思ったよりも見た目に損傷はない。

 腕としての形は保たれている。

 だがもう、動かない。

 繋がってはいるみたいだが、そこにあるだけで、何の意味もなさない、ただの重りでしかない。


「マサト、目が覚めたのね」


 ベッドの横で、マキナが椅子に座っていた。

 もしかして、ずっといてくれたのか。


「その……ごめんなさい」


 マキナは不安げな表情で、弱弱しげに謝罪する。

 正直、わけが分からない。

 なぜマキナが謝る必要があるのか。

 俺が勝手にやったことなのに。


「何で謝るんだよ。悪いのは俺だろ」


「ううん。私は、マサトを回復してあげようとしたけど、出来なかった」


 罪悪感に駆られているのか、包帯がへたくそに巻かれた俺の右腕を撫でながら、悲しげな表情をしている。


「別に、気にすることはないだろ。ギルドは休業だったんだから」


 あの日、ギルドはなぜか臨時休業だった。

 回復してもらおうにも、あの女の所在が分からない以上、回復できなかったのは仕方ない。

 というよりも、その日のうちに回復できないことを知っていたにもかかわらず、ロックタートルに挑んでいった俺の落ち度だ。


「マキナ、この腕は100%俺が悪い。だから気にするな」


「でも……」


「それより、俺どんくらい寝てた?」


「……丸3日、ずっと寝てたわ」


 3日か、思った以上に寝てたな。

 まあでも、生きてるだけで御の字だ。

 それにランクアップも無事出来たし、これでナナ達のところに帰れるんだ。

 全部良しとしよう。


「マサトは、もう行くの?」


「そうだな、目的も達成したし、ここにいる意味はないな」


「……そう」


 ここでの生活も楽しかった。

 多分マキナがいなければこんなに早くランクアップも出来なかったろうし、何より死んでいたかもしれない。

 というか確実に死んでいた。

 初日、マキナが助けてくれなければ俺はモンスターに殺されていた。

 神と連絡が取れないから、本当の意味で死んでいた可能性だってある。

 本当に、本当に助かった。


「街まで、送っていくわ」


「んじゃ、頼もうかな」


 マキナと会うのもこれが最後だろう。

 腕を無くした今、冒険者として大成することはないだろうから、こんなところまで足を運ぶことはまずない。

 というか、冒険者として生きていけるかどうかも怪しい。

 刀もひび割れてるし。


「そういや、俺の刀は?」


「あれなら、一応持ってきたけど……」


 気のせいか、マキナの言葉は濁って聞こえる。

 それに少し視線も泳いでいるような。


「ちょっと持ってくるわね」


 マキナは外に出て、刀を持ってきた。

 そうして持ってこられた刀は、見るも無残、ひびは俺が最後に見た以上に多くなり、しかも錆だらけだ。

 刀として、使い物にならないだろう。


「ま、直せるかもしれないし、一応持って行こう」


 俺はボロボロの刀を受け取り、カードにしまう。

 片腕が使い物にならないと窮屈だな。


「それとさ、この腕、取れないか?」


「えっ?」


「正直、邪魔なんだよな。これならいっそ、ない方が楽かもしれない」


「ダメ! それは絶対に!」


 マキナは俺の右腕を両腕で掴み、声を荒げた。

 必死に、それだけは阻止するかのように力が込められているのが分かる。

 感覚はないが、マキナの力が伝わってくるかのような、謎の感覚がある。


「何で、そこまで必死なんだ?」


「だって、まだ治せるかもしれない」


 マキナはそう言うが、この右腕はもう動かない。

 きっと、回復魔法でも治すことは不可能だろう。

 回復魔法は蘇生魔法ではない。

 腕としての機能を完全に失ったこの腕は、おそらく死んでいる。

 だがマキナは、この腕にまだ可能性があると思っているのか。


「何か、手があるのか?」


「それは……」


 この時のマキナの表情は、何も打つ手がない悔しさの表情とは違うように見えた。

 具体的に理解できたわけではないが、何となく理解は出来たかもしれない。

 マキナは、何か手はあるが、それは今は言えない。

 そういう感じだ。


「でも……!」


「分かった。この腕はつけたまんまにするよ」


「…………本当に?」


「ああ、だからそんな顔するな」


 本当はこんな腕、無くしてしまいたい。

 俺がモンスターの知能に負けた証みたいなものだ。

 戦っている時はまだマシだったが、時間が経って悔しさが、もどかしさが、様々な感情が沸いてくる。

 実用性もさることながら、個人的な感情でこの腕を切り落としてしまいたい。

 だが、マキナのこの表情を、必死に訴えかけるさまを見ると、それに準じてしまわないといけない気になる。

 なぜかわからない。

 だけど、この表情は俺の胸に棘を刺すかのような、違和感を与えるから。


「この腕はずっとつけてる。約束だ」


「……ありがとう」


 マキナは両腕を俺の右腕から放し、ほっと胸をなでおろした。

 その時の安堵の表情を見ると、胸に抱いた違和感がすっと消えた。


「それじゃあ、行こうか」


 俺とマキナは小屋を出て、タストへと向かう。




 街へ向かう途中、幾度となくモンスターに襲われた。

 傷ついた俺のことを捕食しようとしてきたのだ。

 だが、俺の隣にはマキナがいる。

 レベル上げの時とは違い、襲い来るモンスターは全てマキナが倒してくれる。

 生きてきた中で今が一番、安全なのかもしれない。


「マサト、大丈夫? 疲れたりしてない?」


「大丈夫だよ。なんもしてないからな」


 マキナは時折、俺のことを心配した発言をしてくれる。

 それがどうしようもなくうれしい。

 マキナに優しくされるたび、胸が度々ドキッとなる。

 マキナは全てを合理的に判断する女、不必要なことは何も言わない。合理的な判断か、言いたいことしか言わない。

 俺への心配は、しなくてもいい、どちらかといえば不合理なことだ。

 だからこそ、マキナのこの優しさがうれしい。

 俺のことを心の底から思ってくれている、そう感じるから。

 こんなに弱くて情けない、モンスターを倒すために右腕を持っていかれるような馬鹿な男のことを、本気で心配してくれるんだ。


 この時までは、俺のマキナへの感情は、ただ感謝からくるものだと思っていた。

 俺を助けてくれたこと、怪我の世話をしてくれたこと、レベル上げに付き合ってくれたこと、怒鳴ってしまったのに俺のことを助けてくれたこと。

 今だって、俺のことを街まで安全に送り届けてくれている。

 今までの俺にしてくれた行動を思い返すだけでも、マキナには返しても返しきれないぐらいの借りがある。




 タストの街の直前まで来た。

 ここまでくれば、マキナの助けを必要とせずに街につけるだろう。

 これで、マキナとの本当のさよなら。

 そう思うと、なぜか気持ちがざわつく。

 これが最後なのだと思うと、感じたことのない感情が、胸の奥から湧いてくる。

 これは、なんだろうか?

 分からないが、この気持ちのままマキナと別れるのは、嫌だ。

 そう思うと、無意識に言葉は出てきた。


「マキナ、一緒に来ないか?」


 俺は思わず口を押さえた。

 言おうとは思わなかった、何となく思っていたことを口にしたことに、俺自身が心底驚いている。


「……? ちゃんと街まで送るわよ」


 マキナは首を傾げ、不思議がる。

 俺はそんなマキナに、今度は無意識ではない、意識的に言いたいことをマキナに言う。


「そうじゃなくて、街についても、俺と一緒に来ないか?」


 この気持ちが何かは分からない。

 だが、これを放っておいたら、間違いなく後悔する。

 それだけは分かる。


「俺と、俺の仲間と、一緒に暮らさないか? きっと、楽しいぞ」


 俺は、心の底からマキナと一緒にいたいと思っている。それは間違いない。

 きっと、ナナとソウラとアカネ、その中にマキナがいれば楽しい生活を送れると思うから

 だが、返事を待つ俺はマキナの顔を思うように見ることは出来ない。

 今の顔を直視できない。

 目を逸らしてしまう。


「私は……」


 心臓の鼓動が速くなる。

 胸が苦しい。

 マキナの返事が、とても遅く感じる。

 時が流れるのが遅い。ほんの0コンマ数秒の間に、無限のことを想像できるほどに遅く感じる。

 マキナは何と言うのか、俺と一緒に来てくれるのか、それとも……。

 早く聞きたい、だけど聞きたくない。

 そんな矛盾した感情が俺の心の中で渦巻いている。


「私は、マサトとは一緒に行けないわ」


 瞬間、空気が凍り付いたかのような感覚が俺を襲った。

 聞きたくなかった言葉だ。

 遅く流れる時間の中、あらゆる返答を予測していた。

 その中でも最悪の、最も聞きたくなかった言葉。

 俺は思わず崩れ落ちそうになる膝を、必死に持ちこたえる。

 なんで、こんなにもショックなんだ?

 分かっていたはずだ。

 マキナはランクアップするまでの間だけ、俺のことを手伝ってくれるだけ。

 最初から分かっているつもりだった。

 なのに、いざ別れるとなれば、崩れ落ちそうになるほどにショックなのか。


「そう……か」


 俺は今、平静を装えているだろうか?

 本当ならその場に膝をつき、項垂れていたい。

 女々しくも泣き、無様な姿を晒してしまいたい。

 だけど、マキナの前で、そんな格好悪いとこは見せたくない。

 そう思うと、俺の本当の気持ちに気付いた。


 ああ、そうか。

 俺、マキナのこと、好きだったのか。


 マキナへの感謝の気持ち、それは感謝以上に俺に、恋心を抱かせていた。

 思えば、感謝の理由はそのまま、惚れる理由になるかもしれない。

 俺に対するやさしさ、それは惚れてもおかしくない。

 むしろ、惚れる以外のことがありえるだろうか?


 ありえないだろ。

 どこまで鈍いんだ俺は。

 こんな、こんなギリギリになってまで気づかないなんて。


「マサト、着いたわよ」


 いつの間にか、タストの街に着いていた。

 ここで、マキナと別れなくてはいけない。

 きっともう、会うことはない。

 本当の別れ。

 ずっと一緒にいたい。

 マキナのことを抱きしめ、どこにもいかないようにしてやりたい。

 ずっと、俺の隣にいてほしい。

 だけど、俺は拒絶された。

 マキナに、一緒には行けないと言われた。

 俺にはマキナを抱きしめる権利なんかない。

 諦めるべき感情なのだ。

 もう、俺はマキナを忘れなくてはいけない。

 そうしなければ、この苦しくざわつく心を静めることが出来ない。


「じゃあ、私はもう、行くわね」


「……ああ」


 マキナは振り返り、自分の家へと向かい始める。

 その後ろ姿を見ながら、伸ばしたい手を理性で必死に止めながら、見送る。

 マキナの姿がどんどん小さくなっていくたびに、俺の心の穴が大きくなっていくように感じる。

 どうしようもない虚無感が、俺を襲う。

 やがて、マキナの姿は針の穴ほどの大きさになり、そして完全に見えなくなる。

 数十分の間、俺はマキナの行った方向を眺め続けた。

 心にぽっかりと空いた穴を埋めるかのように。

 だが、穴は一向に埋まらない。

 それどころか、広がり続ける。


 やっぱり、俺は情けない男だ。

 一度拒絶され、落胆し、黙って見送るなんて。

 マキナを追いかけるべきだった。

 抱いて引き止めるべきだった。

 俺の本当の気持ちを、伝えるべきだったんだ。

 俺は、マキナを忘れることは出来ない。

 好きな人のことを忘れるなんて、絶対にできない。

 諦めるべき感情、だけど絶対に諦められない。

 いつか必ず、何年経とうとも、マキナの元へ行こう。

 そして、今度はちゃんと伝えよう。

 俺の本当の気持ちを。

 好きだと。


「ありがとう……初めて、誰かを好きになったよ」


 最初に出てきた言葉、それは感謝だった。

 自らを振った相手に、心の底から言いたかった言葉、それが、ありがとう。


 俺は街に入る。

 そして、こんな俺のことを待ってくれている仲間達のもとへと向かう。

 マキナとは違う好きを、俺に教えてくれた人たちの元へ。

第3章はこれで終わりです。

次回から4章、頑張ります。

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