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クリア済みゲームを今度はリアルで救う  作者: エスト
第三章 新たな街へ
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第55話 「幸せな死に方」

 マキナとの共同生活が始まってから10日が過ぎた。

 この生活にもいい加減慣れてきて、今では夜もぐっすりだ。

 唯一問題があるとすれば、神との連絡がいまだにつかないと言うことだ。

 もしかしたら、俺に多大に干渉しすぎて、また制限されているのかもしれない。

 だとすれば、俺が死んでも生き返ることは出来るのだろうが、さすがにそんな度胸、俺にはない。


「それじゃ、私はあの子たちの様子を見てくるわ」


 マキナは外のモンスター達の世話を一人でしているようだ。

 俺もそれを手伝おうと小型モンスターに近づいたが、思いっきりガブリと噛みつかれた。

 幸い大事には至らなかったが、俺の右手には歯形がくっきりと残っている。

 もう二度と近づかない。


 それにしても、なぜあのモンスター達はマキナを襲わないのだろうか?

 大型から小型まで、すべてのモンスターはマキナを襲うどころか、言うことを聞いて懐いている。

 俺に敵意むき出しのモンスターでさえ、マキナと一緒にいれば静かにしている。

 やはり美少女だからか。


 まあ、そんなこんなでマキナと平和に暮らしていたわけだ。

 約束の日まであと四日、それさえ過ぎればランクアップしに、ロックタートルを倒しに向かえる。

 だが、それでもロックタートルを倒せるかどうかといえば、はっきり言って難しいだろう。

 俺のレベルは、今は13。レイトは以前レベル15ぐらいでダルトドラゴンを倒すと言っていた。

 単純に考えても、今の俺のレベルでは倒せるはずがない。

 だが、弱点を攻撃することが出来れば、俺にも勝機はある。

 俺はゲームで知っているロックタートルを思い浮かべ、何度もイメージトレーニングをしている。

 戦い方次第では何とかなるかもしれないと、俺の中ではいくつかの勝利への道は出来ている。


「ねえマサト」


 モンスター達の世話をしていたマキナは、いつの間にか部屋にいて、俺を呼ぶ。


「何だ?」


「ここを出たら、どこへ行くの?」


 そう言えばまだマキナにはどこへ行くか言ってなかった。

 俺の怪我を心配してか、マキナは俺についてきてくれると言っている。

 マキナには俺の目的を全部話すべきなのかもしれない。


「俺はロックタートルを倒しに行くんだ。そうしないと仲間に会えないからな」


「…………無理よ」


 数秒ためて、否定された。

 仕方ないだろう。今の俺は怪我人、それもあと4日ほどではまだまだ傷も癒えないだろう。

 今の俺なら、ロックタートルはまだ倒せ――――


「マサトじゃ、怪我が治っても倒せないわ」


「…………」


 まだ怪我が治ってないからな。そりゃあ倒せないだろう。

 だけど万全の状態なら多少の勝機は――――


「マサトとロックタートルじゃ、天と地ほどの差があるわ」


 マキナは追い打ちをかけるかのように言う。

 天と地ほどの差、それに間違いはないだろう。

 俺だって、まともに戦って勝てるとは思っていない。

 当初は死んでも生き返るという俺と俺の仲間にだけ許されたチート能力で、ロックタートルをゴリ押しで倒そうと考えていた。

 だが、神との連絡が取れない今、その戦略を実行するには怖すぎる。

 必然的にわずか1機で戦わなきゃいけないわけだが、イメトレしても勝てる道筋も考えはしたが、どれもご都合主義と言われても仕方のないような戦略だ。

 きっと、勝てないだろうな。


「なら、レベルを上げてから倒すさ」


 カンドの周辺のモンスターを倒せば、レベルアップもまあまあの速さでできる。

 実際、1日だけで俺のレベルは2も上がった。

 現時点の俺では100%ロックタートルに勝てなくても、レベルが上がれば勝機はある。


「レベル上げと言っても、その怪我じゃここ一帯のモンスターに勝てそうにないけど」


「大丈夫さ。俺にはあの刀がある。あれがあれば倒せる」


「……そうね。あの武器なら、倒せるかもしれないわね」


 納得してくれたか。

 マキナは言葉はきついけど、俺のことを心配しているから言ってくれるんだろう。多分だけど。

 そのマキナが大丈夫だろうと言えば、まあ大丈夫だろう。

 ……俺のマキナに対する評価、ずいぶん上がったもんだな。


「ねえ、レベル上げって、あなたが倒さなくちゃいけないの?」


「ああ。俺がとどめを刺さなきゃレベルは上がらない」


 同じパーティでないマキナがモンスターを倒したとしても、俺には経験値は入らない。

 もし同じパーティなら、マキナの戦闘力だ。1時間でかなりレベルが上がったかもしれない。

 考えても仕方ないことだが。


「それじゃあ、少しでも動けるように、ゆっくりしていなさい」


「分かったよ」


 俺はベッドに横になり、1日中ダラダラとする。

 楽ではあるが、退屈だ。

 遊び道具をカードにしまってあるが、マキナは一緒に遊んでも全く笑わないし、しかも全く敵わない 

 はっきり言って、一緒に遊んでも楽しくはない。

 ナナ達がいれば、ただの日常も楽しかったな。


 ここに来てからのことを思い出しながら、1日中ベッドに横になっていた。

 たびたびモンスターの鳴き声がうるさく、イライラが募ったが、マキナはそんなモンスター達と戯れていて、文句を言えない状況だ。

 戯れているといっても、モンスターがマキナに一方的にくっついていて、マキナは一切表情を変えていないが。

 あいつに感情というものはあるのだろうか?




 そんな日常を送ること4日、ついに約束の日が来た。

 俺の体も結構動くようになってきている。

 刀も以前ほど力強くは振れないが、多少はましになっている。

 レベル上げぐらいならできるだろう。


「よし、それじゃ行こうか!」


 俺の元気あふれる声とは裏腹に、マキナは感情が無さそうな面持ちで準備を始めている。


「何してるんだ?」


「いつ帰ってくるか分からないから、なるべくたくさんの血を持って行こうかと」


 マキナはあのくそ不味い血の入った瓶を大量に準備している。

 正直この血を見るだけで吐き気がしてくる。

 できるなら持って行かないでほしい。


「持ち運ぶには、10本が限界ね」


 マキナは血の入った瓶を両脇に抱えている。

 この状態のマキナは、はっきり言って役に立つとは思えない。

 怪我している俺が言えることではないが、足手まとい確定だ。

 しょうがない、あんなものを持ち運びたくないが、背に腹は代えられない


「マキナ、その瓶寄越せ」


「えっ? でも……」


「いいから」


 俺はマキナの持っている瓶を取り、次々とカードに入れていく。

 それをマキナは無表情で眺めている。


「そういえば、マキナはカードを持ってないのか?」


「カードってマサトが持っているそれのこと? 持ってないわ」


 カードを持ってないってことは、タストの町にいたあのホームレスの子供たちのように、親から捨てられたんだろうか。

 そんな素振りを全く見せないが、マキナも苦労したんだろうな。


「それ、便利ね」


 そう言うとマキナは、タンスの中から大量の瓶を持ってきた。

 その数は50を超えている。


「これも入る?」


 その目は、気のせいかもしれないが若干、輝かせているように見えた。


「多分入るよ」


 俺はマキナに差し出された瓶をすべてカードの中にしまい込んだ。

 容量が分からないから多少不安だったが、問題なくすべてカードに入った。


「これで、準備はOKだな」


「ええ」


 これから、やっとランクアップのために行動できるんだ。

 待ってろみんな。

 今度はケガなんかしないように、安全かつ迅速にレベル上げ、そしてランクアップしてや――――


「ピキャアアア!」


 意気揚々と歩き出す俺に向かい、ドラコキッドによく似た小さめのドラゴンが俺めがけて突進してくる。


「ギャバラッ!」


 その突進を腹に喰らい、変な声をあげてしまった。

 小型ゆえに、攻撃自体は大したダメージはないが、今ので怪我は悪化した。

 絶対悪化した。


「てめぇ、何しやがる!」


 このモンスターは以前、俺に噛みつきやがったモンスターだ。

 よく覚えている。こいつのせいで俺の右手には歯形がくっきりと残っていやがるからな。

 こいつだけはマキナが近くにいようが関係ない、獰猛なままだ。


「落ち着きなさい」


 マキナはそのドラゴンの頭を撫で、宥めようとする。

 だが、俺に対する敵対心は一向に収まらないようで、全く落ち着かない。


「どうしたの? いつもはおとなしいのに」


 マキナに対してはな。

 俺に対しては全く落ち着きがないガキみたいなモンスターだ。

 いったい俺の何が気に食わないというのか。


「しょうがないわね。マサト、ちょっとごめんね」


 そう言うとマキナは俺を抱えて走り始めた。

 左腕は俺の足を、右腕は俺の胴の部分を抱えて。

 分かりやすく言うなら、お姫様抱っこだ。


「ちょっと!? これ恥ずかしいんだけど!」


 いくら周りにモンスターしかいないとはいえ、女の子にお姫様抱っこされて気分のいい男なんかいないだろう。

 俺は体をばたつかせて降りようとするが、マキナはガッチリ俺の体を自分の体に押し付けているので、降りることが出来ない。

 俺は諦めて、あのドラゴンが追っかけてくるのをやめるまで待とうとするが、あることに気づき少しだけ動揺する。


「マキナ……当たってる」


 俺の肩に近い腕の部分にやわらかいものが当たっている。

 それは標準よりも少し小さめの、だが確かにそこにあると認識できるほどには膨らんでいるもの。

 そう、胸だ。

 マキナの胸が俺の腕に密着しているのだ。


 この感触、悪くない……じゃなくて!


「マキナ! 無理やり降りようとしないから! 少しだけ、少しで良いから離そう!」


 引きこもりで女の子に対してあまり免疫のない俺は、このようなラッキースケベ的な状況は耐えられない。

 画面越しに女性の体を、それも裸を見ることも多々あったが、実際にこのような状況に陥るとパニクって何もできない、ヘタレなのだ。


「我慢して。あの子を引き離すまで」


「お願い! 気付こう! 今の自分の状況に気付こう! 君は女の子なんだよ!」


「黙ってて。舌かむわよ」


 くそぉ、この合理主義女め。

 こんなにパニクってる俺がバカみたいじゃないかよ。

 俺おかしくないよね?

 おかしいのはマキナだよね?


 いや落ち着け俺、こういう時は無になるんだ。

 そうだ、こんな場合は素数を数えるんだ。

 えーっと、2,3,5,7……


「あの子、速いわね。マサト、スピードを上げるわ」


「わぷっ!?」


 マキナは体を少し前かがみにして、抱えやすいように俺の体をマキナのおなかの部分に引き寄せるようにした。

 それにより、マキナの胸に当たっていた俺の腕はマキナの下腹部辺りに移動したのだが、事態は悪化した。


 俺の顔はマキナの胸に直接当たっている。

 これは俺には刺激が強すぎる。

 腕なら多少パニくるだけで済んだが、顔面に胸が当たっているというのは、引きこもりには耐えられないほどの刺激だ。


 というかそれ以前に!


「んー! んー!」


 息が出来ない。

 口も鼻も胸に押し付けられ、呼吸が出来ない。

 俺はなんとか腕を動かしマキナにタップするが、マキナは気にせず走り続けている。


 ヤバイ、苦しい。

 意識がだんだん遠くなっているのを感じる。

 数十秒経ち、あれほど苦しかったのに、だんだんと楽になってきた。

 そうだ、ポジティブに考えよう。

 美少女の胸の中で死ねる、何とも幸せじゃないか。

 

 先程まで腕に胸が当たるだけでパニクっていたのがウソのように、今の状況を受け入れている。

 今の俺は、正気じゃない。自覚はしている。

 

 そしてさらに数十秒後、完全に俺は気を失った。


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